監査上の主要な検討事項(KAM) 第1回:概要

2024年10月21日
カテゴリー 解説シリーズ

EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 滝鼻 怜奈

はじめに

監査上の主要な検討事項(以下、KAM(Key Audit Matters)という)が2021年3月31日以降に終了する連結会計年度および事業年度に係る監査報告書から原則適用されました。監査報告書にKAMが記載されるようになり開示情報が充実しましたが、初めてKAMの開示に関わる方には、わかりにくい点もあるのではないでしょうか。
そのため本稿では、初めてKAMに関わる方向けに、わかりやすくKAMの概要、事例及び読み方等を2回に渡り解説していきます。
なお、文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。

KAMの概要

KAMとは、監査上の主要な検討事項のことで、当年度の財務諸表の監査において、監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項のことです。監査上の主要な検討事項は、監査人が監査役もしくは監査役会、監査等委員会又は監査委員会(以下、監査役等という)とコミュニケーションを行った事項から選択され、監査報告書において報告されます(監査基準報告書701(以下、監基報701という)第7項)。

KAMは主として財務諸表及び監査報告について広範な利用者が存在する金商法に基づいて開示を行っている企業(非上場企業のうち資本金5億円未満又は売上高10億円未満かつ負債総額200億円未満の企業は除く)の財務諸表の監査報告書に記載が求められています(監査基準報告書 700 実務ガイダンス第1号 監査報告書に係るQ&A Q2-1)。

監査報告書におけるKAMの記載イメージは以下のとおりです。

監査報告書におけるKAMの記載イメージ

KAM決定のプロセス

KAMに記載する内容は、監査人が独自に決定するのではなく、監査役等とコミュニケーションを行った事項の中から決定します。また、KAMは監査報告書の記載事項ではあるものの、監査の最終段階において決定することが想定されているわけではありません。KAMに関するコミュニケーションの適切な時期は状況により様々ですが、できる限り監査の早い段階から経営者及び監査役等に監査人の見解を伝達することが望ましいと考えられます。そのため、監査計画時から監査報告書の作成まで、監査役等と監査人が十分なコミュニケーションを重ねていく必要があります。

KAM決定プロセスのイメージ図は以下をご参照下さい.。

図 KAM決定プロセス

KAMの報告目的及び期待される効果

KAMの報告目的及び期待される効果は以下のとおりです。

※ 表は「監査基準報告書 700 実務ガイダンス第1号 監査報告書に係るQ&A」を参考に筆者が作成。

KAM導入前の標準文言を中心とした監査報告書では、個々の会社においてどのような監査が実施されたのかに関する情報の記載がなく、監査がブラックボックス化しているとも言われていましたが、KAMが各監査法人の監査品質を評価する新たな検討材料となりました。

また、KAMが記載されることで、監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項(監基報701第9項)がわかることから、企業の持つリスクや特に重要な取引を理解することができます。KAMに会計上の見積りが記載された場合、経営者の重要な判断が含まれる領域を理解することに役立ちます。

KAMの決定には双方向のコミュニケーションが求められているため、監査人と監査役等、監査人と経営者との間の対話が促進されます。その結果、議論が深まり、リスクに関する認識の共有が促進されることで、会社のリスクマネジメントの強化、ひいてはコーポレート・ガバナンスの強化につながります。

なお、KAMを記載することで、監査報告書に対する財務諸表利用者の注目度が高まることが想定されます。その場合、株主をはじめとする財務諸表利用者との対話に備え、監査役等や経理部門だけでなく経営者やIR部門も、KAMに対する一定の理解が必要となります。

KAMに関する気になるポイント

  • Q1. KAMの個数が多いということは、会社に問題があるということですか?

    A1. いいえ。

    KAMは監査人が財務諸表の監査において特に重要であると判断した事項であり、KAMの個数=会社の問題の数という意味ではありません。KAMの決定は、その数を含め、監査人の職業的専門家としての判断であるため(監基報701A30)、開示すべきKAMの個数について決まりはありません。

  • Q2. 監査上の主要な検討事項がないと監査人が判断することがあるのでしょうか?

    A2. 上場企業の監査において、監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項の中に、監査報告書において報告すべき監査上の主要な検討事項がないと判断することはまれであり、少なくとも一つは存在していると考えられています。しかしながら、例えば、企業の実質的な事業活動が極めて限定される状況においては、監査人が特に注意を払った事項がないため、監査上の主要な検討事項がないと監査人が判断することがあると考えられています(監基報701A59)。

  • Q3. 会社が公表していない情報をKAMに記載することはありますか?

    A3. あります。

    KAMは企業に関する未公表情報の提供を意図するものではありませんが、監査人が未公表情報を記載することが必要であると考えることもあります(監基報701A36)。

    その場合、未公表情報の提供を決定する前に、監査人は経営者に追加の情報開示を促すとともに、必要に応じて監査役等と協議を行うことが適切です。この際、企業に関する情報の開示に責任を有する経営者には、監査人からの要請に積極的に対応することが期待されます。また、経営者の職務の執行を監視する責任を有する監査役等には、経営者に追加の開示を促す役割を果たすことが期待されます(監基報701A36)。

  • Q4. 株主総会で監査上の主要な検討事項に関する質問が出ることが想定されますが、事前にどのような対応及び準備が必要ですか?

    A4. 想定される質問の内容について事前に、監査人が回答すべき事項と会社側が回答すべき事項の区分について十分に協議しておくことが適切です。また、株主総会で監査人が意見陳述を行うには、会社法の規定を踏まえる必要があるため、円滑な総会運営のためには必要な手続や段取りについて確認しておくことが重要となります(監査基準報告書 700 実務ガイダンス第1号 監査報告書に係るQ&A Q2-19)。

おわりに

監査上の主要な検討事項(KAM)第1回では、KAMの概要や報告目的等を説明しました。第2回では、KAMの事例を紹介しながら、KAMの読み方をご説明します。

この記事に関連するテーマ別一覧

表示と開示

監査上の主要な検討事項(KAM)

企業会計ナビ

会計・監査や経営にまつわる最新情報、解説記事などを発信しています。

詳細ページへ

EY Japan Assurance Hub

EY Japan Assurance Hub

時代とともに進化する財務・経理に携わり、財務情報のみならず、非財務情報も統合し、企業の持続的成長のかじ取りに貢献するバリュークリエーターの皆さまにお届けする情報ページ 

詳細ページへ