情報センサー2024年3月

2025年3月期から原則適用となる税金関連の会計基準の改正等について


情報センサー2024年3月 会計情報レポート


EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 会計監理部 公認会計士 加藤 紘司

品質管理本部会計監理部において、会計処理及び開示に関して相談を受ける業務、並びに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事している。


Ⅰ はじめに


本稿では、2025年3月期から原則適用となる税金関連の会計基準の改正等について解説します。具体的には次の3つの論点についての会計基準の改正等の解説になります。

① 法人税等の計上区分(株主資本又はその他の包括利益に対する課税)
② グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等(子会社株式又は関連会社株式、以下同じ)の売却に係る税効果
③ グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等(当期税金)の会計処理及び開示

①と②については、企業会計基準委員会(ASBJ)から2022年10月28日に企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」等の改正基準(以下、ASBJ会計基準等)が公表され、日本公認会計士協会(JICPA)から当該ASBJ会計基準等に影響を受ける改正実務指針等(以下、JICPA実務指針等)が公表されています。

また、③については、ASBJから2023年11月17日に実務対応報告公開草案第67号「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い(案)」(以下、ASBJ公開草案)が公表され、最終化に向けた審議が行われています。

なお、文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。

 

Ⅱ 各会計基準等の改正等により影響を受ける取引について


Ⅰに記載した3つの論点に係る各会計基準等の改正等により影響を受ける取引はそれぞれ次のような場合が想定されます。

  1. 法人税等の計上区分(株主資本又はその他の包括利益に対する課税)

    (1) グループ通算制度の開始時又は加入時に、会計上、評価・換算差額等又はその他の包括利益累計額が計上されている資産(例えば、その他有価証券)又は負債に対して、税務上、時価評価が行われ、課税所得計算に含まれる場合
    (2) 非適格組織再編成において、会計上、評価・換算差額等又はその他の包括利益累計額が計上されている資産(例えば、その他有価証券)又は負債に対して、税務上、時価評価が行われ、課税所得計算に含まれる場合
    (3) 投資をしている在外子会社の持分に対してヘッジ会計を適用している場合などにおいて、税務上は当該ヘッジ会計が認められず、課税される場合
    (4) 退職給付について確定給付制度を採用しており、連結財務諸表上、未認識数理計算上の差異等をその他の包括利益累計額として計上している場合において、確定給付企業年金に係る規約に基づいて支出した掛金等の額が、税務上、支出の時点で損金の額に算入される場合
  2. グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果

    (1) 連結会社間において、グループ法人税制が適用される場合、完全支配関係にある内国法人間において子会社株式等を売却した際に、当該売却に伴い生じた売却損益について、税務上の要件を満たし課税所得計算において繰り延べる場合
  3. グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示

    (1) 多国籍企業グループ等の最終親会社等でグローバル・ミニマム課税制度の適用対象となる場合

Ⅲ 法人税等の計上区分(株主資本又はその他の包括利益に対する課税)及びグループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果に関する改正の概要


1. 法人税等の計上区分(株主資本又はその他の包括利益に対する課税)に関する改正の概要

(1) 改正の経緯

例えば、前述Ⅱ.1.(1)に記載のグループ通算制度の開始時又は加入時において、その他の包括利益に計上された取引又は事象(以下、取引等)が課税所得計算上の益金又は損金に算入され、法人税、住民税及び事業税等が課せられる場合、2017年に公表された改正前の企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(以下、法人税等会計基準)では、当事業年度の所得等に対する法人税、住民税及び事業税等は、法令に従い算定した額を損益に計上することとしているため、取引等についてはその他の包括利益(例えば、その他有価証券評価差額金)に計上される一方で、これに対して課せられる法人税、住民税及び事業税等は損益に計上されることとなり、税引前当期純利益と税金費用の対応関係が図られていないのではないかとの意見が聞かれていました。

