会社法(平成26年改正) 第5回:会計監査人監査の対象会社

2016年6月3日
カテゴリー 解説シリーズ

公認会計士 内川 裕介
公認会計士 武澤 玲子

1. 会計監査人監査が義務付けられる会社

会社法において、会計監査人監査が義務付けられるのは以下(1)~(3)の会社です。

会社の種類

(1) 大会社(会328条 第1項・第2項)
(2) 監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社(会327条第5項)
(3) 会計監査人の任意設置を行った会社(会326条第2項)

2. 大会社の取扱い

大会社については、会計監査人による監査が義務付けられています(会328条)。大会社とは、最終事業年度に係る貸借対照表の資本金が5億円以上、または、最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部の合計額が200億円以上である株式会社をいいます(会2条第6項)。
この「最終事業年度に係る貸借対照表」とは、定時株主総会で承認又は報告された貸借対照表(最初の定時株主総会を経ていない場合には、会社成立日の貸借対照表)を指します。

例えば、2015年3月期において負債合計が200億円未満の会社が、2016年3月期の貸借対照表において負債合計が200億円以上となった場合(資本金は従来より5億円未満と仮定)、その貸借対照表が承認、報告される2016年6月の定時株主総会で、2017年3月期より大会社の要件に該当することが確定し、会計監査人選任等の対応をとることが必要になります。この場合、2017年3月期から会計監査を受ける必要があります。

反対に、2015年3月期において負債合計が200億円以上により大会社であった会社が、2016年3月期の貸借対照表において負債合計が200億円未満となった場合、2016年6月の定時株主総会において貸借対照表が承認、報告されることで、2017年3月期より大会社に該当しなくなり、会計監査人が不要となります。この場合、2016年3月期まで会計監査を受ける必要があります。

大会社の取扱い

※ただし、定款において会計監査人を置く旨を定めている場合は、会計監査人を任意に設置する会社として、会計監査人監査が必要となります。

3. 監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社の取扱い

監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社は、会計監査人による監査が義務付けられています(会第327条第5項)。会計監査人による監査の取扱いは、2. 大会社の取扱いと同様になります。

4. 会計監査人の任意設置

会社法においては、会社の規模等に応じて柔軟な機関設計が可能になっています。株式会社では、株主総会と取締役は必ず設置しなければなりませんが(会326条第1項)、それ以外の機関については、会社法上の要件(会327条等)に従って設置することができます。具体的には、定款に定めることによって、取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人、監査等委員会又は指名委員会等を置くことができます(会326条第2項)。
つまり、どのような規模の会社であっても会計監査人を機関として定款に記載することで任意に設置でき、会計監査人監査を受けることができます。会計監査人を設置すること自体は任意ですが、いったん設置した場合には、会計監査人監査が法定監査として義務付けられることとなります。

5. 会計監査人の選解任

会計監査人は株主総会の普通決議により選任、解任されます(会329条第1項、会339条第1項)。また、定時株主総会において別段の決議がされなかったときは、会計監査人は再任されたものとみなされます(会338条第2項)。
この株主総会における会計監査人の選任等に関する議案の内容については、監査役(監査役会)が決定します(会344条第1項)。もっとも、会計監査人の報酬額等の決定権は取締役にありますが、監査役(監査役会)の同意を得なければなりません(会399条第1項)。そして、監査役は事業報告に同意した理由を記載する必要があります(施規126条2号)。

【平成26年改正】
改正前は、会計監査人の選任等に関する議案の内容は、取締役が決定するものとされていました。しかし、取締役が会計監査人の選任等の決定権を有すると、会計監査人の立場が弱くなるという懸念から、監査役がその決定権を有することとされました。
ただし、報酬額については経営判断の範疇にあるものとし、引き続き取締役が決定権を有するものとされています。

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