EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 前田 和哉
<企業会計基準委員会が2024年3月22日に公表>
企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という。)において検討が行われ、2024年3月22日に、企業会計基準第33号「中間財務諸表に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第32号「中間財務諸表に関する会計基準の適用指針」(以下「中間会計基準等」という。)が公表されました。
1. 中間会計基準等の公表の背景
2023年11月20日に成立した「金融商品取引法等の一部を改正する法律」(以下「改正金商法」という。)をうけ、上場企業について、四半期開示義務(第1・第3四半期)が廃止され、改正金商法第24条の5第1項によって、従前の第2四半期報告書が半期報告書(以下「新半期報告書」という。)として提出することとされました。新半期報告書では、中間連結財務諸表又は中間個別財務諸表(以下「中間財務諸表」という。)の開示が求められるため、当該中間財務諸表に係る会計処理及び開示に関する取扱いについて、ASBJにおいて検討が行われました。
2. 公表された会計基準等
- 企業会計基準第33号「中間財務諸表に関する会計基準」(以下「中間会計基準」という。)
- 企業会計基準適用指針第32号「中間財務諸表に関する会計基準の適用指針」(以下「中間適用指針」という。)
3. 中間会計基準の概要
(1)適用対象会社
以下の会社が半期報告制度に基づき作成する中間財務諸表に適用されます。
① 上場会社等で新半期報告書を作成する会社(改正金商法第24条の5第1項の表の第1号に掲げる上場会社等)
② 非上場会社で半期報告書を提出する会社であって、従来の半期報告書に代えて新半期報告書を提出することを選択した会社(改正金商法第24条の5第1項ただし書き)
(2)基本方針
本会計基準は、新半期報告書において開示される中間財務諸表に適用される会計処理及び開示を定めることを目的としているため、期首から6か月間を1つの会計期間(以下「中間会計期間」という。)とする中間財務諸表に係る会計処理を定めることを原則としています。
そして、金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告等において、従前の第2四半期報告書と同程度の記載内容とするとされていることから、中間財務諸表の記載内容が従前の第2四半期報告書と同程度の記載内容となるように、基本的に企業会計基準第12号「四半期財務諸表に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第14号「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」(以下「四半期会計基準等」という。)の会計処理及び開示を引き継ぐこととしています。
しかし、四半期会計基準等では、四半期財務諸表が年度の財務諸表や中間財務諸表よりも開示の迅速性が求められること、四半期会計期間が中間会計期間より短い期間であること、制度として第1四半期や第3四半期決算が行われることを前提としていることを踏まえた会計処理を定めているため、四半期会計基準等の取扱いを中間会計期間とする財務諸表に係る取扱いとした場合、四半期会計基準等に従った第1四半期決算を前提に第2四半期の会計処理を行った場合と、第1四半期は決算短信のみで制度開示を行わず、中間会計期間を1つの会計期間として会計処理を行った場合とで差異が生じる項目があります。本来であれば、このような差異のある項目について、変更を踏まえた検討が必要となるものの、改正金商法の成立日から施行日までの期間が短期間であることから、会計処理の見直しによる企業の実務負担が生じないように、従来の四半期会計基準等に基づく取扱いが継続可能となる経過措置を定めています。
(3)会計処理
- 四半期会計基準等の会計処理及び開示を引き継いでいます。
- 中間会計期間(期首から 6 か月間を 1 つの会計期間)とした場合と、四半期会計基準等に従い第 1 四半期決算を前提に第 2 四半期の会計処理を行った場合とで差異が生じる可能性のある項目については、従来の四半期の実務が継続可能となる取扱いとし、一部の項目については経過措置が定められています。
差異が生じる可能性のある項目とその取扱い
項目 | 取扱い | 経過措置の有無 |
原価差異の繰延処理 | 標準原価計算等を採用している場合において、原価差異が操業度等の季節的な変動に起因して発生したものであり、かつ、原価計算期間末までにほぼ解消が見込まれるときには、継続適用を条件として、当該原価差異を流動資産又は流動負債として繰り延べることができる(中間会計基準第17項)。 | ― |
子会社を取得又は売却した場合等のみなし取得日又はみなし売却日 | 支配獲得日、株式の取得日又は売却日等が子会社の中間会計期間の末日以外の日である場合に、当該日の前後いずれかの決算日等に支配獲得、株式取得又は売却等が行われたものとみなして処理することができる。この決算日等には、期首、中間会計期間の末日又はその他の適切に決算が行われた日を含む(中間会計基準第20項)。 | ― |
有価証券の減損処理に係る中間切放し法 | 中間会計期間末における有価証券の減損処理にあたっては、中間切放し法と中間洗替え法のいずれかの方法を選択適用することができる。この場合、いったん採用した方法は、原則として継続して適用する必要がある(中間適用指針第4項)。 | 中間会計期間末における有価証券の減損処理について、第1四半期の末日において切放し法を適用したものとして中間会計期間末において切放し法を適用することができる(中間適用指針第62項)。 |
棚卸資産の簿価切下げに係る切放し法 | 年度決算において、棚卸資産の簿価切下げに洗替え法を適用している場合は、中間会計期間末においても洗替え法による。 また、年度決算において切放し法を適用している場合は、中間会計期間末において、洗替え法と切放し法のいずれかを選択適用することができる。この場合、いったん採用した方法は、原則として継続して適用する必要がある(中間適用指針第7項)。 |
