消費者の体験が購入を左右する世界で、小売企業が販売するものとは

消費者の体験が購入を左右する世界で、小売企業が販売するものとは


メタバースは、現実世界と仮想世界の架け橋となって新しいショッピング体験を提供する⼩売企業の新たな事業展開の場になりつつあります。


要点

  • 消費者は、リアルな体験とデジタルな体験とが一貫した購入環境を求めている。
  • 小売企業は現実世界・仮想世界にかかわらず、データを活用して消費者を取り巻くさまざまな体験を融合した新しいチャネルモデルを取り入れる必要がある。


EY Japanの視点

オンライン販売の空間にアパレル製品が登場した当初は、書籍、生活雑貨などとは異なり、アパレル製品はオンライン販売にはなじまないといった否定的な意見もありました。今ではブランドおよび小売企業のさまざまな努力・工夫により、アパレル製品の購入はオンライン中心、またはオンラインと実店舗の組み合わせだとする消費者が、合計で50%以上という統計もあります。メタバース空間が、あらゆる製品販売の主戦場となる時代の到来を予測するのは簡単ではありませんが、少なくとも無視できない販売チャネルになり得る可能性は、大いにあります。小売企業には、過去の既成概念にとらわれない新たな取り組みと工夫が求められています。

また、さまざまな販売チャネルを使い分けたいという消費者の欲求を満たすためにも、実店舗を維持することは必要です。ただし、従来の小売機能のみの実店舗では、新たな販売チャネルの台頭などにより、実店舗を維持することは収益性を圧迫するかもしれません。実店舗でなければ得られない情報を価値化しブランド・メーカーに販売するなどの工夫も、小売企業には求められています。


EY Japanの窓口

平元 達也
EY Japan 消費財・小売リーダー EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 パートナー

EY Future Consumer Indexは、消費者による購買⾏動の根本的な変化がパンデミックによって加速化したことを⽰しています。

  • 44%が、「まとめ買いによって買い物の頻度を減らすことを計画している」と回答
  • 36%が、「今後オンラインでの購⼊を増やし、素晴らしい体験を得られる店舗にしか足を運ばない」と回答
  • 43%が、「近郊の商店での買い物を増やす」と回答

パンデミックは⼩売企業に何をもたらすのでしょうか。ここで重要なのは、パンデミック後、消費者が現実世界・仮想世界の垣根を感じることなく、⼀貫したショッピング体験を望む状況が⽣まれたということです。

このような消費者の⼼理は⽇常⽣活に現れています。実店舗を訪れて商品を⾒て回りたいと思うこともあれば、オンラインで注⽂して⾃宅や勤務先など指定の場所で商品を受け取ることを望む場合もあるでしょう。あるいは、インスタグラムでのソーシャルショッピングを望んだり、このような選択肢を組み合わせたいと考えることもあるでしょう。

それは、購買チャネルと購買体験の選択肢が無限に存在する世界です。そこでは実店舗・オンラインストアそれぞれに役割があり、⼀⽅をもう⼀⽅へと完全に置き換えることはできません。消費者はそれらを別々のチャネルとは捉えておらず、⼀連の⽇常⽣活の中の異なる側⾯と考えています。

しかし今、⼩売企業やブランドの⽬前には新たな開拓市場が広がっています。斬新なショッピング体験を提供し、現実世界と仮想世界の架け橋となり得る新しい販売空間として、メタバースが浮上してきました。

    「メタチャネル」の世界の幕開け

    ⼩売企業が消費者の気持ちを掴むためには単に商品を販売するだけではなく、顧客に対して新しい価値を提供しなくてはなりません。未来の販売空間は、現実の販売空間とデジタルの販売空間が融合したものになり、消費者をそこに引き付けるには、訪れる価値のある体験の提供が求められるでしょう。

    どこにでも存在する「オムニチャネル」戦略の域を超え、現実空間と仮想空間のオムニチャネルが融合された「メタチャネル」戦略を取り⼊れることで、⼩売企業はこれを実現できます。このモデルでは、⼩売企業はチャネルや体験がデジタルかリアルかを分けて考えるのではなく、消費者との接点がどのような状況で⽣じようとも、データを駆使して消費者を取り巻く体験を再考し、統合し、調和させることが求められます。その結果、現実空間とデジタル空間が⼀体となって機能し、単⼀のチャネルで⾏うよりはるかに多くの価値を提供できるので、リアルかデジタルかという区別は意味をもたなくなります。

