EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
2024年4月には、7カ月にわたるプログラムを終えた第3期生の閉講式を開催。式典の模様と第3期生の思いをレポートします。
要点
桜咲く2024年4月、東京ミッドタウン日比谷の高層フロアで、7カ月にわたるプログラムに共に励んできた3期生が、初めて対面で勢ぞろいし、興奮気味にあいさつを交わしていました。
第3期生の顔ぶれはこちら
WABNアカデミー生は、会計、マーケティング戦略、起業家精神などを学ぶ6回にわたるオンラインでの「セッション」と、担当メンターとの「1 on 1メンタリング」を経て、閉講式を兼ねた7回目のセッションで、それまで学んできた知識をアウトプットする「グループワーク」の最終発表を行います。受講生たちがやや興奮していたのは、この日行う最終発表への緊張感も交じっていたからでしょう。
閉講式の前半では、EY Japan所属でパラ競泳日本代表の富田宇宙選手が「アスリートとしてトップを走ってこられたエネルギーを、ビジネスという新しいスポーツに取り組むような気持ちで、今後新たな世界で発揮してください」とエールを送ったのち、(株)資生堂のDE&I戦略推進部 バイスプレジデントの山本真希氏が登壇し、EY Asia-Pacific DE&Iマネージャーの丸山裕香とパネルディスカッションを行いました。
山本真希氏は、(株)資生堂で営業、マーケティング、人事部を経て、2022年よりDE&I戦略推進部に籍を置く
“DE&I”とは、これまで多くの企業が取り組んできた「ダイバーシティ(多様性/Diversity)&インクルージョン(包括性/Inclusion)」に「エクイティ(公正性/Equity)」という考えを加えた言葉です。
国内正社員の70%以上が女性で、管理部門でも女性が40%を占める資生堂で、DE&I戦略推進に取り組んでいる山本氏は、「多様性のある組織は、立ち上げ当初こそ、伸び悩むかもしれませんが、うまくマネジメントできると、同質性の高いチームより高いパフォーマンスを発揮できるのです」と説明。資生堂では、多様性のあるチームだったからこそ、男性化粧品という新たな市場を獲得できた例などを挙げ、「DE&Iの推進は企業戦略の大きな柱となり得るのです」と力強く伝えていました。
このようなパネルディスカッションは、女性アスリートが潜在的に持つビジネスで有効なリーダーシップを呼び起こしてもらいたいというWABNの願いによってプログラムされています。ひいては、ジェンダー平等の実現にも貢献する取り組みとして、「Building a better working world~より良い社会の構築を目指して」というEYのパーパス(存在意義)にもつながるプログラムです。
パネルディスカッション後には、いよいよグループワークの最終発表が始まりました。2023年10月にスタートを切った第3期生は3~4人で1つのグループをつくり、「社会×ビジネス×スポーツ」というテーマのもと、自分たちが展開してみたい事業計画書の作成に取り組んできました。閉講式では、参加者の前でパワーポイントを使い、“プレゼンテーション”します。
このグループワーク発表で難しいのが、持ち時間がわずか10分という制限時間です。協力者を得るべく、受講生は資料作りや話し方を工夫し、簡潔に伝える力が求められます。いわば、学びの“集大成”というわけです。
第3期EY Japan WABNアカデミーでは、3グループのうち、2グループが子どもたちにスポーツ体験を提供するビジネスを計画しました。
坪内萌花さん(フィールドホッケー)、廣瀬花子さん(フリーダイビング)、横尾千里さん(ラグビー)のグループは、全員が競技人口の少ないスポーツに携わってきた経験から、小学生がマイナー競技を体験するビジネスモデルを提案。政府の助成金を受け、休日の学校を借り切って費用を抑えることで、持続的にスクールを運営するモデルを発表しました。
この事業計画に対し、審査員を務めたEY Japan チーフ・ブランディング・オフィサー 榎本亮からは「マイナー競技という観点からビジョンを広げていった点が良い」という評価があった一方で、「助成金は、政権が変わると突然受けられなくなるリスクがある。持続的なビジネスにするためには単価設定を上げるべき」などのアドバイスがありました。また、同じく審査員を務めた(株)三菱UFJ銀行 リテールデジタル企画部 古賀亮氏からは同行での新規事業立ち上げ支援経験に基づき、事業採算や社会的意義に関するコメントがありました。
ビジネス知識だけでなく、伝達力も問われるグループ発表
発表を終えた横尾さんは、グループワークをこう振り返っています。
「3人で集まった当初は、こういうビジネスをしたいねという理想は出てきても、手段が全く浮かんできませんでした。でも、WABNアカデミーのセッションを通し、ビジネスの知識が増えるにつれ、プランを膨らませ、発表資料にも厚みを出すことができました」
2016年リオ五輪で7人制女子ラグビーの日本代表を務めた横尾千里さん
また、現役引退直後、「毎日、仕事を頑張っているのに、何に向かって頑張っているか分からなくて不安だった」という横尾さんは、「本当の社会人になりたくて、なりたくて仕方なかった」ことがWABNアカデミー受講の動機だったといいます。閉講式終了後には、「この約半年間で、ビジネスがどう成り立っているかも見えてきた気がします」と明るい笑顔を見せていました。
