EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
企業の競争優位確立にESGは必須となってきています。
CIOは従来の役割に加え、サステナビリティ計画や予測の改善、そしてサプライチェーン上の可視化のためには最新テクノロジーの活用の責任も担うことになります。
一方でテクノロジーベンダーのESGにおけるケイパビリティおよびユースケースは発展途上であり、「ESGに活用できるテクノロジーサービス」を見極めることの難易度は高いものとなります。CIOは5GやIoTなどの最新テクノロジーの理解、コストとのバランス、ESGに関する知見、さらに今後はブロックチェーンなどの暗号資産へのサステナビリティも考慮に入れなければなりません。
ますます拡大、複雑化していく役割、責任を果たすために、CIOは今まで以上に難しいかじ取りが求められることになります。
企業では、5Gやモノのインターネット(IoT)をはじめとする最新テクノロジーをサステナビリティへの取り組みの推進力とみなす傾向が強まっており、そのメリットとして上位に挙げられているのは効率の向上や測定の改善、バーチャルな製品やプロセスの提供です。
5GやIoTなどの最新テクノロジーに関する意識を調査した最新の EY Reimagining Industry Futures Study(産業の未来図を再構築するための調査)(PDF)からは、そうした全体像が浮かび上がってきます。この調査は、世界中のさまざまな業種1,325社の経営幹部を対象に実施されました。
CIOが直⾯する喫緊の課題(EY CIO Imperative)シリーズは、組織の未来を創る上で有用かつ重要な解決策とアクションを提起することを⽬指したものです。この記事では、上記の調査結果を基に、企業のテクノロジー戦略とサステナビリティ戦略を結び付けることの重要性について、6つの側⾯から考察します。
調査対象の企業のうち54%は、最新テクノロジーがサステナビリティに向けた企業の取り組みを加速させる上で重要な役割を果たすと考えています。続く41%は、これらのテクノロジーはおおむねプラスの役割を果たすが、リスクもあると考えています。こうしたマイナス⾯に対する認識は、最近の研究で、情報通信技術(ICT)全体で温室効果ガス排出量の1.8%から2.8%を占め、消費電⼒においてもさらに⼤きな割合を占めると算出された結果を反映しています1。
興味深いことに、アジアを拠点とする企業は最新テクノロジーが果たす重要な役割に特に注目する傾向が強いのに対し(62%)、欧州企業はテクノロジーがもたらすプラスの影響には何らかのリスクが伴うと考える傾向にあります(49%)。こうした地域差は、欧州の政策決定者が伝統的に、データセンターやクラウドテクノロジーによるエネルギー消費リスクを重視してきた姿勢を反映した結果かもしれません2。
最新テクノロジーはサステナビリティの長期的戦略において、さまざまな面でプラスに働くと回答者は考えています。トップに挙げられたのはエネルギー消費量の削減で、これに測定やプランニングの改善、廃棄物排出量の削減が続きます。バーチャルサービスやワークフォースツールへの移行も目立ちます。
それ以外のメリットはそこまで顕著ではなく、循環型ビジネスモデルと再生可能エネルギー源の採用を挙げたのは回答者の4分の1程度でした。これらの分野は、CIOが今後注目していくべき分野かもしれません。しかしこうしたさまざまなポジティブな回答が挙げられたことは、サステナビリティの面から見ても、最新テクノロジーには多岐にわたる可能性があることを明確に示しています。
最新テクノロジー全体を見ると、調査回答者の35%はESGを投資判断時の最大の検討事項としており、加えて41%が重要な検討事項だと回答しています。ESGを重要方針とする傾向が最も高いのは5G投資で、IoTが僅差で続きます。
反対に、拡張現実(AR)やブロックチェーン、量子コンピューティングへの投資判断にESGが考慮される可能性は低くなっています。例えば、ブロックチェーンに投資する際にESGを多少考慮すると回答しているのは4分の1程度です。ブロックチェーンに依存するビットコインなどの暗号資産に対して、欧州委員会など規制当局や政策立案者がESGに関する監視レベルを強めつつあることを考えると、今後、優先順位の入れ替わりがあるかもしれません。
5GとIoTがESGに及ぼす影響は、他の最新テクノロジーに比べ、企業の投資判断において大きなウエートを占める傾向にあります。5GおよびIoTへの投資を行っている企業に、それらがサステナビリティにどのようなメリットをもたらしているかを尋ねたところ、興味深い回答が得られました。最新テクノロジー全体の潜在的なメリットについて企業に幅広く尋ねたときの回答と比較すると、これらの企業はすでに、現時点で利益を得ていると考えている傾向が強く出ています。
結果を見ると、最新テクノロジー全体がもたらすESG関連のメリットの多くは、5GおよびIoTによるものであることがさらに明白です。現在5GとIoTに投資している企業の半数以上(55%)が、5GとIoTはサステナビリティの計画や予測の改善に役立っていると回答していますが、最新テクノロジー全体についても同じことが言えると回答しているのは39%でした。また、5GとIoTが生産性にもたらすメリットを挙げている回答者は48%だったのに対し、最新テクノロジー全体で見るとわずか22%です。
