Digital技術を活用したFinanceプロセスの変革

Digital技術を活用したFinanceプロセスの変革

ニューノーマルの環境下でファイナンス部門に期待される役割が変化しており、デジタルは最重要な変革のエネーブラーとなります。本稿では、足元のデジタルを活用したファイナンスオペレーションの変革と、5~10年先の技術進化を見据えたファイナンスプロセスの将来像について解説します。


本稿の執筆者

EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) BC-Finance 三宅明央
BC-Finance(CFO部門向けコンサルティングチーム)において、Agile Finance(Process Excellence)領域のオファリング責任者を務める。EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) パートナー。

EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) BC-Finance 濱本佳政
BC-FinanceのFinanceDXオファリングチームに所属。EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) マネージャー。



要点

  • 足元のデジタル技術および今後のデジタル技術の進化が、ファイナンスプロセスの変革にどのように役立ち、どのような活用が期待されるのでしょうか。
  • RPA等のIntelligent Automation、あるいはProcess Miningといったデジタル技術はすでに実用化の段階にあり、こういった足元のデジタル技術の活用について説明します。
  • さらに5~10年後を見据えたファイナンスプロセスの再構築の準備の必要性について説明します。

Ⅰ はじめに

New Normalと呼ばれる経営環境下で、ファイナンス部門に求められる役割は大きく変化しており、その期待に応えるためには、デジタル技術を活用したファイナンスプロセス、オペレーションの変革が必要です。

本シリーズでは全8回にわたり、Finance DXに関する包括的な論述を行っています。

第2回となる本稿では、ファイナンスプロセスやオペレーションに着目し、変革が求められる背景や課題について触れた上で、足元のデジタル技術および今後のデジタル技術の進化が、ファイナンスプロセスの変革にどのように役立ち、活用することができるのかを考えます。

Ⅱ ファイナンスプロセスの変革が求められる背景

これまでファイナンス部門は、主に効率性・コストとコンプライアンス・ガバナンスに重点を置きながら、日々の会計処理や決算業務・報告業務に取り組んできました。一方で、これからのファイナンス部門には、ビジネス視点・経営視点から、より能動的に事業側への情報発信や助言を行うことが求められます。

しかし、こうした新たな役割に人的リソースを割り当てる、工数を捻出することは、ただでさえ間接部門として継続的なコスト削減を求められているファイナンス部門にとって、非常に困難な要求です。

したがって、ファイナンスプロセスに着眼した際のデジタル技術の使いどころは、ファイナンスオペレーションの徹底的な自動化・効率化、ひいては省力化が最優先課題であるということができます(<図1>参照)。


図1 ファイナンス部門の工数シフト

Ⅲ 足元のデジタル技術の活用

少子高齢化による労働人口の減少、あるいは働き方改革といった要因が、ファイナンスオペレーションに与えるインパクトは従前から懸念されていました。

そうした中、COVID-19による強制的なリモートワークや、電子帳簿保存法の税制改正、インボイス制度の導入といった外的事象が発生することで、これまでにファイナンスオペレーションの変革を準備してきた企業とそうでない企業との差が、より浮き彫りになったということができます。

一方で、RPA等のIntelligent Automation、あるいはProcess Miningといったデジタル技術はすでに実用化の段階に来ていますが、これから活用に取り組んでも決して遅くはありません。本章では、こうした足元のデジタル技術の活用を幾つか取り上げ詳述します。

1. リコンサイル業務の自動化

日々の会計業務において、勘定残高と仕訳明細、あるいは業務データと会計データの突合確認、それらの不整合に対する修正作業に多くの手間と時間を費やしている企業は多いのではないでしょうか。

また、複雑なシステム環境下でシステム間の連携が不十分なため、例えば販売・購買システムと会計システムの金額に差異がある場合、その原因を特定するにも、勘定残高から仕訳明細、さらには受発注データに至るデータトレースを手作業で行わなければならず、両システムに対しても、上手く整合が取れるように修正しなければなりません。このような手作業による突合・確認・修正作業に多大な工数をかける状況が常態化しているケースも多いと考えます。

この状況を根本的に解決する手段は、ERP等の基幹システムの標準化や統合にあるというのは当然ですが、それには巨額の投資と多くの期間が必要です。基幹システムの標準化・統合といった大規模プロジェクトは、本シリーズの次回以降で述べる全ての期待効果を享受して初めてROIを正当化できるものであり、もはや業務の自動化や効率化だけで投資回収できるものではありません。

こうした課題に対しては、自動照合ツールやRPAなど、デジタル技術の活用が有効です。これまで個別担当者の属人的なノウハウとして蓄積されていた、突合確認・差異検出・原因特定・修正という一連の流れを、照合ツールで自動化する、あるいはRPAに学習させることによって、大幅な業務処理の効率化・省力化、ならびに高速化が期待されます。

