2020年3月期 有報開示事例分析 第7回:新型コロナウイルス感染症に関する追加情報(会計上の見積り項目)

EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 中澤 範之

Question

2020年3月決算会社における「追加情報に記載された会計上の見積り」における新型コロナウイルス感染症(以下「本感染症」という。)の影響の開示状況は?

Answer

【調査範囲】

  • 調査日:2020年8月

  • 調査対象期間:2020年3月31日

  • 調査対象書類:有価証券報告書

  • 調査対象会社:2020年4月1日現在のJPX400に採用されている会社のうち、以下の条件に該当する196社

① 3月31日決算
② 2020年6月30日までに有価証券報告書を提出している
③ 日本基準を採用している

【調査結果】

(1)追加情報の開示状況

調査対象会社196社のうち、連結財務諸表に本感染症の追加情報を注記した138社について、会社数の業種別割合を<図表1>にて記載した。

商業施設の閉鎖、人の移動制限、工場稼働停止等の影響によって、不動産業、運輸(鉄道)業、石油製品等の資源業は、90%以上の会社が追加情報を注記していた。これに対して、保険、証券、銀行等の金融業、電気・ガス業は、50%以下の開示割合である。

<図表1> 経営環境についての説明における本感染症の記載内容

業種別割合(※)

対象となる東証の業種

分析対象
JPX400

追加情報を注記した会社

100%

パルプ・紙、繊維製品、水産・農林業、金属製品、石油・石炭製品、非鉄金属、不動産業、空運業

23

23

90%以上

陸運業

16

15

70%以上

サービス業、輸送用機器、その他金融業、建設業、化学、ガラス・土石製品、機械

70

55

60%以上

その他製品、精密機器、電気機器、食料品、情報・通信業、小売業

48

30

50%以上

医薬品、保険業、証券、商品先物取引業

10

5

30%以上

卸売業、銀行業、電気・ガス業

22

9

10%以上

電気・ガス業

7

1

合計

196

138

(※)各業種の追加情報を注記した会社数/各業種のJPX400の会社数
 

(2)会計上の見積り

連結財務諸表に本感染症の追加情報を注記した138社について、具体的な名称が記載された会計上の見積りを集計した(<図表2>参照)。その結果、会計上の見積りは主に6つ開示されており、特に記載が多い会計上の見積りは、「固定資産の減損」及び「繰延税金資産の回収可能性」であった。当該見積りは、業種を問わず広く記載されていた。これに対して、「工事収益、原価」は10件が建設業、「債権の評価」は7件が金融業による記載である。

なお、具体的な会計上の見積りを注記していない21社のうち、6社は会計上の見積りに大きな影響を与えない旨を注記している。

<図表2> 追加情報に記載された会計上の見積り

項目(※1)

会社数

固定資産の減損(※2)

85

繰延税金資産の回収可能性

75

工事収益、原価(※3)

11

棚卸資産の評価

10

債権の評価(※4)

9

出資の評価

2

会計上の見積りの記載なし

21

合計

213

(※1)複数の項目を記載している場合には、それぞれ1社としてカウントしている。

(※2)のれんの減損を含む。

(※3)工事完成基準、工事進行基準を含む。

(※4)貸倒引当金を含む。
 

(旬刊経理情報(中央経済社)2020年9月20日号 No.1589「2020年3月期有報におけるコロナ禍関連の開示分析」を一部修正)


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