15 分 2024年6月12日
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生成AIが経済に与えるインパクトを読み解くー技術革新による市場変動について

執筆者 Gregory Daco

EY-Parthenon Chief Economist, Strategy and Transactions, Ernst & Young LLP

Inclusive leader. Passionate about how economics can help organizations navigate an uncertain world. Husband and dad. Judo black belt, competitive triathlete and avid traveler.

EY Japanの窓口

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 EYパルテノン ストラテジー パートナー

DX(デジタル・トランスフォーメーション)を起点に、既存事業の変革や新規事業の創造、また、それらを支える経営基盤の改革などの戦略領域をリード。

15 分 2024年6月12日

過去の技術進化から学ぶべき点は多く、それらは生成AIの経済への影響力を理解するための重要な手がかりとなります。

要点
  • 生成AIの到来は大きな期待を醸成しているが、リーダーの多くは、生成AIが果たす役割の全容と自社に及ぼす影響について確信が持てずにいる。
  • 過去の技術革命の事例から学ぶことが、AIの普及に伴う経済的影響の予測につながる。
  • 生成AIの効果が十分に浸透していくにつれ、今後数年のうちに、生産性の向上および労働市場の進化と根本的な変化が加速する可能性がある。
Local Perspective IconEY Japanの視点

生成AIの進展は、日本市場においても大きな変革をもたらす可能性を秘めています。日本企業の技術力と、生成AIの導入による生産性の向上は、既存のビジネスモデルを大きく変えることが予想されます。特に、製造業を中心とした産業においては、AIによる自動化と効率化が一層進むことで、国際競争力のさらなる強化が期待されます。

しかし、技術革新には必ずしも一律のポジティブな影響のみならず、労働市場への混乱や既存スキルの陳腐化といった課題も伴います。日本企業は、これらの変化に対応するために、従業員のリスキリングやアップスキリングに投資し、新たなビジネスチャンスを捉えるための柔軟な戦略を立てる必要があります。

また、日本独自の社会的課題、例えば高齢化社会に伴う労働力不足などに対しても、生成AIは解決策の1つとして期待されています。AIが単純作業を代替することで、人間はより創造的で価値の高い仕事に集中できるようになり、社会全体の生産性向上に寄与することができるでしょう。

経営者は、これらの技術的な進歩を理解し、企業の長期的な成長戦略に組み込むことが求められます。生成AIの潜在能力を最大限に活用し、新たなビジネスモデルの構築や市場での競争優位性を確立するためには、戦略的な思考と迅速な行動が不可欠です。
 

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野村 友成
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 EYパルテノン ストラテジー パートナー
岡部 裕之
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 テクノロジー/メディア・エンターテインメント/テレコムセクター/インテリジェンス ユニット シニアマネージャー

近年、生成AIほど期待が高まっているテクノロジーはありませんが、経営者、政策立案者を始めとする利害関係者の中に生じている疑念や懸念がその盛り上がりに水を差しています。

生成AIシステムは極めて複雑であり、あまりに急激な進歩を見せているため、組織、経済、社会に及ぶ影響を予測することは確かに困難です。シリーズの最初の記事である本稿では、歴史上の事例を手掛かりに、生成AIが将来もたらす可能性のある影響と、経済面での機会と課題を明らかにします。

歴史を通して、テクノロジーは仕事の性質と組織を変容させ、ビジネスの効率と生産性を高め、新たな形態の仕事を生み出し、それによって経済を容赦ないまでに根本から変革してきました。

また、新たなテクノロジーのイノベーションは労働者の失業増加にもつながるため、大きな混乱を引き起こしてきました。その導入当初には、多くの場合、導入することへのためらい、経済発展の鈍化、不平等の拡大が生じています。