棚卸資産の簿価切下げについて、第1四半期の末日において切放し法を適用したものとして中間会計期間末において切放し法を適用することができる(中間適用指針第63項)。 |
一般債権の貸倒見積高の算定における簡便的な会計処理 | 一般債権の貸倒実績率等が前年度の財務諸表の作成において使用した貸倒実績率等と著しく変動していないと考えられる場合には、中間会計期間末において、前年度末の決算において算定した貸倒実績率等の合理的な基準を使用することができる(中間適用指針第3項)。 | 第1四半期の貸倒実績率等と著しく変動していないと考えられる場合には、第1四半期の貸倒実績率等の合理的な基準を使用して中間会計期間末における一般債権に対する貸倒見積高を算定することができる(中間適用指針第61項)。 |
未実現損益の消去における簡便的な会計処理 | 中間会計期間末在庫高に占める当該棚卸資産の金額及び当該取引に係る損益率を合理的に見積って計算することができる。また、前年度から取引状況に大きな変化がないと認められる場合には、前年度の損益率や合理的な予算制度に基づいて算定された損益率を使用して計算することができる(中間適用指針第28項)。 | 第1四半期から取引状況に大きな変化がないと認められる場合には、連結会社相互間の取引によって取得した棚卸資産に含まれる中間会計期間末における未実現損益の消去について、第1四半期における損益率を使用して計算することができる(中間適用指針第64項)。 |
企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」第117項の定めにある通り、取得とされた企業結合におけるみなし取得日は、企業結合の主要条件が合意されて公表された日以降としなければならないとされていることに留意する必要があります(中間会計基準BC17項)。
また、中間会計基準第20項における「この決算日等には、期首、中間会計期間の末日又はその他の適切に決算が行われた日を含む」の定めは、四半期会計基準において認められていた四半期決算日を引き続きみなし取得日として適用可能とすることを意図したものであり、従来の四半期の実務を見直すことを意図したものではないとされており、その他の適切に決算が行われたとは、子会社において本会計基準に準じた決算が行われたことを想定しています(中間会計基準BC18項)。
例えば、四半期決算を行っている3月末決算会社が8月に子会社を売却した場合、中間連結財務諸表の作成におけるみなし売却日は、7月1日か9月30日のいずれかになると考えられます※1。
適用初年度においては、従来作成していた財務諸表(四半期財務諸表)と異なる種類の財務諸表(中間財務諸表)を新たに作成することになると考えられます。適用初年度において従前の四半期財務諸表において採用していた会計方針(年度の会計方針との首尾一貫性が求められる会計方針を除く。)と異なる会計方針を採用する場合には、会計方針の変更に該当せず新たに会計方針を採用することになると考えられます(中間会計基準BC24項)。そして、新たに採用した会計方針は開示対象期間の中間財務諸表等に遡及適用することになります(中間会計基準第38項)※2。
四半期会計基準等以外の会計基準等における四半期財務諸表に関する取扱いについて、中間会計基準が適用される中間財務諸表においては、これまでに公表された会計基準等における四半期財務諸表に関する会計処理及び開示の定めも引き継ぐこととされています(中間会計基準第39項)。そして、他の会計基準等の読替えにあたっては、従前の四半期での実務を変更することを意図しておらず、また、これまでに公表された会計基準等には、日本公認会計士協会(以下「JICPA」という。)が公表した企業会計に関する実務指針(Q&Aを含む。)のうち会計処理の原則及び手続を定めたものが含まれるとされています(中間会計基準BC25項)。
(4)開示
従来の第2四半期会計期間において、四半期会計基準等で求められていた開示が求められています。
4.適用時期
改正金商法の附則第3条に基づき、新半期報告書の提出が求められる最初の中間会計期間から適用されます(中間会計基準第37項)。また、適用初年度においては、開示対象期間の中間財務諸表等について遡及適用されます(中間会計基準第38項)。
図表:改正金商法の適用時期
5.今後の開発方針と四半期会計基準等の取扱い
企業の報告頻度(中間又は四半期)が異なることにより生じる中間会計基準等と四半期会計基準等の取扱いの差異を解消するため、国際会計基準第34号「期中財務報告」(以下「IAS第34号」という。)における「企業の報告頻度(年次、半期、又は四半期)によって、年次の経営成績の測定が左右されてはならないとする原則(IAS第34号第28項)を踏まえ、中間会計基準等と四半期会計基準等を統合した期中財務諸表に関する会計基準等(以下「期中財務諸表に関する会計基準等」という。)を開発し、取扱いを統一することが考えられますが、中間会計基準等に定められた経過措置の恒久化を求める意見等、さまざまな意見があるため、これらの意見を踏まえてASBJにおいて今後検討を行う予定とされています。
なお、改正金商法によって四半期報告制度は廃止されますが、上場会社では引き続き取引所規則に基づき第1・第3四半期決算短信の報告が行われるため、今後、期中財務諸表に関する会計基準等の開発が行われるまでの間、四半期会計基準等の適用を終了しないことが予定されています。
6.公開草案からの主な変更点
脚注
※1:子会社を取得又は売却した場合等のみなし取得日又はみなし売却日
※2:中間切放し法と中間洗替え法の従前の会計方針との継続性
なお、本稿は中間会計基準等の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。
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