ビジネスネットワークをローカライズして持続可能性を実現するには

ビジネスネットワークをローカライズして持続可能性を実現するには


グローバルな取り組みを現地の環境に最適化させるためのポイント


要点

  • 国と国との橋渡しや、文化の違いを理解して双方に伝えるといった努力が、プロジェクトの長期的な価値を伝える際に役立つ。
  • 常にビジョンを念頭に置き、それを形にしていくことで、プロジェクトに関わる人たちのやる気を引き出すことができる。
  • 困難に直面しても粘り強く取り組むことが、長く持続するネットワークの実現につながる。


ビジネスネットワークをローカライズして持続可能性を引き出す

ビジネスの場で何かイニシアチブを立ち上げるというのは、簡単なことではありません。目的やビジョン、戦略をしっかり定める必要がありますし、組織内での同意や協力、多様な人材や資金といったさまざまなリソース、事をスムーズに進める実行力も必要です。そして、グローバルなイニシアチブを各地の文化や言語を踏まえた形で最適化、すなわちローカライズし、長く持続させようと思うと、その難易度はほぼ間違いなく上がります。

日本では、依然として女性のエンパワーメントがあまり進んでいません。さまざまな取り組みが継続的に行われているにもかかわらず、世界銀行が男女格差の現状を評価した2023年の報告書によれば、日本のランキングは先進国で最下位となりました(*1)。また共同通信社による2022年のアンケート調査では、調査対象となった日本人女性のうち70%が、日本では「男女平等がまだ実現できていない」と回答しています(*2)。

共同通信社による2022年のアンケート調査
の日本人女性回答者が、日本では「男女平等がまだ実現できていない」と答えている。

この現状を考えると、やはり女性アスリート向けのグローバルプログラム「Women Athletes Business Network(WABN)」を日本向けにローカライズすることがどうしても必要なのではないか。EY Japan WABNアカデミーは、そうした発想から立ち上げられたイニシアチブです。

WABNは2024年度から、EYの「企業としての責任」(CR)プログラムに組み込まれることになりました。社会・環境のためのグローバルなプログラムであるEY Ripplesと共に「ダイバーシティ・エクイティ&インクルーシブネス」(DE&I)活動のうちのひとつに選ばれたことからも、WABNの社会的影響の大きさがうかがえます。女性アスリートのセカンドキャリアやデュアルキャリアでのビジネス分野への挑戦をサポートするプログラムであるWABNについて紹介するシリーズの6回目となる今回の記事では、CRプログラムの新たな柱となるこのWABNのリーダーに就任した立場から、アカデミーの設立や運営に関連する重要なポイントをいくつかお伝えしたいと思います。

現地市場のニーズに合わせて

「相手が理解できる言葉で話せば、それは相手の頭に届く。相手の言葉で話せば、それは相手の心に届く」ネルソン・マンデラは、そのような名言を残しています。

「ウェルビーイングや、金融リテラシー、経済的な保障や安定といった、議論しにくいテーマを扱うこともあるので、アカデミーに関心を持ってもらい、参加し続けてもらうためには、英語ではなく日本語でコンテンツを届けることが絶対に必要だと実感しています」東京でWABNのエグゼクティブスポンサーを務める根本知香は、そう語ります。

「EY Japanは、女性アスリートの持つ優れた能力はビジネスにいかせるはずだと確信しています。このアカデミーを通じてWABNをローカライズすることで、女性アスリートが自身のポテンシャルを発揮してさらに社会に貢献することをお手伝いできればと思っています」

スポーツの世界でもビジネスの世界でも優れた成果を出しているWABNプログラムのアラムナイ(卒業生)のように活躍することを目指して、2023年の秋にも、新たなアスリートたちがアカデミーにやってきました。そして、アジアの他の地域からも、WABNアカデミー創設のサポートをしてほしいという要望が私のところに来ていることを踏まえ、私がこれまでの経験から学んだことをまとめてみました。

人と人とをつなぐ橋を架ける

新しいプロジェクト、特に現地市場に合わせてローカライズする取り組みを始める際には、そのプロジェクトに関わる全員が信じることのできるビジョンをリーダーが提示する必要があります。プロジェクトの長期的な価値を表現しつつ、関係者それぞれの立場に共感を示し、達成可能なものを見せることで、成功が近づきます。

グローバルなリーダーシップに関する研究やプログラムを専門とする米国の非営利団体、センター・フォー・クリエイティブ・リーダーシップ(Center for Creative Leadership)も、優れたリーダーとは、コミュニケーション能力や影響力を発揮でき、エモーショナルインテリジェンス(感情知能:EQ)としても知られる、自己認識力を備えた人物だとしています(*3)。