そうした過去の急激な技術変革の経緯から、AIが経済にどのような影響を与え得るかを理解する上で鍵となる3つの洞察を引き出すことができます。

  1. 生産性の大幅な向上:生成AIにより生産性の伸びは著しく加速し、これまでの汎用技術と同様に生活水準の向上につながる可能性があります。EYでは、ITがけん引した1990年代における生産性上昇の加速を検証した結果を踏まえ、生成AIは今後10年間で生産性の伸びを50~100%押し上げる可能性があると推定しています。しかし、産業革命や電力の普及時のような、生産性の2倍増、3倍増には及ばないとみられます。
  2. 影響が及ぶまでのタイムラグ:生成AIによる生産性向上が生じるまでにタイムラグが出る可能性が高いでしょう。かつては、生産性が向上するまでに、蒸気機関では数十年、コンピューターでは10年を要しましたが、技術の拡散と導入が急速に進んだ現在では、今後3年から5年のうちに経済的な影響が現れると思われます。 
  3. 労働市場の不均一な再編:AIテクノロジーにより一部の作業は自動化される結果として、失業が発生し、労働市場に大きな混乱が起こるでしょう。しかし、同時に経済の多くのセクターでの職務内に新しい形態の仕事や機能が生まれ、AIに関連して生じる失業を相殺するのに役立つとみられます。

これらの洞察から、経済と社会に生成AIの恩恵を享受するにはまだ時間がかかりそうですが、歴史に照らせば、AIを活用した生産性向上の加速がその先にあると期待できそうです。労働者が新しいスキルを習得し、セクターや職種を超えた再配置に適応していけるかどうかが、生成AIが存在する未来への移行の成否を決する重要な要素になるでしょう。

タブレットをもつ研究技術者
(Chapter breaker)
1

第1章

生成AIは生産性加速と経済成長をどこまで促進できるのか?

生成AIの実力は、導入、生産性加速、技術向上という「好循環」をもたらす可能性があります。

近年でもっとも重要な技術革命の1つとして登場した生成AIは、1992年にTimothy Bresnahan氏とManuel Trajtenberg氏が最初に考え出した概念である、汎用技術(general-purpose technology:GPT)の1つとみなされています。

GPTは、幅広い分野や職種に適用することが可能で、その能力は次第に改善されていき、後の補完的なイノベーションの流れの源となる重要なテクノロジーを指します。例えば、蒸気機関、電気、コンピューターはこの基準に合致しており、技術力と経済力を互いに伸ばし合う好循環に支えられた重要なGPTでした1

「GPTが契機となって生まれるイノベーションの好循環が、経済に多大な影響を及ぼす可能性があります」と、Ernst & Young LLP、Strategy and Transactions、EY-Parthenon Senior EconomistのLydia Boussourは述べています。

実際、David Byrne、Stephen Oliner、Daniel Sichelらの推定によると、情報技術(IT)セクターが米国経済に占める割合はわずかであるにもかかわらず(1990年代後半には5%未満)、1974年から2004年までの非農業セクターの労働生産性上昇の半分までもがITセクターが生み出したものでした2

「GPTが契機となって生まれるイノベーションの好循環が、経済に多大な影響を及ぼす可能性があります」
Lydia Boussour
Ernst & Young LLP、Strategy and Transactions、EY-Parthenon Senior Economist

また、生産性の伸びはここ数十年間鈍化しているものの、その間もITセクターは米国の生産性の伸びに大きく寄与しており、2004年から2012年にかけての労働生産性の伸びの3分の1超がITセクターによるものです。

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    上のグラフは、米国の非農業部門における労働生産性の伸びに対するITセクターの寄与度を1年当たりの%ポイントで示す(出所:Bryne、Oliner、Sichel 〈2013年〉、EYパルテノン)。 1974~1995年、1995~2004年、2004~2012年の3つの期間のデータを使用しています。グラフの内容については、上の本文でも説明されています。

振り返ってみれば、コンピューター時代の幕が開けたときに登場したのは、適応性に欠け、軍事など特定の利用目的のために設計された高価な大型電子計算機でした。世界初の汎用電子コンピューターであるENIAC(Electronic Numerical Integrator and Computer)は、1940年代半ば、米陸軍の弾道研究所(Ballistic Research Laboratory)の依頼により、火砲のための射表の計算目的で開発されました。

