CEOが直面する喫緊の課題:変革の機会を捉えるには

CEOが直面する喫緊の課題:変革の機会を捉えるには


パンデミック下では、ビジネスを成功に導く新しいDNAが求められています。相互に関連する3つのバリュードライバーを追求することで、CEOは変革に向けた転換を図ることができます。


要点

  • 世界的なパンデミックは長年のトレンドを加速させ、成功する未来志向型企業の本質と特性をより明確にした。
  • 未来志向型企業のDNAを進化させるためには、CEOが主要な能力と実行のギャップを埋め、継続的な変革の姿勢を取り入れる必要がある。
  • 長期的に競争優位性を維持するためには、CEOは相互に関連する以下3つのバリュードライバーを追求しなければならない:Humans@center(人を中心に据える)、Technology@speed(迅速にテクノロジーを実用化する)、Innovation@scale(大規模にイノベーションを推進する)

世界的なパンデミックをきっかけに、長年のトレンドが大きな波となって押し寄せています。こうした中、ビジネスを成功に導く新しい企業DNAが求められています。リーダーにとって唯一の選択肢は、組織変革のペースを速めることです。この機を捉え、マーケットリーダーとなるだけではなくマーケットメーカーともなり、あらゆるステークホルダーに多大な長期的価値を生み出すのです。

CEO Imperative Studyは、Forbes Global 2000企業の最高経営責任者305名を対象に実施した調査です。今回の調査により、リーダーは組織の変革を試みているものの、能力と実行の重大なギャップに直面していることが明らかになりました。そのギャップは、デジタルトランスフォーメーションへの取り組みが不十分であること、長期的価値の創出に関して意図と実行が見合っていないこと、変革の目的と投資に悪影響を及ぼすデータおよびデータの信頼性の欠如、アジリティの障壁となる文化や組織構造、そしてアジリティとレジリエンスを阻むエコシステムへの投資不足など、多岐にわたります。

このようなギャップを埋め、意欲的な成長を達成するために、CEOは根本的に変わる必要があります。持続的に成長し、顧客、従業員、社会、投資家などあらゆるステークホルダーに長期的価値を提供するためには、継続的な変革に組織を対応させなければなりません。マーケットメーカーは、 3つの相互に関連するバリュードライバーを通じて、多大な価値と競争優位性を実現できるでしょう。

  • Humans@center(人を中心に据える):市場と顧客の変化のスピードに対応するため、徹底した顧客中心主義と、目的意識を持って人材育成を重視する企業文化を通じて、アジリティを根付かせる。
  • Technology@speed(迅速にテクノロジーを実用化する):企業がどのようにビジネスモデルを進化させ、顧客や従業員の体験を向上させるかに関し、先進テクノロジーの影響がますます増えている。創造につながるテクノロジーを活⽤し、迅速に導⼊することが不可⽋に。
  • Innovation@scale(大規模にイノベーションを推進する)︓企業は俊敏なイノベーション能⼒を培い、進化し続けるエコシステムと協働し、商品化し、新しい市場に迅速に参⼊しなければならない。

これら3つのバリュードライバーを、機動的な組織文化と併せて取り入れることで、企業はステークホルダーに高い長期的価値を提供し、成長の可能性を最大限に引き出し、新たな機会を活用できる立場に自らを置くことができます。

私たちは、CEOが直面する課題は極めて重大であり、リーダーとしての気概を厳しく問うものであることをはっきりと認識しています。それを踏まえ、EYのCEO Imperative Seriesはリーダーが自社の未来を再構築するにあたり、極めて重要な回答を導き出し、具体的な行動を決定するための知見を提供することを目的としています。

第1章  未来志向型企業が焦点に
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第1章

未来志向型企業が焦点に

事業を成功させるための変革に際し、リーダーは障壁に直⾯しています。

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CEOが直面する喫緊の課題 :逆境を成長への足がかりにできるか

パンデミックの発生は、リーダーたちの間ですでに議題であったトレンドの到来を加速させました。 CEOはこの変革の機会を逃すと取り残されてしまうでしょう。

    変革を進めるにあたり、今まで注力してきたのはどの領域でしょうか。多くの企業では、効率化や最適化、あるいは特定の機能の刷新を⽬的として、個別の業務領域を対象としてきました。しかし、今求められている変革はこれまでとは異なり、より緊急性の高いものです。リーダーはギアチェンジし、将来の機会に向けて有意義な変⾰を⾏う必要があります。
     

