「顧客との契約から生じる収益に関する論点の整理」のポイント

会計情報トピックス 井澤依子

企業会計基準委員会が平成23年1月20日に公表

企業会計基準委員会(ASBJ)は平成23年1月20日に、「顧客との契約から生じる収益に関する論点の整理」(以下「本論点整理」)を公表しました。

本論点整理は、国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)が共同で収益認識に関する会計基準の見直しの検討を進めていることを踏まえ、今後、我が国においても収益認識に関する会計基準を整備していく一環として公表するものであり、広く関係者からの意見を募集することを目的としています。

なお、平成23年3月28日(月)までがコメント募集期間とされています。
 



1.本論点整理の目的

ASBJでは、収益認識に関する国際的な会計基準の取扱い及びその動向を踏まえつつ、収益認識に関する会計基準を整備していく検討を進めており、その一環として、平成21年9月に「収益認識に関する論点の整理」を公表しました。その後、これに対して寄せられた意見を踏まえ、平成22年6月にIASB及びFASBから公表された公開草案「顧客との契約から生じる収益」(以下「IASB及びFASBのED」)で取り上げられた論点も含め、さらに検討を重ねてきました。

本論点整理は、IASB及びFASBが共同で収益認識に関する会計基準の見直しの検討を進めていることを踏まえ、今後、我が国においても収益認識に関する会計基準を整備していく一環として公表し、IASB及びFASBのEDで提案されているモデル(以下「提案モデル」)について包括的に検討を行い、今後の我が国の収益認識に関する会計基準の方向性を示した上で、広く関係者からの意見を募集することを目的としています。

2.本論点整理の構成

本論点整理は以下のような構成となっています。

各【論点】においては、「我が国及び国際的な会計基準における現行の取扱い」及び「IASB及びFASBのEDにおける提案とその検討」が示された上で、日本基準の「今後の方向性」について解説されています。

項目

内容

IASB及びFASBが提案するモデルの概要

  • 提案モデルを適用するステップ
  • 現行実務への影響

7項、8項

論点

【論点1】範囲
[論点1-1]本論点整理における収益の範囲
[論点1-2]契約の識別、結合と分割
[論点1-3]契約の変更 9項~53項

9項~53項


【論点2】認識
[論点2-1]履行義務の識別
[論点2-2]履行義務の充足
[論点2-3]財又はサービスの連続的な移転

54項~105項


【論点3】測定
[論点3-1]取引価格の算定
 <論点3-1-1>回収可能性
 <論点3-1-2>貨幣の時間価値
 <論点3-1-3>現金以外の対価
 <論点3-1-4>顧客に支払われる対価
[論点3-2]履行義務への取引価格の配分

106項~157項


【論点4】不利な履行義務

158項~167項


【論点5】契約コスト

168項~182項


【論点6】表示及び注記
[論点6-1]表示
[論点6-2]注記

183項~215項


(個別論点)
【論点A】収益の総額表示と純額表示
【論点B】製品保証及び製造物責任
【論点C】カスタマー・ロイヤルティ・プログラム
【論点D】工事契約
【論点E】損失リスクを伴う製品出荷
【論点F】ライセンス供与及び使用権
【論点G】返品権付きの製品販売
【論点H】資産の販売及び買戻し
【論点I】更新オプションを伴う保守サービス

216項~337項

 

3.本論点整理の内容

本稿では、本論点整理のうち、「IASB及びFASBが提案するモデルの概要(第7項、第8項)」の内容を中心に取り上げます。日本基準の「今後の方向性」については、本論点整理の各【論点】をご覧ください。

(1)提案モデルの概要

提案モデルにおいては、以下の5つのステップで収益認識を検討することとされています。

Step

内容

Step1:
契約の識別

  • 契約は強制可能な権利及び義務を生じさせる2者以上の当事者間における合意である。
  • 顧客は企業の通常活動のアウトプットである財又はサービスを取得するため、当該企業と契約した当事者である。
  • 同一の顧客との複数の契約は、契約価格が相互依存的であれば結合し、契約に含まれる一部の財又はサービスの価格が他と独立である場合は単一の契約を分割する。

Step2:
契約に含まれる別個の履行義務の識別

  • 履行義務とは、財又はサービスを顧客に移転するという当該顧客との契約における(明示的であれ、黙示的であれ)強制可能な約束である。
  • 企業が複数の財又はサービスの提供を約束する場合、当該財又はサービスが区別できる場合には、約束したそれぞれの財又はサービスを別個の履行義務として会計処理する。

Step3:
取引価格の算定

  • 取引価格とは、財又はサービスの移転と引換えに、企業が顧客から受け取る、又は受け取ると見込まれる対価の金額であり、第三者のために回収する金額(例えば、税金)を除く。
  • 対価の金額が変動する場合(例えば、リベート、ボーナス、ペナルティー又は顧客の信用リスクなどの理由で)、企業は、取引価格を合理的に見積ることができる場合にのみ、履行義務の充足時に収益を認識する。
  • 取引価格の算定に際して、企業は回収可能性、貨幣の時間価値、現金以外の対価及び顧客に支払われる対価の影響を考慮する。

