顧客を喜ばせ、魅力的なバリュープロポジション(顧客ニーズに沿った価値提案)を提示するために、企業はどのように製品・サービスを製造し提供するかに焦点を当てなければなりません。この点について、現在ではパーソナライズされた体験が非常に大きな消費促進要因となっており、イノベーションと顧客エンゲージメントに対して異なるアプローチが求められるということを理解する必要があります。
DVx VenturesのCEO兼共同創設者であるJon McNeill氏は次のように述べています。「未来の創造者は現状に満足しません。否定的な意味ではなく、常により良いものを求めているからこそ満足していないのです。経営層が現場の最前線と深く関わり、自社製品に熱意を注ぎ、自社製品のカスタマージャーニーを頻繁に体験しているとすれば、密接につながっていると言えます。社内組織の階層を経由せず、市場と直接つながっている高速のフィードバックループがあれば、驚くほど大きな違いが生まれるでしょう。組織内のスピードとアジリティは大きく変わります」
このような、人を中心とするパーソナライズされたイノベーションを推進するには、組織のあらゆるレベルで多様性が求められます。チームの多様性の向上がイノベーション推進に有効であることは実証済みです。多様性には、年齢、性別、民族性だけでなく、背景やスキルも含まれます。企業は、斬新な思考と新しいアイデアを組織に取り入れるために、隣接する市場や能力に手を伸ばし、業界の境界を越えて人材を獲得する必要があります。
しかし、ダイバーシティの実現はまだ成されていません。本調査の回答者のうち、あらゆるレベルにおいて多様でインクルーシブなチームを形成していると答えたのはわずか28%でした。このギャップがより顕著に見られるのが組織のトップ層です。経営層に対する最も重要な変更について尋ねたところ、多様性の拡大を挙げたのはわずか8%、社外からの人材登用を挙げたのは7%でした。
企業は最先端テクノロジーと画期的なイノベーションの導入を競う一方で、人的影響を慎重に検討し、リスクの軽減、および顧客、従業員、エコシステムパートナーとの信頼関係の形成を図る必要があります。継続的かつ一貫して、意思決定の中心に必ず人を据えるようにすることで、CEOは従業員の活力と意欲を高めると同時に顧客を引き付けることができます。その結果、競争力が強化され、ひいては成長および市場での地位向上につながるでしょう。
責任あるテクノロジー導入の加速
パンデミックの発生で、文字通り一夜にしてデジタルファーストの時代が到来しました。今回の調査結果が、テクノロジーの加速が変革を推進する最も重要な要因だとする結論を裏付けるものとなったのも当然です。回答者の過半数(68%)が、今後1年間にデータとテクノロジーへの多額の投資を見込んでおり、63%はテクノロジーとデジタルイノベーションの加速が自社に最も大きな影響を与えていると述べています。
新しいテクノロジーが生まれ、成熟するスピードが速まっている中で、創造性を発揮する手段としてこれらテクノロジーを活用できる企業が、本質的に優れた業績を収めると考えられます。企業はこうしたテクノロジーを活用するだけではなく、絶えず進化する顧客、従業員、エコシステムパートナーのニーズに対応するために、テクノロジーをより迅速に導入する必要があります。経営層から新たに注目が集まっている、あるいは高まっているコンピテンシーとして、デジタル主導のビジネス変革(56%)とAI/データサイエンス(41%)が最上位に挙げられたのは当然のことかもしれません。
しかし、セキュリティ、プライバシー、倫理リスクに対する社会的意識が高まる中、どのようなテクノロジーであっても、企業は幅広く導入する前にその人的影響を慎重に検討する必要があります。CEOは、AIとデータサイエンスがもたらすメリットを最大限に享受するために、ステークホルダーとの信頼形成に特に注意を払うべきです。
テクノロジーの迅速な導入と活用を実現するには、従業員のスキルアップと再教育だけでなく、組織全体のあらゆるレベルで変革のマインドセットを浸透させなければなりません。バーチャル化の進む世界で人々の体験を向上させるテクノロジーの価値を完全に実現させるには、将来を見据えたリスク管理の実践と強力なサイバーセキュリティ機能が不可欠です。
慎重にイノベーションの規模を拡大する
パンデミックにより、企業は製品やサービスの設計、ビジネスモデル、運用モデルなど事業のあらゆる側面の再考と、イノベーションとアジリティに向けた抜本的な見直しを迫られています。どの企業もコアビジネスを保護し、強化する必要がある一方で、継続的で迅速なイノベーションを習慣とすることも求められています。
リーダーは、「バックキャスティング」アプローチで始めるべきです。まず自社が5年、10年、15年後に重要な立場にあるかどうか、そして大胆なリスクテイクによって競争優位性がどれくらい高められるかを考えるところから始めましょう。次に、これを念頭に置いて将来の潜在的なシナリオを検討し、イノベーションのアジェンダと企業戦略を調整します。