    EYの CEO Imperative Study によると、優秀なCEOはすでに新規投資に向けて動き出しており、ライバルを引き離そうとしています。また、パンデミックの収束に伴い、企業は景気の追い風を受けて自信を深めており、変革を加速する傾向にあることも分かりました。歴史に従うなら、現在の成長への投資は、パンデミック後の景気回復局面で大きな利益をもたらすでしょう。


    しかし、出発点は企業によって異なります。パンデミック以前から成長を遂げていた「成長型企業」は今、ライバルとの差を広げようとしています。「伸び悩み型企業」は以前から弱体化しており、パンデミックの拡大とともに業績は低迷しました。成長型企業が変革を加速し、新たな成長戦略に投資している一方で、伸び悩み型企業は組織変革のペースを遅らせ、コスト削減をより重視する傾向にあります。

    成⻑型企業がリードを広げ、他の企業はその地位を向上させようとする今、継続的に変⾰を行うというマインドセットを備え、未来志向型企業のDNAの⼟台となる新たな能⼒を常に進化させていくことが求められています。ではCEOは、どのようにしてビジネス環境を劇変させるさまざまな要因を乗り越え、ステークホルダーに長期的価値を提供する能力を構築できるのでしょうか。

    この10年間で、企業の目的、構造、役割が明確になってきました。ビジネスモデル再構築の必要性から、デジタル化や顧客の期待の変容に⾄るまで、企業は事業運営や価値提供の⽅法を進化させる必要に迫られています。このような要因が一斉に到来したことで、成功する未来志向型企業の本質と特性がより明らかになっています。

    次の5つの属性は、ビジネスを成功に導く新しいDNAの重要な要素として注目されています。
     

    戦略的かつ事業運営の成功を導きだすデータ

    顧客エンゲージメント、イノベーション、そしてアジリティにおける競争優位性を確立し戦略を支えるデータが果たす役割が注⽬されています。実際、データを活用し、インテリジェントテクノロジーを用いた製品とサービスは、新しい生活様式と働き方をもたらし、市場を作り変え、拡大するエコシステムを結び付けています。

    ビジネスリーダーは、成功する未来志向型企業においてデータ中心主義が果たす役割を強く意識しています。しかし今回の調査では、データに関して顧客から信頼されていると答えた回答者は34%にすぎず、インテリジェントテクノロジーとデータで実現可能なことと、人々が実現させたいこととの間に信頼のギャップが生じていることがうかがえます。この信頼のギャップが解消されなければ、成長は妨げられ、イノベーションは遅れ、変革の取り組みは失速することになるでしょう。  

    回答者の大多数(88%)は、データサイエンスを利用して、顧客ニーズを個別に予測し満たすことが、今後5年間の重要な差別化要因になるだろうと答えています。さらに回答者の87%が、今後5年間で最も競争力のある企業の特徴は、データ主導型の体験の提供になるだろうと述べています。

    CEOと経営層は、データの重要性を理解するだけではなく、データの取得、管理、使⽤、スケール化についても再考する必要があります。価値最優先のアプローチを採用し、データ、ビジネスモデル、先進テクノロジーに 信頼を根付かせることは 、組織に流れるインテリジェンスを強化し、最終的には目標とする持続可能な価値創造につながるでしょう。 

    継続的な変革を可能にする新たな人事モデルと構造

    継続的な変⾰の精神を追求・発揮するには、アジリティ、イノベーション、ダイバーシティの⽂化の醸成が不可⽋です。多様な人材を引き付けると同時に、従業員のスキルアップや再教育を進めるためには、新しい評価基準と組織構造が必要です。絶えず変化する状況に従業員が機敏に対応できるようにしながら、従業員を奮い立たせ、活気づけることが成長を実現する鍵となるでしょう。


    CEOの4分の3(75%)は、共感とソフトスキルが今後5年間で主な管理能力として注目されると考えています。76%が、採用、昇進、引き継ぎ計画、リーダーシップに関して新たな業績評価基準および報酬制度が必要になると考えています。また70%は、フラットな組織構造で小規模かつ自律的なチームが、最高の成果を達成するだろうと述べています。
     

    私たちの働き方は劇的に変化しています。CEOおよび最高人事責任者は、従業員の忠誠心とコミットメントを得るために 人事戦略を刷新し 、最終的に求められているアジリティと継続的な変革を達成する必要があります。

