EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
より良い社会を共に創る、未来のプロフェッショナルに伝えたいことをお届けします。
要点
多田:私がEY新日本有限責任監査法人に⼊社したのは2004年でした。小さいころからサッカー選⼿になりたいと思っていたこともあって「プロフェッショナル」への憧れがありました。また、社会人になったら「グローバル」に活躍したいという思いがありました。その2つの要素が交差し、たどり着いたのがEYでした。
富田:僕がEYに⼊社したのは2015年、26歳になった年です。東京2020パラリンピック競技⼤会への出場を⽬指していたこともあり、アスリート雇⽤で選⼿を⽀援してくれる企業を探していました。僕は単なる⽔泳選⼿ではなく、社会に対するメッセージを発信する役割を担って、何かしらポジティブな影響を社会に与えたいと考えて常に活動しています。EYから話をもらった時に決め⼿となったのは、EYにはBuilding a better working world(より良い社会の構築を⽬指して)というパーパス(存在意義)があったことです。それに共鳴し、⾃分の考えと⼀致していたことがEYに⼊社する決断の理由になりました。
多田:EYは以前から、社会への貢献意欲の高い組織だったように思います。私自身のキャリアでも会計監査を主軸としてきましたが、適正な財務情報を保証することで資本市場を支えてきたという自負があります。近年では財務情報にとどまらず⾮財務情報も含め、トータルサービスを提供して企業や社会に貢献しようという意識が組織全体で高まっており、次のステージに向かっていると感じています。
多田:そうした見方もできるかもしれません。私が入社してからもいろいろとありましたが、その度に社会に必要とされ、愛される組織とはどうあるべきかを一人ひとりが真剣に考えてきました。その結果たどり着いたのが私たちの原点でもあるパーパスとも言えるわけですが、そこに時代の流れに対するアドバンテージがあったかもしれません。
富田:競技を続けている中で、⽣きづらいと思う時はあります。それは施設の利⽤やコミュニケーションの中 で、バイアスを感じることがあるためです。僕はマイノリティーの⽴場から、そうした思いをしている⼈たちを少なくして、共⽣社会の重要性を打ち出し、社会の変化を推進する原動⼒に少しでもなりたいと思っています。そうした活動を通じてEYのパーパスの実現に役に立つことができると考えています。
富田:かつてない反響をいただいています。⾃分の⾝のまわりで起きていることといえば、街を歩いていて声を掛けられる頻度が⾼くなりましたね。皆さんの中でパラアスリートの認知度や関心は確実に高まったと思いますし、そうした変化はまだ⼩さな炎かもしれませんが、徐々に、しかし確実に⼤きくしていくことが重要だと考えています。
多田:EYではダイバーシティ&インクルーシブネス(D&I)を経営戦略の基軸の一つとして明確に位置付けています。私もD&Iの推進を担当していますが、一人ひとりの社員の意識に急速に浸透しているのを感じています。⼤切なのは、異なる個性が重なり合うことで⽣まれるパワーです。イメージとしては、合唱やオーケストラでハーモニーが重なると、⼤きな感動を⽣みますよね。EYには和⾳の持つ⼒が広がりつつある気がします。
富田:僕の場合は、障がい者の⽴場から、EYに貢献したいという思いは強くありましたが、最初はなかなかそれを実現できませんでした。⼊社して2、3年は試⾏錯誤していたのが本⾳です。そんな時に、東京2020パラリンピック競技⼤会という⼤きな舞台があり、それはEYだけではなく、社会全体にD&Iの発想が浸透する機会になった気がします。
国内で開催されたパラリンピックのおかげで、EYのメンバーの⽅たちとコミュニケーションを図る機会が⽣まれ、実際に皆さんから⼤きな声援をいただきました。僕としては皆さんとつながることはモチベーションの向上にもつながり、その勢いを社会に対して打ち出すことができた実感がありました。
多田:富⽥さんがされている活動のように、積極的にメッセージを発信していくことがEYにとっても今後ますます重要になりますね。