そこで、このようなその他の包括利益に対して課せられる法人税、住民税及び事業税等のほか、株主資本に対して課せられる法人税、住民税及び事業税等も含めて、所得に対する法人税、住民税及び事業税等の計上区分についての見直しを行うために、法人税等会計基準等の改正が行われました。

(2) 会計処理の見直し

➀ 法人税等の計上区分についての原則

改正法人税等会計基準では、当事業年度の所得に対する法人税、住民税及び事業税等を、次の理由から、その発生源泉となる取引等に応じて、損益、株主資本及びその他の包括利益に区分して計上すること(法人税等の計上区分についての原則)とされました。

  • この考え方を採用した場合、税引前当期純利益と所得に対する法人税、住民税及び事業税等の間の税負担の対応関係が図られる
  • 税効果会計における税効果額については、企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(以下、税効果適用指針)において、この考え方と同様に取り扱っており、また、国際的な会計基準においても、この考え方と同様に処理されている

これにより前述Ⅱ.1に記載した(1)から(4)の取引について、従来、損益に計上されていた法人税、住民税及び事業税等がその他の包括利益に区分して計上されることになります。これについては「情報センサー2022年8月・9月合併号 会計情報レポート 株主資本又はその他の包括利益に対する課税及びグループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果の取扱いに関する改正案の解説」(以下、解説記事)において、その他の包括利益に対して課税される場合の従来の会計処理と比較した当期純利益及びその他の包括利益への影響と、改正後の会計処理では税引前当期純利益と所得に対する法人税、住民税及び事業税等の間の税負担の対応関係が図られるようになることについて、設例と図を用いて解説しています。


② 複数の区分に関連することにより、株主資本又はその他の包括利益に計上する金額を算定することが困難な場合の取扱い

例外的な定めとして、課税の対象となった取引等が、損益に加えて、株主資本又はその他の包括利益に関連しており、かつ、株主資本又はその他の包括利益に対して課せられた法人税、住民税及び事業税等の金額を算定することが困難である場合には、当該税額を損益に計上することができることとされました。これについては確定給付制度を採用している場合の退職給付に関する掛金等を拠出する取引のみであると考えられるとされています。

③ 株主資本及びその他の包括利益に計上する金額の算定に関する取扱い

株主資本又はその他の包括利益の区分に計上する法人税、住民税及び事業税等は、複雑な計算を伴う場合の実務に配慮し、課税の対象となった取引等について、株主資本又はその他の包括利益に計上した金額に、課税の対象となる企業の対象期間における法定実効税率を乗じて算定することとされました。

また、課税所得が生じていないことなどから法令に従い算定した税額がゼロとなる場合に株主資本又はその他の包括利益の区分に計上する法人税、住民税及び事業税等についてもゼロとするなど、他の合理的な計算方法により算定することができることとされました。

④ その他の包括利益の組替調整(リサイクリング)に関する取扱い

これまでわが国においては、その他の包括利益に計上された項目については、当期純利益に組替調整(リサイクリング)することを会計基準に係る基本的な考え方としています。

このため、その他の包括利益累計額に計上された法人税、住民税及び事業税等については、当該法人税、住民税及び事業税等が課せられる原因となる取引等が損益に計上された時点(例えば、その他有価証券評価差額金に課税されていた場合において、その他有価証券を売却してその他有価証券評価差額金がリサイクリングにより売却損益として損益に計上された時点)で、これに対応する税額(税率の変更を反映せず、前述③で計上した額)を損益(法人税、住民税及び事業税)に計上することとされました。

⑤ 関連する繰延税金資産又は繰延税金負債を計上していた場合の取扱い

➀の法人税等の計上区分についての原則では、株主資本に対して課税される場合には、法人税、住民税及び事業税等を株主資本の区分に計上することになります。

したがって、子会社に対する追加取得や子会社の時価発行増資等に伴い生じた親会社の持分変動による差額を資本剰余金としている場合、当該子会社に対する投資を売却した時に、当該資本剰余金に対応する法人税等相当額について、法人税、住民税及び事業税などその内容を示す科目を相手勘定として資本剰余金から控除することになります。一方で、親会社の持分変動による差額に係る連結財務諸表固有の一時差異について、資本剰余金を相手勘定として繰延税金資産又は繰延税金負債を計上していた場合で、当該子会社に対する投資の売却に伴って一時差異が解消した際の繰延税金資産又は繰延税金負債の取崩しについては、資本剰余金を相手勘定として取り崩すこととされました。