2. 例外処理への対応

RPA等のIntelligent Automationは、AIを活用したコグニティブ化が進んでいます。従来のRPAを手足に例えると、RPAのみで処理できる標準パターンの割合はそれほど高くなく、人間による判断が必要な例外ケースが多いという問題がありました。しかし、AIという頭脳を搭載することで、現在ではRPAがさまざまな例外ケースを機械学習し、パターン化して自律的に処理することが可能になっています。

また、デジタルツールが取り扱える対象はデジタル化されたデータであり、手書きの請求書といった情報は人間がデータとして入力する必要がありました。これについても、コグニティブ技術や自然言語処理の技術を融合したAI-OCRという、いわば目の機能をRPAに搭載することで対応できるようになっています。

なお、若干話はそれますが、手書き請求書の問題に関連した別のトピックについても言及します。EUでデファクト・スタンダードとなっているPeppolという国際規格に準拠した、電子インボイスの標準化と普及をデジタル庁が推進しています。これは、請求書発行のみならず、前後の処理を含むend-to-endプロセス全体の大幅な効率化の可能性を持っており、注目されています。

3. 業務プロセスの見直し

例外処理を含む現行プロセスをRPA等で自動化・省力化できるとしても、現行プロセスの非効率な部分をそのままRPAで糊塗(こと)し、放置するのではなく、プロセス自体の見直しを行うべきであるのは当然でしょう。また、属人化・ブラックボックス化した例外プロセスも、できる限り標準化・可視化したほうが、ガバナンス的にも望ましいです。

そこで活用が見込まれる足元のデジタル技術は、Process Miningです。これは業務処理から発生するシステム内のイベント・ログを収集し、業務プロセスを可視化する技術です。

これによって、ファイナンスプロセスの中に存在するボトルネック工程を明らかにし、改善活動につなげることができます。また、プロセスの巧拙を図るKPIを定期的にモニタリングすることで、初期改善実施後に遷移した新たなボトルネックに対してアクションを打ちます。これを繰り返すことで継続的な改善が期待できます。

さらに、標準プロセスから逸脱した業務処理をProcess Miningを通じて検知、分析することで、業務の標準化につなげることも可能です。

4. 新たな労働環境への対応

COVID-19によりリモートワークを余儀なくされた際、紙でしか存在しない原始証憑(しょうひょう)にアクセスできないため、経理業務が滞るリスクに直面した、という話をよく聞きます。これまで、ペーパーレス化の推進というと、やや原始的・初歩的な取り組みというイメージがあったかと思いますが、実態としてそれほど進んでいない企業が多かったことの証左であると考えます。

一方で、電子帳簿保存法の税法改正をはじめ、世の中のペーパーレス化への動きは加速しており、すでに実用化段階にある帳票類の電子保存ツールを活用した、紙に依存しない業務プロセスへの転換は待ったなしです。

また、これまで決算の進捗(ちょく)状況について日次のFace to faceの確認会を行っていたものが、リモート環境下では難しくなったという事象も耳にします。これについても、グループ全社の決算工程を可視化し、日々の進捗状況をシステムを通じてモニタリングできるデジタルツールが実用化されており、いわばリモート決算コントロールタワーの設立・運用が可能な状況です。

さらには、決算内容に対する社内外からの問い合わせに対して、自然言語処理、機械学習などの技術を応用したAI Chatbotやデジタルアシスタントを活用することで、応答プロセスの効率化やコミュニケーションの有効性を高めることも可能になりつつあります。

5. レポーティング業務の自動化・効率化

ここまで述べてきた内容は、主に<図1>のScoreKeeper領域の自動化・効率化に関するものでしたが、デジタルはCommentator領域の効率化にも大きく寄与することが期待されます。

社内外から求められる定型・非定型レポートを作成するために、必要なデータを特定・収集し、数値の配賦などのステップを踏んだ上で、レポート形式にまとめるまでの作業に多くの工数を割いていたと思います。こうした作業についてはBIツールの活用により、大幅に自動化することが期待されます。また、セルフサービス型のダッシュボードツールを、レポートの使用者自身が利活用することで、レポート作成・報告業務そのものが不要になるケースもあるでしょう。

こうした足元のデジタル技術の活用を通じて、これまでの処理作業を中心としたファイナンスオペレーションはデジタルが一手に担うことになり、ファイナンス要員は単純なルーティンワークから解放されます。単純作業は一切デジタルに任せ、人間はプロセス企画やモデリングといったオペレーション改善活動を中心に行い、さらには経営課題の解決や意思決定への関与といった、<図1>でPeople Led(人間が中心となり実施すべき業務)と記したより付加価値の高い役割に、その工数をシフトさせていくことになります。