多田:スポーツを単なる娯楽などではなく、ひとつの社会的資源だと捉えています。スポーツは人間の生きるエネルギーであり、本質が集約されています。だからこそ、世界中の多くの人が本能的にスポーツに惹かれるのでしょうし、これからもそれは永続的に続いていくものでしょう。今、世界ではSDGs(持続可能な開発目標)を中心に社会課題への取り組みを急速に進めており、企業も自らの価値の再定義を行っています。その中で、私たちはスポーツのパワーに気付き、スポーツを⽣かす⽅法を追求し始めています。EYとしては、企業、⾃治体の皆さんの取り組みを⽀えていきたいと思っています。
富田:僕は東京2020パラリンピック競技⼤会の開会式で、ベアラーというパラリンピック旗を運ぶ役をさせていただき、オリンピックスタジアム(国⽴競技場)に⼊っていった時に、無観客だったにもかかわらず、スタンドの広さを実感しました。ああ、スポーツって多くの⼈たちが1カ所に集い、世界中の⼈たちが⼀瞬で感動を共有するエモーショナルなイベントなんだ、と改めて気付きました。これだけ⼤きな影響⼒を持つコンテンツは、他にはなかなかないですよね。その意味で、東京2020オリンピック・パラリンピック競技⼤会の”United by Emotion”というモットーには、すごく⼤きなメッセージが込められていたと思います。
多田:テレビで観ていましたが、あの瞬間、富田さんにはそんな世界が広がっていたのですね。あの場所に立てる人だけが見ることができる世界ですよね。富田さんをはじめとする、アスリートの社会的な価値もまたものすごく高いと思っています。
富田:ありがとうございます。
多田:EYはアスリートのセカンドキャリア支援も積極的に行っていますが、選⼿たちがスポーツの中で積み上げてきたものは、個⼈にとっては経験であり、社会にとっては資源につながります。アスリートの方々を支えることがより良い社会につながると信じています。
富田:それこそ、まさに僕が発信していきたいことです。競技を通じて感じたこと、得たことを、社会の変化のきっかけとなるような形にして発信する、そうすることで社会の価値観や人々の行動が変わることに役に立てないかと追及し続けています。
多田:そうですよね。そしてスポーツの社会的な活用という点で、もうひとつの主役である企業や⾃治体という組織に対して、スポーツという社会的資源を、どう活かしていくかをEYとしてサポートしたいです。今年からEYではスポーツの価値循環モデルを提唱し、複数のスポーツチームや自治体と実践しています。EYがスポーツの分野でできることはまだまだたくさんあると思っています。
富田:僕が思うプロフェッショナルというのは、成果にかかわらず成⻑し続けられる存在です。一つの結果に一喜一憂せず、立ち止まらず、次のステージを常に⽬指しながら新しいものを取り入れ、常に変化して成長を続ける、そうした存在がプロフェッショナルだと思いますし、そうした存在の⼈が社会を変えていくはずです。⾃分もそうした存在を⽬指したいですね。
多田:昔は、プロフェッショナルというのは何かのスキルに秀でている⼈というのが⾃分なりの定義でしたが、今は⾃分のスキルを社会のために⽣かせる⼈がプロフェッショナルだと考えるようになりました。例えば、どんなにサッカーがうまくても、そのスキルを家の庭で発揮していてもプロではない。そのスキルを使って、⼈に感動を与え、社会に対してプラスの影響を与えることができる⼈がプロだと思っています。その意味で、東京2020パラリンピック競技⼤会で⾒せた富⽥さんのパフォーマンスは、プロフェッショナルそのものだと思います。
富田:ありがとうございます。
多田:実は以前からアスリートはバリューチェンジャー(価値観を変える存在)になれると思っていて、今回、富⽥さんだけでなく、多くのパラリンピアンがいろいろなバリュー(価値観)を変えたと思います。つまり、アスリートがプロフェッショナルとして⼤きな社会的存在になり得ることを証明したのが、東京2020パラリンピック競技⼤会だったと思います。
富田:今回の東京2020パラリンピック競技⼤会では、多くの方々が、僕らの中にある可能性を初めて目の当たりにして、大きな衝撃を受けたと思います。それによって本当に皆さんの価値観が変わりました。そうした変化を起こせる存在であり続けることが、僕にとってのプロフェッショナルであり、アスリートという立場でその存在であり続けることができたら、それ以上のやりがいのある仕事というのはないのではないかと僕は感じています。
多田:富田さんにはアスリートとしての顔と、社会への情報発信者としての顔があると思いますが、富田さんの中ではどちらかの意識が強いのですか?
