COOが直面する喫緊の課題:自律型サプライチェーン実現に向けて生成AIを生かす秘訣とは?
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COOが直面する喫緊の課題:自律型サプライチェーン実現に向けて生成AIを活かす秘訣とは?

生成AIの登場により、自律型サプライチェーンの実現に拍車がかかっています。しかし、サプライチェーンの自律化に取り組んでいる企業の多くが、生成AIの導入で難しい課題に直面しています。先進企業のアプローチにはそうした課題を克服するヒントが隠されています。
 


要点

  • サプライチェーンとオペレーションを統括する経営幹部のほとんど(73%)が生成AIの導入を計画しているが、そのプロジェクト計画を再評価した回答企業は62%に上り、実装に至ったのは7%足らずにとどまっている。
  • サプライチェーンの自律化に向けた取り組みにおいて先行している企業は、生成AIで成果を上げる可能性が5.2倍高く、デジタル格差は一段と広がっている。
  • 生成AIのメリットを最大限に享受するには、戦略的ビジョンに沿ってプロジェクトを推し進め、AI対応のデータを準備し、サイバーリスクとデータリスクに対処して価値を最大化することが不可欠である。


EY Japanの視点

日本企業の競争力のある次世代サプライチェーン構築に向けて、生成AIを活用した自律型サプライチェーン組み込みは非常に重要です。

絶え間なく変化する市場に柔軟に対応するためには、従来AIのデータからのインサイトと自動化に、生成AIの創造性と適応性を具現化する付加価値(新たなプロセスの自動構築、有事の際の外部ショック緩和など)を組み合わせ、人の手をほとんど介さずに運営可能なサプライチェーンの構築が求められます。

先進企業の取り組みを通じて、生成AIの活用可能なユースケースも特定されつつあります。一方、生成AIが本当に付加価値をもたらすものかどうか、エンド・ツー・エンドで活用できるかどうか、懐疑的に捉えている企業も多いです。

成功に向けては、生成AI・外部パートナーの付加価値に関する下調べと見極めのみではなく、自社のデータ整備やセキュリティ担保、従業員リスキリングなど企業トータルとしての取り組みに昇華すること、そして適時プロジェクト評価・見直しを三位一体(経営陣、業務、IT)で進めることが肝要となります。


EY Japanの窓口
高見 幸宏
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 サプライチェーン&オペレーションズリーダー パートナー
横田 雄一
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 サプライチェーン&オペレーションズ アソシエートパートナー

2020年以降、世界経済は新しいパラダイムへと転換しました。この新しいパラダイムを特徴付けるのはディスラプション(創造的破壊)と変化です。両者とも、これまで以上に激しくかつ頻繁に出現し、より密接に関連し合い、その影響はより広範囲に及び、多くの場合、同時に発生します。最高執行責任者(COO)とサプライチェーンの責任者は、自身が管理・統括するサプライチェーンがこうした高リスクの環境にさらされていること、そしてディスラプションの影響を直接に受ける可能性が高いことを十分に理解しています。

こうした状況を踏まえ、多くの企業がサプライチェーンのレジリエンス(回復力)を高めることに再注力し、複数の国やサプライヤーにわたってオペレーションを分散させる戦略を推し進めました。その結果、かつては極めて効率的だったサプライチェーンは、外部ショックに対する耐性を得ましたが、多くの場合、効率性の低下という代償を伴うことになりました。

生成AIが登場した今、企業は、技術的成熟度を飛躍的に向上させ、自律型サプライチェーンへの移行を加速的に推進することが可能になりました。生成AIは、膨大な量のデータを分析し解釈するだけでなく、新しいシナリオを創出し、革新的なソリューションを生み出し、リアルタイムで問題を解決するために使用されています。こうしたAIを導入することにより、経営幹部や管理職者はオペレーションの全体像を把握し、人材をより高度な業務へと配置することが可能になっています。

サプライチェーンでのAIの使用は新しいことではありません。従来型AIは、長年にわたり、サプライチェーンで使用されており、調査回答者の90%が自社のサプライチェーンに何らかの形で従来型AIを組み込んでいると回答しています。

従来型AIは主にデータに基づくインサイトと自動化に焦点を当てているのに対し、生成AIは、新しいプロセスを設計したり、より高精度に需要を予測して外部ショックを緩和したり、混乱が生じた際には最もコスト効率の良いルートや運送業者を迅速に特定したりすることができます。