しかし、コンピューターの処理能力が次第に向上し、コストも低減したため、コンピューターを導入できる業界が増えたことが新たなイノベーションへとつながっていきました。そしてその結果、コンピューターの普及はさらに拡大していきます。こうしたITのイノベーションと開発、そして需要の増大が継続するプロセスの後には、生産性と生活水準が長期間向上し続ける時代が到来したのです。  

 

EYでは、ITがけん引した1990年代における生産性上昇の加速を検証した結果を踏まえ、生成AIは今後10年間で生産性上昇を50~100%押し上げる可能性があると推定しています。しかし、産業革命や電力が普及した時代のような、生産性の2倍増、3倍増には及ばないとみられます。

夜のオフィスで作業する女性
(Chapter breaker)
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第2章

生成AIによる生産性の向上が遅れる理由とは?

生成AIの採用に必要な時間、スキル開発、そしてアプリケーションの適正規模化により、生成AIの経済的利益の普及にタイムラグが生じるためです。

重大な技術⾰新が発生する際、その早期段階には、⽣産性と経済成⻑に限定的な影響しか⽣じない傾向があります。過去の技術進歩を見ると、概して画期的な技術が出現してから経済や社会に影響が波及するまでには、⻑期間のタイムラグが⽣じました。

18世紀半ばに英国で始まった第⼀次産業⾰命は、ジェームズ・ワットが開発した蒸気機関の誕⽣に象徴される⽐類のない進歩の時代であり、鉱業と輸送を変⾰しただけではなく、数多くの産業を刷新した技術⾰新の波(紡績機のローラー、紡績機、織機、蒸気機関⾞などと続く)を引き起こしました。

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    上のグラフは、英国の1⼈あたり実質GDPを英ポンドで表したものです(出所︓Broadberry、Campbell、Klein、Overton、van Leeuwenら〈2015年〉、イングランド銀⾏、およびEYパルテノン)。1700年から1890年までの期間のデータを使⽤し、グラフには2つの重要な事象が図示されています。1つ⽬は1712年のニューコメンによる最初の蒸気機関の発明で、2つ⽬は1765年ワットが分離凝縮器の着想により蒸気機関を改良したことです。

蒸気機関は技術的に画期的な重要発明でしたが、総⽣産性を⾼め、経済的繁栄をもたらしたのは、約80年も後の19世紀後半になってからでした3。蒸気機関に関する技術が改良され、⽣産性向上につながる技術として広く普及して初めて、このような成果が⽣まれたのです。

英国の⽣活⽔準の成⻑率は、英国で産業⾰命が始まってからしばらくは低迷していました。1⼈あたりの実質GDPは、1750年から1800年の間、年率換算で0.4%の成⻑でしかありません。とはいえ、ついには第一次産業⾰命は⽣活⽔準の⼤幅な向上をもたらします。1870年に入るまでには1⼈あたりGDPは倍増し、1800年から1900年の間は年率換算で約0.75%と、約2倍の速度で成⻑するようになりました。

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    上のグラフは、労働⽣産性の伸びに対する寄与度を1年当たりの%ポイントで⽰しています。図の脚注は、労働⽣産性の伸びが3つの要素(全要素⽣産性の上昇、資本装備率の向上、労働の質)の寄与度の合計になることを説明しています。この図で着目されているのは、英国の第⼀次産業⾰命と⽶国の情報通信(ICT)⾰命の2つの時代です(出所︓Craft〈2002年、2021年〉およびEYパルテノン)。本図の内容については、下の本文でも説明しています。 

同様のタイムラグは電気の場合にも、⽣産性が上昇するまでに⽣じましたが、その程度は蒸気機関のときよりも短期間で済みました。電気の時代は⽶国では1880年代に始まりましたが、電化が本格的に進み、⽣産性が⼤幅に向上したのは1920年代になってからのことでした4

急速な技術進歩と⽣産性の不振とが同時発生するというパラドックスは、1970年代にパソコンやインターネットの登場とともに始まったIT⾰命でも存在しました。1987年、ノーベル経済学賞のロバート・ソロー教授が、「至るところでコンピューターの時代を目にするが、生産性の統計ではお目にかかれない」と述べたことは有名です。

