スキルベース組織の未来

日本は職能(スキル)からジョブ型へ、
米国はジョブ型からスキル重視へ

日本では直近で大手企業を中心にジョブ型人材マネジメントへの移行が進んでいる。一般社団法人日本能率協会「当面する企業経営課題に関する調査 -組織・人事編 2023-」(2023年8月21日)*によると、すでに「ジョブ型」の人事・評価・処遇制度を導入済み(または導入中)の企業は22.3%、導入を慎重に検討中の企業が42.4%と合算で過半数に達する勢いである。

他方で、人材マネジメントの世界で一歩先に進んでいる米国は今、そのジョブベースの人材マネジメントが曲がり角に来ている。

背景には日進月歩のデジタル/テクノロジービジネスを中心に新たなジョブや役割(ロール)が誕生し、それを都度ジョブディスクリプションという形で定義し、業務要件やスキル要件を自力でメンテナンスし続けることの大変さに加えて、現実は定義されたジョブを遂行できるだけのスキルの保有者を社内登用および外部採用でも充分に確保できていないというジレンマがある。

日本もこの先、ジョブ型ブームを経て、スキル重視へと転換するだろうか。興味深いのは日本の人材マネジメントは伝統的に職能主義であり、職能とはスキルを重視することであり、先祖返りともいえる。事実、製造業の研究開発部門や工場現場を中心に「力量管理」という名で非常に細かいスキル定義を行い、人材評価や登用をこれまで行ってきたではないか。

 

深刻な人手不足とスキルギャップの解消のために考案された
スキルベース組織のあり方

米国でも日本でも人材マネジメントの転換を目指す動きは、端的にいえば深刻な人手不足(量の観点)と業務やプロジェクトの複雑化/高度化に伴うスキルギャップ(質の観点)の問題といえよう。
それを解消すべく考案されたスキルベース組織の運用をシンプルに描くと図の通りだ。
 

スキルベース組織の考え方
仕事をモジュール化(細分化)し、スキルマッチングを通じて、最適な役割分担でジョブを遂行する

スキルベース組織の考え方

1つのジョブを1人で完結するのが質・量の観点でともに難しいのであれば分業するしかない。分業には今の仕事をモジュール化(細分化)する動きになる。尚、仕事のモジュール化推進にはスキルマッチングへの布石に加えて、AIなどで代替し、省人化できる業務プロセスの発見と業務改善にもつながる。これまではジョブAを遂行しようにもXさんは対応するスキルが足りないので1人で上手く遂行できない。

他方でXさんはスキル Bを保有しているが、現在のジョブ Aでは使わないのでそのスキルが埋もれている状態だ。これからはスキルを鍵に、ジョブマッチングをすると、ジョブ Aはその遂行に必要なスキルAを持つXさんとYさんの組み合わせとなり、Xさんにとって埋もれていたスキルBは同様にYさんが保有するスキル Bと組み合わせて、ジョブBが新たに遂行できるので従来よりも業務分担の最適化や新たな付加価値創造ができるのである。

 

スキルベース組織を実現する
デジタルプラットフォームはすでに存在

このようなスキルを鍵にしたジョブマッチングを人間の力で行うのは無理であろう。特にSkill Taxonomy(スキル定義の類型化)の作成・更新を自社で独自に進めるには膨大な時間と労力がかかる。そこでJob→Roles→Capabilities→Skillsという一連の流れをLinkedInなどの市場データから汎用化したスキル定義の外部ソリューションを使うことが有力であろう。

いずれも日本語版は未リリースであるがEY Skills Foundry™やMicrosoft社の Skills Vivaはすでに市場に存在している。

 

社内に埋もれたスキルドワーカーは本当に存在するのか?
スキルの見える化でタレントマッチングが
すぐに上手く機能するという考えは幻想か

日本は元来、職能主義であったこともあり、ジョブ起点よりもスキル起点に業務の親和性は高い。日本でもこのようなスキル重視の動きはジョブマッチング(人事異動や登用)だけでなく、採用・能力開発(含むリスキリング)・評価などへの波及効果も期待できる。

他方で、暗黙に社内に埋もれたスキルドワーカーが多数いるはずだという前提で全社規模のスキルの見える化やマッチングのテクノロジープラットフォーム導入に猛進することはお勧めしない。経営陣や人事部が欲している高度なデジタル人材やグローバル人材のスキルセットを保有する人たちが「実は組織に大量に埋もれていた、気づいていなかった」なんてことがあるだろうか。まずは自社の事業ポートフォリオにとって特に重要な部門(Critical Workforce Segment)に限って、スキルベース組織への転換に取り組み、手応えを確かめながら進める探索的なアプローチを2024年、スキルベース組織元年は推奨したい。

参考文献

・April Eagle, Workforce Management 4.0: The Unstoppable Rise of the Skills-Based Organization (Independently published, 2023)

・“Building A Skills-Based Organization: The Exciting But Sober Reality,” JOSH BERSIN website,
https://joshbersin.com/2023/07/building-a-skills-based-organization-the-exciting-but-sober-reality/ (参照:2024/1/14)

・“Building A Company Skills Strategy: Harder (and More Important) Than It Looks,” JOSH BERSIN website,
https://joshbersin.com/2022/02/building-a-company-skills-strategy-harder-and-more-important-than-it-looks/ (参照:2024/1/14)

・“Why Microsoft Viva Skills Could Disrupt The HR Tech Market,” JOSH BERSIN website,
https://joshbersin.com/2023/10/why-microsoft-viva-skills-could-disrupt-the-hr-tech-market/
(参照:2024/1/24)

・ラヴィン・ジェスターサン/ジョン・W・ブードロー(マーサージャパン訳)『仕事の未来×組織の未来 新しいワークOSが個人の能力を100%引き出す』(ダイヤモンド社、2023年)

引用* : 一般社団法人日本能率協会「当面する企業経営課題に関する調査 -組織・人事編 2023-」、
https://jma-news.com/wp-content/uploads/2023/08/20230821_keieikadai_release2.pdf
(参照:2024/1/14)