一方、生成AIと従来型AIの組み合わせは、生成AIの革新的な能力と、両技術の強みの相互補完効果を得られるため、自律型サプライチェーンへの移行に画期的な変革をもたらし、実現に向けた取り組みが加速的に進むことが期待されます。

生成AIのこうした創造性と適応性は、絶え間なく変化する市場に柔軟に対応し、人の手をほとんど介さずに運営可能なサプライチェーンを構築する上で重要です。

これは非常に魅力的なビジョンですが、その実現にはいまだ不透明感が漂っています。サプライチェーンとオペレーションを統括する経営幹部460名を対象にEYが実施したグローバル調査によると、自社のサプライチェーンで生成AIを使用する準備を進めている企業でさえも、人の介入が少ないサプライチェーンを実現しているのは28%にとどまり、サプライチェーン全体の可視性を確立している企業もわずか50%です。

本稿は、「COOが直面する喫緊の課題シリーズ(COO Imperative Series)」の一環です。本シリーズでは、サプライチェーンとオペレーションの責任者が自社の未来像を再構築する上で役立つ重要な解決策とアクションを提示しています。


第1章  AI戦略の抜本的見直し
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第1章

AI戦略の抜本的見直し

企業は、生成AIの概念実証(PoC)から本格運用へと進む段階で、全面導入と効果の最大化に向けて戦略を再評価しています。

生成AIの可能性を認識している企業は、同技術を将来にわたって競争力を維持・確保するための重要なケイパビリティとして捉え、それに応じた投資を行っています。今回の調査で、回答者の4分の3が自社のサプライチェーンに生成AIを導入することを計画しており、80%が生成AIはサプライチェーンを再構築する上で非常に重要であると考えています。さらに、69%の回答者が、自社のサプライチェーンに生成AIを導入することができない場合、競争上不利になると回答しています。


しかし、こうした楽観的な見方とは裏腹に、実際には導入にブレーキをかける動きが見られます。過去12カ月間において、62%の回答者が生成AIサプライチェーンのイニシアチブの計画を再評価しており、実装に至った企業はわずか7%でした。こうした事態がなぜ起きているのでしょうか。その理由は2つあります。
 

  1. 生成AIがもたらす特有のリスクに対する懸念と理解不足
  2. 生成AIの複雑さ故に直面する導入時の課題


今回の調査結果から、こうした戦略の見直しは、全面導入と効果の最大化を目指す企業の思いが背景にあることが明らかになりました。サプライチェーンとオペレーションを統括する経営幹部7名に詳細なインタビューを行ったところ、生成AIの概念実証から全面導入への技術的移行は予想以上に困難であったことが明らかになっています。


サプライチェーンの外部関係者やデータは複雑に絡み合っています。そのため、企業は戦略の見直しを図ることで、より戦略的かつ慎重な進め方を選択しています。こうした傾向は、EYが最近実施した、EYとオックスフォード大学サイード・ビジネススクールによる共同調査の結果とも一致しています。同調査によると、成果を収めている経営幹部は、変革に関わる関係者全員の声に積極的に耳を傾けながら行動計画を絶えず進化させることで変革の難局を乗り越えています。こうしたダイナミックなプロセスを大切にすることで、変革チーム内に、共有された所有感や心理的安全性が育まれ、チームメンバーの自信や能力が向上します。



第2章  先進企業はサプライチェーンの自律化をけん引
2

第2章

先進企業はサプライチェーンの自律化をけん引

生成AIを使用することで自律型サプライチェーンの変革的メリットをより迅速に享受することができるという認識が先進企業の間で高まっています。

自律型サプライチェーンの実現に向けた取り組みで先を行く企業(先進企業)は、生成AIを迅速に導入し、その効果を享受するための強固なデジタル基盤を確立しています。こうした先進企業の勢いは、出遅れている企業(フォロワー企業)が速やかに行動しない限り、デジタル格差の拡大につながる可能性があります。

先進企業(サプライチェーンの自律化に向けた取り組みで先行している上位20%の企業)は、自社のサプライチェーンでの従来型AIと生成AIの導入においてより高い成果を上げており、従来型AIで予想以上の成果を上げる可能性は3.5倍高く、生成AIでは5.2倍も高いことが明らかになっています。

先進企業の場合:

