ウェルビーイングがパフォーマンスについて教えてくれるもの

ウェルビーイングがパフォーマンスについて教えてくれるもの


WABN同窓生である2人のアスリートがウェルビーイングについての深い理解を示し、良好なウェルビーイングがプロスポーツでもビジネス界でも実績につながることを伝えます。


要点

  • WABNは女性アスリートが精神面、社会面、職業面、財政面でのウェルビーイングを維持できるようサポートします。
  • ウェルビーイングの促進は、起業家やビジネス界で成功する女性の育成に向けてWABNが行っている重要な取り組みの一環です。


ウェルビーイングがパフォーマンスについて教えてくれるもの

EYの「Women Athletes Business Network(WABN)」についてのシリーズ第5回目となる本記事では、ウェルビーイングとは何か、ウェルビーイングがプロスポーツでもビジネス界でもパフォーマンスとどのように関係しているかを探ります。

ウェルビーイングは「気分が良好なことと十分に機能できることの組み合わせ」と見なすことができ、一般に精神、身体、社会、職業、財政、環境、スピリチュアルという7つの側面があると考えられています。

EYはWABNを通じて、女性アスリートの精神面、社会面、職業面、財政面でのウェルビーイングを促進します。特に、財政面でのウェルビーイングは極めて重要でありながらしばしば見落とされがちな一面です。スポーツ選手の金融リテラシーを支援するSports Financial Literacy Academyでは、男女間の賃金格差、男性と比較して短期のキャリア、妊娠・出産に伴う活動休止などから「女性アスリートは男性アスリートにも増して財政面で打撃を受けやすい」としています。

今回お話を伺うのは、プロスポーツの現場とその後の人生を通じて得た独自の経験からウェルビーイングについて深い理解を有するWABN同窓アスリートである、フィギュアスケートの米国代表オリンピック選手、長洲 未来(ながす・みらい)さんと、日本人としてNBAチアリーダーを務めた平田 恵衣(ひらた・けい)さんの2名です。

山あり谷ありを受け入れる

20年以上のキャリアを誇る長洲さんには輝かしい経歴があります。1930年代以来初めて女性としてジュニアとシニアの全米選手権で優勝した長洲さんは、2018年の平昌オリンピックで、トリプルアクセルを決めた初の米国の女子シングルフィギュアスケート選手となりました。

Mirai Nagasu American Olympian figure skater

長洲 未来(ながす・みらい)さん
フィギュアスケート 米国代表オリンピック選手

しかし、このように多くの賞を獲得している長洲さんにも、けがや、コーチが得られない時期や、オリンピック代表選抜での落選などの不運な時期がありました。

 

6歳で競技の道に入った長洲さんにとって、良い時期だけでなくつらい時期もあると受け入れることは容易でなく、それが彼女のウェルビーイングにも影響しました。

 

「子供の頃、私のロールモデルの多くは完璧なキャリアを築いていました。いざ自分が注目を浴びる立場になってみるといつもミスばかり犯している気がして、切り抜けていくのがとても難しかったです」と長洲さんは言います。さらに、スケートは非常に主観的なスポーツであるにもかかわらず、選手は競技の結果から「自分の価値や自尊心の大部分」を築く傾向がある、と語ります。

 

現在、長洲さんは、コーチを担当する若手スケート選手に、自身の体験を伝えて彼女たちの懸念に耳を傾けることで、こうした選手たちが「優れた人間、未来のリーダーとなる」手助けになればと感じているそうです。「不完全な姿には不思議な魅力と近づきやすさがあるのです。経験してきた弱さをお話しすることで自分の気持ちもすっきりしますし、他の人の助けにもなればと思っています」

 

事実、ウェルネス・カウンシル・オブ・アメリカ(Wellness Council of America)では、問題について話すこと、相談相手を持つことがウェルビーイングを培う上で鍵となるとしています。長洲さんは、これをさらに一歩進めて、自分に共感と思いやりを示すことを若手スケート選手に奨励しています。

 

WABNに参加して以来、長洲さんはこのようなことをすることが増えたそうです。WABNでは、メンタリング、ピアサポート、スキルアップなどにより女性アスリートがプロスポーツ引退後のキャリアやスポーツとビジネスを両立したキャリアへと移行していけるよう支援しています。

 

