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インフラ事業運営の「再公営化」は進んでいるのか?~フランス水道事業の事例から~


2018年12月に水道事業の広域連携推進策、施設の適正管理における推進策、官民連携に関する新たな仕組みの導入などが盛り込まれた改正水道法が成立しました。

法案審議で関心を集めたのが、コンセッション方式※1に関する改正内容でした。水道事業における官民連携の選択肢の一つとして、コンセッション方式を水道事業で導入する場合は国による許可制度を設けるなど、その改正内容が公の関与を強化した仕組みを取り入れるものであったため、導入の是非をめぐって議論が巻き起こりました。

法案審議過程では、海外における再公営化の状況が取り上げられました。そして、「2000~16年の間に少なくとも世界33カ国の267都市で、水道事業が再び公営化」(2018年12月6日毎日新聞)している、といった内容を多くのマスメディアが報じました。

ここでいくつか気になる点が出てきます。

果たして、これだけの事業が再公営化される中で、逆の流れ、すなわち民間化の流れはまったく存在しないのでしょうか。議論の過程ではこの点が顧みられることはほとんどありませんでした。

そもそも「再公営化」とは具体的にどのような形態に事業運営が帰着することを指すのでしょうか、そしてそれはわが国で一般的にいうところの「公営」(自治体組織の一部門としての公営企業)と同義なのでしょうか、それとも異なるのでしょうか――これらの点についてはあまり明確にされてきませんでした。

こうした点を客観的に明らかにすることが、海外の「再公営化の流れ」といわれる事象の理解をより一層正確なものにすることに資すると考えられます。ここでは、コンセッション方式の本場であるフランスを参考に、客観的中立的な視点で再公営化やコンセッション化※2に関係する状況を紹介します。


記事の概要

  • I. 2010年から2015年を対象とするフランスの公的機関報告書によると、フランスでは、上下水道事業の再公営化が発生している一方で、コンセッション化する事業も同等以上の件数で存在しています。水道事業の場合、いずれも68件と同数です。
  • II. 再公営化またはコンセッション化への移行件数(2010年から2015年合計)は、約1万2,000の水道事業、約1万5,000の下水道事業の総事業数に対しては、1%以下のごく一部で発生している現象です。さらに、単年での水道事業の再公営化またはコンセッション化の移行件数はそれぞれ11件程度であり、総事業数に対して0.09%です。
  • III. 「『移行』のみならず、事業全体がどの方式で運営されているか」を観察すると、水道事業では事業数ベースでは公営が多数(69%)であるものの、人口ベースではコンセッション方式による運営の対象人口が多数(59%)を占めます。
  • IV. 再公営化された事業における、再公営化後の運営形態は、自治体が自ら運営するわけではなく、わが国でいう地方独立行政法人に類似した形態(EPIC)や自治体100%出資会社(SPL)であるケースが主要都市では多く見られます。
  • V. フランスでも、地方自治・住民自治の対象である水道事業の経営形態がいかにあるべきかについて、事業主体である自治体にとって多様な選択肢が用意されています。そして、メリット・デメリットの比較なども含め多様な議論がなされ、公営の継続、コンセッション方式の継続、再公営化、コンセッション化といった多種多様な判断がケース・バイ・ケースで決定されてきています。日本でも、水道事業の今後の経営環境・経営課題を見据えて、現実を直視した冷静かつ建設的な議論のもと、そのようにあるべきと考えます。

詳細は、以下の資料をご覧ください。

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脚注

※1 コンセッション方式とは、利用料金の徴収を行う公共施設について、施設の所有権を自治体が所有したまま、民間企業に水道事業の運営を委ねるPFI法に基づく官民連携の一方式である。

※2 フランスではコンセッション方式に類似するアフェルマージュ方式やレジーアンテレッセ方式など、複数の官民連携の仕組みをまとめて「DSP(Délégation de service public:公役務の委託)」という概念で包含し、「公営」と対比することが一般的である。わが国ではDSP方式に相当する官民連携手法を総称して「コンセッション方式」と呼んでいることから、ここでは議論の簡略化のためにDSPのことをコンセッション方式と表記する。


サマリー

人口減少時代の日本で、水道や交通などのインフラ施設を今後も維持していくためには、官民が連携した効果的・効率的な施策が望まれます。
そうした中、2018年12月の改正水道法案の審議では、水道事業における官民連携手法であるコンセッション方式に関する改正内容が議論の焦点となりました。議論の中では、諸外国では水道事業の運営が再公営化されているといった観点からの批判もありましたが、再公営化の定義などは必ずしも明らかではありません。ここでは、海外の「再公営化の流れ」といわれる事象の理解をより一層正確なものにするため、コンセッション方式の本場であるフランスを参考に、客観的中立的な視点で再公営化やコンセッション化に関係する状況を紹介します。


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