連結(平成25年改正) 第3回:段階取得

2016年4月12日
カテゴリー 解説シリーズ

公認会計士 中村 崇

連結子会社が増加するケースのうち、新規に子会社を設立した場合や、連結グループ外にある会社の株式を一時に取得することにより連結子会社とした場合など、連結決算における投資と資本の消去の基礎については、わかりやすい解説シリーズ「連結」の第2回で解説しました。

当解説シリーズの第3回以降では、段階取得や子会社株式の追加取得、一部売却等の会計処理等について解説していきます。

ここで、平成25年9月13日に企業結合に関する会計基準や連結財務諸表に関する会計基準などの関連する各会計基準が改正され(以下、平成25年改正という)、支配獲得後の持分変動に関する会計処理方法などが変更されるとともに、従前の「少数株主持分」が「非支配株主持分」となるなど、用語の改正も行われています。

平成25年改正
平成25年改正
子会社の資本のうち親会社に帰属しない部分は「少数株主持分」
子会社の資本のうち親会社に帰属しない部分は「非支配株主持分」

これらの会計基準は原則として平成27年4月1日以後開始する連結会計年度の期首から適用することとされています。当解説シリーズにおいては、改正前と改正後の会計処理を併記して解説していきます。

第3回では対象会社の株式の取得が複数の取引により行われ、支配を獲得し、連結子会社とした場合(段階取得)の会計処理について解説します。

設例1: 10%→60%(連結子会社)
設例2: 30%(持分法適用関連会社)→60%(連結子会社)

(1) 段階取得の会計処理

親会社の子会社に対する投資の金額は支配を獲得するに至った個々の取引ごとの原価の合計額に基づいて算定するのではなく、支配獲得日の時価によります(企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」(以下、連結会計基準という。)第23項(1))
これは、企業が他の企業を支配するという事実は、当該企業の株式を単に追加取得することとは大きく異なり、被取得企業の取得原価は過去から所有している原価の合計額ではなく、当該企業取得のために必要な額とすべきであるという見方によるものです。つまり、支配を獲得したことにより過去に所有していた投資の実態又は本質が変わったものとみなし、その時点で投資が一旦清算され、改めて投資を行ったと考え、支配獲得時点の時価を新たな投資原価とすべきとする考え方です。
したがって、子会社の支配の獲得が複数の取引により達成された場合(段階取得)には、支配獲得までの取得原価と支配獲得日の時価との差額を、当期の段階取得に係る損益として処理します(企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」(以下、企業結合基準という)第25項(2))。
連結財務諸表上、段階取得に係る損益は、原則として特別損益に計上します(企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」(以下、企業結合適用指針という)第305-2項)。

(2) 関連会社及び非連結子会社の段階取得に係る損益

連結財務諸表上、段階取得に係る損益を認識する理由は、(1)に記載のとおり、企業が他の企業の支配を獲得することで過去の投資の実態又は本質が変わったものとみなすためですので、新たに支配を獲得し、子会社になる場合に認識します。
したがって、既に保有している株式を買い増して関連会社とし、持分法を適用することとなった場合には、段階取得に係る損益は認識されません。
一方、株式を買い増して非連結子会社とし、持分法適用非連結子会社とすることとなった場合には、連結子会社ではなくとも支配を獲得していますので、段階取得に係る損益を認識することになります。
なお、持分法適用関連会社の株式の追加取得により、連結子会社となった場合には、支配獲得時の時価と持分法による評価額との差額が段階取得に係る損益として計上されます。

(3) 設例

設例1 当初持分比率10%→60%(連結子会社)のケース

① 前提条件

(ア) P社がS社の株式を段階取得
(取得状況)

取得日
持分比率
(%)
株式数
(株)
取得原価
(千円)
取得時点の時価
(千円/株)
X1年3月31日
10%
1,000
30,000 30
X2年3月31日
50%
5,000
200,000 40
合計 60% 6,000 230,000  

発行済み株式数:10,000株

  • 設例において評価差額の税効果については考慮しない。
  • 個別財務諸表上の仕訳については省略する。

(イ) X2年3月31日のP社及びS社の貸借対照表

X2年3月31日のP社及びS社の貸借対照表

支配獲得時(X2年3月31日)の土地の時価評価額は240,000千円

② 連結仕訳(単位:千円)

(ア) 土地に係る評価差額の計上

土地に係る評価差額の計上

計算式:土地の時価-土地の帳簿価額=240,000-160,000=80,000

(イ) 修正後のS社貸借対照表

修正後のS社貸借対照表

(ウ) 投資額を支配獲得日の時価に修正

投資額を支配獲得日の時価に修正

計算式: S社投資額の時価-S社投資額の帳簿価額
=@40千円(支配獲得日の時価単価)×6千株(保有株式数)-230,000(支配を獲得するに至った個々の取引ごとの原価の合計額)=10,000

