2021年7月公表・電子帳簿保存法Q&A解説

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2021年8月5日 PDF
カテゴリー 税制改正関連

Japan tax alert 2021年8月5日号

国税庁は2021年7月16日(金)に、令和3年度税制改正に基づいて、Webサイト上で公表している電子帳簿保存法一問一答(以下「Q&A」といいます。)を更新しました。本ニュースレターでは、主要な更新内容について解説します。

(1)電子取引関係

① 文書管理システム等によらない保存方法(問12・問33)

電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存方法について、電帳法に対応した文書管理システム等を導入せずに検索機能の確保要件を満たす方法の例として、以下の2つの方法が示されました。

  • 対応例1:一覧表(索引簿)の作成により検索機能を満たそうとする例
    受領した請求書等データのファイル名に連番を付して、内容についてはExcel等の表計算ソフトにより、取引データに係る「取引年月日その他の日付」「取引金額」「取引先」の情報を入力して一覧表(索引簿)を作成する。

 

(一覧表の入力例)

  • 対応例2:ファイル名の入力により検索機能を満たそうとする例
    保存すべき取引データについて、税務職員のダウンロードの求めに応じることができるようにしておき、取引データのファイル名を「取引年月日その他の日付」「取引金額」「取引先」を含み、統一した順序で入力し、取引年月日その他の日付、取引金額、取引先を検索の条件として設定できるようにしておく。

    (ファイル名の例)
    2021年02月28日付のB工務店からの330,000円の請求書データの場合
    ⇒「20210228_B工務店_330,000.pdf」

解説

令和3年度税制改正により、2022年1月1日以後に行う電子取引の取引情報については、紙に出力して保存する措置が廃止され、法定要件を満たす形で、電子データのまま保存することが義務付けられます。法定要件を満たすためには、電帳法に対応する文書管理システムを導入する方法が一般的ですが、施行日までにシステム導入が間に合わない等の声があったため、実務に応じた解釈が示されました。ただし、ファイル名の変更や一覧表への入力には一定の事務負担が生じるため、電子取引の件数が多い法人の場合には、引き続きシステム導入に向けた検討が必要になると考えられます。なお、今回示された2つの対応例のうち「ファイル名の入力による方法」を採用する場合には、範囲検索や組み合わせ検索ができないと考えられるため、税務職員の質問検査権に基づくダウンロードの求めに応じる必要があります。

② 適用時期(問9・問10)

電子帳簿保存法に係る令和3年度税制改正の施行日は2022年1月1日であり、同日以後に行う電子取引については改正後の要件が適用されます。この適用時期について、以下の2点が明らかにされました。

  • 課税期間の中途で施行日が到来する場合、施行日以後に行った電子取引の取引情報については、改正後の要件にしたがって保存する必要がある
  • 施行日前に行った電子取引の取引情報については、たとえ保存日が施行日以後であっても、改正後の保存要件にしたがって保存することは認められない

③ 改ざん防止措置や保存先が複数ある場合(問23)

電子取引の取引データの保存要件(改ざん防止措置)については、「訂正削除の防止に関する事務処理規程の備付け」を含む4つの措置のうち、いずれかのものを行うこととされています。この改ざん防止措置の使い分けや、複数の措置が混在しても差し支えないことが明示されました。

また、電子データの格納先(保存場所)を複数に分けることは認められるものの、取引先ごとにどのシステムに格納されているのか分かるようにしておく等の管理が必要であることが示されました。

解説

例えば電子契約サービスについては、自社と取引先が別々のサービスを採用している等の理由により、保存場所の一元化が難しくなることがあり得ます。今回のQ&Aで、契約書データの格納先を複数に分けても問題ないことが明らかになり、電子契約サービスの利用について懸念が解消されました。ただし、同じ取引先から毎月同一のシステムを介して契約書データや請求書データ等をやり取りしているにもかかわらず、合理的な理由がない状態で規則性なく保存先を散逸させ、検索を行うに当たっても特段の措置がとられず、整然とした形式及び明瞭な状態で速やかに出力することに支障があるような保存方法は認められませんので、留意が必要です。

(2)スキャナ保存関係

① タイムスタンプ付与の代替要件(問21・問30)

国税関係書類についてスキャナ保存する場合には、その国税関係書類に係る記録事項にタイムスタンプを付与することが法定要件となっていました。令和3年度税制改正では、訂正削除履歴の残る又は訂正削除できないシステムに保存する方法によって、入力期限内に国税関係書類に係る記録事項を入力していることを確認できる場合には、その確認をもってタイムスタンプの付与要件に代えることができることになりました。