     

    エコシステムに焦点を当てる

    エコシステムへの統合は、成功する未来志向型企業の特徴となるでしょう。過去数年の間に業界の境界がなくなり、従来とは異なるライバルからの脅威が生まれています。「コーペティション(競合企業間の協力)」への移行を加速させ、エコシステムのビジネスモデルを採用し、卓越した顧客価値の提供と市場でのリーダーシップの達成を目指す企業が増えています。 

    企業の境界を越えて流動的に働き、パートナーのエコシステムと共創することが、今後、価値を創造する方法の一つとなるでしょう

    INSEAD教授のNathan Furr氏は次のように述べています。「企業の境界を越えて流動的に働き、パートナーのエコシステムや、場合によっては通常では考えられないパートナーとも共創することが、今後、価値を創造する方法の一つとなるでしょう。今まで協働など考えたこともないような企業が、実はあなたが求める最高のソリューションを持っているかもしれませんし、最も革新的な組織である可能性もあるのです」

    今回の調査では、エコシステムの重要性が増していることを回答者のCEOの多くが認めており、88%がエコシステムを主導し管理する能力が成功を導く経営陣の特徴になると考えています。そして、エコシステムに組み込まれることが、成功する未来志向型企業にとって2番目に重要な特徴として挙げられました。 

    エコシステムと完全に統合し、その価値を実現するには、エコシステムを自社の企業戦略に不可欠な要素とし、エコシステム内で調整するスキルを構築する必要があるでしょう。望ましい成果を得るためには、担当者として最高エコシステム責任者を任命する必要があるかもしれません。

    ステークホルダーの長期的価値を重視

    企業に求められる責任は増し、従業員、顧客、サプライヤー、そして社会全体の利益となるような経営を求める声も高まっています。本調査におけるCEOの見解は、ステークホルダーの長期的価値の創造への移行に対する機運が高まり、その重要性が増していることを示しています。長期的価値は、調査全体にわたり分野横断的な優先事項として浮上しており、成功する未来志向型企業の最も重要な特徴として挙げられています。

    回答者の91%は、ビジネスモデルに組み込まれる循環型経済の特徴が今後5年間で強まると予想しています。一方、87% は、ステークホルダー全体にとっての長期的価値の創造が市場から評価されるようになるだろうと回答しています。また80%は、長期的価値の創造を測定し、報告するためのグローバルなスタンダードができる可能性が高いと考えています。しかし、先の記事で考察した通り、長期的価値に関して意図と行動の間には明白なギャップが存在します。このギャップから、ステークホルダーの長期的価値の定義とこの目的の達成方法が不明確であることがうかがえます。

    EYでは、財務、顧客、人、社会の4つの柱または側面における長期的価値を見ています。これらの側⾯全体で企業価値を創造し、評価し、伝えることが、戦略と管理の優先事項になっています。CEOにはこの新しいガバナンスモデルを取り入れ、ステークホルダーの長期的価値の原理に基づいて成長とレジリエンスを向上させることが求められています。

    競争から脱落すれば、ステークホルダーの信頼を損なう恐れがあります。ライバルに追いつくためには、CEOは、財務や経営から営業やマーケティングに至るまで、ビジネスのあらゆる側面に目的でもある目標を浸透させ、すべてのステークホルダーの価値創造を推進する必要があります。また、パリ協定における目標や従業員満足度の測定といった株価以外の幅広い指標に報酬パッケージを連動させてインセンティブを改善するなど、ステークホルダーに関する目標達成を支える、より強力なガバナンスを取り入れるべきです。

    ステークホルダーのニーズを把握し、それに対応するには、エンゲージメントを高め、ステークホルダーと経営陣との間のフィードバックループを強化するメカニズムに加え、新しい能力が求められます。

    人的な課題と結びついたリーダーシップ

    多様性を増すステークホルダーに価値を提供するという課題に対処するには、イノベーション、信頼の醸成、そして望ましい特性のモデル化を重視する、強固で断固とした、思いやりのある、人を中心に据えたリーダーシップが必要です。デジタル化の推進、意思決定におけるデータと分析の重要性、リモートワークへの転換を背景として、リーダーの人的資質に注目が集まっています。