また、親会社の持分変動による差額に係る連結財務諸表固有の一時差異について、資本剰余金を相手勘定として繰延税金資産又は繰延税金負債を計上していた場合で、税法の改正に伴い税率が変更されたこと等により繰延税金資産及び繰延税金負債の額が修正されたときは、修正差額を当該税率が変更された年度において、資本剰余金を相手勘定として計上することされました。

⑥ その他の包括利益の開示に関する取扱い

➀の法人税等の計上区分についての原則に従ってその他の包括利益に計上される法人税、住民税及び事業税等についても、その他の包括利益に関する税金に係る項目であるという点は税効果と同様であるとされています。

このため、その他の包括利益の各項目について、従来、繰延税金資産又は繰延税金負債に対応する額を控除した金額を計上することとしていましたが、これに加えて、各項目に対して課税された法人税等の額を控除した金額を計上することとされました。

これに伴い、包括利益計算書においてその他の包括利益の内訳項目から控除する「税効果額」及びその他の包括利益の内訳の注記における「税効果額」について、「法人税等及び税効果額」に改正されました。


2. グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果に関する改正の概要

(1) 改正の経緯

グループ法人税制※1が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果の取扱いについて、改正前の税効果適用指針第39項では、当該子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表において、当該売却損益に係る一時差異に対して繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されているときは、当該売却損益に係る一時差異が投資に係る一時差異とは性格が異なるものであるため、連結決算手続上、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債の額は修正しないこととされていました。

しかし、税引前当期純利益と税金費用を合理的に対応させることが税効果会計の目的とされている中で、改正前の税効果適用指針での取扱いは、連結決算手続上、消去される取引に対して税金費用を計上するものであり、税引前当期純利益と税金費用が必ずしも適切に対応していないとの意見が聞かれていました。こうした意見を踏まえ、ASBJにおいて検討を行い、改正前の税効果適用指針での取扱いを見直すこととされました。

税効果適用指針の改正前と改正後の会計処理の相違については、前述の解説記事において、設例と図を用いて解説しています。

(2) 会計処理の見直し

➀ 連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益を税務上繰り延べる場合の連結財務諸表における取扱い

連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益について、税務上の要件を満たし課税所得計算において当該売却損益を繰り延べる場合(法人税法第61条の11)、当該売却に係る連結財務諸表上の税引前当期純利益と税金費用との対応関係の改善を図る観点から、連結財務諸表において次の処理を行うこととされました。

(売却損益に係る一時差異)

  • 子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表において、売却損益に係る一時差異に対して繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されているときは、連結決算手続上、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を取り崩す
  • 購入側の企業による当該子会社株式等の再売却等、法人税法第61条の11に規定されている、課税所得計算上、繰り延べられた損益を計上することとなる事由についての意思決定がなされた時点において、当該取崩額を戻し入れる(連結財務諸表上、繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する)

(子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の一時差異)

  • 子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の一時差異について、予測可能な将来の期間に子会社株式の売却(課税所得計算において売却損益を繰り延べる場合)を行う意思決定又は実施計画が存在しても、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を計上しない
② 連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益を税務上繰り延べる場合の個別財務諸表における取扱い

連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益について、税務上の要件を満たし課税所得計算において当該売却損益を繰り延べる場合(法人税法第61条の11)において、当該子会社株式等の売却により将来加算一時差異が生じているにもかかわらず繰延税金負債を計上しないとする取扱いは、一部の場合を除き、一律に繰延税金負債を計上する税効果適用指針の取扱いに対する例外的な取扱いとなることから、その適用範囲を限定することが考えられるとされています。また、個別財務諸表においては、連結財務諸表とは異なり、売却損益が消去されないことから、税金費用を計上しないこととした場合には税引前当期純利益と税金費用との対応関係が図られないこととなると考えられるとされています。