Step4:
別個の履行義務に対する取引価格の配分

  • 企業は、契約開始時に、個々の履行義務の基礎となる財又はサービスの独立販売価格に比例して、すべての別個の履行義務に取引価格を配分する。
  • 独立販売価格が直接観察可能でない場合、企業はそれを見積る。
  • 契約開始後に、取引価格の変動があった場合、企業は、当該変動を、契約開始時と同じ基礎により、すべての履行義務に配分する。

Step5:
履行義務の充足時に収益認識

  • 企業が顧客に約束した財又はサービスを移転することによって履行義務を充足した時に、取引価格のうち履行義務に配分した金額を収益として認識する。
  • 顧客が財又はサービスに対する支配を獲得した時に、当該財又はサービスは移転する。
  • 財又はサービスが顧客に連続的に移転する場合、その履行義務について、顧客への財又はサービスの移転を最もよく描写する、単一の収益認識の方法(アウトプット法、インプット法、時の経過に基づく方法等)を適用する。

(2)現行実務への影響

現行実務に影響を与えると考えられる点として、以下が例示列挙されています。

項目

内容

関連論点

① 財又はサービスの移転からのみ収益を認識する

資産の製造に関する契約(例えば、建設、製造及び特別仕様のソフトウェア(工事契約))は、顧客が資産の製造に応じて当該資産を支配する場合にのみ、連続的な収益認識となる。

[論点2-2]、[論点2-3]、【論点D】

② 複数要素契約(別個の履行義務の識別)

企業は、区別できる財又はサービスについて、契約を別個の履行義務に分割するよう求められる。このような定めにより、企業は、現行実務で識別されている会計単位とは異なる会計単位に契約を分ける場合があり得る。

[論点2-1]

③ 総額表示と純額表示(本人か代理人か)

企業は、本人として負った履行義務として識別した場合には、財又はサービスについて受け取る金額を収益認識し、代理人として負った履行義務として識別した場合には、手数料部分を収益認識することが求められる。

【論点A】

④ 製品保証

現行実務では、製品の販売に製品保証の条件が付されている場合、企業は販売時点で売上計上するとともに、保証の履行による費用負担見込額を引当計上していると考えられるが、提案モデルでは、製品保証の目的を判断した上で、目的に応じて、販売価格の一部を製品保証部分に配分するか、あるいは保証の可能性のある販売分の売上計上を繰り延べる処理が求められる。

【論点B】

⑤ カスタマー・ロイヤルティ・プログラム

カスタマー・ロイヤルティ・プログラム(顧客に対して自社が販売している財又はサービスを購入するインセンティブを与えるためのポイントプログラム等)を、将来の値引きを受ける権利の販売として別個の履行義務として識別し、取引価格を配分することが求められる。

【論点C】

⑥ ライセンス及び使用権

顧客が、ライセンスを供与された知的財産に関連するほとんどすべての権利に対する支配を獲得する場合は、実質的な売却とみなされ、ライセンス供与時に収益を認識する。実質的な売却とみなされない場合は、顧客に供与されたライセンスが独占的であれば、ライセンス期間にわたって収益を認識し、非独占的であればライセンスから便益を得ることができる時点で収益を認識する。

【論点F】

⑦ 返品権付きの製品販売

現行実務では、返品権付きの製品販売については、販売時に収益を計上するとともに、返品が見込まれる部分の売上総利益相当額を引当計上する処理が採られていると考えられるが、提案モデルでは、返品が見込まれる部分について収益を計上せず、その代わりに返金負債と返品された製品を受け取る権利を計上する処理が求められる。

【論点G】

⑧ 回収可能性(信用リスク)の収益への反映

回収可能性(顧客の信用リスク)の影響は、取引価格に反映(収益を減額)し、企業が対価に対する無条件の権利(すなわち、受取債権)を取得した後の評価の変動による影響は、収益以外の損益として認識する。

<論点3-1-1>

⑨ 取引価格の算定にあたっての見積りの使用

取引価格の算定(例えば、変動する対価の見積り)及び独立販売価格に基づく当該取引価格の配分において、企業はより広範に見積りの使用が求められる。

【論点3】

⑩コストの会計処理

一定の要件を満たす契約の履行コストを資産(無形資産又は仕掛品等)として認識する一方で、契約の獲得コストを発生時の費用として認識することが求められる。

【論点5】

⑪ 注記

収益認識に関する会計方針のほか、契約資産(負債)に関する調整表、期末に残存する履行義務の満期分析、見積りや判断に関する情報等を含む開示の拡充が求められる。

[論点6-2]

なお、本稿は本論点整理の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。



※ 2010年6月24日にIASBから公表された公開草案についてのEYの解説はこちらをご覧ください。


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