2020年3月期 有報開示事例分析 第2回:非財務情報(MD&A(見積り項目))

2021年5月26日
カテゴリー 解説シリーズ

EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 兵藤 伸考

Question

2020年3月期決算に係る有報の「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」の項目において、会計上の見積り及び見積りに用いた仮定の記載内容の開示の状況を知りたい。

Answer

【調査範囲】

  • 調査日:2020年8月
  • 調査対象期間:2020年3月31日
  • 調査対象書類:有価証券報告書
  • 調査対象会社:2020年4月1日現在のJPX400に採用されている会社のうち、以下の条件に該当する196社

① 3月31日決算
② 2020年6月30日までに有価証券報告書を提出している
③ 日本基準を採用している

【調査結果】

「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」の項目において、会計上の見積り及び見積りに用いた仮定のうち、重要なものについて、不確実性の内容やその変動により経営成績等に生じる影響等、会計方針を補足する情報を記載する必要がある(開示府令第三号様式(記載上の注意)(12)、同第二号様式(記載上の注意)(32)g)。

ただし、記載すべき事項の全部又は一部を「第5 経理の状況」の注記において記載した場合には、その旨を記載し、当該注記を省略することができる規定となっている。

調査対象会社(196社)について会計上の見積り及び見積りに用いた仮定の記載方法を分析した結果は<図表1>のとおりである。

「第5 経理の状況」の会計方針に関する事項等の注記を参照して、重要な会計方針及び見積りの詳細について記載すべきすべき事項の全部を省略している事例が35社であった。

また、重要な会計方針の詳細や、退職給付会計等の特定の見積り項目について一部の記載を省略する等「第5 経理の状況」の注記に記載した事項の一部の記載を省略する事例が120社あった。

<図表1> 会計上の見積り及び見積りに用いた仮定の記載方法分析

記載方法 会社数(社) 比率
全部を記載 37 18.9%
参照して全部省略 35 17.9%
参照して一部省略 120 61.2%
その他 4 2.0%
合計 196 100.0%

調査対象会社(196社)について、具体的に記載されている会計上の見積り項目の記載内容を分析した結果が<図表2>のとおりである。

多くの会社では、繰延税金資産、固定資産の減損(のれん、無形資産含む)及び退職給付引当金(退縮給付費用)を記載していた。10社未満の見積り項目においては、工事損失引当金や製品保証引当金等があり、金融業においては金融商品、支払備金及び責任準備金等が見られた。

<図表2> 見積り項目の記載内容分析

見積り項目 会社数(社)
繰延税金資産 110
固定資産の減損(のれん、無形資産含む) 103
退職給付引当金(退職給付費用) 73
貸倒引当金 46
有価証券の評価 41
棚卸資産(販売用不動産等含む) 37
工事進行基準 20

(注)10社未満の見積り項目は省略している。

(旬刊経理情報(中央経済社)2020年10月10日号 No.1591「2020年3月期 「有報」分析」を一部修正)