EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
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メタバース:仮想世界を創造することで、サステナブルな世界を構築できるか
メタバースは、サステナビリティに新たな機会と懸念の双方をもたらしています。地球により良いインパクトを与えるために、企業が果たすべき役割についてご紹介します。
ここまで読んで、いささか気のめいる内容だと感じた方には朗報があります。メタバースは、企業に行動上の課題を突き付けるだけではありません。行動と健康を改善するこれまでにないような機会ももたらしているのです。少しだけ例を挙げてみましょう。
アンコンシャスバイアスをなくす
アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)とは、文字通り本人が認識すらしていない偏見であるため、知らぬ間に深刻化する課題です。一見寛大な人でも抱いている場合があり、人種的アイデンティティ、ジェンダー、年齢、体重などの特性で相手を決めつける、根深い社会的ステレオタイプ化が原因であることが少なくありません。
アンコンシャスバイアスに共通しているのは、通常、その人の外見や声の高さなど知覚的な手がかりに基づくものだという点です。一方、メタバースは、ユーザーがアバターを使うことで自分の外見、ジェンダー、人種、声を変えることができ、今まで不可能であった、こうした知覚的な手がかりをそぎ落とすことができます。そのため、変革を起こす可能性を秘めていると言えるでしょう。
メタバースにより、雇用や採用の際のアンコンシャスバイアスをなくすことができるかもしれません。例えば、面接官に応募者の人種、ジェンダー、年齢を伏せておくことで、無意識の偏見を抱く可能性を排除できると考えられます。企業や教育機関はさらに踏み込んで、これをセンシティビティトレーニング(感受性訓練)に活用すると良いでしょう。自分の分身をメタバース上で生活させることができるメタバースエクスペリエンスは、自分とは別の人種やジェンダーの視点から世界を体験することを可能にし、認識と感受性を高めることができるはずです。
長期的な行動の改善
メタバースは長期的行動の面で人々に寄与することもできると考えられています。この場合のエクスペリエンスとは、誰かの視点からというよりも、将来の自分の視点から世界を体験できるということになるでしょう。
潜在的な機会を評価するに当たっては、私たち人類が直面している最も扱いにくく、かつ多額の費用のかかる課題の一部について考えてみてください。科学者が気候変動について何十年も前から警鐘を鳴らしていたにもかかわらず、私たちは二酸化炭素排出量の十分な抑制を幾度となく怠ってきました。同様に、食生活や運動などの行動を少し変えるだけで、全世界の医療費に占める割合が最も高い慢性疾患を著しく軽減させることができることは、かなり前から知られていました。消費者であれ政治家であれ、債務との不健全な関係が生じる原因は、将来を見据えた行動をとることに対する後ろ向きな姿勢です。今のやり方を変えなければ、今後はこうした課題の一つ一つが、数十兆ドルものコストを全世界に課すことになるでしょう。
問題となるのは人々の意識ではなく、まして変えようという意欲でもありません。行動経済学者は、人間の行動に対する世界共通の偏見に問題があることを突き止めました。つまり、私たちは目に見えない、あるいは実体のない将来の成果や結果を過度に軽視する傾向があるのです。
裏を返せば、直接かつ目に見える成果でやる気が高まるということです。これこそ、メタバースが非常に大きな効果を発揮できる分野です。現在の健康を意識した行動からその人の将来の視点に立つことができるアバターや、気候変動で荒廃した未来の世界で自宅の近所を歩くことができるエクスペリエンスを想像してみてください。私たちの行動が将来もたらす結果を目に見える直接的な形で示すことで、自分自身の長期的な利益のために行動を改善しようという気持ちを引き出せると考えられます。
メンタルヘルス面のメリット
最後に、メタバースはメンタルヘルス関連の重要な課題の一部に対して効果を発揮する大きな可能性を秘めています。心的外傷後ストレス障害(PTSD)を考えてみてください。13人に1人が一生のうちに患う、深刻化することの多い障害です。米国退役軍人省は、仮想現実(VR)を活用したPTSDの治療で成果を上げてきました。安全かつ管理されたシミュレーション環境でトラウマ(心的外傷)を追体験することで、退役軍人はPTSDの症状に向き合ってコントロールできるようになります。多くの人が戦闘と結びつけて考えますが、PTSDは一般の人にもよく見られる障害であり、PTSDになる人は増加傾向にあります。例えば、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより、エッセンシャルワーカーの間でPTSDがひそかに急増してきました。
メタバースは、不安障害から恐怖症まで、増加傾向にあるその他のさまざまな障害の治療にも有益です。イマーシブな環境が、恐怖症の一般的な治療法である曝露療法を次の段階へと押し上げることができると考えられます。また、手足などの切断による障害では、VRが幻肢痛などの問題への対処で効果を発揮してきましたが、これからはメタバースがゲームチェンジャーになる可能性があります。