富田:もともと自分の活動を通して社会に何かポジティブな影響をもたらすことをやりがいにしたいという土台がありましたが、プロになると思った時、そこに価値を創らないといけないと思いました。自分が獲得するメダルの価値は何だろうかとずっと自問して、そこから出てきた言葉を世の中に発信していかなければという使命感みたいなものは常に自分の中にあります。ただ、情報発信が優位になると、アスリートとしての土台が崩れてしまう。アスリートとしての成長があってこそ、発信する情報にも価値をもたらすことができるし社会への影響力も出てくる。どちらが欠けてもいけないんです。その両輪をきちんと上手に回すことが大切で、そのバランスというのは本当にシビアに考えていますし、ずっと僕のテーマでした。
多田:なるほど。富田さんは生粋のプロフェッショナルだとよく分かりました。
富田:僕は、採用や面接といった人から試される場面では、「自分の強み」というワードを意識します。この場合の強みというのは、自分の得意なことやアドバンテージとかではなく、自分の中にある「濃い部分」を指します。
富田:他の⼈にはない、自分だけのすごく特徴的な部分です。それを強みとして捉えることにしていて、例えば、僕の強みは何かと⾔ったら、⽬が⾒えないことです。なぜなら皆さんは⽬が⾒えるから、パラリンピックには出られない。つまり、僕は⽬が⾒えないという強みがあるから、パラリンピックに出ることができて、メダルも獲得し、社会的な活動ができるわけです。皆さんもそれぞれ社会に出ていくときに、⾃分の⾝体的、精神的な特徴をよく分析して、それが活かせたりポジティブな⾯で活⽤できたりするフィールドを探せば活躍できる場所が必ず⾒つかるはずです。
多田:新しい表現を聞きました。濃い部分。いいですね。
富田:多田さんの濃い部分って、なんですか?
多田:なんだろう……。あえて言うならば、しつこいことかもしれません(笑)。とにかく考えます。なぜ︖ 何のために︖ ということは常に考えています。例えば、社会はなぜ成長しなければならないのか、企業が利益を出すのは何のためか、といった命題は以前から考えていました。そう考えていくと、哲学的なところに突っ込まざるを得なくなることもありますが、富⽥さんの話を聞いて、もしかしてそれが自分の濃い部分になるかもしれないと思いました。
多田:特に最近、そう思います。最後には、⼈間って何だろうというところに⾏き着くのかもしれませんが、以前は仕事とは別のところでそういうことは考えるべきだと思っていました。ただ、今や企業は価値の再定義を進めており、経営者の方もビジネスの中で社会であり、組織のことを深く考えています。EYでも経済的価値だけではない、長期的価値(Long-term value)モデルを提唱しています。仕事を通してそういうアプローチに頻繁に触れるようになってきたことは、社会の変化として感じています。
多田:時間の使い方という点で「ワーク・ライフ・バランス」という⾔葉がありますが、私⾃⾝は、ここからがワーク、ここからはプライベートというように分けて考えるというよりも、もうすべてごちゃまぜで、⽬の前のやりたいこと、やるべきことを、1日を通して行っているという感覚があります。もちろん、社会人としてのメリハリや切り替えもわきまえたうえで行ってますが。
富田:多⽥さんのお話に共感します。「ライフワーク」という⾔葉がありますけど、僕の場合はライフがワークだと思っています。それは、⾃分が⼈⽣を懸けてチャレンジするところを皆さんに⾒ていただき、それが社会に対してのインパクトになればいいと思っているからです。
多田:まさに、⼈⽣にリンクする仕事ができたらいいですよね。いま、EYではグローバルで「トランスフォーマティブ・リーダーシップ」という取り組みがあって、そこでは真ん中に「⼈⽣の⽬的(My Purpose)」を置きます。つまり、⾃分の⼈⽣にとっての⽬的は何かと考える。それを周囲へと膨らませていき、仕事の中でどう実現するのか、また、その⽬的を組織の目的にどうつなげていくかを追求するモデルです。富⽥さんがおっしゃるライフワークというのは、少し形を変えてはいるけれども、EYが⽬指していることに⼀致していると感じます。富田さんは私たちの一つのロールモデルですね。