したがって、当該子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表における処理については、改正前の税効果適用指針第17項の取扱い(当該売却損益に係る一時差異について、税効果適用指針第8項及び第9項に従って繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する定め)を見直さないこととされました。

※1 グループ法人税制とは、平成22年度税制改正において設けられたもので、完全支配関係にある法人同士を一体とみて課税を行う制度。

3. 適用時期及び経過措置

(1) 適用時期

法人税等の計上区分及びグループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果に関する改正の適用時期については、2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することとし、また、2023年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用することができるとされています。具体的な、原則適用及び早期適用の時期の関係は、3月末決算を前提にすると<図1>の通りです。

図1

図1

(2) 経過措置

➀ 法人税等の計上区分(株主資本又はその他の包括利益に対する課税)

法人税等の計上区分については、前述Ⅲ.1.(2)➀に記載の法人税等の計上区分についての原則を過年度に生じた取引等に適用した場合の会計方針の変更による累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減するとともに、対応する金額を資本剰余金、評価・換算差額等又はその他の包括利益累計額のうち、適切な区分に加減し、当該期首から新たな会計方針を適用することができることとする経過的な取扱いが定められています。

② グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果

ASBJ会計基準等の対象となる取引は、売却元企業の税務申告書に譲渡損益調整勘定等として記載されているため、過去の期間における対象取引の把握は可能と考えられるとされています。また、会計処理については、購入側の企業における再売却等についての意思の有無により判断することになりますが、この点についても、過去の連結財務諸表における子会社等に対する投資に係る一時差異への税効果会計の適用において、一定の判断がなされていたと考えられるとされています。

したがって、遡及適用が困難となる可能性は低いと考えられるため、ASBJ会計基準等を適用することによりこれまでの会計処理と異なることとなる場合、特段の経過的な取扱いを定めず、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱い、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用することとされました。


4. JICPA実務指針等の概要

前述のASBJ会計基準等の改正に伴い、JICPA実務指針等も次の通り改正されています。

(1) 法人税等の計上区分(株主資本又はその他の包括利益に対する課税)

JICPA実務指針等において株主資本及びその他の包括利益の各項目(評価差額及び繰延ヘッジ損益等)について、従来、繰延税金資産又は繰延税金負債に対応する額を控除した金額を計上することとされていましたが、これに加えて、各項目に対して課税された法人税等の額についても控除した金額を計上することとされました。

(2) 持分法適用会社の株式売却においてグループ法人税制が適用される場合の当該株式等の売却に係る税効果

ASBJ会計基準等においてⅢ.2.(2)➀に記載の通り、子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の一時差異について、予測可能な将来の期間に子会社株式の売却(売却損益を繰り延べる場合)を行う意思決定又は実施計画が存在しても、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を計上しないこととされています。このため、JICPA実務指針等において持分法適用会社における留保利益、のれんの償却額、負ののれんの処理額及び欠損金について、税務上の要件を満たし、課税所得計算において売却損益を繰り延べる場合に該当する当該持分法適用会社の株式売却の意思決定を行った場合には、税効果を認識しないこととされました。

(3) 適用時期

ASBJ会計基準等を適用する連結会計年度及び事業年度から適用することとされています。

 

IV グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示等の公開草案の概要


1. 開発の経緯

令和5年度税制改正において、国際的に合意されたグローバル・ミニマム課税のルールのうち所得合算ルール(IIR)に係る取扱いが2023年3月28日に成立した改正法人税法において定められ、2024年4月1日以後開始する事業年度から適用することとされています。

当該グローバル・ミニマム課税制度は、一定の要件を満たす多国籍企業グループ等を構成する会社等について、国別に算定された実効税率が基準税率(15%)を下回る場合、国別に集計された純所得(利益)に対する基準税率に至るまでの税額を、親会社等がその所在地国の税務当局に支払うものであることから、当該課税の源泉となる純所得(利益)が生じる企業と納税義務が生じる企業が相違する新たな税制であるとされています。

