EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
ステークホルダーの統合報告に対する期待が高まり、将来予測に寄与する財務情報およびESG情報開示の質の向上がますます求められる今日において、CFOや経理財務部門のリーダーは現状のアプローチを見直すチャンスかもしれません。
すなわち、財務人材の育成、経営陣との連携強化、高度なデータ分析といった側面において、少なからずステークホルダーからの期待との間にギャップが生じていることを改めて認識し、ギャップ解消に向けて迅速に対応することが肝要です。
2022年4月より、東京証券取引所「プライム市場」に上場する企業への改訂版コーポレートガバナンス・コードの適用が開始されました。変革の波を乗り越え、長期的な価値創造へ向けた革新を続ける企業の在り方を示すことが期待されます。
コーポレートレポーティングの変化は急激に加速しており、その作成を担う最高財務責任者(CFO)や財務部門のリーダーにはかなりの重圧がのしかかっています。今日、世界は気候変動などの重大な社会的課題に直面しており、企業のESG(環境、社会、ガバナンス)パフォーマンスを迅速に発信することにより、ステークホルダーからの信頼を獲得することが一層重要になっています。
投資家などのステークホルダーが求めているのは、従来の財務報告に加え、その企業が長期的価値の創造と持続可能な成長をどのように実現するのかを把握できる信頼性の高いESG情報です。
CFOと財務部門のリーダーがコーポレートレポーティングの質や範囲を変える(すなわち統合報告書を作成する)ために必要となる事項が、2021 EY Global Corporate Reporting Survey(2021年EYグローバル・コーポレートレポーティングサーベイ)(pdf)のテーマです。本サーベイは1000人を超えるCFO、財務管理者、その他財務部門リーダーの見解を調査したものであり、データはインタラクティブツール(英語版のみ)で確認でき、国や業種ごとに調査結果を表示して比較できるようになっています。
今回の調査では、2つの重要なテーマが明らかになりました。
本稿はEYの「CFOが直面する喫緊の課題シリーズ」の一部です。本シリーズでは、財務のリーダーが自社の未来を再構築する際に役立つ重要な見解や知見を提供しています。
第1章
財務に関連付けたESG報告書によって投資家とのギャップを埋める。
調査では4つの重要な分野が明らかになりました。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、コーポレートレポーティングを促進させる上で大きな役割を果たしました。投資家や従業員、消費者、サプライヤー、地域社会など、全てのステークホルダーに利益をもたらすマルチステークホルダー資本主義のモデルは、世界の繁栄と持続可能性を向上させる上で重要だと考えられており、気候変動から格差まで、地球規模の課題に取り組む上でも重要だと考えられています。
全てのステークホルダーのために企業がどのように価値を高めているかを示すため、コーポレートレポーティングに重要なESG開示を盛り込むことがますます期待されています。株式投資家、保険会社、金融機関、債券保有者、資産運用会社、顧客はいずれも意思決定がもたらす全ての影響を評価するためにESG要素のより詳細な情報を求めており、企業に対してESGレポートの改善を求める圧力が一段と高まっています。企業とその財務部門のリーダーは、ステークホルダーの期待に応えるために迅速に行動し、長期的価値を生み出す方法について独自の説明で明確にする必要があります。
ESG報告書の有用性については、企業と、その報告書を意思決定に利用する投資家との見解にギャップがあります。投資家は企業のESG情報開示の有用性や有効性について、マテリアリティや長期的価値戦略への洞察力の欠如などをCFOや財務部門のリーダーよりも懸念する傾向があります。
財務報告や保証に対する統一基準の導入や義務化により、ESG報告書をより厳密なものにしていくことが重要という点では、財務部門のリーダーと投資家の意見は一致しています。ところが、基準の統一や義務化をより声高に求めているのは、報告書の提供側である財務部門リーダーよりも利用側の投資家であり、統一したグローバル基準に基づくESGパフォーマンス指標の報告義務化は有用だと回答した財務部門リーダーが74%なのに対し、投資家は89%と上回っています 。