多田:富田さんの言葉を借りますが、私は「濃い人」ですね。
富田:今日の流行語になりましたね(笑)。
多田:本当に(笑)。EYはパーパスを⼤きく掲げていますが、それを実現させるためのEYの経営戦略は、異なる個性が重なり合うことによって⽣まれる調和を重視しているわけです。その⾯⽩さを実感しています。
でも、人が個性を出す、ぶつかり合うためには、受け⽫がないと安⼼してそれを表現できない。EYには、皆さんが安⼼して個性を活かせる環境があると思います。
従って、もし皆さんがEYで働くならば⾃分の濃い部分を遠慮なく表現してもらいたいですし、それを周りとどうやって調和させていくのかを突き詰めてほしいと思います。その姿勢こそがプロフェッショナルだし、そういう⽅と⼀緒に仕事をして、これまで⾒たことのない世界を創り上げられたら楽しいですね。
富田:僕が⼀緒にお仕事したいなと感じるのは、柔軟性を持っている⼈です。能⼒が⾼い⼈はたくさんいますが、能⼒が⾼いがゆえに柔軟性や他者から何かを吸収することを⽋いてしまう⽅がいるな、と感じる時があるんですね。だからこそ、好奇⼼が旺盛で、いろいろな変化に対してどん欲に、プライドにとらわれず取り組んでいける⽅。そういう⼈がどんどん成⻑していくだろうし、さまざまなフィールドで活躍して、それこそパーパスを実現できる⼈ではないでしょうか。そういう⽅と⼀緒にいろいろなことにチャレンジしきたいですね。
富田 宇宙(とみた うちゅう)
主な成績:東京2020パラリンピック競技大会400m自由形(S11)、100mバタフライ(S11)銀メダル、200m個人メドレー(SM11)銅メダル
3歳から⽔泳を始めたが、高校2年時に進行性の難病「網膜⾊素変性症」が発症。⼀時は⽔泳から離れたが、⽇本⼤学卒業後の2012年にパラ⽔泳の世界へ。2017年にS13からS11クラスに変更になり、得意の400m⾃由形でアジア記録を更新。2019年パラ競泳世界選手権で好成績を残し、東京2020パラリンピック競技⼤会ではパラリンピック初出場ながら3つのメダルを獲得した。
EY Japanには2015年入社。EY Japanパラアスリートとして所属しながら、日本体育大学大学院でコーチングの研究にも取り組む。
多田 雅之(ただ まさゆき)
EY新日本有限責任監査法人 第2事業部 パートナー
業務執行社員として、上場企業をはじめさまざまなクライアントに会計監査サービスを提供する。その傍ら、監査品質の向上、D&Iの推進、ビジネス界とスポーツ界との融合に積極的に取り組んでいる。
2004年の入社以来、国内外のグローバル企業に向けた保証業務や、SOX対応、IFRS導入、IPOなどの支援業務に従事。これまで担当したクライアントはIT企業、総合商社、メーカー、小売、医療法人など、多岐にわたる。また、ニューヨークでの勤務経験や、米国証券取引委員会(SEC)関連業務の経験を複数有するとともに、各国のEYのメンバーファームと連携して海外企業の日本法人の会計監査を行うなど、国際関連業務に強みを持つ。
一橋大学商学部卒業
公認会計士(日本)
生島 淳(いくしま じゅん)
スポーツジャーナリスト。宮城県生まれ。広告代理店勤務を経て、1999年にスポーツジャーナリズムの世界へ。オリンピック取材は8回、ラグビーワールドカップは6回を数える。著書に『エディー・ジョーンズとの対話』(文芸春秋)、『箱根駅伝ナインストーリーズ』、『奇跡のチーム』(共に文春文庫)など多数。早稲田大学、鹿屋体育大学非常勤講師。
EYには 、Building a better working world(より良い社会の構築を目指して)というパーパス(存在意義)があり、社会にポジティブな影響を与えたいと考える文化があります。また、アスリートと会計士といったさまざまな分野のプロフェッショナルがそれぞれに活躍できる場所があります。
スポーツが次のステージに向かうために、求められていることは何でしょうか︖
かつて娯楽として喜びを提供していたスポーツは、今や社会のインフラへと変容し、時にイノベーションをもたらします。スポーツがより豊かな社会の実現に貢献し続けるために、直面している2つの課題について考察します。