    思いやりを持って先導し、試行とリスクテイクの模範を示し、変革のマインドセットを全社に浸透させること。この3つが、今後5年間およびそれ以降、課題に挑み、機会を捉えることのできる最も優秀なCEOが持つべき特徴として挙げられました。また、回答者の89%は、CEOが破壊的イノベーションと事業の再構築を主導しなければならないと考えています。一方で80%は、ステークホルダーの信頼を確立することがCEOの職務において重要性を増すと考えています。

    CEOは、これらの新たな責務に向けて変革する意欲を示していますが、企業の能力、重点分野、意図を行動に移すことについてはギャップがあります(詳細は先の記事をご覧ください)。

    長期的価値における「言葉と行動」のギャップから、デジタル変革への継続的な挑戦、エコシステムへの投資不足、データの信頼性の隔たり、気候変動の盲点に至るまで、リーダーたちは、成功する未来志向型企業の特性を獲得し発展させるにあたり、大きな障壁に直面しています。

    第2章  相互に関連する3つのバリュードライバーを追求する
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    第2章

    相互に関連する3つのバリュードライバーを追求する

    相互に関連する3つのバリュードライバーを、機能横断的かつ継続的な変革のあらゆる側面に組み込むことができれば、企業の適応力は向上するでしょう。

    では、CEOおよび経営層は、将来に向けてどのように自社の組織を組み立て、調整し、見直しているのでしょうか。私たちがCEOとそのチームに推奨するのは、⼈を中⼼に据え、迅速にテクノロジーを実用化し、大規模にイノベーションを推進するという相互に関連する3つの核となるバリュードライバーを根付かせることで、過去にさかのぼって検討し、将来の戦略を策定することです。

    これらのバリュードライバーを取り入れ、組織文化の気風にアジリティを浸透させることで、極めて多大な価値を創造し、企業の存続にかかわるような将来のリスクに迅速に対応し、ステークホルダーの長期的価値を高めることができます。「これらの重要なバリュードライバーを基盤として、変革への取り組みを社内全体と関連づけることができます。これが、成長型企業が常に行っていることです」とEY Global Consulting Transformation LeaderのBill Kanarickは述べています。


    人を中心に据える

    変⾰を成功させるには、⼈々の体験を改善したいという熱意が不可欠です。どれほど優れた戦略であっても、それを実行する適切な人材とマインドセットがなければ何の成果も得られないでしょう。最先端のイノベーションや先進テクノロジーも、人にとっての価値を見失っていれば機能しません。リーダーは戦略を進めるにあたり、意思決定、技術の導入、製品・サービスのイノベーションの全てを「人」という視点から見る必要があります。 

    社内組織の階層を経由せず、市場と直接つながった⾼速のフィードバックループがあれば、驚くほど⼤きな違いが⽣まれるでしょう。組織内のスピードとアジリティは大きく変わります

    顧客を喜ばせ、魅力的なバリュープロポジション(顧客ニーズに沿った価値提案)を提示するために、企業はどのように製品・サービスを製造し提供するかに焦点を当てなければなりません。この点について、現在ではパーソナライズされた体験が非常に大きな消費促進要因となっており、イノベーションと顧客エンゲージメントに対して異なるアプローチが求められるということを理解する必要があります。

    DVx VenturesのCEO兼共同創設者であるJon McNeill氏は次のように述べています。「未来の創造者は現状に満足しません。否定的な意味ではなく、常により良いものを求めているからこそ満足していないのです。経営層が現場の最前線と深く関わり、自社製品に熱意を注ぎ、自社製品のカスタマージャーニーを頻繁に体験しているとすれば、密接につながっていると言えます。社内組織の階層を経由せず、市場と直接つながっている高速のフィードバックループがあれば、驚くほど大きな違いが生まれるでしょう。組織内のスピードとアジリティは大きく変わります」

    このような、人を中心とするパーソナライズされたイノベーションを推進するには、組織のあらゆるレベルで多様性が求められます。チームの多様性の向上がイノベーション推進に有効であることは実証済みです。多様性には、年齢、性別、民族性だけでなく、背景やスキルも含まれます。企業は、斬新な思考と新しいアイデアを組織に取り入れるために、隣接する市場や能力に手を伸ばし、業界の境界を越えて人材を獲得する必要があります。

    しかし、ダイバーシティの実現はまだ成されていません。本調査の回答者のうち、あらゆるレベルにおいて多様でインクルーシブなチームを形成していると答えたのはわずか28%でした。このギャップがより顕著に見られるのが組織のトップ層です。経営層に対する最も重要な変更について尋ねたところ、多様性の拡大を挙げたのはわずか8%、社外からの人材登用を挙げたのは7%でした。