このように支配獲得までの取得原価と、支配獲得日の時価との差額は、「段階取得に係る差益」として原則として特別利益に計上されます。

(エ) 投資と資本の相殺消去

<平成25年改正の会計処理>

平成25年改正後の会計処理

*1(資本金100,000+利益剰余金60,000+評価差額80,000)×非支配株主持分比率40%=96,000

*2 S社投資額240,000-(資本金100,000+利益剰余金60,000+評価差額80,000×P社持分比率60%=96,000

<平成25年改正の会計処理>

平成25年改正前の会計処理

設例2 持分法適用関連会社(持分比率30%)→60%(連結子会社)のケース

① 前提条件

(ア) P社がS社の株式を段階的に取得
(取得状況)

取得日
持分比率
(%)
株式数
(株)
取得原価
(千円)
取得時点の時価
(千円/株)
X1年3月31日
30%
3,000
90,000 30
X2年3月31日
30%
3,000
120,000 40
  60% 6,000 210,000  

発行済み株式数:10,000株

  • 設例において評価差額の税効果については考慮しない。
  • 個別財務諸表上の仕訳については省略する。

(イ) X1年3月31日のP社及びS社の貸借対照表

X1年3月31日のP社及びS社の貸借対照表

X1年3月31日の土地の時価評価額は200,000千円

  • S社株式取得に伴うのれん相当額は以下のとおりであり、×2年度から10年で均等償却を行うものとする。
  • S社株式90,000-((資本金100,000+利益剰余金40,000)×P社持分比率30%+土地時価簿価差額40,000×P社持分比率30%)=36,000千円

(ウ) X2年3月31日のP社及びS社の貸借対照表

X2年3月31日のP社及びS社の貸借対照表

支配獲得時(×2年3月31日)の土地の時価評価額は240,000千円

② 連結仕訳(単位:千円)

(a) X1年3月期の連結仕訳

  • X1年3月31日の株式取得時点(持分法適用開始時点)
X1年3月31日の株式取得時点(持分法適用開始時点)

(b) X2年3月期の連結仕訳(持分法適用関連会社→連結子会社となった期)

(ア) 土地評価差額計上(X2年3月末の評価差額の処理)

土地評価差額計上(X2年3月末の評価差額の処理)

計算式: 土地の時価-土地の帳簿価額=240,000-160,000=80,000

(イ) 修正後のS社貸借対照表

修正後のS社貸借対照表

(ウ) X2年3月期の当期純利益計上
X2年3月期末までは持分法適用関連会社であったため、持分法仕訳を計上

X2年3月期の当期純利益計上

※ 当期純利益×P社持分比率30%=20,000×30%=6,000

(エ) のれん相当額の償却(X2年3月期)
X2年3月期末までは持分法適用関連会社であったため、持分法仕訳を計上

のれん相当額の償却(X2年3月期)

※ のれん相当額36,000千円×1/10=3,600千円

(オ) 投資額を支配獲得日の時価に修正

投資額を支配獲得日の時価に修正

計算式: S社投資額の時価-S社投資額の持分法評価額
=@40千円(支配獲得日の時価単価)×6千株(保有株式数)-(210,000+6,000-3,600)(支配獲得までの取得原価+持分法仕訳の累計)=27,600

持分法適用関連会社から連結子会社となった場合においても、支配獲得までの取得原価と持分法仕訳の累計を合計した額と、支配獲得日の時価との差額を「段階取得に係る差益」として原則として特別利益に計上します。

(カ) 投資と資本の相殺消去

<平成25年改正の会計処理>

平成25年改正後の会計処理

*1(資本金100,000+利益剰余金60,000+評価差額80,000)×非支配株主持分比率40%=96,000

*2 S社株式240,000(S社投資額の時価)-(資本金100,000+利益剰余金60,000+評価差額80,000)×P社持分比率60%=96,000

<平成25年改正の会計処理>

平成25年改正前の会計処理

設例1ではX1年度に10%、X2年度に50%を取得した結果、60%の持分比率となっており、設例2ではX1年度に30%、X2年度に30%を取得した結果、60%の持分比率となっています。
株式取得の経過は異なっていますが、支配獲得のタイミングが同一であり、支配獲得時に親会社の子会社投資額が時価に置き換えられた結果、S社株式は240,000、のれんの金額は96,000とそれぞれ同額になりました。
支配獲得により投資実態が変わるため、その時点で投資が一旦清算され、改めて投資を行ったと考え、支配獲得時点の時価を新たな投資原価とする考え方が、これらの設例から見て取れます。

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