もちろんそのためには、デジタルの活用だけではなく、人材のケイパビリティ再構築やオペレーティング体制の見直しも重要となりますが、その点については次回以降にて詳述します。

Ⅳ 5~10年後を見据えたファイナンスプロセスの再構築

この四半世紀の間に、さまざまなデジタル技術の登場や、BPR、業務改善活動の結果として、ファイナンスプロセスやオペレーションはQCDのいずれの観点からも進化を遂げてきました。

しかし、取引情報を仕訳という形でレコードし、一定期間でそれを集計し、各種の決算処理を行った上で財務諸表に取りまとめ情報開示するという一連の流れは、複式簿記が発明されて以来、何世紀にもわたって実は全く変わっていません。また、ファイナンス人材の育成・配置や、組織体制、オペレーションモデルも、この前提条件の下で長きにわたり構築されてきました。

ところが、AIを中心とした今後5~10年の技術進歩を見据えた際、デジタル技術はこれまでの仕訳ボトムアップ型のファイナンスオペレーションの前提条件を根底から覆す可能性を秘めています。

現在、ほとんどの企業では、月末の財務数値の着地見込みを、制度会計プロセスとは業務的にもシステム的にも分断された形で実施していると思います。また、着地見込みの精度は決して高くないと思われますし、見込み作成にはそれなりの工数とリードタイムを要するため、実施回数もせいぜい月数回程度であると考えます。

しかし、今後AIやPredictive Analysisを中心としたデジタル技術が進化することで、高精度な予測や着地見込みの作成が可能となり、さらにはそのリードタイムも大幅に短縮されることで、デイリーでの算出も可能となることが期待できます。

そうなると、月末の着地見込みが日々更新され、制度会計上の財務数値と徐々に近似し、月末日にはほぼイコールとなります。そして、翌月第1営業日に最低限のリコンサイル作業を行うだけで月次決算が完了します。そうした新たなファイナンスオペレーションの世界観が想像できます(<図2>参照)。

図2 今後のデジタルがもたらすファイナンスプロセスの抜本的な変化

つまり、過去の仕訳レコードを起点とした積上げ型のファイナンスプロセスはデジタルによってほぼ自動化される一方で、将来予測を起点とした見込み型のファイナンスプロセスの実行および精度向上や改善アクションに人間の仕事がシフトします。

もちろん、その実現可否や具体像は現時点で完全に予見できるものではありません。しかし、そのパラダイム・シフトが起こった後にオペレーションの見直しを行っても、特に人材のケイパビリティ要件の変化に対応が追い付かず、後塵(こうじん)を拝することになりかねません。

今後のデジタル技術の進歩がファイナンスプロセスの前提条件を大きく覆す破壊的なインパクトをあらかじめ想定し、新たな前提条件の下でのファイナンスプロセスをゼロベースで検討・構築し、それに適したオペレーションモデル、すなわちセントラル・ファイナンスとローカル・ファイナンスの機能配置や、ファイナンス人材に新しく求められるスキル、ケイパビリティの確保に、今の段階から取り組むことは決して遅くはありません。

V おわりに

ファイナンス部門の役割高度化に向けて、作業に類するルーティンワークを、たとえそれがさまざまな例外ケースを含む複雑なものであっても、徹底的に自動化、省力化することで、新たな役割遂行のための工数を捻出することは喫緊の課題です。

また、働き方改革やペーパーレス、リモートワークといった新たな労働環境や法令面への対応も、確実に進める必要があります。

こうした課題に対しては、足元で適用可能なデジタル技術を活用し、ROIを正当化できる範囲でQuick-Win施策として積極的に促進していくべきです。

一方で、中期的には5~10年後のデジタル技術の進化がもたらす、全く新しいファイナンスプロセスの再構築と、その実行のための新たなオペレーションモデルの構築を今から準備すべきです。もちろん、短期のQuick-Win施策が中期的な準備と矛盾しないことへの留意も必要です。

このような二つの時間軸で複眼的な視座を持った取り組みを推進することが、ファイナンスプロセスおよびオペレーションに着目した際のデジタル技術の活用や投資における最重要な要点となります。

本シリーズの次回以降では、ルーティンワークから解放されたファイナンス組織が、より付加価値の高い役割を遂行するために、デジタル技術をどのように活用すべきかについて論述します。



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サマリー

ニューノーマルの環境下でファイナンス部門に期待される役割が変化しており、デジタルは最重要な変革のエネーブラーとなります。本稿では、足元のデジタルを活用したファイナンスオペレーションの変革と、5~10年先の技術進化を見据えたファイナンスプロセスの将来像について解説します。


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