従来型AIで予想以上の成果を上げる可能性
生成AIで予想以上の成果を上げる可能性
生成AIのユースケースをすでに実装している可能性

生成AIは、企業の自律型サプライチェーンの実現に向けたプロセスを加速させることができます。先進企業は、今後2年間で生成AIをより積極的に活用する予定であり、サプライチェーンにおいて中央値で12のユースケースを見込んでいます。他方、フォロワー企業では8ユースケースにとどまっています。また、先進企業は、サプライチェーンの枠を超えて他のビジネス機能や外部パートナーとも連携を強化し、サプライチェーン全体にわたるエンド・ツー・エンドの可視性の促進を図っています。

生成AIの推進要因の全てが技術関連とは限りません。自社では、2030年までにカーボンニュートラルの実現というサステナビリティ目標を達成する一助として生成AIを活用しています。それが、投資の意思決定の原動力となっています。

サプライチェーン管理に生成AIを組み込むことは、高度な技術を実装すること以上の重要な意味があることは明白です。自律性の高いサプライチェーンを真に構築するためには、ビジネスエコシステム全体を視野に入れた戦略的考え方が不可欠です。多くの企業にとって、生成AIの導入は自社のテクノロジー・ロードマップやベンダーとの関係を見直すきっかけとなっています。

グローバル電子機器メーカーのCIOは、以下のように述べています。「生成AIが登場する以前は、AIを搭載した製造機器を提供するベンダーに依拠していました。しかし、生成AIが登場したことで、状況は一変しました」

生成AIが登場する以前は、AIを搭載した製造機器を提供するベンダーに依拠していました。しかし、生成AIが登場したことで、状況は一変しました。

生成AIの導入を、単なる技術の更新ではなく、より広範なデジタル変革戦略の一環として捉えることで、IT、管理・運用、財務、顧客サービスなどさまざまな部門のステークホルダー、ならびにサプライヤー、ディストリビューター、顧客などの外部パートナーを巻き込むことが可能になります。こうしたアプローチを取ることで初めて、企業はスムーズで一貫性のある情報の流れを生み出すことができ、ひいては、サプライチェーンの対応力、回復力、機敏性の向上につながります。

グローバルライフサイエンス企業のR&D部門責任者は、次のように述べています。「生成AIの推進要因の全てが技術関連とは限りません。自社では、2030年までにカーボンニュートラルの実現というサステナビリティ目標を達成する一助として生成AIを活用しています。それが、投資の意思決定の原動力となっています」


第3章  先進企業に見る生成AIの活用戦略
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第3章

先進企業に見る生成AIの活用戦略

先進企業は、サプライチェーンの特定の領域で重点的に生成AIを使用しています。


現在のユースケース

ほとんどの企業(82%)が、サプライチェーンで、従来型AIと生成AIの両技術をさまざまなユースケースで使用することで、それぞれの技術に特有であり、多くの場合、補完的である強みを生かしています。従来型AIはルールベースであるため、ビジネス問題の解決には、事前に準備されたデータセットと定義済みのロジックが必要です。他方、生成AIは、テキスト中心の環境や構造化されていないデータに強く、訓練データに基づいて新しいコンテンツを生成することができます。

一例として、需要予測や品質最適化に従来型AIを使用していた企業は、生成AIレイヤーを追加することで精度が向上し、ツールの利用も拡大したと感じています。

グローバル家電メーカーの物流責任者は、以下のように述べています。「生成AIを導入後、需要予測の精度が過去半年間で50%向上し、サプライチェーン全体にわたり顕著な成果を実感しています」

生成AIを導入後、需要予測の精度が過去半年間で50%向上し、サプライチェーン全体にわたり顕著な成果を実感しています。

今後、生成AIの使用率は大幅に拡大

生成AIの使用率は今後2年間で大幅に増加することが予想されます。先進企業はフォロワー企業よりも、従来型AIを積極的に活用している上に、生成AIの導入においても先行し、使用の拡大も見込んでいることから、フォロワー企業とのギャップはますます広がる可能性があります。

初期のユースケースの中で先進企業が重点を置いている領域を広範に考慮した場合、現在生成AIの導入率が高く、2年後も高い使用率が見込まれる領域は、以下の通りです。

  • 製品設計(製造)
  • 物流ネットワーク設計(物流)
  • グローバル貿易の最適化(物流)
  • 需要予測(プランニング)

上記の領域は、これまでも従来型AIが適用可能でした。しかし、導入時の設定や導入後の維持管理には高度に訓練されたデータサイエンティストによる対応が必要であったため、多くの企業が、手軽に利用することができない、あるいはコストが高すぎるといった課題に直面し、利用は限定的になっていました。一方、生成AIは、自然言語で解釈可能なレイヤーを提供するため、一般の従業員でもAIツールが使いやすくなり、利用の拡大が見込まれます。また、これらの領域は、明確に定義されたデータセットが存在し、非構造化データの割合が高いサプライチェーンの機能であり、それらを分析することで大きな価値を得ることができます。


