EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
話題の生成AIですが、データから学習して新しい出力を生成できるAIです。近年急速に進化し、TMT(テクノロジー/メディア・エンターテインメント/テレコム)業界にも影響を与えています。生成AIは、入力に応じてさまざまなコンテンツを生成することができます。その対象は、テキスト、画像や音声などさまざまな領域での応用が広がっています。また、デザインやプログラミング、医療や工学など、さまざまな分野で活用が期待されており、社会や産業に革新的な変化をもたらす可能性を秘めていると同時に、人々の生活や企業経営に大きな影響を与える可能性があります。例えば、文章や画像を自動的に作成することで、コンテンツ制作やマーケティングに役立ち、医療や製薬などの分野でも、創薬や新たな治療法を発見するのに貢献する可能性があります。さらに、教育や学習にも応用が可能です。
この生成AIは人工知能の一分野で、(図表1)は人工知能全体の中での生成AIの関係を示しています。
図表1
生成AIの市場は近年急速に拡大しており、Grand View Research, Inc.1 によると、世界の生成AI市場規模は2030年までに1093億7000万米ドルに達すると予測されています。生成AIが活況を呈する背景としては、以下のようなものが挙げられます。
新しいコンテンツを効率的に生成できるという生成AIの特性を活用し、デザイン、マーケティング、教育などさまざまな分野での活用が期待されています。生成AIは以下のようなさまざまな用途への活用が想定できます。
TMT業界は、常に新しい技術やサービスの開発によって変化と革新を続けてきた業界です。しかし、近年では、5GやAIなどの新しい技術の登場により、業界の構造や競争環境が大きく変わりつつあります。また、社会的な課題やニーズに応えるために、サステナビリティや倫理などの観点も重要になってきています。このような状況の中で、TMT業界はどのようなインパクトを受けるのでしょうか?そして、どのような戦略や行動が求められるのでしょうか?
本稿では、以下の5つの視点から、生成AIがTMT業界に与えるインパクトを考察します。
図表2
マテリアルズ・インフォマティクス(MI)は、材料科学と情報技術を組み合わせた分野です。MIでは、材料の特性と構造に関するデータを使用して、新しい材料を設計・開発したり、既存の材料を改良したりします。生成AIは、既存のデータに基づいて、新しい材料の構造を生成することができます。これにより、MIの研究者は、試行錯誤を繰り返して新しい材料を設計するのではなく、より効率的に新しい材料を設計することができます。また、材料開発の効率化だけでなく、革新的な材料の発見にもつながります。以前から、材料開発の分野でAI活用は行われてきましたが、収益性が高いスマイルカーブの両端にあたる上流(企画・開発)・下流(サービス)プロセスに関する生成AIによる効率化の可能性が示されました。MIにおける生成AIの応用は、まだ始まったばかりですが、今後はさらに広がることが予想されています。材料科学の進歩だけでなく、社会のさまざまな課題解決にも貢献する可能性があります。
生成AIは、通信・メディア・テクノロジー業界において、マーケティングやセールスの分野で大きなインパクトを与える可能性があります。
生成AIは、デザイン業界に大きな影響を与える可能性があります。新しいデザインのアイデアを生成したり、既存のデザインを改良したりするために使用できます。より創造的で革新的なデザインのアイデア提供にも活用できます。さらに、既存の製品やサービスのフィードバックや分析を基にして、新しいアイデアや提案を生成することができます。また、プロトタイピングなどのプロセスを効率化することもできます。
生成AIを活用することにより、デザインプロセスを効率化し、デザインの品質を向上させ、より創造的で革新的なデザインを生み出せる可能性があります。
生成AIは、バックオフィスの業務改善に大きく貢献できる技術です。生成AIは、文章を生成することができるため、人間の作業負荷を軽減し、効率化や品質向上を図ることができます。例えば、生成AIを使って、以下のような人事部門の業務改善に活用できます。
生成AIは、顧客とのやり取りに革命を起こす可能性があります。
カスタマーサポートでは、顧客の問い合わせや苦情に迅速かつ効率的に対応することができます。例えば、顧客の言語や方言に合わせて、自然なテキストや音声を生成したり、顧客の問題や要望に応じて、適切な解決策や提案を生成したりすることが可能です。これにより、顧客はより信頼感の高いサポートを受けることができます。
さらに将来的には、顧客のニーズや嗜好に合わせて、パーソナライズされたコンテンツやサービスを提供することができます。例えば、顧客の興味や趣味に基づいて、オリジナルの記事や動画を生成したり、顧客の声や表情に応じて、感情的な対話を行ったりすることが可能になるかもしれません。このような活用によって、顧客はより満足度の高い体験を得ることが可能になります。
生成AIは、従来は人間が手作業で行っていたタスクを自動化することで、生産性の向上に大きく貢献します。本稿で例示したような生成AIの活用により、企業は、より効率的にマーケティングや営業活動を行うことができるようになります。しかし、生成AIが発展・浸透した先に、これらのプロセスのコモディティ化が進むリスクもあります。例えば、マーケティングでは、生成AIを用いて、誰でも簡単にターゲット顧客に最適化されたコンテンツを生成できるようになるかもしれません。また、営業では、生成AIを用いて、誰でも簡単に見込み客に最適化されたアプローチを生成できるようになるかもしれません。このような場合、企業は、生成AIを活用することで他社との差別化を図ることが難しくなる可能性があります。生成AIは、企業の生産性向上に大きく貢献する可能性を秘めていますが、その一方で、これらのプロセスコモディティ化が進行していくことへの懸念についても留意が必要です。
一方で、生成AIを最大限に活用するためには、倫理、法律、社会性といった側面への理解と配慮が必要となります。生成AIは、TMT業界にとって、機会と課題を同時にもたらします。その力を最大限に引き出すためには、組織全体での一致した理解と協力が欠かせません。生成AIの使用方法の重要性を認識し、責任を持って取り組むことが必要です。
脚注
【共同執筆者】
テクノロジー/メディア・エンターテインメント/テレコムセクター
田口 祐二朗 ディレクター
水島 幹雄 シニアマネージャー
樋口 茉奈 シニアコンサルタント
※所属・役職は記事公開当時のものです。
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生成AIは、さまざまな分野で応用が可能で、近年急速に進化しています。通信・メディア・テクノロジー業界では、マーケティングやセールス、プロダクトデザイン、バックオフィス、顧客関係などに影響を与えます。