    企業は最先端テクノロジーと画期的なイノベーションの導入を競う一方で、人的影響を慎重に検討し、リスクの軽減、および顧客、従業員、エコシステムパートナーとの信頼関係の形成を図る必要があります。継続的かつ一貫して、意思決定の中心に必ず人を据えるようにすることで、CEOは従業員の活力と意欲を高めると同時に顧客を引き付けることができます。その結果、競争力が強化され、ひいては成長および市場での地位向上につながるでしょう。
     

    責任あるテクノロジー導入の加速

    パンデミックの発生で、文字通り一夜にしてデジタルファーストの時代が到来しました。今回の調査結果が、テクノロジーの加速が変革を推進する最も重要な要因だとする結論を裏付けるものとなったのも当然です。回答者の過半数(68%)が、今後1年間にデータとテクノロジーへの多額の投資を見込んでおり、63%はテクノロジーとデジタルイノベーションの加速が自社に最も大きな影響を与えていると述べています。

    新しいテクノロジーが生まれ、成熟するスピードが速まっている中で、創造性を発揮する手段としてこれらテクノロジーを活用できる企業が、本質的に優れた業績を収めると考えられます。企業はこうしたテクノロジーを活用するだけではなく、絶えず進化する顧客、従業員、エコシステムパートナーのニーズに対応するために、テクノロジーをより迅速に導入する必要があります。経営層から新たに注目が集まっている、あるいは高まっているコンピテンシーとして、デジタル主導のビジネス変革(56%)とAI/データサイエンス(41%)が最上位に挙げられたのは当然のことかもしれません。

    しかし、セキュリティ、プライバシー、倫理リスクに対する社会的意識が高まる中、どのようなテクノロジーであっても、企業は幅広く導入する前にその人的影響を慎重に検討する必要があります。CEOは、AIとデータサイエンスがもたらすメリットを最大限に享受するために、ステークホルダーとの信頼形成に特に注意を払うべきです。

    テクノロジーの迅速な導入と活用を実現するには、従業員のスキルアップと再教育だけでなく、組織全体のあらゆるレベルで変革のマインドセットを浸透させなければなりません。バーチャル化の進む世界で人々の体験を向上させるテクノロジーの価値を完全に実現させるには、将来を見据えたリスク管理の実践と強力なサイバーセキュリティ機能が不可欠です。
     

    慎重にイノベーションの規模を拡大する

    パンデミックにより、企業は製品やサービスの設計、ビジネスモデル、運用モデルなど事業のあらゆる側面の再考と、イノベーションとアジリティに向けた抜本的な見直しを迫られています。どの企業もコアビジネスを保護し、強化する必要がある一方で、継続的で迅速なイノベーションを習慣とすることも求められています。

    リーダーは、「バックキャスティング」アプローチで始めるべきです。まず自社が5年、10年、15年後に重要な立場にあるかどうか、そして大胆なリスクテイクによって競争優位性がどれくらい高められるかを考えるところから始めましょう。次に、これを念頭に置いて将来の潜在的なシナリオを検討し、イノベーションのアジェンダと企業戦略を調整します。


    EYメガトレンド

    EYメガトレンド・フレームワークは、「予期せぬ事象」を見逃さないように従来の常識に捉われず、より広い視野での分析を提供します。変革の道筋を定めるには目先の課題からではなく、未来のゴールを見据えて組み立てることが今まで以上に重要です。


    企業はまた、イノベーションの可能性を広げるために、外部に目を向けなければなりません。エコシステムパートナーと協働し、課題の理解を深めることは、顧客、従業員、市場、社会に受け入れられるアイデアの発見につながります。また、イノベーションの規模をより迅速に拡大するには、データ、最先端のインテリジェントテクノロジー、そしてクラウドインフラストラクチャーを活用することも必要です。

    しかし何よりも重要なのは、イノベーションの原動力である人材を、必ず最前線の中心に据えることでしょう。今回の調査では、回答者の38%が、今後3年間にイノベーションのプロセスの変更を実施する予定と答えています。これらの回答者が重視しているのは、アイデアの創出と試行をより迅速に行うことと、リスクテイクを拡大する方向に組織を転換することです。そうした目的の本質は人であり、目的を達成するには、変革のマインドセットの一部にイノベーションを取り入れ、適切なリスクテイクのツールと許可を従業員に与えることが必要になります。