横尾さんは、今春、母校のラグビー蹴球部に新設された女子部のヘッドコーチに就任し、ラグビー界でもWABNの学びを生かしたいと考えているそうです。
さらに子どもたちの体力低下を懸念する小林聖子さん(競泳)、泊志穂さん(サッカー)、中山有加さん(柔道・柔術)、松原梨惠さん(新体操)の4人グループは、「子どもたちにもっと居場所を」をテーマに、オリンピアンを招聘(しょうへい)し、1回2,000円で3種目40分ずつスポーツ体験ができる場を小学生に提供するモデルを提案。「子どもにさまざまなスポーツを体験させたい親世代に響く内容」との評価を得ていました。
収益化のためのプランは、財務のプロであるEY Japanメンバーの助言を受けながら作成
そして斬新だったのは、竹村幸さん(競泳)、土居美咲さん(テニス)、丸茂圭衣さん(アーティスティックスイミング)によるスポーツ好きのための「婚活アプリ」開発事業プランです。
日本代表レベルの30名にアンケートを実施し、「現役中にもパートナーがほしい」と感じている人が90%に上ったという調査結果を受け、スポーツ選手が安全に出会いを得る機会があってもよいのでは、というアイデアが3人に浮かび上がったといいます。
さらに、女性アスリートが、結婚や出産といったライフイベントと競技を両立させるのは男性アスリートよりも難しい現状があることから、女性アスリートの後輩たちに競技とライフイベントのはざまで悩んでほしくない、という思いもあったそうです。
そこで3人は、大手の結婚相談所を訪ね、リスク管理についてのヒアリング調査を行い、さらにスポーツ団体やジムと提携しながら会員を募るマーケティング構想を計画、プランや料金形態を設定しました。
審査員からは、「しっかりフィールドワークをしていて計画に説得力がある」との評価を得たほか、イラストと見出しを多用し、「ビジュアルで理解を促す資料」を作成した点についても高く評価されていました。
参加者を楽しませた発表を行った土居さんは、WABN受講の動機について、こう話しています。
女子テニスのWomen’s Tennis Association (WTA)ランキングは最高でシングルス30位をマークした土居さん
「WABNの受講を決めたのは、現役を引退する直前でした。今までテニスしかやってこなかった人生だったので、パソコンを使ったこともなければ、プレゼンテーション資料の作り方も分からない。だから社会に対して少し劣等感のようなものを感じていました。でも同時に、社会人として大事なことや必要なことはなんでも知りたい!という好奇心も強くて。WABNは、そんな転換期にいる私が、次のステップとして前に進むための力と、同じ悩みや経験を持つ他のアスリートとの密度の高い時間をくれました」
土居さんと同じグループだった丸茂さんもWABNを受講して良かったと考えている1人です。
丸茂さんはリオ五輪アーティスティックスイミングのチーム戦で銅メダルを獲得
「現役を引退して、アスリート時代から所属していた現在の企業で仕事を始めたとき、私は“ゼロからのスタートだ!”と思っていましたが、入社5年目だったため、周りからはそう見られないことにギャップを感じていました。そのため、職場ではアスリートである過去を封印していました。でもWABNのプログラムを通して自分の強みなどを知るうちに、競技を通して培った経験は、もっとダイレクトに今の仕事に生かしていっていいんだと感じることができるようになりました」
丸茂さんは現在、「職場で自分らしさを生かしながら、今後は社会貢献活動もしていきたい」と前を向いています。
3グループが発表を終えると、閉講式終盤に、EY Japan WABNリーダーの佐々木ジャネルが3期生全員のWABNアカデミー修了をたたえました。さらに受講生たちが「WABNアカデミーでたくさんの知識やスキルを得ることができ、素晴らしい仲間に出会えて有意義な7カ月間だった」と思いを口にする中、セレモニーは締めくくられました。
第3期生が晴れやかな笑顔でWABNアカデミーを終えられたことをうれしく思います。
かつて体操選手だった私は、常々、スポーツを通して学んだ経験と、ビジネスの世界で得られる経験との間には共通点が多いと感じてきました。スポーツもビジネスも、進化を求めて新しい挑戦をしたり、新しい環境に順応して視野を広げることが求められるからです。
しかし、現役引退後のアスリートは、社会経験の少なさから、自らがビジネスで成功する資質を持っていることに気づかない人が多い。WABNアカデミーは、そんなアスリートがビジネスで成功したり、所属している組織でリーダーシップを発揮するためのお手伝いをしています。ビジネスセッションやメンタリング、グループワークを通じて女性アスリートの「経済的エンパワーメント」をサポートすることがWABNアカデミーの独自性であると考えていますし、EYは女性の経済的エンパワーメントを応援することによってジェンダー平等の実現に貢献することを目指しています。
2024年10月には第4期EY Japan WABNアカデミーを開講する予定です。WABNを通して得たつながりや経験は、 必ず一人ひとりの財産になると信じていますので、多くの素晴らしい女性アスリートの皆さんからのご応募をお待ちしております。
「第3期EY Japan WABNアカデミー」の最終セッションで、(株)資生堂のDE&I戦略推進部の山本真希氏に、DE&Iの推進が、なぜビジネスに結び付くのか語っていただきました。この山本氏の言葉とともに、「社会×ビジネス×スポーツ」というテーマのもと、3グループに分かれた受講生が作成した事業計画書の最終発表についてレポートしました。