    しかし、変わらないものもあるはずです。今後もすべての販売空間において⼩売企業は商品・サービスに対する需要を⽣み出すためにブランドエクスペリエンスの整理、編集を⾏うでしょう。インタラクションがリアルであろうとデジタルであろうと、⼩売企業は⼈々が訪れる販売空間を作り出す必要があります。市場シェアや顧客内シェアよりも、注⽬度シェアの重要性が⾼まっています。⼈やアルゴリズムがその販売空間を訪れて関⼼をもたなければ、事業は⽴ち⾏かなくなるでしょう。メタバースは、消費者が⾃⾝の考え⽅、ライフステージ、提供される価値に基づいて訪れ購⼊する場所を作り出したことで、消費者の注⽬を集めるための競争をより激化させました。

    実店舗の販売空間をどのように再構築するべきか

    パンデミックの影響でオンライン購⼊と宅配が成⻑したことにより、実店舗の従来的な役割の重要性は低下し、元の状態に戻ることはないでしょう。したがって、実店舗はあらゆる⾯で購買者にとって魅⼒のある、新しい⽬的を⾒出ださなければなりません。

    ⼩売企業がなすべきことは、柔軟で多機能な現実的販売空間を設け、あらゆるチャネルを通じて購⼊できる製品を展⽰し、さまざまなサービスやイベントを主催することです。これらをすべて、あるいは⼀部でも実施できれば、実店舗を訪れ、滞在し、購⼊したいという動機が⽣まれるでしょう。コミュニティイベント、レジャー、ワークスペース、ライフスタイル、スポーツ、研修など、可能性は多岐にわたります。それらを結び付ける共通のテーマは、販売空間を活気ある魅⼒的な場所にできるよう、消費者のニーズを満たし、⽬的意識を⾼め、ユニークな体験を提供することです。

    これは、物理的空間が新たな価値を創出するという重要な転換が、今まさに起きていることを⽰しています。⼩売企業は、サービスを提供するコミュニティにおいて⾃社の販売空間が果たせる役割と、提供できる体験について、包括的に検討する必要があります。個々の消費者が求める⽬的と体験を提供することができれば、購⼊取引はその空間にいることの副産物になります。例えば、ハウス・オブ・ヴァンズ・スケートパークナイキユナイトのコミュニティストア、あるいは店内で料理教室を主催する世界各地のスーパーマーケットなど、すでに数多くの⼩売企業がこのような効果を⽣み出すことに成功しています。

    消費者はそれらを別々のチャネルとは捉えておらず、⼀連の⽇常⽣活の中の異なる側⾯と考えています。

    デジタルな販売空間をどのように⾒直すべきか

    未来のデジタルにおける販売空間はどのようなものになるのでしょうか。デジタルの販売空間の再構築にも同じ原則が当てはまります―そこを訪れて時間を過ごす動機を消費者に与えることです。

    デジタルによる選択肢と体験が激増し、オンラインでのショッピング習慣が普及したことで、この再構築はすでに起こりつつあります。私たちは、ソーシャルショッピング、グループショッピング、ショッピングが可能なストリーミング配信、インスタグラムでの購⼊、ゲーム内購⼊などが急速に成⻑しているのを⽬の当たりにしています。

    こうした購買⾏動に共通しているのは、オンラインでの購買⾏為が、他の⾏為に組み込まれた体験に転換されていることです。端的に⾔えば、適切な体験を提供できていれば、消費者は無我夢中になっていて買い物をしている⾃覚がないのです。このダイナミクスとエクスペリエンスの組み合わせは、オンライン⼩売販売が開始された当初はまったく認識されていませんでした。

    小売企業がメタバースの可能性をフルに引き出すには

    間もなく実現しそうなのが、⼈がデジタルアバターを介して交流できる3次元の仮想領域での体験です。メタバースは、刺激的な機会と本質的な疑問を同時にもたらします。メタバースにおける⼩売販売は、初期の実験段階にあり、メディアで⼤きく取り上げられてきたにもかかわらず、⼤半の消費者にとっては多くの点であまり馴染みのない概念です。メタバースを経験したことのあるごく⼀部の⼈にとって、それはショッピングとは根本的に別のアプローチというより、むしろ楽しいブランド体験なのですが、⼀般的にメタバースは、代替不可能なトークンを取引するための排他的なクラブ、あるいはデジタル環境で実店舗を複製した3Dのブランド製品売り場のように受け取られています。