当該グローバル・ミニマム課税制度について、現行の会計基準等では法人税等(当期税金)及び当該法人税等に関する税効果会計をどのように取り扱うかが明らかでないとの意見が聞かれたことから、ASBJにおいて検討が行われ、税効果会計の取扱いについては、2023年3月に実務対応報告第44号「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い」が公表されています。これはASBJが本実務対応報告の適用を終了するまでの間、税効果会計の適用にあたって、税効果適用指針の定めにかかわらず、グローバル・ミニマム課税制度の影響を反映しないことを定めています。

その後、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等(当期税金)の会計処理及び開示に関する取扱いについてもASBJにおいて検討が行われ、次の内容のASBJ公開草案等が公表されました。


2. 会計処理の提案

(1) 連結財務諸表及び個別財務諸表における取扱い

グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等については、計上時期を対象会計年度となる連結会計年度及び事業年度として、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づき当該法人税等の合理的な金額を見積り計上することが提案されています。

また、財務諸表の作成時点において一部の情報の入手が困難な場合の見積りに関する次の考え方を結論の背景において示すことが提案されています。

  • 対象会計年度となる連結会計年度及び事業年度において適時に情報を入手することが困難な場合においては、財務諸表の作成時点で入手可能な対象会計年度に関する情報に基づきグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を見積もることとなる
  • 適用初年度の翌年度以降は、入手可能となる情報が増加し、さらに申告が行われた年度以降は情報を入手する体制の整備や実績値の把握等によって、より精緻な見積りが可能となると考えられる
  • 企業が当事業年度の財務諸表作成時に入手可能な情報に基づき見積もった金額と翌事業年度の見積金額又は確定額との間に差額が生じたとしても、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づき当該法人税等の合理的な金額を見積もっている場合には、当該差額は誤謬にはあたらず、当期の損益として処理することになると考えられる。また、会計上の見積りの変更にあたって、当該差額に重要性がある場合には、会計上の見積りの変更に関する注記を行うこととなると考えられる

(2) 四半期連結財務諸表及び四半期個別財務諸表における取扱い

四半期連結財務諸表及び四半期個別財務諸表(以下、四半期財務諸表)においては、四半期財務諸表の作成にあたって入手している情報は、年度に比して限定的な情報であると考えられる等の理由から、前記の提案の定めにかかわらず、当面の間、当四半期連結会計期間及び当四半期会計期間を含む対象会計年度に関するグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を計上しないことができることが提案されています。

この「当面の間」について、その具体的な期間は、ASBJが追加的な検討を行い、当該取扱いを改正するまでの間であることを想定しているとされています。

なお、現在ASBJにおいて検討されている四半期報告書制度の見直しへの対応においては、基本的に企業会計基準第12号「四半期財務諸表に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第14号「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」(以下、四半期会計基準等)の会計処理及び開示を引き継ぎ、期首から6か月間を1つの会計期間(中間会計期間)とする中間財務諸表に係る取扱いと四半期会計基準等の取扱いに差異が生じる可能性がある項目については、従来の四半期会計基準等に基づく取扱いが継続して適用可能となる取扱いが提案されています。したがって、前述の取扱いは四半期報告書制度が見直された後の中間財務諸表においても同様の取扱いになることが想定されているものと考えられます。


3.  開示

(1) 貸借対照表における表示

グローバル・ミニマム課税制度に係る未払法人税等のうち、貸借対照表日の翌日から起算して1年を超えて支払の期限が到来するものは、連結貸借対照表及び個別貸借対照表の固定負債の区分に長期未払法人税等などその内容を示す科目をもって表示することが提案されています。

(2) 連結損益計算書における表示

連結損益計算書において、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等は、税金等調整前当期純利益の次に、法人税、地方法人税、住民税及び事業税(所得割)を示す科目に表示することが提案されています。