「(競技スケートからの)移行に7年かかっていますが、今でも自分の選択を問い返すことしきりです」と長洲さんは言います。「オリンピック選手を目指すことはとても確実な道のりだったので、それと同じような決意で取り組める対象がまだ見つかっていません。でもWABNでの体験から、それでも良いのだということがわかり、精神面でのウェルビーイングの大きな助けになっています」

自分のニーズを理解し受け止める

全米バスケットボール協会のオクラホマ・シティ・サンダー・チームで試合日のアシスタントを務める平田恵衣さんの場合、同チームのチアリーダーとして2シーズンを過ごした時点でウェルビーイングが重要なテーマとなりました。疲れ果てていた平田さんは引退して日本に戻りますが、自分に焦点を当てて時間を過ごしてみると気持ちが変わりはじめたと言います。

平田 恵衣(ひらた・けい)さん NBAチアリーダー

平田 恵衣(ひらた・けい)さん
NBAチアリーダー

「チアリーダーをやっていると、常に笑顔を浮かべ、エネルギッシュに踊ることが求められます。自分を休ませることを知らなかった私は、体と心が必要としているものを無視していました」と語る平田さんは、新潟を拠点とするアルビレックスチアリーダーズでコーチもしているそうです。「今思うと、辞めてしまいたくはなかったのです。ただ、休みを必要としていました」

アメリカ心理学会では燃え尽き症候群を「長期にわたる極度の過労から来る身体的、感情的、精神的な疲労困憊状態」と定義していますが、この燃え尽き症候群を経験した人は、もちろん平田さんだけではありません。11カ国で2万人を対象に行われたマイクロソフトの調査では、2022年7~8月において50%近くの従業員、53%の管理職が職場で燃え尽きを感じたと回答しています。

職場の燃え尽き症候群
に及ぶ、11カ国からの回答者が2022年7~8月にかけて職場で燃え尽きを経験したと答えています。

燃え尽き症候群に対処するために推奨される方法として、睡眠、休息、エクササイズ、食事、および社会的なつながりの改善があり、これらはウェルビーイングの主要な側面となっています。

 

回復したと感じ、オクラホマ・シティ・サンダーで以前の役割に戻った平田さんは、仕事にも人生にも新たな姿勢で臨むようになりました。

 

「ウェルビーイングに目を向けるようになったら、パフォーマンスもチームの仲間やコーチとの関係も、何もかもがうまくいくようになりました。最大限の能力を引き出すためには肉体も精神も感情も健康である必要があります」と平田さん。今では他の人たちにもウェルビーイングの維持を奨励しているそうです。

 

「自分の気持ちを認めていい、必要としているものに気付いていいと言ってくれる人が、あの頃いたらどんなに良かったか。ウェルビーイングに目を向けることがライフスタイルの一環となってからの私は、アスリートとしても人間としても成長したと思います」

 

平田さんは、コーチを担当している女性たちにとってのロールモデルであるだけでなく、EYが「より良い社会の構築を目指して」社会に「長期的価値」を提供するというミッションのもとに従業員に提供するウェルビーイング・セッションにも参加しています。

 

主なプログラムはチアリーダーの基本の動きを教えることですが、場の雰囲気をほぐすためのアクティビティやパワーポーズその他、ストレスを解放しながら仲間意識を育てる楽しいアクティビティが行われています。

 

WABNのおかげでウェルビーイングがはっきりと向上したと言う平田さんは、EYのメンバーと再び触れ合い、貢献することができてうれしいと語ります。

 

平田さんはWABNプログラムへの参加によって自信がついただけでなく、プロスポーツ引退後の可能性にも気付くことができました。これは多くのアスリート、とりわけ日本のアスリートにとっての課題です。EYの2021年のリサーチ(2021 EY WABN 調査レポート「Beyond the Field」)では、アスリートとしてのキャリアから現在の役割への移行が「容易」であったと回答したアスリートは全世界で34%であるのに対し、日本では4%という結果でした。

 

「自分はプロのチアリーダー以外の何者でもなく、ビジネスについて何も知識がないと思っていたこともありますが、WABNが私の目を開いてくれ、さまざまな選択肢について考えられるようになりました」と平田さんは述べます。

 

前途に何が待っているにせよ、確固たるウェルビーイングの感覚を備えた平田さんは生き生きと取り組んでいくことでしょう。


サマリー

ウェルビーイングは「気分が良好なことと十分に機能できることの組み合わせ」とされ、パフォーマンスや生活の質と結び付いています。EYはWABNを通じて女性アスリートの精神面、社会面、職業面、財政面でのウェルビーイングを促進します。


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