 

当時、技術が⼤きく進歩していたにもかかわらず、時間あたりの実質⽣産量で測定した労働⽣産性の伸び率は、年0.5%という嘆かわしいペースで停滞したままでした。IT技術の経済全体への普及に伴い、1998年から2005年にかけて労働⽣産性が継続的に年率2%超で上昇したことでようやくこのパラドックスは解消しましたが、それはIT⾰命から20年後の1990年代後半から2000年代初めになってからのことでした5

普及と導入がより速く進む

EY CEO Outlook Pulse調査によると、CEOの43%が既にAIへの投資を開始しており、さらに45%が来年に投資を計画しています。このように企業はAIへの投資を進めていますが、⼀⽅で、多くの企業において、AIの成⻑の潜在的可能性を最⼤限発揮させるような抜本的な変⾰ではなく、目の前の効率性向上を追求していることも明らかになりました。また、AI導⼊の成熟度がまだ初期段階にある企業の割合は90%に上ります。

技術⾰命が⽣産性向上をもたらすまでにタイムラグが⽣じる原因にはさまざまなものが考えられますが、中でも重要なのは次の3つです。

 
  • 導⼊と普及︓新たな技術が導⼊されても、経済全体に影響が波及するまでには時間がかかります。たとえ技術が導入され始めたとしても、⾼額な初期費⽤や自社に導入するメリットに確信が持てないことを理由に、または、さらに優れた技術が登場するかを確認するためだけに、企業が導⼊をためらう可能性があります。
  • 技術習得と調整期間︓新たな技術が導⼊された場合、従業員や管理職がその効果的な使⽤⽅法を習得するまでの時間が必要になります。これには、トライ・アンド・エラーの期間、トレーニング、リーディングプラクティスの確立が含まれます。
  • 補完的なイノベーション︓新技術を余すところなく効果的に活⽤できるようになるには、その技術を補完するイノベーションやインフラが必要になる場合があります6。例えば、電気エンジンの利⽤拡⼤には広範な電⼒網が必要でしたし、パソコンのメリット拡⼤の背景にはインターネットの普及がありました。
 

例えば携帯電話に搭載された仮想アシスタントなど、10年前に導⼊された製品にも、新たに出現したAIツールの注⽬すべき機能と性能による⼤きな改善が既にみられます。

広範な⽣産性の向上にはタイムラグが伴う可能性が⾼いものの、技術の導⼊と普及のスピードは速まっています。要する時間は、1800年代には数⼗年掛かったものが、コンピューター時代には約10年間に短縮しています。

新技術の普及と導⼊のスピードが速まっていることを考慮するならば、⽣成AIでは今後3年から5年で経済活動を押し上げる効果が現れる可能性があります。

役員室内の人々
(Chapter breaker)
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第3章

AIが大量失業をもたらすとの懸念は本当か?

⽣成AIは、職種や職業を消し去るのではなく、特定の業務を消滅させるとともに、新たに仕事を⽣み出す可能性があります。

テクノロジーは何世紀にもわたって仕事の性質や組織を変容させてきました。その過程で消滅した仕事もあれば、新たに⽣み出された仕事もあります。しかし、テクノロジーによって⼤量失業が引き起こされるのではないかという懸念が現実になったことはありません。

技術進歩のために機械が⼈間の労働に取って代わるのではないかという懸念が⽣じたのは、今に限ったことではありません。16世紀後半、エリザベス1世は、多くの労働者が職を失うことを懸念して、英国の発明家、ウィリアム・リーに機械式編み機の特許を与えませんでした。

最近では、⽣成AIの急速な進歩と多くの業界で業務や仕事が⾃動化される可能性を背景に、これと同様の懸念が世論や政策議論の支持を得ています。こうした懸念は長年存在してきているものの、新たな技術によって失われた雇⽤よりも多くの雇⽤が創出されてきたため、過去100年間にわたって雇⽤⽔準は持続的に上昇してきました。