Q&Aでは、タイムスタンプ付与の代替要件を満たすシステムについて、入力期間内に入力したことを確認できる時刻証明機能を備えている必要があることが明らかにされました。

(例)SaaS型のクラウドサービスが稼働するサーバ(自社システムによる時刻の改ざん可能性を排除したシステム)がNTPサーバ(ネットワーク上で現在時刻を配信するためのサーバ)と同期しており、かつ、スキャナデータが保存された時刻の記録及びその記録が変更されていないことを確認できるなど、客観的にそのデータ保存の正確性を担保することができる場合

解説

タイムスタンプ付与の代替要件として、訂正削除履歴の残る又は訂正削除できないシステムで必要とされる具体的な機能が明らかにされました。Q&Aで示された例は、客観的な時刻証明機能を要求する内容となっております。こちらについてはあくまで例示ではあるものの、タイムスタンプ付与の代替要件としては当該例示レベルの客観性・第三者性を求める趣旨とのことですので、タイムスタンプを付与しない形でのスキャナ保存導入を検討していた法人は、現実的に対応可能か、慎重に確認する必要があります。

② 国税関係書類の廃棄時期(問3)

現行制度上、国税関係書類の原本(紙)については、スキャナ保存後、定期検査後に廃棄できることになっています。しかし、令和3年度税制改正によって、適正事務処理要件が廃止され、2022年1月1日以後に保存を行う国税関係書類については、定期的な検査を行う必要がなくなりました。その結果、スキャナで読み取り、折れ曲がり等がないか等の同等確認を行った後であれば、紙の原本は即時に廃棄して差し支えないことが明記されました。

解説

折れ曲がり等によって適切なデータ保存がなされない場合において、既に紙原本を廃棄しているときは、スキャナ保存をやり直すことができないため、紙の書類を紛失した場合と同様の取扱いとなります。これを防止するための同等確認は重要な手続きであり、誰がどのタイミングで実施するのか、各法人の実務に合わせて検討する必要があります。

③ スキャナ保存の承認取りやめ手続き(現行法から改正後要件への移行手続き)(問63)

2022年1月1日に現にスキャナ保存の承認を受けている国税関係書類については、同日以後もなお従前の例によることとされています。したがって、同日以後に改正後の要件に基づいて保存を行おうとする場合、原則として、改正後の要件による保存を開始する日より前に、取りやめの届出書を提出する必要があることが明らかにされました。

ただし、納税者の利便性向上という本改正の趣旨も踏まえ、保存義務者に追加の負担を求めるものとならないよう、保存義務者が以下の対応を行う場合には、取りやめの届出書があったものとみなす取扱いについても、合わせて明示されました。

  • 令和3年度の税制改正後の要件でスキャナ保存を開始した日について、管理・記録をしておくこと
  • 税務調査があった際に、その管理・記録した内容について答えられるようにしておくこと

※承認済み国税関係帳簿書類についても、上記と同様の取扱いとなります。

(3)電子計算機を使用して作成する帳簿書類関係

① 優良な電子帳簿に係る過少申告加算税の軽減措置の要件(問36・問39・問41)

特例国税関係帳簿(優良な電子帳簿)に記載された事項に関し修正申告等があった場合には、過少申告加算税が軽減されます。この軽減措置を受けるための要件が、以下のとおり明らかになりました。

  • 適用を受けようとする税目に係るすべての帳簿を法定要件にしたがって保存すること
  • 軽減措置の適用を受ける旨等を記載した届出書を、その適用を受けようとする国税の法定申告期限までに提出すること

また、事業所ごとに帳簿を作成・保存している場合には、事業所単位で作成しているものを含めてすべての帳簿につき、優良な電子帳簿の要件を満たして保存する必要があることも明らかになりました。

解説

青色申告法人が備付け、保存しなければならない帳簿とは、「正規の簿記の原則に従い作成された仕訳帳、総勘定元帳、その他の帳簿」と規定されています。多くの法人では、総勘定元帳や仕訳日記帳だけではなく、売掛金台帳・買掛金台帳・固定資産台帳など、多数の帳簿が存在すると思われます。優良な電子帳簿についてはそのすべての帳簿が優良な電子帳簿に係る法定要件を充足する必要がありますが、一部の帳簿(とりわけ固定資産台帳や売上帳など)は基幹システム以外のシステムで作成されることがあります。一般にこれらのシステムはそもそも電帳法に対応することを想定していない場合もあり、優良な電子帳簿に係る法定要件を満たせないケースも多いと思われますので、過少申告加算税の軽減措置の要件を満たす法人は限定的であると考えられます。

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