EUにおけるForeign Subsidies Regulation(外国補助金規則)の導入と日系企業への影響

要約

  • 欧州連合(EU)は、2023年7月10日に域内市場を歪める外国補助金に関する新規則Foreign Subsidies Regulation(外国補助金規則)の導入を開始。
  • 2023年10月12日以降にEU域内で実施される大規模な公共調達手続きや合併・買収(M&A)取引において、企業がEU域外の政府から受けている各種助成金や優遇税制といった外国補助金について報告が義務付けられる。
  • 欧州委員会は域内市場を歪めると判断された外国補助金の強制返済や、M&Aの禁止といった是正措置の幅広い選択肢を有しており、また必要な届け出を怠った場合、罰金が科されるなど、日系グローバル企業への影響が大きい。
     

詳細

背景

欧州委員会によるForeign Subsidies Regulation(外国補助金規則。以下、「FSR」)の導入の背景として、EU域外政府からの補助金やその他の形態の支援が、EU域内市場を歪曲する可能性への懸念があります。例えば、入札においてEU域外からの補助金を受けたEU域外国の企業が落札する可能性や、EU域外国の補助金を受けたEU域外企業がEU企業を買収する可能性が懸念されています。被買収企業がハイテクや製薬企業である場合には、特に敏感な問題となります。EUにはすでに、EU加盟国が提供する歪曲的な国家補助に対する包括的な規則があり、欧州委員会はこれらの規則の監視および執行の責任を負っています。例えば、欧州委員会は近年、直接税の分野において、さまざまな国家補助に対する調査を開始しています。今回の外国補助金に対する規則は基本的に、既存の国家補助規則の範囲を拡大し、非EU諸国が提供する国家補助も対象とするものです。

概要

FSRの発効により、欧州委員会は、EU域内で活動する企業がEUの非加盟国の政府・公的機関から受領する外国補助金について調査し、その市場を歪めるネガティブな効果を是正することができます。

具体的には、2023年10月12日以降、適用基準を満たす企業は、企業結合および公共調達の手続きにおいて、外国から受ける外国補助金に係る届け出が必要となります。

  1. 企業結合における届け出義務
    合併当事者の少なくとも1社、被買収企業またはJVにおける、EU域内の売上高合計(当事者の子会社および親会社等の売上を含む)が5億ユーロ以上で、かつ、合併当事者、買収企業または被買収企業、JVまたはその出資者がEU域外の国から合計5,000万ユーロ以上の外国補助金を受け取っている場合。
  2. 公共調達の入札における届け出義務
    公共調達の推定価値が2億5,000万ユーロ以上、かつ、入札に参加する企業(その子会社および親会社等を含む)がEU域外国から1カ国当たり合計400万ユーロ以上の外国補助金を受けている場合に適用されます。
  3. その他の小規模の企業結合および公共調達手続
    上述のケース以外においても、欧州委員会が職権により、届け出を要請することができます。


企業に課される届け出の内容は以下の通りです。

企業結合における届け出義務:

  • FSRが最も市場を歪める可能性があると捉える域外国からの外国補助金(例えば、財政状況に問題がある企業に提供される補助金、債務または負債に対する保証額または保証期間の制限のない保証、等)をEU域外の国から受けて取っている場合には、過去3年以内に供与された1件当たり100万ユーロ以上のすべての外国補助金に関する、詳細情報。
  • 上述以外の外国補助金をEU域外の国から受け取っている場合には、過去3年間に4,500万ユーロ以上を提供された域外国政府からの1件当たり100万ユーロ以上の資金面の助成の概要。

公共調達における届け出義務:

  • 外国補助金規則第5条に該当する、過去3年間に域外国政府により提供された1件当たり100万ユーロ以上の外国補助金については、その詳細情報。
  • それ以外の域外国からの外国補助金については、過去3年間に計400万ユーロ以上の提供を受けた域外国政府からの1件当たり100万ユーロ以上の外国補助金の概要。

外国補助金とは、EU域外の政府からの外国補助金であり、定義は非常に広範で、EU域外の国から受け取る補助金、物品やサービス、それらの国から受ける出資、融資、融資保証、財政優遇措置、租税優遇措置も含まれます。対象となる外国補助金は、政府機関や公的機関によって提供されるものに加え、財源をそれら政府・公共団体に依拠している民間事業体が提供するものも該当する可能性があります。

ペナルティ

欧州委員会は是正措置の幅広い選択肢を有しており、外国補助金の強制返済や、M&Aの禁止、公共調達手続きからの除外といった措置を講じることができます。さらに、欧州委員会は、必要な届け出を怠った場合を含め、最大で当事者を含むグループの全世界売上の10%の罰金を科す権限を与えられています。FSRに基づき欧州委員会が行った措置は、EU司法裁判所の審査対象となります。また、欧州委員会は、補助金の歪曲的効果について第三国との対話を開始する権限を与えられています。

適用開始日

FSRは2023年1月12日に発効し、2023年7月12日より適用が開始されます。FSRはEU加盟国の国内法化を必要とせず、直接適用されます。2023年10月12日以降、適用基準を満たす企業は、企業結合および公共調達の手続きにおいて、外国から受ける外国補助金に係る届け出が必要となります。

M&Aおよび公共調達手続きにおける届け出が必要な外国補助金は、過去3年分です。なおFSRは、規則の適用日の5年前までに交付された外国補助金が継続して域内市場を歪めている場合に適用されるため、遡及的効力を持ちます。

また、FSRの適用開始以前に発表や締結、発効されたM&Aや公共調達手続きは適用対象外です。

日系企業への影響と求められる対応

EUへの投資や公共調達手続きへの参加を目指す日系企業にとって、FSRは重大な影響を及ぼすため、グループにおいて各国政府から受けているまたは受ける見込みである税優遇措置等の外国補助金を把握した上で、届け出対象となる可能性の有無等を整理し、今後のEUへの投資や公共調達手続き時の届け出義務に適時に対応できる体制の整備が求められます。

特にM&Aに関しては、迅速な対応を伴う手続きの中で、FSRへの対応が必要となることから、現在および将来検討されている案件について、M&AプロセスへFSR対応を織り込み、適時に対応できるよう、事前に情報収集や体制構築をしておくことが重要になってくると考えらえます。

一方、グローバル・ミニマム課税の導入や、各国における技術投資やグリーン転換を推進する動きに伴って、各国における新たな補助金や還付可能な税優遇措置の導入が活発になっており、活用を検討している企業も多くあると考えられます。

FSR導入を含むグローバルを取り巻く税務環境を踏まえ、グローバルに事業を展開する日系企業において、グループのインセンティブの活用状況について、一元的に管理していく体制の構築が重要になっていると考えられます。

 

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EY税理士法人

古瀬 裕久 アソシエートパートナー
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※所属・役職は記事公開当時のものです