電子取引に係る電磁的記録の保存についての宥恕措置

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2022年1月21日 PDF
カテゴリー 税制改正関連

Japan tax alert 2022年1月21日号


電子取引を行った場合において、取引情報に係る電子データを紙出力して保存することを認める措置が、令和3年度税制改正で廃止されました。これに伴い、2022年1月1日以後に行う電子取引については、取引情報に係る電子データを、電子帳簿保存法に定める要件を充足して保存することが義務付けられました。しかし、令和4年度税制改正において、保存義務者の実情に配慮した宥恕措置が設けられ、関連する通達や一問一答が更新されています。本アラートでは、この宥恕措置について解説します。

(1)令和3年度改正の概要

取引情報(取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項) を電磁的方式により授受する取引を、「電子取引」と言います。所得税(源泉徴収に係る所得税を除く)及び法人税に係る保存義務者が電子取引を行った場合には、その取引情報を電子データで保存する必要があります。

この際、従来は電子データに代えて、その電子データを出力して作成した書面を保存することも例外的に認められていましたが、令和3年度税制改正において、この例外措置が廃止されました。これに伴い、2022年1月1日以後に行う電子取引については、取引情報に係る電子データを電子帳簿保存法に定める要件を充足して保存することが義務付けられました。

なお、電子帳簿保存法に従った電子データの保存が適切に行われている前提で、それとは別に各納税者が、社内経理の便宜などのために書面への出力を行うことを禁止するものではありません。

(2)令和4年度改正で導入された宥恕措置

令和4年度税制改正において、「電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存への円滑な移行のための宥恕措置」が整備されました。令和4年1月1日から令和5年12月31日までの間に行われた電子取引の取引情報に係る電子データは、以下の要件を満たす場合には、その電子データの保存に代えてその電子データを出力することにより作成した書面による保存が認められることになりました。

  • 保存義務者が電子帳簿保存法に定める要件を充足して保存できなかったことにつき、納税地等の所轄税務署長が「やむを得ない事情」があると認めること
  • 保存義務者が、整然とした形式及び明瞭な状態で出力された、当該電子データの出力書面の提示又は提出に応じられるようにしていること

また、上記の「やむを得ない事情」とは、電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存に係るシステムや社内でのワークフローの整備未済等、自己の責めに帰さないとは言い難いような事情も含め、保存要件に従って電磁的記録の保存を行うための準備を整えることが困難であることをいう旨が、通達によって明らかにされました。

(3)関連する一問一答の更新

令和4年度税制改正に伴って、国税庁は2021年12月に、公式サイトで公表している「電子帳簿保存法一問一答(電子取引関係)」を更新しました。更新によって新設されたQ&Aの概要は、以下のとおりです。

問41-2

  • 当面、電子取引の取引情報に係る電子データ保存への対応が間に合わない場合には、令和5年 12 月 31 日までに行う電子取引については、保存すべき電子データを書面に出力して保存し、税務調査等の際に提示又は提出ができるようにしておけば差し支えないこと
  • 令和6年1月1日以後に行う電子取引の取引情報については要件に従った電子データの保存が必要であること

が明らかにされました。

問 41-3

宥恕措置の適用を受けるに当たり、税務署への事前申請等の手続は不要である旨が明らかにされました。

問41-4

  • 「整然とした形式及び明瞭な状態」とは、書面により作成された場合に準じた規則性を有する形式で出力され、かつ、出力された文字を容易に識別することができる状態をいうこと
  • 「当該電子データの出力書面の提示又は提出に応じられるようにしていること」とは、税務調査等の際に、税務職員の求めに応じ、その電子データを出力することにより作成した書面の提示又は提出をする趣旨であること

が明らかにされました。

問41-5

宥恕措置に係るやむを得ない事情の有無や出力された書面については、必要に応じて税務調査等の際に確認することとしており、事前に税務署への申請等は不要であることが明らかにされました。

解説

令和4年度税制改正で導入された宥恕措置の趣旨は、令和3年度税制改正における例外措置の廃止について、準備期間が短く対応が困難という声があったことから、納税者の事情に配慮し、事実上、2年間の猶予を容認したものと考えられます。実際に、2022年1月1日の施行日までに、対応が完了していない法人や、そもそも改正内容を把握していない法人が少なからず存在したことも、背景にあると推察されます。

電子取引対応に苦慮していた多くの納税者にとっては朗報と言えますが、宥恕措置の適用を受ける場合であっても2年後には今回と同様に電子取引への対応が必要になります。電子取引の洗い出しや対応方針の書面化及びシステム導入等、十分な電子取引への対応には少なく見積もっても3~4カ月、場合によっては1年といった時間を要することが想定されますので、引き続き早期に対応を検討することが望ましいと言えます。

また、宥恕措置の適用を受ける場合には、電子取引の取引情報(請求書、領収書など)の電子データを、従前と同様に、書面に出力して保存しておく必要があります。また、税務調査があった場合には、税務職員に対して「社内のワークフロー整備が間に合わなかった」、「保存に係るシステムを整備する予定である」など、やむを得ない事情や今後の対応について口頭で説明・回答することになると考えられます。

お問い合わせ先

email 髙田 昂志 シニアマネージャー

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