CIOのテクノロジー戦略において、サステナビリティが今まで以上に重要な位置を占めるようになるにつれ、企業がテクノロジーサプライヤーに求める資質も変わりつつあります。今後は最新テクノロジーの環境への影響を明確に提示できるベンダーを優先すると回答している企業は、4分の3を超えています。また、サービスポートフォリオにサステナビリティを反映させるには、今以上の取り組みがベンダーには必要だとも考えています。現在提供されている5GおよびIoTのユースケースは、サステナビリティのニーズに十分に対応していないと考える企業は多数あります。
こうした考え方は、企業がテクノロジーサプライヤーに求める資質にも反映されています。現在は導入と実行のスピードがトップで、エンド・ツー・エンド・ソリューションの機能がそれに続き、3番目がサステナビリティのケイパビリティと確かな実績となっています。しかし将来的に、企業が一番に求めるのは、サステナビリティのケイパビリティと確かな実績です。
サプライヤーや他の組織との連携によって新しいスキルや能力を獲得することを意図したエコシステム戦略も、サステナビリティの面でメリットがあります。企業の80%は、循環型ビジネスモデルにおける他の組織や別の業界との連携は、今後5年間でさらに重要になると考えています。
最新テクノロジーがもたらすサステナビリティへのメリットについて認識を尋ねたところ、エネルギー効率と循環性への期待では、業種レベルで顕著な違いが見られます。エネルギー消費量の削減は全産業でトップですが、自動車では54%、ヘルスケアではわずか38%と、その割合には幅があります。同様に、廃棄物排出量の削減は製造業では50%ですが、行政機関ではわずか35%です。
行政機関とヘルスケア(いずれも44%)では、組織が環境に与える影響の測定において、最新テクノロジーはプラスの影響をもたらすと考える傾向が強いことが分かります。一方で、スコープ3排出量の報告の必要性から、サプライヤーが環境に与える影響の評価の重要性が以前より高まっていますが、この影響評価は行政機関やヘルスケアではさほど重要視されていません。しかし製造業やエネルギー産業では大きなメリットと見なされています。業績や進捗の測定に役立つ新しいテクノロジーの可能性を産業界は認識しているものの、自社のみに焦点を当てているか、サプライチェーン全体も視野に入れているか、目指すところは大きく異なっています。
ESG対応は企業のテクノロジーへの投資判断の中にすでに組み込まれており、サステナビリティへのニーズも、テクノロジーベンダーを選択する際の最重要要素になろうとしています。それは良い傾向ではありますが、期待の高さを長期的価値の創造へつなげられるよう、CIOにはまだ他にできることがあります。
新しいテクノロジーによってサステナビリティの面でさまざまなメリットがもたらされることに企業は気付いています。しかし、テクノロジーを統括するリーダーが目標に焦点を定めて取り組むことが重要です。自社が求めている主なESGの成果に優先順位を付けて段階に分け、さまざまなテクノロジーがもたらす複合的な影響を精査しつつ、目指す成果を実現できる最適なテクノロジーを決定しなければなりません。
自社における最新テクノロジーのポートフォリオの炭素集約度とエネルギー効率を評価し、自社の評価フレームワークと、組織全体のITエネルギー消費量削減に関連する包括的目標とが、明確にリンクするようにします。新しいテクノロジーやスタンダードへの移行によって、組織のテクノロジー資産全体のサステナビリティがどう強化されるのかを評価するようにしなければなりません。
他の幹部や部署と緊密に連携できれば、新しいテクノロジーがESG目標達成の促進に果たす役割への理解が、組織の隅々まで広がります。そうなれば、サステナブルという方針はトランスフォーメーションの重要な推進力となって、現在のデジタルトランスフォーメーションのロードマップが目指す方向性を維持できるはずです。
CIOは、テクノロジーベンダーに求める資質としてサステナビリティのケイパビリティをすでに優先しています。そこから発展させて、組織として、各種のパートナーエコシステムとの対話でサステナビリティを中心に据えることが重要です。テクノロジーへの投資判断やベンダーの選択では、すでにサステナビリティが意識されていますが、今後は循環型ビジネスモデルやESGコミットメントの共有において連携拡大を図るチャンスが広がっています。
多くの企業では長年にわたってIoT戦略に取り組んでおり、そうした戦略は急速に拡大する5Gやエッジコンピューティングの導入によって後押しされています。ユースケースや導入モデルには、サステナブルな成果が組み込まれていなければなりません。そのためにCIOは、どうすれば最新テクノロジーのユースケースが従業員やパートナー企業、顧客に等しく利益をもたらせるのかを検討し、テクノロジーベンダーとの間に適切なフィードバックループを構築して、ビジョンを現実へ変えていかねばなりません。
メタバースにより新たなエクスペリエンスが生まれる中、人間の行動はどう変化していくのか
メタバースが人間の行動にどのような影響を与える可能性があるのかはまだ分かりません。しかしそれを探るには、行動経済学が役立つでしょう。
サステナビリティ目標に向けられる目がますます厳しくなる中、CIOに求められるのは、最新テクノロジーが果たす役割のプラス面とマイナス面を評価し、それをサステナブルな成果の推進と長期的価値の創造、そしてより良い社会の構築に生かしていくことです。