    さらに、企業が膨大なデータと最先端テクノロジーをイノベーションの原動力として活用する場合には、個人のプライバシーとセキュリティを確保しなければなりません。革新的な製品、サービス、ソリューションの価値を最大限発揮するには、ステークホルダーから信頼を得ることが必要です。イノベーションを通じて人の状況改善に取り組んでいることを示すことが、成功の鍵となるでしょう。

    3つのバリュードライバーを、求められている機能横断的かつ継続的な側面すべてに組み込み、根付かせることで、企業の適応力は向上するでしょう。それにより事業運用モデルの俊敏性が高まり、ステークホルダーの長期的価値創造の原理と密接につながり、最終的には成長の可能性を最大化するのです。

    第3章  未来志向型企業を創る4つの方法
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    第3章

    未来志向型企業を創る4つの方法

    自社の組織を再構築し、バランスを取り戻すことで、変革を実現するための主要な検討事項を把握します。

    新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、企業の目的そのものを再構築する過程において、すでにビジネスモデルと運用モデルを変えていた力を強め、拡大しました。パンデミックの先にあるのは新しいビジネスモデル、運用モデル、能力を継続的に刷新し、結集・拡大することを企業に求めるダイナミックな未来です。企業は組織のあらゆる側面においてアジリティを体現するとともに、人々の体験向上に動機づけられた継続的な変革のマインドセットを取り入れる必要があるでしょう。

    野心的に聞こえるかもしれませんが、事実、その通りなのです。CEOは、この新しい社会に合わせて自社の組織を再編し、改革し、方向転換をするために大胆かつ断固とした措置を講じなければなりません。CEOは曖昧さを容認し、より機敏になり、積極的にリスクを取り、そして新たな機会に対し迅速な転換を図るために、アジリティを高める必要があります。⼈を中⼼に据え、迅速にテクノロジーを実用化し、大規模にイノベーションを推進する。相互に関連するこれら3つのバリュードライバーを取り入れることで、企業は成功する未来志向型企業のDNAを獲得することができ、企業の成長の可能性を実現し、ステークホルダーの長期的価値創造を促進することができます。

    次に挙げるのは、変革を実現するために組織を再構築し、バランスを整えるにあたり検討すべき重要な事項です。

    1. バックキャスティングアプローチを採⽤し、企業の⽬的を指針として進路を決定し、⻑期的な重要性とレジリエンスの確保に必要な能⼒を形成する戦略的基盤を構築する。
    2. 現状に満足せず、より良いものを求めるまで満足しないマインドセットを持ち、組織のあらゆる面で常に改善を求める。顧客、従業員、エコシステムパートナーの立場に立ち、率直なフィードバックを得て企業のあらゆる面で意思決定に反映させる。
    3. イノベーションのプロセス、テクノロジーの採用と導入、そして企業文化のあらゆる側面に、人間中心の考え方を浸透させる。意思決定の際には、従業員、顧客、パートナー、コミュニティーにどのような影響を及ぼすかを考える。
    4. データの取得、管理、利用、測定方法の再構築においては信頼を中心に据え、発信する情報について顧客、従業員、エコシステム、規制当局からの信頼を得る。

    未来志向型企業のDNA

    2021年CEO Imperative Study第1部:
    企業における変化の原動力、変革の目標と能力のギャップ、未来志向型企業のDNAとは何かについて、CEOの見解を明らかにします。

    いかにして変革を実現するか

    2021年Imperative Study第2部:
    長期的価値創造の基盤を築きながら、組織のギャップを克服して変革目標を実現する方法を解き明かします。


    サマリー

    新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、企業の目的そのものを再構築する過程において、すでにビジネス環境を変えていた力を拡大しました。企業が直面しているのは、新たな機会に対し迅速な転換を図るためにより機敏で、曖昧さを容認し、積極的にリスクを取ることが不可欠な、ダイナミックな未来です。CEOは継続的な変⾰のマインドセットを取り⼊れ、Humans@center(⼈を中⼼に据える)、Technology@speed(迅速にテクノロジーを実用化する)、Innovation@scale(大規模にイノベーションを推進する)という、相互に関連する3つのバリュードライバーを根付かせることでチャンスを捉えなくてはなりません。それにより、成⻑の可能性を実現し、ステークホルダーの⻑期的価値の創造を促進することができるでしょう。


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