EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
先日、あるクライアント様向けに調べ物をしていたところ、学歴要件を廃止した企業事例が相次いで目に留まりました。まだまだ大学名がひとつの指標とされることが多い日本では意識することも少ない話題かもしれませんが、どうも米国を中心に学歴要件の廃止が静かな広がりを見せており、いずれ日本でも活用できそうな仕組みへの落とし込みも進んできているようなので、今回はこのトレンドを取り上げてみます。
米国の人事プラクティスはとかくキャッチーなトレンド用語を作りたがりますが、この学歴要件廃止に限ってはあまり共通の用語が無いようで、Harvard Business School(HBS)とThe Burning Glass Institute(Burning Glass)が用いているDegree Resetというワードが最も近いのではないか、という程度です。当該共同研究によると、コロナ禍前の2017年から2019年の間に学位要件を求める求人が3~4割減少したようで、コロナ禍後の人手不足でその動きが加速しているとのことでした。
この動きは元々ハイテク企業のエンジニア採用に多く見られたもので、例えばAppleは大学教育自体に否定的で従業員の約半数は学位を持っていないそうですし、イーロン・マスクも大学が業務に必要なスキルを教育できていないと批判をしています。これらの意見をくむ形で2020年にホワイトハウスが採用には学士よりもスキルを優先するようにという声明を発表、以降、Googleの半年で大卒同等のスキルが得られる自前の教育プログラム(2020年)や、IBMの学位要件撤廃(2022年)などの取り組みが報道されるようになりました。
そしてコロナ前後の労働市場の混乱を経た今、就職する側の意識にも徐々に変化が生じているようで、Z世代は大学に見切りをつけ始めており職業訓練校に人が流れているという記事も出ましたし、実際College以上の学位を保有する人口も2022年には減少に転じたようです。本年の1月に当メールマガジンでも取り上げたスキルベースの組織にシフトする上でも採用時の要件見直しは不可欠なものと考えられ、これら先行する米国の取り組みやその効果は注目に値します。
というわけで現時点での顛末を調べてみますと、大きく2つのことがわかりました。1つは、要件を見直しても採用プラクティスは大きく変化していないということ。これはHBSとBurning Glassが2024年2月に発表した追加調査によって明らかにされたもので、大卒要件を落とすことの効果は平均して3.5%の非大卒者雇用の増加を生んでいる、つまり大卒要件を落としても企業の大半は大卒者を採用し続けているのが実態であるとのことです。同報告ではこれが、採用担当者の思考や採用プロセスがスキルベースの人材評価に変化しきれていないことによるものだと分析されています。
そしてもう1つはその対応策として、採用プロセスにおいてスキル評価テストを課す動きが出ているということです。エンジニアのようにテストしやすいものはかなり前からテストや資格制度が整えられていますが、その考えがより広範な領域へと広げられ、オンラインスキル評価プラットフォームという新しいサービスへと結実されつつあります。本コラムでは具体的な事例はご紹介しませんが、業界別に(数百から数千の)スキル評価テストが用意され、自社で独自のテストを足すこともでき、さらにはこのプラットフォームを活用した従業員向け社内教育との統合・効率化や、受験者へのフィードバック機能を活かして採用CXを高める動きに繋げる例も出始めています。
本格的にスキルベースへの移行を考えると、JD(ジョブディスクリプション)もそうですがスキルディクショナリを自前で用意するモデルも相当な負荷となりますので、このような一般化・外注化の選択肢も一考の価値がありそうです。
参考文献
メールで受け取る
EY PC 人事・組織 メールマガジンで最新の情報をご覧いただけます。
EYは、適材適所(適切な人材に、適切なコスト、適切な場所で、適切に活動してもらうこと)による競争力の獲得を通じ、経営・事業戦略における人材アジェンダを実現していくことをサポートいたします。