資本剰余金を原資とした剰余金の配当に係る会計・税務 ~令和4年度税制改正の影響を含む~

2022年8月1日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

利益剰余金を原資とする剰余金の配当に係る会計・税務

剰余金の配当については、利益剰余金を原資とする場合と資本剰余金を原資とする場合の両方があります。このうちの利益剰余金を原資とする剰余金の配当に係る会計・税務は、比較的わかりやすいと思われます。会計上はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)の減少を認識し、税務上は利益積立金額の減少を認識します。

また、税務上、配当を受け取った法人において、完全子法人株式等に係る配当等の額についてはその全額を、関連法人株式等に係る配当等の額についてはその配当等の額に係る利子相当額を控除した金額を、完全子法人株式等、関連法人株式等および非支配目的株式等のいずれにも該当しない株式等に係る配当等の額についてはその50%相当額を、非支配目的株式等に係る配当等の額についてはその20%相当額を、益金不算入とします(法法23条1項)。会計上は、全額を受取配当金として収益計上しますので、益金不算入額については、法人税申告書の別表4において減算(社外流出)の調整を入れることになります。

資本剰余金を原資とする剰余金の配当に係る会計・税務

資本剰余金を原資とする剰余金の配当に係る会計・税務については、一定の整理が必要です。

1. 会計処理

(1) 配当を行った法人の処理

配当を行った法人においては、その他資本剰余金の減少を認識します。

仕訳表1

(注)資本剰余金からの配当については、税務上、みなし配当が発生するケースが生じ得るため、その場合は、みなし配当について源泉徴収した所得税額を預り金に計上します。みなし配当については、税務処理の箇所で説明します。

(2) 配当を受け取った法人の処理

その他資本剰余金の処分による配当を受けた法人においては、配当の対象となる有価証券が売買目的有価証券である場合を除き、原則として配当受領額を配当の対象である有価証券の帳簿価額から減額します(企業会計基準適用指針第3号「その他資本剰余金の処分による配当を受けた株主の会計処理」3項)。

仕訳表2

(注)みなし配当について源泉徴収された所得税額を法人税等(または仮払税金)として処理します。

2. 税務処理

(1) 配当を行った法人の処理

資本剰余金の額の減少を伴う剰余金の配当を行った法人においては、法人税法上、資本の払戻しを行ったものとして取り扱われます(法法24条1項4号)。

第1に、資本金等の額の減少額を計算します。この資本金等の額の減少額を「減資資本金額」といいます。

第2に、払戻額(交付金銭の額)が減資資本金額を超えるときは、その超過額を利益積立金額の減少額とします。この利益積立金額の減少額が「みなし配当」(税務上、配当とみなされる金額)となります。みなし配当が発生するのは、払戻額(交付金銭の額)が減資資本金額を超えるときのみです。

具体的には、次のように計算します(法令8条1項18号、9条1項12号)。

計算式

※ 分数に小数点以下3位未満の端数があるときは、切り上げます。
※ 資本金等の額の減少額(A)の計算結果が払戻しにより減少した資本剰余金の額を上回る場合は、資本金等の額の減少額はその超過額を減算した額とします。
※ 払戻し直前の資本金等の額がゼロ以下である場合には算式中の分数の割合をゼロとします。また、払戻し直前の資本金等の額がゼロを超え、かつ、分母の簿価純資産額がゼロ以下である場合は、算式中の分数の割合を1とします。

なお、株主が複数である場合は、株式数に基づいて株主ごとの額を按分計算します。みなし配当が発生する場合は、みなし配当の額も株主ごとに計算され、所得税の源泉徴収が行われます。支払が確定した日から1カ月以内に、「配当等とみなす金額に関する支払調書(支払通知書)」を所轄税務署長に提出し(所法225条1項2号)、かつ、配当の支払先である株主に対して交付しなければなりません(同条2項2号)。

なお、会計処理と税務処理が異なりますが、申告調整の実務については、拙著『「純資産の部」完全解説 -「増資・減資・自己株式の実務」を中心に-(第4版)』(税務研究会出版局)を参照していただければと思います。

(2) 配当を受け取った法人の処理

資本剰余金の額の減少を伴う剰余金の配当を受け取った法人においては、資本金等の額の減少に対応する部分について、出資の返還と考え、株式の譲渡対価として取り扱われます。譲渡原価は、当該株主が保有している配当を行った法人の株式の帳簿価額に対して、先の減資資本金額の計算に用いた分数の割合(払戻割合といいます)を乗じて計算します。この払戻割合も、配当を行った法人から配当を受け取った各株主に対する通知事項として規定されています(法令119条の9第2項)。

また、みなし配当が生じた場合は、受取配当金として取り扱われますが、受取配当等の益金不算入規定が適用されます(法法23条1項)。

株主サイドにおいては、配当を行った法人から交付を受けた支払通知書に基づいて、次のように各金額をとらえることができます。

各金額のとらえ方

令和4年度税制改正による影響

令和4年度税制改正前は、資本の払戻しに係るみなし配当の額の計算基礎となる減資資本金額は、払戻額(交付金銭の額)を限度とするとされていましたが、改正後はその資本の払戻しにより減少した資本剰余金の額を限度とするものと改められました(改正後の法令8条1項18号)。令和4年4月1日以後に行われる配当について適用されます(令和4年改正法令附則3条)。

資本剰余金と利益剰余金の両方を原資として剰余金の配当をした場合(混合配当といいます)、全体を一括して、先に説明した計算方法で計算すべきものと解されています。減少した資本剰余金の額が前期末の簿価純資産額を超えるときは、改正前の規定で計算すると、利益剰余金を原資とした部分の一部が資本の払戻しとして取り扱われる結果となります。令和3年3月11日付の最高裁判決で、当該内容は政令に委任した範囲を超えるものであり違法である旨が指摘されましたが、その点を改める改正です。

この改正が影響するのは、資本剰余金と利益剰余金の両方を原資として剰余金の配当をした場合で、かつ、減少した資本剰余金の額が前期末の簿価純資産額を超えるときですので、利益剰余金がマイナスであるときの混合配当ということになります。日本の会社法を想定すると、通常このような配当が行われることはありません。レアケースかと思われますので、企業の実務への影響はほとんどないと思われます。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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