AIが労働に与える影響 

技術⾰新は、主に次の3つの点で労働に影響を与える可能性があります。

  1. 雇⽤創出︓新たな技術が新しい産業やセクターの出現につながり、新たに雇⽤機会を⽣み出す可能性があります。例えば、インターネットの普及に伴い、ウェブデザイン、デジタルマーケティング、電⼦商取引、ITサポートといったそれまで存在しなかった多様な仕事が⽣まれました。
  2. 仕事の消滅︓あるいは⾃動化や特定の技術の進歩により、陳腐化する仕事があることも考えられます。定型的作業や反復的作業は、⼿作業(組み⽴てライン業務など)か認知的作業(データ⼊⼒など)かを問わず、⾃動化の影響を受けやすいでしょう。
  3. 仕事の革新︓新技術によって失われるではなく、革新される仕事も多くあります。ある仕事に含まれる作業の⼀部が⾃動化される⼀⽅で、他の新しい作業が登場する、もしくは仕事の性質が変化する可能性があります。例えば、ATMの普及により、銀⾏の窓⼝係が担当する現⾦関連の業務は減少しましたが、顧客サービス業務が増加しました。

20世紀初頭に⽶国で急速に進んだ農業の機械化は、近代の雇⽤における最⼤の構造転換の1つに拍⾞をかけました。新しい農具や機械の導⼊により、農業の⽣産性が劇的に向上し、農業労働⼒の需要が減少しました。多数の失業者が、⼯場勤務などの他の職種での就業に向け、新たなスキルの習得を余儀なくされました。こうした労働移動は、産業⾰命が必要とした労働⼒の需要に応えることになります。また、⽶国では、農業部⾨から⾮農業部⾨への就業者の⼤規模な再配置につながり、雇⽤全体に対して農業の占める割合は、1850年の55%から1900年には41%に、さらに1950年にはわずか10%にまで縮小しました。

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    上のグラフは、⽶国の農業、⼯業、サービスの3つの経済セクターのそれぞれが雇⽤に占める割合を⽰しています。対象期間は1840年から2015年までです(出所︓Herrendorfら〈2014年〉、EYパルテノン)。本図の内容については、上の本⽂でも示されています。 

最近では、デジタル化の波と⾃動化に伴い、かつては⼈が⾏っていた定型業務(主に低・中等スキルの職)が消え、多くの作業が変容しています。しかし、情報化時代には、データサイエンティスト、ソフトウエアエンジニア、ウェブ開発者など、過去に存在しなかった新しい職種が数多く⽣まれ、IT関連の雇⽤が急速に拡⼤しました。

1990年から2001年の間に、⽶国の製造業の雇⽤は12%減少しましたが、⼀⽅でコンピューターシステム設計や関連サービスの雇⽤は3倍に増加しました。また、IT業界の就業者の給与は、⺠間部⾨の平均的な労働者よりも⾼くなっています。コンピューターシステム設計者の平均時給は、1990年には平均的就業者の1.8倍でしたが、2000年代末には約2倍になっています7

⽣成AI技術は、⾮定型的な認知的業務にも利⽤できるため、特にホワイトカラー労働者の仕事の性質と内容を⼤きく変化させる可能性があります。しかし、⽣成AIが代替するのは、特定の作業であって仕事そのもの全体ではない可能性が⾼く、他⽅で⽣成AIの普及は、AIのトレーナー、倫理⾯の担当者、開発者などの新しい職種の創出につながるでしょう。

ビジネスリーダーが⾃問すべきAIの経済的影響に関する戦略的質問

⽣成AIが及ぼすマクロ経済への影響は、ビジネスリーダーにとって解きほぐすには複雑で精緻な織りのタペストリーのようなものです。ここでもっとも重要なのは、より広範な経済的影響を理解しながら、企業戦略と倫理の整合を図ることです。ビジネスリーダーは、以下に挙げる質問の答えを解き明かすことで、技術⾰新とマクロ経済的レジリエンスとが交わる中に⾃社を戦略的に位置づけ、⽣成AIの影響がさらに増⼤する世界にあっても持続可能な成⻑を確保することができます。