2021年の国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)では、国際財務報告基準(IFRS)財団は「投資家の情報ニーズを満たすため」に一連の基準策定を担う国際サステナビリティ基準審議会(International Sustainability Standards Boards、ISSB)を新設すると発表しました1。この記事(英語版のみ)が示すように、これはグリーンエコノミーに向けた大きな進展と言えますが、現在進行中のポリシーアジェンダには多くの課題が存在する可能性があります。
報告に関するギャップを解消するには、ESG報告書におけるCFO、財務部門リーダー、配下チームの役割の明確化が必要です。 2020年EYコーポレートレポーティング・サーベイでは、調査対象の財務リーダーのうち、ESG報告書は自身の役割や責任の中で「重要」または「非常に重要」な位置付けにあると回答したのは63%でしたが、今回は70%に増加しました。
「非常に重要」と回答した財務リーダーも2020年の24%から大幅に増えています(33%)。財務リーダーに加え、財務チームもESG報告書において中心的役割を担うことが増えており、財務リーダーの95%が、財務チームが何らかの役割を果たしていると回答しています。
第2章
人材、経営幹部との連携、高度なデータ分析に対する財務のアプローチの再考
ニーズに応える統合報告書を提供できる財務部門を構築するには、優先的に取り組むべき課題が2つあることが今回の調査から分かりました。
第3章
信頼される統合報告書を提供するための重要なアクション
財務部門の進化を継続し、自社に求められている信頼性の高い統合報告書を提供していく上で、CFOや財務部門のリーダーにとって重要となるポイントが3つあります。
ESGに関して投資家から寄せられる要望に応える上で、CFOと財務部門のリーダーは重要な役割を担っていると言えます。まず、ESGパフォーマンスの測定や報告に対する自社の現在のアプローチを評価し、何がマテリアルであるかをより明確に把握し、長期的価値を推進するために真に重要なものに重点を移す方法を検討する必要があります。
CFOと財務部門のリーダーは、財務報告と非財務報告には密接な関係があり、ESG報告書がマテリアルであることを確認するとともに、CEOや COO、CSO、リスク管理責任者、取締役会と積極的に連携し、ESGや持続可能性のパフォーマンス向上を重要な戦略目標として推進する必要があります。目標としては、ESGと長期的価値を関連付けることや、戦略的成長とリスク管理を両立させることなどがあります。
新型コロナウイルス感染症の世界的流行は大きな社会的課題をもたらしている一方、財務部門だけでなく組織の各部署が、感染拡大の危機下で業務を進めるために新たな手法を見いだし、創意工夫を凝らして対応にあたってきた時期でもあります。今、そうした機運に乗じる機会が訪れています。すなわち、機敏性と流動性をより向上させたオペレーティングモデルの構築と、財務分析の変革と信頼される統合報告書を提供するための大胆なテクノロジーロードマップの策定(人工知能(AI)といった高度なツールの採用など)に取り組むとともに、次世代のCFOや財務リーダーを獲得し、意欲を鼓舞する継続的かつダイナミックな学習に基づいた将来の財務人材戦略の展開に着手するチャンスが広がっています。
ポストコロナの成長を見据えた取り組みをはじめ、環境への重大な脅威への対応に至るまで、世界はいくつもの大きな課題に直面しています。統合報告書は、企業が荒波を乗り越え、持続可能な未来を構築していく上で中心的役割を担うでしょう。コーポレートレポーティングの変革を加速させ、ESGパフォーマンスの透明性を確保し、投資家などのステークホルダーから信頼を得るために、CFOと財務部門のリーダーは重要な戦略的役割を果たさなければなりません。
CFOが直面する喫緊の課題:コーポレートレポーティングで企業のビジネスと真価をつなぐ
レポーティングと財務の運用モデルを再構築して、財務と非財務におけるパフォーマンスの透明性と開示を求める声に応える