生成AIの次の段階のユースケースとしては、現時点では導入率は低いものの、2年後には使用が増加すると予想されるものとして、以下の領域が考えられます。

  • サプライヤー管理(購買)
  • 製造歩留まりまたは品質最適化(製造)
  • リスク管理(プランニング)
  • 顧客サービスチャットボットおよび製品説明(販売〈製品販売前/販売後〉)

一例としては、顧客サービスチャットボットと製品説明は、さまざまな言語データが存在する環境であり、企業は顧客との過去の通話記録や書き起こしデータを生成AIに学習させることで、チャットボットが解決できる問い合わせ件数を迅速に拡大することができます。製品研修においては、生成AIを活用することで、製品マニュアルに記載されている重要な情報へのアクセスを大幅に迅速化することができます。

使用率が大幅に伸びると予想されるこれらの領域はまた、チャットボットを通じた顧客対応の迅速化や、製造プロセスにおける品質最適化によるコスト削減など、具体的な商業的メリットが見込まれます。需要予測も生成AIが得意とする主要領域です。この領域のユースケースは、サプライチェーンの多くの課題を解決し、CEOや取締役会にビジネス提案しやすい明確な指標を提供すると考えられます。

品質最適化や予知保全などを含む、これらのユースケースの多くは、従来型AIを使用する際にバックエンド課題に直面し、カスタマイズされたソリューションが必要となります。顧客サービスチャットボットも、一般の人々と直接やり取りするため、高いリスクが伴います。これら両問題が要因となり、本稿で提言している時間枠における生成AIの使用率の伸びに影響が及ぶ可能性があります。


2年後に生成AIの使用拡大が見込まれる領域について、調査結果から、先進企業はフォロワー企業に比べ、物流、製造、販売(製品販売前/販売後)の領域で生成AIの導入が迅速に進むと予想する傾向が見られます。これは、先進企業が、他の領域ですでに成功を収めており、エンド・ツー・エンドの統合も進んでいることから、比較的強固なデータ基盤を有しており、それが生成AI導入の迅速化への自信につながっていると考えられます。こうした状況は、フォロワー企業とのギャップの拡大傾向に一層拍車をかけています。その一例として、物流ネットワーク設計は、かつて5年ごとに実施される単発プロジェクトでしたが、現在では半年ごとに再評価され、変化に対する柔軟な対応力を備えた領域へと進化しています。先進企業は、自社の将来性を担保するために、こうしたケイパビリティの構築に向けた取り組みを進めています。

生成AIの使用例(現在)

第4章  実装に伴う課題を克服するための3つの行動
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第4章

実装に伴う課題を克服するための3つの行動

先進企業は、経営陣からの支持を得ること、データ整備を優先すること、そしてサイバーリスクおよびデータリスクへの対応を通じて価値を最大化することに注力しています。

サプライチェーンに生成AIを導入する際には、技術的、組織的、そして運用的な課題が複雑に絡み合います。企業は、自律型サプライチェーンへの移行を進め、生成AIの可能性を最大限に引き出すために、以下の行動を実践する必要があります。
 

1. 人材と投資を戦略的ビジョンに沿って調整する

先進企業における生成AI導入の最大の成功要因は、経営陣からの支持を得ていること(67%)、サードパーティーからの支持を構築していること(65%)、そして技術人材を確保していること(64%)などが挙げられます。先進企業とフォロワー企業の間で最も顕著な差が見られるのは、戦略的ビジョンの優先(先進企業62%に対してフォロワー企業39%)とサードパーティーからの支持(先進企業65%に対してフォロワー企業47%)です。これは、生成AIのパイロット運用と実装を確実にビジネス価値創出に焦点を当てたものにする上で、一貫したビジョンと外部からのサポートがいかに重要であるかを示しています。

消費財メーカーのグローバルオペレーションディレクターは、次のように述べています。「市場に登場したばかりの最新のものが本当に付加価値をもたらすものであるかどうか、しっかりと下調べをすることが重要です。また、外部パートナーについては、技術的レベルを徹底的に審査し、彼らの主張を検証する必要があります」