    コロナ後の消費者に向けて流⾏遅れの店舗レイアウトを⾒直したり、eコマースプラットフォームの直帰率、決済⽅法の不具合整備やラストマイルコストに取り組んだりしている⼩売企業にとっては、ニッチな概念上のデジタル空間は、ちょっとした娯楽のように⾒えるかもしれません。しかし、今後数カ⽉、数年、数⼗年にわたりメタバースが発展していくにつれて、今、投資して実験することの重要性が明らかになるかもしれません。インターネットがピクセルで構成された⽬新しいものから⽇常⽣活に不可⽋なものへと進化したのと同様に、メタバースは、私たちの買い物の⽅法を根底から転換させる可能性を秘めています。

    メタバースの発展に伴い、⼩売企業は、以下を含め、⾮常に重要な疑問に直⾯することになるでしょう。また、それらの疑問の⼀部がメタバースの発展により解決される可能性もあります。

    • 分散型の没⼊型デジタル3D空間における⼩売体験とはどのようなものか
    • リアルな製品とデジタルな製品をどのような割合で提供するか
    • デジタルな世界とリアルな世界の融合が進むにつれて、価値提案はどのように変化していくのか

    現在、多くの仮想店舗は実店舗を反映しており、現実の世界での買い物と同じように商品を⾒て回り、買い物かごに商品を⼊れることができます。しかし、⾰新的な新しいユースケースが出現し、消費者との関わり方が刷新され始めれば、このアプローチは変化するでしょう。

    急速に発展しているメタバースにおいて、⼩売企業には、次の3つの段階の機会があります。

    1. ブランド発見の入り口となる

    メタバースのような空間では、⼩売企業はさまざまなブランドのキュレーターの役割を担い、顧客が圧迫感を感じることなく、偶然欲しいものを⾒つけられるようにできるかもしれません。それは実店舗とオンライン店舗の双⽅で事業を運営している⼩売企業の現状から⼤きく乖離しているものではありませんが、製品やサービスに関して適切な体験を創出し、顧客には選択肢を、ブランドには顧客への接点を提供することにより、消費者に役⽴つ存在となり得ます。

    2. 自社の仮想世界を拡張する

    ⼩売企業は、メタバースにおいて、仮想空間を活⽤してショッピングにゲームや⼈との交流、イベントの要素を取り⼊れ、購⼊⾏動が体験の副産物になる状況をつくり出すことで、存在感を⾼めることができます。デジタル上での宝探しやライブ配信型のショッピングを想像してみてください。各種オンラインゲームの⼈気が⾼まる中、⼤規模マルチプレイヤー・オンラインゲーム内に仮想店舗を設けているブランドもあります。また、多くのブランドは、メタバースで販売する製品が物理的であるかデジタルであるかの区別にこだわらなくなっています。実際、複数のレストランチェーンがすでに、仮想レストランで仮想の⾷事を提供するのと同時に現実世界でも料理を⾃宅に配送するという事業の機会を模索しています。

    3. 共創者になる

    ⼩売企業とブランドは、現実空間とデジタル空間の架け橋となる体験と製品の掛け合わせを⽬指して、消費者と協働を始めることもできます。まだあまり試されていませんが、消費者がメタバースで設計・作成した独⾃のデジタル製品を⼩売企業はブランドやメーカーと協⼒して物理的に製品化することができるでしょう。同様に、⼩売企業とブランドとの協働により、拡張現実(AR)オーバーレイを使⽤して物理的な製品や空間を増強し、完全に個別化されたブランド体験を提供することも可能です。これらの多くが実現するのはまだ先のことかもしれませんが、その進展に伴い、知的財産、データリスクやサイバーリスク、ブランド保護について、そして、いかにして消費者やブランド、⼩売企業にとって価値が創造されるのかということについて、根本的で深い疑問が⽣じるでしょう。

    小売企業の役割の変化

    このことはショッピングにおける消費者の体験が刷新された世界の到来を意味します。同様に、⼩売企業にとっても仕組みが変化することを意味しています。なぜなら、リアル空間であろうとデジタル空間であろうと、その掛け合わせであろうと、⼩売企業とブランドの間に古くから存在していた関係性が根本から変化しつつあるからです。そして、今後も変化し続けていくでしょう。