 
  • マクロ経済情勢に対する洞察を持つ︓経営陣は、⽣成AIに大きく影響受け変化するマクロ経済情勢を、どのように評価し、また適応していくか。AI関連の画期的技術に起因する世界経済の動向、貿易関係の変化、グローバルサプライチェーンの混乱の可能性について、分析を⾏う専任チーム・担当者を任命しているか。
  • イノベーションと経済成⻑︓より大きな経済成⻑を生み出すイノベーションを育むため、⾃社で⽣成AIの持つエネルギーをどのように活⽤しているか。AIがけん引するイノベーションを通じて、経済的インパクトを強化するパートナーシップ、コラボレーション、エコシステムへの関与を自社は追求しているか。
  • 競争環境と戦略的ポジショニング︓⽣成AIによって産業構造や競争関係が再編される中、⾃社は業界のバリューチェーンが変化する可能性についてどのように捉え、対処しようとしているのか。マクロ経済シナリオが一変する中、自社の⽣成AIへの戦略的投資は競争⼒確保にどのように役⽴つのか。
  • 経済外部性と価値創造︓⾃社の⽣成AI戦略によって、経営陣は意図せずに負の経済的外部性を⽣み出すことなく、確実に持続可能な経済的価値を創出するために、どのような貢献をしているか。⾃社のAI関連の取り組みから⽣じる広範な社会的・経済的影響を、どのような尺度を用いて評価しているか。
  • 経済リスクの管理︓景気後退の可能性や市場の不確実性を受け、経済リスクを評価し軽減させる確固たる戦略を策定するため、自社は⽣成AIをどのように活⽤しているか。AIによる予測分析は先⾒的リスク管理にどのように支援しているか。
  • 労働市場の動向と⼈材戦略︓⽣成AIが労働市場を根本的に変容させる可能性を踏まえ、将来に適合させながら倫理的に健全な⼈材戦略の策定のため、経営陣はどのような措置を講じているか。状況の変化に応じて従業員のリスキリングとアップスキリングを実施する規定はなされたか。
  • ⽣成AI経済におけるステークホルダー・エンゲージメント︓経済を⽣成AIがけん引する現在の状況において、明確な価値提案を⾏うに当たって、投資家から消費者に⾄るまでのあらゆるステークホルダーに対してどのように関与しようとしているか。ステークホルダーが抱いている認識と懸念を、戦略的意思決定にどのように組み込んでいるか。
 
  • 参考記事を表示する#参考記事を非表示にする

    1. Svenja Spanuth, Neil C. Thompson, “The Decline of Computers as a General Purpose Technology: Why Deep Learning and the End of Moore’s Law are Fragmenting Computing,” November 2018.
    2. David M. Byrne, Stephen D. Oliner, et al, “Is the Information Technology Revolution Over?”, March 2013.
    3. Nicholas Crafts, “Productivity growth in the industrial revolution: a new growth accounting perspective,” January 2002.
    4. Nicholas Crafts, “Artificial intelligence as a general-purpose technology: an historical perspective,” 2021.
    5. Erik Brynjolfsson, Daniel Rock, et al, “Artificial Intelligence and the Modern Productivity Paradox: A Clash of Expectations and Statistics,” November 2017.
    6. Erik Brynjolfsson, Daniel Rock, et al, “Artificial Intelligence and the Modern Productivity Paradox: A Clash of Expectations and Statistics,” November 2017.
    7. Bureau of Labor Statistics

サマリー

本稿は、EYパルテノンによるAIの経済的影響に関するマクロ経済連載シリーズ記事の第1弾です。この連載シリーズでは、⽣成AIの経済的可能性に関する知⾒を、新たな動向や実⽤的な洞察と共に提供し、企業の意思決定者の⼀助となることを⽬的としています。本連載シリーズ第1弾では、3度にわたる急激な技術⾰新の歴史的経緯から何を学び、現在のAIの経済的影響の予測にどう⽣かすかについて考察しています。第2弾以降の記事は、今後数カ⽉内に公開予定です。

この記事について

執筆者 Gregory Daco

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