本調査の回答者は、生成AIの導入プロセスで直面する課題としてスキル不足を挙げていますが、これはデータ整備に次いで2番目に大きな課題となっています。人的要因は、生成AIの導入スピードに影響を及ぼすため、ターゲットを絞った従業員のアップスキリング計画と採用計画が不可欠です。先進企業では、適切な管理と支援を通じて従業員自らが生成AIを使用できる環境を整えることでスキル不足を解消しています(先進企業の51%が優先事項として位置付けているのに対し、フォロワー企業は33%)。これは、「EY Work Reimaged Survey( EY働き方再考に関するグローバル意識調査)」の結果とも深く関連しており、注目に値します。同調査で、ほぼ半数(49%)の従業員がすでに生成AIを使用している、あるいは今後12カ月間の間に使用する予定だと回答していますが、生成AI関連のスキル研修を最優先課題として捉えている従業員は17%、経営幹部は22%にとどまっています。

一貫した戦略ビジョンを持つことで、生成AIのさまざまなユースケースの中から投資の優先順位を明確にすることができるだけでなく、複数の事業部門による投資の重複リスクを最小限に抑えることができます。また、検索拡張生成のような再利用可能なアルゴリズムパターンを取り入れた大規模言語モデルの拡張の方向性が明白になり、AIの成果を高めることができます。

市場に登場したばかりの最新のものが本当に付加価値をもたらすものであるかどうか、しっかりと下調べをすることが重要です。また、外部パートナーについては、技術的レベルを徹底的に審査し、彼らの主張を検証する必要があります。

2. ユースケースを検討する際にデータ整備を優先する

生成AIの需要が高まるにつれ、企業のデータ管理の複雑さとそれに伴うさまざまな課題が顕在化しています。企業は、ユースケースの優先順位付けにおいて、データの可用性、品質、プライバシーを考慮することが最も重要であると認識しているにもかかわらず、依然としてそれを実行することに苦心しています。データ品質の保持は、今回の調査でも38%の回答者が生成AI導入における最大の課題として指摘しており、データへのアクセスも33%が最大の課題の1つとしています。

こうした状況は、サプライチェーン特有のデータ課題を浮き彫りにしています。サプライチェーンデータは組織内のさまざまなシステムや外部関係者のシステムに分散しているため、それが原因で多くの問題が生じており、例えば、膨大なデータ量、不完全なデータ、データプライバシー規制、データアーキテクチャ、他の技術との統合、アクセス管理、その他多くの相互に関連するリスクなどの問題が挙げられます。

AIにとってデータは極めて重要であり、先進企業がデータ管理の勝者であることは間違いありません。

グローバル家電メーカーの物流責任者は、次のように述べています。「自社では、生成AIを、保有する膨大な顧客データを解析し、その中から有益な情報を引き出すための重要な手段として捉えています。初回購入以降にやり取りがなかった顧客に関する記録を5億件も保管していたことが生成AIを通じて明らかになりました」

自社では、生成AIを、保有する膨大な顧客データを解析し、その中から有益な情報を引き出すための重要な手段として捉えています。初回購入以降にやり取りがなかった顧客に関する記録を5億件も保管していたことが生成AIを通じて明らかになりました。

適切なデータアーキテクチャ、ツール、およびポリシーを確立することは、生成AIの効果的な展開において不可欠なケイパビリティであるため、投資する価値があります。

グローバル電子機器メーカーのCIOは、次のように述べています。「予測アルゴリズムを効果的に活用するためには、リアルタイムのデータセットが必要です。しかし、自社は月次でデータを収集しているため、サプライチェーンにおいてリアルタイムでデータを更新する体制がまだ整っていません」

予測アルゴリズムを効果的に活用するためには、リアルタイムのデータセットが必要です。しかし、自社は月次でデータを収集しているため、サプライチェーンにおいてリアルタイムでデータを更新する体制がまだ整っていません。

生成AIで競争優位性の確保を目指すのであれば、データの管理体制を整える必要があります。具体的には、データのクレンジング、標準化、システムおよびエンジニアリングを優先して遅延を減らすことなどが挙げられます。また、メタデータを強化し、検索拡張生成(RAG)システムの使用することで、生成AIの結果の精度を高めることも必要です。
 

3. 生成AIがもたらす価値を最大化するためにサイバーリスクとデータリスクを軽減する

生成AIは新生テクノロジーです。それを踏まえると、調査参加者の40%がサプライチェーンへの生成AI導入に伴う新たなリスクや課題を完全には理解していないと回答していることは驚くことではありません。生成AIに対する理解は今後徐々に高まると予想されますが、生成AIイニシアチブから得られる価値を最大化するには、リスクの軽減と機会の最適化が不可欠です。