(3) 個別損益計算書における表示

個別損益計算書において、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等は、納税義務が生じる親会社等の所得(利益)に対する税には直接的には該当しませんが、連結損益計算書における表示区分と合わせ、税引前当期純利益の次に表示することが提案されています。

また、親会社等の所得(利益)に対する税とは区分することが適切であると考えられたため、重要性が乏しい場合を除き、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を次のいずれかの方法により表示することが提案されています。

  • 法人税、地方法人税、住民税及び事業税(所得割)を表示した科目の次にその内容を示す科目をもって区分して表示する
  • 法人税、地方法人税、住民税及び事業税(所得割)に含めて表示し、当該金額を注記する

(4) 四半期連結財務諸表及び四半期個別財務諸表における注記

次の場合において、四半期財務諸表における当面の取扱い(IV.2.(2)参照)を適用するときは、適用している旨を企業(集団)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を適切に判断するために重要なその他の事項として四半期財務諸表に注記することが提案されています。

  • 前連結会計年度及び前事業年度において、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を計上し、かつ、
  • 当四半期連結会計期間及び当四半期会計期間においても、当連結会計年度及び当事業年度におけるグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等が重要であることが合理的に見込まれる場合※
    ※ 重要であることが合理的に見込まれる場合に該当するかどうかは、前連結会計年度及び前事業年度に入手した情報並びに四半期財務諸表の作成時に入手可能な情報に基づき判断することになると考えられる旨が結論の背景で示されている。


4. 適用時期等

本公開草案の定めは、グローバル・ミニマム課税制度の適用時期に合わせて、2024年4月1日以後に開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することが提案されています。

ただし、四半期財務諸表における注記の定め(IV.2.(4)参照)に関しては、適用初年度については前連結会計年度及び前事業年度においてグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を計上していないことから、2025年4月1日以後に開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することが提案されています。


5. 補足文書(案)の概要

ASBJは、実際に適用する場合の実務に資するための情報を提供することを目的として、補足文書「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等に関する適用初年度の見積りについて」(以下、補足文書)を公表することを予定しており、補足文書(案)を本公開草案と同時に公表しました。

適用初年度におけるグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の見積りについて、その困難さから具体的な指針を求める意見が聞かれたとされています。検討の結果、企業の状況により入手可能な情報とそれに基づく見積りは異なると考えられるため、見積りに関する具体的な指針を示さず、適用初年度において情報の入手が困難な場合に考えられる次の見積りの一例を補足文書として示すことを予定しているとされています。

  • 対象範囲の判定において、従来の連結財務諸表の作成にあたって入手していない国別報告事項に関する情報や恒久的施設等及び特殊な会社等からの情報を適時に入手することができない場合には、従来の連結財務諸表の作成にあたって入手している子会社等の情報のみに基づき国別実効税率を算定する等の方法により対象範囲の判定を行う。
  • 子会社等におけるグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の算定に際して、個別計算所得等の金額、調整後対象租税額並びに給与適用除外額及び有形資産適用除外額の算定において必要な情報について、従来の連結財務諸表の作成にあたって入手しておらず対象会計年度となる連結会計年度及び事業年度の決算時において適時に入手することができない場合には、従来の連結財務諸表の作成にあたって入手している子会社等の会計数値に基づき当該金額を見積もる。

なお、前述の通り本補足文書は、本公開草案が提案する定めを適用する場合において、実務に資するための情報を提供することを目的として公表することを予定しているものとされており、企業会計基準、企業会計基準適用指針及び実務対応報告(以下、企業会計基準等)を追加又は変更するものではなく、企業会計基準等の適用にあたって参考となる文書であるとされています。また、前述の見積りの例は、適用初年度において従来の財務諸表の作成にあたって入手している以上の情報を入手できない場合に考えられる見積りの一例であり、グローバル・ミニマム課税制度の適用初年度における当該制度に係る法人税等の合理的な見積りの方法は、前述の方法に限られるものではない点に留意が必要であるとされています。



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