    従来、⼩売企業はブランドと消費者の接点を管理する⾨番でした。しかし、⼩売業界の将来の価値提案の軸がアテンションエコノミーへと転換するのに伴い、この関係は急速に変化しています。新たな価値提案の基軸となるのは整理、編集されたブランド体験を消費者に販売することです。そして、これはブランドに利益をもたらすことになります。

    こうした変化は⼩売企業がどのように価値を創造するかに⼤きな影響を及ぼし得ます。1つの選択肢として、消費者にブランドを販売するのではなく、ブランドに消費者を仲介することが考えられます。消費者⾃⾝が、⼩売企業のビジネスモデルの基盤である製品となるのです。

    製品マージンへの依存からの転換

    ⼩売企業の価値創造の在り⽅がこのように逆転することで、従来のビジネスモデルは完全に覆ります。つまり、販売マージンではなく、より広範囲の収益源に焦点を当てる必要が⽣じるでしょう。

    既存の能⼒を新たな⽅法で組み合わせることで、⼩売企業は複数の事業ポートフォリオを有する企業になれるポテンシャルがあります。例えばPOS情報に基づき事業ポートフォリオを運営する企業から、複数の収益源(従来型の小売事業とそれ以外の事業の双⽅)をもつ企業に転換することができるでしょう。時間の経過とともに、製品マージンに関連する事業はわずかになり、物理的資産と仮想資産、⼩売事業と⼩売以外の事業、製品・広告・データのそれぞれが基盤となるビジネスモデルや収益源が混在した、各要素が補完し合ったサステナブルで収益性の⾼い事業ポートフォリオになるでしょう。

    このような再調整が起こることで、多くの可能性が⽣まれます。⼩売企業は、消費者への製品販売で利益の向上を⽬指すべきでしょうか。それとも、取引⾃体から収益を得るのではなく、たとえば、ロイヤルティプログラムを通じて収集した消費者のデータによって価値を実現するべきでしょうか。ブランドにとって消費者のデータは、1度限りの販売よりも価値がある場合もあるのです。

    同様に、ポートフォリオの各構成要素(たとえば実店舗)は、単独では高収益とならないかもしれませんが、データや顧客情報などの収集を通じて、他の構成要素の収益に寄与する可能性があります。そのため、引き続きポートフォリオに含める価値があります。

    ⼩売企業が価値を付加できる領域に注⼒することで、このような成果につながるでしょう。⼤⼿⼩売企業は、消費者との関係、消費者のデータ、物理的空間や⼈員、オンライン資産、不動産など固有の中核機能を備えています。これらを統合し、IP、バックエンドシステム、サイバーセキュリティの管理をするために必要なデジタル能⼒を確保しなければなりません。⼤⼿⼩売企業は今、⾃社、顧客、ブランドパートナーにとって最⼤の価値を引き出すにはこれらの機能をどのように組み合わせて、活⽤すべきかを再考する必要に迫られています。

    製品マージンへの依存からの転換
     

    ⼩売企業の価値創造の在り⽅がこのように逆転することで、従来のビジネスモデルは完全に覆ります。つまり、販売マージンではなく、より広範囲の収益源に焦点を当てる必要が⽣じるでしょう。
     

    既存の能⼒を新たな⽅法で組み合わせることで、⼩売企業は複数の事業ポートフォリオを有する企業になれるポテンシャルがあります。例えばPOS情報に基づき事業ポートフォリオを運営する企業から、複数の収益源(従来型の小売事業とそれ以外の事業の双⽅)をもつ企業に転換することができるでしょう。時間の経過とともに、製品マージンに関連する事業はわずかになり、物理的資産と仮想資産、⼩売事業と⼩売以外の事業、製品・広告・データのそれぞれが基盤となるビジネスモデルや収益源が混在した、各要素が補完し合ったサステナブルで収益性の⾼い事業ポートフォリオになるでしょう。
     

    このような再調整が起こることで、多くの可能性が⽣まれます。⼩売企業は、消費者への製品販売で利益の向上を⽬指すべきでしょうか。それとも、取引⾃体から収益を得るのではなく、たとえば、ロイヤルティプログラムを通じて収集した消費者のデータによって価値を実現するべきでしょうか。ブランドにとって消費者のデータは、1度限りの販売よりも価値がある場合もあるのです。
     