アカデミーでボランティアメンターやゲスト講師を務めるEYのメンバーが全国のあちこちにいることや、プロアスリートの多忙なスケジュールを考えると、日本ではこうしたリーダーの資質が特に重要であると言えるでしょう。

「EYの強力なコアチームが、多様なスキルと経験をいかしてWABNのビジョンと成長をサポートします」そう語るのは、上海を拠点にWABNのグローバルPMOとして活躍し、ナレッジマネジメントにおけるアジア太平洋地域リーダーを務めるキャンディ・リム(Candy Lim)です。「ジャネルが提示しているこのプログラムのビジョンや、WABNをより良いものにしようと全社を巻き込んでいくリーダーシップは、EYで共有される価値観を体現するものであり、顧客との関係も深めてくれます」

WABNのグローバルな目的を確実に達成しつつ現地のニーズを満たすためには、国と国との橋渡しや、文化の違いを理解して双方に伝えるといった努力も必要です。そしてそれは、私が数十年にわたり日・米間の共同作業に携わってきた中で磨いてきたスキルでもあります。もちろん理想は、グローバルなマインドセットと、現地の状況についての知識や理解の両方を併せ持つことですが、2国間プロジェクトの経験がそれほどないリーダーは、他の人にサポートを求めればよいのです。メンバーのポテンシャルを見抜き、それを引き出せることも、優れたリーダーシップの秘訣(ひけつ)のひとつです。

ビジョンを形にしていく

プロジェクトを立ち上げ、運営し、それを持続可能なものにしていくには、ビジョンを形にして成果を出す必要があります。日本では、関係者からの必要な賛同を取り付けるまでに時間がかかることがありますが、いったん承認されれば、実際の進行は大抵問題なく進みます。

初年度のプログラムが終了した後、アカデミーでは細かな調整を継続的に行い、参加者、スタッフ、社会のニーズを満たすためのベストな運営方法を模索してきました。

コンテンツの調整の参考にしたのは、経験から得た学びと、その時々に頂いたフィードバックです。この2つは、持続可能なプログラムを作り上げる上で、非常に有用な資産と言えるでしょう。また、パンデミックによる行動制限で、対面での活動をオンラインで行わざるを得なくなった際には、それが結果として包括性を向上させているという気づきを得て、その後もオンラインでの参加に焦点を合わせたハイブリッドプログラムの開催を続けています。

ただ、こうしてアカデミーが進化しても、やはりビジョンを常に念頭に置き、それを形にしていくことが一番重要であることに変わりはありません。

人材の育成

変化は課題をもたらすこともありますが、大事なのはメンバーたちが変化に適応していく間もリーダーが自信を示すことです。ネットワークを持続可能なものにするためにはそれを発展させていかなければなりませんが、そのためには困難な時であっても、リーダーは粘り強さやレジリエンスを示し、機敏に動く必要があります。

アカデミーの成功は、そこに関わる人たち一人ひとりが自分の役割を果たしてくれたからこそ成し得たものです。新たな価値を社会にもたらしたいという思いから、EYのスタッフはアカデミーのために時間を割いてくれ、またこれまでにアカデミーに参加したアラムナイの皆さんも、プロアスリート引退後のキャリアにどのような可能性があるのかを示し、ロールモデルとなって、毎年アカデミーに新たな参加者を集めてくれています。

「ここに集まっているのは、新たな一歩を踏み出して何かを得たいという思いを持つ人ばかりです」と根本は言います。「このネットワークに参加することで、アスリートの皆さんは、社会との関わり方について新たな視点から考えられるようになるはずです。そしてこのイニシアチブは、普段の仕事ではビジネスパーソンとしか関わりがないEYのメンバーにとっても、価値ある経験になっています」

WABNは、男女格差という世界的な問題への取り組みを、グローバルなレベルはもちろん、個人レベルでもサポートしています。他のアジアの国や地域で開設が予定されているアカデミーも、それぞれのニーズに合わせてプログラムを調整し、現地の女性たちのエンパワーメントに大いに貢献できる可能性を秘めています。



サマリー

WABNのローカライズは、参加者が自分の能力を発揮し、ビジネスの場や社会で活躍できるようにサポートするのに役立ちます。アジアで開設が予定されている他のアカデミーも、ニーズに合わせたプログラムを提供し、現地の女性たちのエンパワーメントに貢献する可能性を秘めています。 


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