- 経済協力開発機構(OECD)は、年次報告書である法人税統計第6版(以下、「本報告書」)を、最新のデータベースとともに公表した。
- 本報告書のデータベースは、集約された国別報告書のデータを含み、多国籍企業の課税分析やグローバルビジネスに影響を及ぼす政策提案策定に対する情報を提供する。
- 本年度の第6版では、源泉徴収税率に関する統計の対象範囲拡大、以前に公表された利子損金算入制限ルールや外国子会社合算税制に関するデータセットの更新など、データベースが拡張されている。
エクゼクティブサマリー
2024年7月11日、OECDは、最新の法人税統計データベースとともに、法人税統計の年次刊行物(「法人税統計報告書」)の第6版を公表しました。本報告書は、160の国・地域における法人税データの概要を示しており、法定税率および実効税率、源泉徴収税、租税条約、法人税収、多国籍企業(MNE)の国際活動、国別報告書の集約データを提供しています。本報告書には、匿名化および集約された国別報告書データに関する最新のよくある質問(FAQ)のリストが添付されています。
最新のデータベースには、2021年のデータに基づいて、匿名化および集約された国別報告書統計が含まれています。2016年から2021年にかけて、52の本社が所在する国・地域および217にのぼる関連会社が所在する国・地域を対象としています。さらに、このデータベースには、研究開発とイノベーションに対する所得ベースの税制優遇措置に関する新しいデータセット、および子会社合算税制(CFC)と利子損金算入制限ルールに関する最新情報が含まれています。さらに、46の国・地域にわたる61の知的財産制度に関する情報が含まれており、144の国・地域の源泉徴収税率の統計を提供しています。
詳細
背景
2015年10月、OECDは、「税源浸食と利益移転(BEPS)」プロジェクトの15の行動計画すべてに関する最終報告書を発表しました1。「BEPSの測定とモニタリングに関するBEPS行動11」に関する報告書は、BEPS活動の規模の推定に焦点を当て、BEPSの指標を特定し、BEPSの測定改善のための勧告を行っています。
2019年1月、OECDは法人税統計の初版を公表し、(i)法人税収入、(ii)法定法人税率、(iii)法人実効税率、(iv)技術革新に関連する税制上の優遇措置の4つの主要なカテゴリーについて、約100カ国を対象とした統計と分析を提供しています2。2020年7月、OECDは法人税統計の第2版を公表しましたが、これには2016年に国別報告書を通じて収集し、匿名化および集約化したデータが初めて含まれました3。同報告書の第3版、第4版、第5版は、それぞれ2021年7月、2022年11月、2023年11月に公表されました4。
法人税統計:第6版
法人税統計報告書とデータベースの第6版は、OECDが有するさまざまな既存データセットから新たなデータ項目や統計をまとめたもので、法人税全般、特にBEPSの分析を支援することを目的としています。OECDのプレスリリースによれば、長期にわたり低下傾向にあった法定法人税率は、過去3年間は安定しており、第2の柱のグローバル・ミニマム課税が導入される見通しが、安定化に貢献した可能性があることと示唆しています。特に35以上の国・地域が2024年から15%の最低法人実効税率を導入する(または導入を計画している)ことに注目しています。本年度の報告書では、流動的な無形資産とそれに関連する所得を誘引するために設計された、特定の税制上の優遇措置の安定化についても言及しています。プレスリリースはさらに、「国・地域の多国籍企業の実効税率の変動に関する新しい国別データは、高税率の国・地域で低課税される利益の存在を浮き彫りにし、これは税制上の優遇措置やその他の的を絞った軽減措置の使用を反映している可能性がある」と述べています。
法人税統計データベースの第6版には、次のカテゴリーのデータが含まれています。
- 法人税収
- 法定法人税率
- 法人実効税率
- 研究開発に対する税制上の優遇措置
- BEPS行動13に基づく国別報告書の実施状況
- 外国子会社合算税制(CFC)
- 利子損金算入制限ルール
- 知的財産に関する制度
- 源泉徴収標準税率と二国間租税条約
- 国別報告書から集計した匿名化され集約された統計
行動13の実施状況および匿名化され集約された国別報告書データ
このデータベースでは、匿名化および集約された国別報告書統計に新しい年度が追加され、現在は2021年度までが含まれています。
