公認会計士 内川 裕介
公認会計士 高野 昭二
1.事業譲渡により親会社が子会社に事業を移転(対価が現金等の財産のみの場合)
【設例】
- A社はB社発行済株式総数の80%保有している。
- A社はa事業をB社に移転する。対価としてA社は現金100を受け取る。
- B社はA社が新規設立した会社である。
- B社は設立後に当期純利益を計上していないものとする。
- 移転期日前日の貸借対照表及びa事業の簿価は以下のとおりである。
(1)分離元企業A社の仕訳
- 子会社B社から受け取った現金等の財産の移転前に付された適正な帳簿価額と、移転事業に係る株主資本相当額との差額は、原則として移転損益として計上します。
(2)分離先企業B社の仕訳
- 子会社B社が親会社A社から受け入れるa事業に係る諸資産は、移転直前の適正な帳簿価額により計上します。
- a事業に係る株主資本相当額と、交付した現金等の財産の適正な帳簿価額との差額は、のれんとして処理します。
(3)移転後のA社及びB社の貸借対照表
- 移転後のA社及びB社の貸借対照表は次のようになります。
(4)連結財務諸表における仕訳
- 投資と資本の相殺消去
- 移転損益とのれんの相殺消去
個別財務諸表上で計上された移転損益は、連結会計基準における未実現損益の消去に準じて処理します。すなわち、連結財務諸表において相殺消去されます。
B社で計上されたのれんは連結グループ内の取引となるため移転損益と相殺消去します。
(5)事業譲渡前後の連結貸借対照表
- 事業譲渡前後の連結貸借対照表は次のようになります。連結グループ外の非支配株主との取引は発生しないため、事業譲渡前後で連結財務諸表に影響のある項目はありません。
2.会社分割により親会社が子会社に事業を移転(対価が子会社株式のみの場合)
【設例】
- A社はB社発行済株式総数の80%保有している。
- 吸収分割により、A社はa事業を、B社に移転する。
- 移転の対価としてB社株式70(時価相当額)を受け取る。その結果、A社はB社発行済株式総数の90%を保有する。
- B社はA社が新規設立した会社である。
- B社は設立後に当期純利益を計上していないものとする。
- 分割期日前日の貸借対照表及びa事業の簿価は以下のとおりである。
(1)分離元企業A社の仕訳
- 共通支配下の取引として、移転した事業に係る株主資本相当額に基づき、取得するB社の株式の取得原価を算定します。なお、移転損益は発生しません。
(2)分離先企業B社の仕訳
- A社からa事業を受け入れます。B社がA社から受け入れるa事業に係る諸資産は、分割期日前日に付された適正な帳簿価額により計上します。
※a事業に係る株主資本相当額は払込資本(資本金又は資本剰余金)として処理します。ここでは資本金とします。
(3)吸収分割後のA社及びB社の貸借対照表
(4)連結財務諸表における仕訳
- 投資と資本の相殺(80%)
- 追加取得相当に係る投資と資本の相殺(10%)
- 持分変動による差額の計上
B社に係るA社の持分増加額80(※1)と、移転したa事業に係るA社持分減少額5(※2)との差額75は資本剰余金として計上します。なお、連結会計基準の改正により追加取得持分の取得原価と減少する非支配株主持分との差額は資本剰余金として処理することとされた点、留意が必要です。
※1 B社に係るA社持分増加額80=(500+300)×10%
※2 移転したa事業に係るA社持分減少額5=50×10%
図示すれば以下のとおりです。
(5)吸収分割前後の連結貸借対照表
- 吸収分割前後の連結貸借対照表は次のようになります。吸収分割では、連結グループ外の非支配株主との取引があり、A社のB社に対する持分比率が増加するため、資本剰余金及び非支配株主持分が吸収分割前後で増減しています。
この記事に関連するテーマ別一覧
わかりやすい解説シリーズ「企業結合」(平成25年改正会計基準)
- 第1回:共通支配下の取引等の会計処理(吸収合併) (2015.05.07)
- 第2回:共通支配下の取引等の会計処理(事業譲渡及び会社分割) (2015.06.11)
- 第3回:共通支配下の取引等の会計処理(株式交換) (2015.06.18)
- 第4回:共通支配下の取引等の会計処理(株式移転) (2015.07.22)
- 第5回:共通支配下の取引等の会計処理(子会社同士の吸収合併) (2015.08.07)