気候変動が迫る経営変革―企業に求められる4つの方針

気候変動が迫る経営変革―企業に求められる4つの方針


2015年のパリ協定採択以降、気候変動というアジェンダは、社会貢献の枠を超え、企業経営にも極めて重要な意味を持つようになっています。

かじ取りを誤れば、事業の競争力がそがれ、企業の存続が危ぶまれるリスクとなる一方、適切に自社を適合できれば、企業価値の向上と持続可能性の実現に寄与する機会にもなり得ます。


要点

  • 気候変動は、今や企業の長期的価値を左右する重要な経営アジェンダであり、コロナ禍からの経済回復で加速する脱炭素・カーボンニュートラルの注力分野である。
  • 企業には、「ポスト炭素経営」とも呼ぶべき新たな経営のかじ取りが求められる。
  • 気候変動に対応した経営には、包括的なアプローチが必要である。



気候変動は企業にとって重要な経営アジェンダに

2015年末のパリ協定以降、国際社会は脱炭素へと急速に動き出しました。欧州からはじまったその潮流は、国際イニシアチブを増幅器として、投資家・金融業界を巻き込みました。さらに、各国政府の思惑と交差することで、世界中の政府からのカーボンニュートラル宣言へとつながりました。これらの波が二層・三層と重なり合って押し寄せることによって、ビジネス界にもかつてない気候変動対応ブームが巻き起こっているのです。

気候変動は、企業の長期的価値を左右する重要な経営アジェンダとなっています。化石燃料に依存する事業に対し、投資家・金融機関からのダイベストメントやエンゲージメントが活発化しています。多くの国・地域で、ガソリン車の販売を禁止する法案が検討されています。気候変動対策を調達の要件とするグローバル企業も増加しています。気候変動への対策を経営戦略に織り込むことは、企業の存続に不可欠なものになっています。

そうした中、2020年初頭にコロナ禍が世界を襲いました。当初の混乱期には、気候変動以上に、従業員の雇用確保や健康安全への対策について、もっぱら社会の関心は集中していました。ところが程なくして、各国政府は「グリーンリカバリー」政策を打ち出しました。これは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で大きく落ち込んだ経済と雇用を回復するため、技術や社会のイノベーションを通じて脱炭素経済の実現を目指すものです。欧州では、2027年までで総額約220兆円の新型コロナウイルス・パンデミック経済復興予算案を公表されていますが、そのうち3割は気候変動対策などにあてるとされています。

コロナ禍で立ち止まった人類と経済は、ニューノーマル(新常態)を描こうとしており、そこでは化石燃料と炭素の存在は打ち消されようとしています。化石燃料を採掘・消費して炭素を排出することで経済的価値を創出してきた炭素時代。昨今の脱炭素の潮流とコロナ禍が、その時代に強制的に終止符を打とうとしているのです。

 

企業にはCSRにとどまらない、「ポスト炭素経営」とも呼ぶべき新たな経営のかじ取りが求められる

それでは、こうした気候変動の潮流を踏まえて、企業にはどのような変革が求められるのでしょうか?カーボンニュートラル社会へとつながる困難な道のりを進むことに、人類としてのコンセンサスが得られた今日、従来のように、得られた収益の一部を環境活動に還元するような社会貢献(CSR)的な気候変動対応では十分ではありません。脱炭素への道のりで社会をリードする存在になりつつ、一方で不確実な将来に対してレジリエントな構えをとることが求められます。

具体的に求められる方針として、以下の4点が挙げられます。

  1. 自社と社会の脱炭素をリードする
  2. 社会・顧客の意識を変革する
  3. 不確実な未来に備える
  4. 長期的な原資を確保する

図1:ポスト炭素経営に求められる4つの方針

図1:ポスト炭素経営に求められる4つの方針

  1. 自社と社会の脱炭素をリードする
    これからは、自社の枠を超えて社会の脱炭素にいかに貢献できていくかの競争となります。技術イノベーションによる貢献はもちろん、サプライチェーン全体でのカーボンニュートラル化を支援するような動きが、今後各産業で見られることが予想されるため、そのような変革のリーダーとなることが重要です。

  2. 社会・顧客の意識を変革する
    現在の環境では、脱炭素対応はいずれの産業においても単純なコストアップとなる状況です。つまり、炭素価値が不確実な段階で自社のみが脱炭素コストを商品の価格に上乗せすれば、競争力がそがれることになります。そのため、社会や消費者の意識変革を先導して顧客に脱炭素製品を選ばせることで、上流までさかのぼって脱炭素による経済性と環境性の不整合を解消することが可能となります。

  3. 不確実な未来に備える
    社会の脱炭素をリードするという方針と一見矛盾しますが、脱炭素が実現しなかった場合にも備える必要があります。気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD : Task Force on Climate-related Financial Disclosures)は2017年に発表した最終報告の戦略パートにおいて、「2℃以下シナリオを含むさまざまな気候関連シナリオに基づく検討を踏まえ、組織の戦略のレジリエンスについて説明する」ことを企業に求めています※。企業は、不確実な状況変化に対応し得る戦略と柔軟性を持つことが重要です。

  4. 長期的な原資を確保する
    気候変動アジェンダは、早期に解決されるものではなく、産業・企業によっては抜本的な経営資源の再編成が求められます。企業には、気候変動を巡る長期かつ大規模な取り組みに対する原資、資本や融資を金融市場から確保する必要があります。

     

気候変動経営には包括的なアプローチを

気候変動に対応した経営を推進するためには、経営層を筆頭に、全社的な変革を展開する必要があります。気候変動にとどまらずサステナビリティ経営の展開に向けては、戦略を策定し、活動を展開し、情報を開示する、そしてその全体の流れを推し進めるガバナンス体制を構築する必要があります。


図2:気候変動経営の変革アプローチ

図2:気候変動経営の変革アプローチ

EYでは、気候変動を巡る経営変革について、包括的に企業を支援しています。「Building a better working world(より良い社会の構築を目指して)」をパーパスに掲げるEYは、そのサポートをしていきます。

上記の気候変動と経営について、金融機関・投資家の気候変動に関する動向、各国の経済安全保障における気候変動の対応状況、事業変革のアプローチ、TCFDシナリオ分析、脱炭素技術のサプライチェーンへの組み込み、サーキュラーエコノミー、行動経済学の活用といった多角的な視点から、今、経営に必要な具体的な示唆を提言する、書籍「カーボンZERO 気候変動経営」(日本経済新聞出版社)を出版します。
気候変動と経営について、経営コンサルティングによって得た知見を基に、企業経営の目線から気候変動問題を多角的に取りまとめました。

経営層を中心に企業で働くビジネスパーソンが、自身の文脈に照らして気候変動問題を捉え、自社において取るべき対策を検討する契機となることを狙いとしています。ぜひご参照ください。

 

※ Recommendations of the Task Force on Climate-related Financial Disclosures, TCFD, 2017,  
www.fsb-tcfd.org/publications/(2021年6月24日アクセス)



書籍のご案内

『カーボンZERO 気候変動経営』

編者:EYストラテジー・アンド・コンサルティング
出版社:日経BP日本経済新聞出版本部

書籍についてのお問い合わせ・購入等は下記出版社サイトをご確認ください。
カーボンZERO 気候変動経営



サマリー

2015年のパリ協定採択以降、気候変動は企業経営にとって重要な経営アジェンダになりました。この潮流を乗り越えて長期的価値を創出するため、企業には、「ポスト炭素経営」とも呼ぶべき新たな経営のかじ取りが求められています。そして新たな経営を推進するためには、包括的なアプローチが必要です。


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