    同様に、ポートフォリオの各構成要素(たとえば実店舗)は、単独では高収益とならないかもしれませんが、データや顧客情報などの収集を通じて、他の構成要素の収益に寄与する可能性があります。そのため、引き続きポートフォリオに含める価値があります。
     

    ⼩売企業が価値を付加できる領域に注⼒することで、このような成果につながるでしょう。⼤⼿⼩売企業は、消費者との関係、消費者のデータ、物理的空間や⼈員、オンライン資産、不動産など固有の中核機能を備えています。これらを統合し、IP、バックエンドシステム、サイバーセキュリティの管理をするために必要なデジタル能⼒を確保しなければなりません。⼤⼿⼩売企業は今、⾃社、顧客、ブランドパートナーにとって最⼤の価値を引き出すにはこれらの機能をどのように組み合わせて、活⽤すべきかを再考する必要に迫られています。
     

    重要なのは店舗ではなく、空間
     

    急速に変化し、その変化を予測することも困難な世界で⼩売企業が未来に向かって歩みを進めるためには、チャネル戦略を「店舗」と「電⼦商取引」に限定するのをやめなければなりません。代わって、「空間」を中⼼としたチャネルアプローチを総合的に組み⽴てるべきです。物理的空間、デジタル空間、仮想空間、またはこれらを掛け合わせた空間を構成することで、⼀体となった「メタチャネル」の⾒通しが⽴つでしょう。
     

    ⼩売企業がこの戦略を策定する際に検討すべき必須事項は、以下の3つです。
     

    1. 体系的なアプローチをとり、空間がもたらし得る価値を理解する

    1平⽅メートルあたりの売上⾼など従来のKPIは、もはや空間が⾃社の事業にもたらし得る価値を⽰す指標ではなくなりました。⼩売企業はこの概念に精通しており、また、何⼗年もの間、採算を度外視して特売品で集客してきましたが、今はさらに⼀歩踏み込んで、空間が⾃社の事業にもたらす価値を総合的に考慮するべきです。実店舗は収益性に⽋けるかもしれませんが、店舗で⽣成されるデータの価値が、売上に代わる収益源になり得るからです。同様に、メタバースへの進出は費⽤のかかる娯楽に⾒えるかもしれませんが、物理的空間から得られる情報を将来的に収益化することにつながる、はるかに強⼒な機会基盤となる可能性があります。
     

    2. その場に留まらず、試してみる

    ⼩売企業が提供する顧客体験は⻑期にわたって、製品販売という中核事業の枠の中に留まってきました。しかし今、製品販売から離れて変⾰を探求し得る時が到来しています。それを制約するものは、想像⼒と予算だけです。⼩売企業が⼤きな損失を伴うアイデアに投資すべきだということではなく、安全圏から一歩外に踏み出し、白紙状態で⼀から考えてみるべきだということです。
     

    3. 自社が販売しているものとその買い手を理解する

    今⽇の⼩売企業は、ブランドから製品を購⼊し、それを顧客に販売しています。このようなバリューチェーンでは、⼩売企業は取引仲介者の域を出ません。この仕組みは数百年にわたり機能してきたかもしれませんが、永続的に機能するとは⾔えないでしょう。今後の⼩売企業の選択肢として、販売した製品データ、販売した製品のコミッションを通じて得られる消費者動向のインサイトをブランドに販売することも挙げられます。⼀⽅、消費者に対してはサービス、時間、イベント、または体験を販売することになるかもしれません。⼩売企業は空間の最⼤限の活⽤法を考える上で、すべての⼈にとっての最⼤の価値創出を同時に考える必要があります。


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      サマリー

      パンデミックの影響で消費者の購買⾏動の変化が加速し、結果として場所にとらわれず⾃分に都合のいい⽅法で買い物をするようになりました。結果として⼩売企業には、各チャネルにおいて⼀続きで⼀貫性のある顧客体験の提供に注⼒する必要が⽣じています。それは、すべてのチャネルが融合し、消費者がそこを訪れて時間を過ごしたいと思う顧客体験でなければなりません。実店舗であろうと、オンライン店舗であろうと、メタバース内であろうと、顧客体験を融合し、パフォーマンスを包括的に測定することで、顧客・⼩売企業ともに多くの価値がもたらされるでしょう。


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