2021年には101の国・地域で国別報告書の提出が義務付けられましたが、納税者の機密性を確保しながら集約した統計を提供できるほど、十分な数の報告書を受け取ったと考えられるのは52の国・地域のみであり、さらに国別報告書を一切受け取っていないと報告された国・地域が5つありました。2021年の国別報告書の集約データは、約8,000の多国籍企業を対象としています。
報告書は、最新の国別報告書データによって、利益が報告される場所と経済活動が行われる場所の不一致の証拠が示されていると述べています。このデータは、国・地域グループ間で従業員、有形資産、および利益の分布に継続的な違いがあることを示しています。例えば、高・中所得の国・地域は、総従業員の割合(それぞれ37%と44%)と総有形資産の割合(それぞれ38%と32%)が利益の割合(それぞれ32%と24%)を上回っています。一方、投資ハブの国・地域は、従業員(4%)や有形資産(12%)の割合に比べて、利益の割合が平均して相対的に高く(18%)なっています。高所得、中所得、および投資ハブである国・地域は、それぞれ発生税額の36%、32%、11%を占めています。これらの指標はBEPS活動の減少を反映している可能性がありますが、報告書は、2021年の国別報告書データはCOVID-19パンデミックの影響を受けている可能性もあると指摘しています。また、これらの指標は、投資ハブの国・地域で他の国・地域よりも高い水準を維持しており、BEPS活動が引き続き存在していることを示唆しています。
本報告書は、集約された国別報告書データには、経済分析または統計分析に使用する際に留意すべき制限があると指摘しています。報告書によると、制限のうち、国別報告書の実施に関する追加ガイダンスによって対処されているものもあります。例えば、配当の二重計上については、2019年11月にガイダンスを更新し、企業内配当を利益から除外することが明記されました。ただし、これらの更新がデータ品質の向上につながるまでには数年かかると予想されています。無国籍事業体の取扱いなどその他の課題は、BEPS行動13における国別報告書ルールの継続的な見直しが進められており、将来的には国別報告書を通じてより詳細な情報の収集につながる可能性があります。本報告書は、OECDが包摂的枠組みの加盟国・地域やその他のステークホルダーと引き続き協力し、各国・地域間のデータの質と一貫性の向上に取り組んでいることが述べられています。
影響
法人税統計全般、特に集約された国別報告書データは、多国籍企業の課税を分析するための情報源となり得ますが、OECDは、データには情報を使用する際に考慮すべきいくつかの重要な制限があることを述べています。
日本企業においては、法人税統計報告書とデータベースを確認し、グローバルおよび日本企業の税ポジションを自社と比較することが考えられます。
巻末注
- 2015年10月6日付EY Global Tax Alert「OECD releases final reports on BEPS Action Plan」をご参照ください。
- 2019年1月28日付EY Global Tax Alert「The Latest on BEPS」をご参照ください。
- 2020年7月15日付EY Global Tax Alert「OECD releases new corporate tax statistics including anonymized and aggregated country-by-country report statistics」、2020年8月6日付EY Japan税務ニュース「OECD、匿名化・集約された国別報告統計を含む新たな法人税統計を公表」をご参照ください。
- 2021年8月11日付EY Global Tax Alert「OECD releases corporate tax statistics publication (third edition), including anonymized and aggregated Country-by-Country report statistics」、2022年12月7日付EY Global Tax Alert「OECD releases corporate tax statistics and the 2022 revenue statistics and consumption tax trends」、および2023年12月28日付EY Global Tax Alert「OECD releases fifth edition of Corporate Tax Statistics publication」をご参照ください。