EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 滝鼻 怜奈
はじめに
監査上の主要な検討事項(以下、KAM(Key Audit Matters)という)が2021年3月31日以降に終了する連結会計年度および事業年度に係る監査報告書から原則適用されました。監査報告書にKAMが記載されるようになり開示情報が充実しましたが、初めてKAMの開示に関わる方には、わかりにくい点もあるのではないでしょうか。
そのため本稿では、初めてKAMに関わる方向けに、わかりやすくKAMの概要、事例及び読み方等を2回に渡り解説していきます。
なお、文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。
KAMの概要
KAMとは、監査上の主要な検討事項のことで、当年度の財務諸表の監査において、監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項のことです。監査上の主要な検討事項は、監査人が監査役もしくは監査役会、監査等委員会又は監査委員会(以下、監査役等という)とコミュニケーションを行った事項から選択され、監査報告書において報告されます(監査基準報告書701(以下、監基報701という)第7項)。
KAMは主として財務諸表及び監査報告について広範な利用者が存在する金商法に基づいて開示を行っている企業(非上場企業のうち資本金5億円未満又は売上高10億円未満かつ負債総額200億円未満の企業は除く)の財務諸表の監査報告書に記載が求められています(監査基準報告書 700 実務ガイダンス第1号 監査報告書に係るQ&A Q2-1)。
監査報告書におけるKAMの記載イメージは以下のとおりです。
KAM決定のプロセス
KAMに記載する内容は、監査人が独自に決定するのではなく、監査役等とコミュニケーションを行った事項の中から決定します。また、KAMは監査報告書の記載事項ではあるものの、監査の最終段階において決定することが想定されているわけではありません。KAMに関するコミュニケーションの適切な時期は状況により様々ですが、できる限り監査の早い段階から経営者及び監査役等に監査人の見解を伝達することが望ましいと考えられます。そのため、監査計画時から監査報告書の作成まで、監査役等と監査人が十分なコミュニケーションを重ねていく必要があります。
KAM決定プロセスのイメージ図は以下をご参照下さい.。
KAMの報告目的及び期待される効果
KAMの報告目的及び期待される効果は以下のとおりです。
KAM導入前の標準文言を中心とした監査報告書では、個々の会社においてどのような監査が実施されたのかに関する情報の記載がなく、監査がブラックボックス化しているとも言われていましたが、KAMが各監査法人の監査品質を評価する新たな検討材料となりました。
また、KAMが記載されることで、監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項(監基報701第9項)がわかることから、企業の持つリスクや特に重要な取引を理解することができます。KAMに会計上の見積りが記載された場合、経営者の重要な判断が含まれる領域を理解することに役立ちます。
KAMの決定には双方向のコミュニケーションが求められているため、監査人と監査役等、監査人と経営者との間の対話が促進されます。その結果、議論が深まり、リスクに関する認識の共有が促進されることで、会社のリスクマネジメントの強化、ひいてはコーポレート・ガバナンスの強化につながります。
なお、KAMを記載することで、監査報告書に対する財務諸表利用者の注目度が高まることが想定されます。その場合、株主をはじめとする財務諸表利用者との対話に備え、監査役等や経理部門だけでなく経営者やIR部門も、KAMに対する一定の理解が必要となります。
KAMに関する気になるポイント
おわりに
監査上の主要な検討事項(KAM)第1回では、KAMの概要や報告目的等を説明しました。第2回では、KAMの事例を紹介しながら、KAMの読み方をご説明します。