生成AIの活用には新たな脆弱性が付き物です。例えば、大規模言語モデル誘導して機密データを漏らしたり、その結果を操作したりするように設計されたプロンプト・インジェクション攻撃など、セキュリティ上の脆弱性が伴います。その他にも、誤情報やハルシネーション(幻覚)、知的財産権の侵害に対する法的責任、未検証技術への過度の依存、ブランドや評判の棄損、雇用の不安定化などのリスクをもたらします。先進企業はフォロワー企業に比べ、こうした新しいリスクにもより積極的に対応しています。

グローバル・オンライン・マーケットプレイスの技術責任者は、次にように述べています。「生成AIチャットボットのパイロット運用は順調に進んだのですが、モデルを更新した後にハルシネーションが生じました。そこで、全てのユースケースを再評価して、一部のモデルは変更し、付加価値を期待できないと判断したものは除外しました」

サイバーセキュリティリスクは企業にとって最大のリスクの1つであり、サイバーセキュリティの実装は一筋縄ではいきません。それ故に、生成AIを導入する際には、より強固なサイバーセキュリティ体制の構築が不可欠であり、最優先に取り組む必要があります。「2024年EYグローバル・サイバーセキュリティ・リーダーシップ・インサイト調査」の調査結果をトピッククラスター分析したところ、サプライチェーンの脆弱性は過去5年間で倍増したことが明らかになっています。サイバーセキュリティ担当者らはサイバー脅威に先手を打つためにAIの使用を拡大していますが、サプライチェーンとオペレーションの責任者もサプライチェーンに生成AIを安全に導入できるよう計画段階からサイバーセキュリティチームと緊密に連携し、サポートする必要があります。例えば、サプライチェーンにおける生成AIの潜在的価値を最大限に引き出すには、ユースケースの選定やガバナンスの策定にサイバーセキュリティチームを巻き込むことが重要となります。

生成AIチャットボットのパイロット運用は順調に進んだのですが、モデルを更新した後にハルシネーションが生じました。そこで、全てのユースケースを再評価して、一部のモデルは変更し、付加価値を期待できないと判断したものは除外しました。

目指すべき北極星を見つける

自律型サプライチェーン構想に対するサプライチェーンとオペレーションの責任者の思いはさまざまで、生成AIがもたらす飛躍的革新に期待感を示す人もいれば、エンド・ツー・エンドの完全な自律性の実現に懐疑的な人もいます。

そもそも、自律型サプライチェーンの実現というのは非常に高い目標であるため、エンド・ツー・エンドの完全な自律性を達成できなかったとしても、企業戦略に沿ってこの高い目標、すなわち「北極星」を追求することは非常に価値のあることです。自律型サプライチェーンに向けた一歩一歩の歩みは、可視性と俊敏性の向上をもたらし、レジリエンスの強化につながります。自動化は、今後もこれまでと同様に、少しずつ、局所的に進んでいくでしょう。

生成AIがサプライチェーンに革新的な進化をもたらす可能性があることはすでに広く認知されています。この新生テクノロジーは今後2年間でサプライチェーンにとって欠かせないものとして定着していくでしょう。生成AIの全ての可能性を引き出すには、企業の俊敏な行動が鍵となります。



サマリー

生成AIは、エンド・ツー・エンドの可視性とリアルタイムでの問題解決能力を備えた自律的なサプライチェーンを実現する変革的なツールとして活用され始めています。EYが実施した調査によると、企業が競争力を担保するためには生成AIの導入は不可欠であるものの、生成AIがもたらすリスクに対する理解や導入の複雑さなどの課題があり、企業は戦略の再評価を余儀なくされています。生成AIの導入において先進的な企業では、生成AIを駆使して需要予測の精度や運用効率などを改善していますが、他の多くの企業はそうした恩恵をまだ享受できていないというのが現状です。これらの課題を克服するには、戦略的ビジョンに基づいて行動すること、データ整備を優先すること、そしてサイバーリスクを軽減することが不可欠です。

本稿の執筆に当たり、協力いただいた次の方々に感謝の意を表します。Gautam Jaggi、AnnMarie Pino、West Coghlan(EY Insights, Ernst & Young LLP)、Joe Morecroft(EY Brand, Marketing and Communications, EYGS LLP)


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