EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY税理士法人 インダイレクトタックス部 岡田 力
約22年間、日系および外資系企業の国内外取引に係る関税、消費税および海外付加価値税の税務アドバイザリー業務に従事。特定のインダストリーを対象とした専門的な関税・消費税の削減プランニングに関わる。ERPやデジタルツールを活用した消費税・海外付加価値税コンプライアンス業務の効率化・自動化を手掛ける。EY税理士法人 パートナー。
前編(本誌2021年10月号)では、23年10月1日から導入される消費税インボイス制度への対応のうち、適格請求書の概要について解説しました。後編となる本稿では、仕入税額控除および税額計算への対応を中心に解説します。
適格請求書等保存方式の下において、消費税の課税事業者がその課税仕入れに係る消費税額につき仕入税額控除を適用する場合には、一定の事項が記載された帳簿及び請求書等の保存が求められます(新消法30⑦)。
仕入税額控除の規定において馴染みのある法定要件となりますが、現行の区分記載請求書等保存方式との相違点が二つあります。一つ目は、現行では「3万円未満の課税仕入れ」および「請求書等の交付を受けなかったことにつきやむを得ない理由があるとき」は、一定の事項を記載した帳簿の保存のみで仕入税額控除が認められる旨が規定されていますが、適格請求書等保存方式の開始後は、これらの規定が廃止されます。二つ目は、現行では仕入先から交付された請求書等に「軽減税率の対象品目である旨」や「税率ごとに区分して合計した税込対価の額」の記載がないときは、これらの項目に限って交付を受けた事業者自らがその取引の事実に基づき追記することができますが、適格請求書等保存方式の開始後は、このような追記をすることができません。
適格請求書等保存方式において保存すべき帳簿の記載事項については次の通りであり、区分記載請求書等保存方式の下での帳簿の記載事項と同様です(相手方の登録番号の記載は不要)。
① 課税仕入れの相手方の氏名又は名称
② 課税仕入れを行った年月日
③ 課税仕入れに係る資産又は役務の内容(課税仕入れが他の者から受けた軽減対象資産の譲渡等に係るものである場合には、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等に係るものである旨)
④ 課税仕入れに係る支払対価の額
帳簿に記載する課税仕入れの相手方の氏名又は名称は、取引先コード等の記号・番号等による表示で差し支えありません。また、課税仕入れに係る資産又は役務の内容についても、商品コード等の記号・番号等による表示で差し支えありませんが、この場合、課税資産の譲渡等であるか、また、軽減対象資産の譲渡等に係るものであるときは、軽減対象資産の譲渡等に係るものであるかの判別が明らかとなるものである必要があります(インボイス通達4-5)。
なお、請求書等の交付を受けることが困難であるなどの理由により、次の取引については、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます(新消法30⑦、新消令49①、新消規15の4)。
適格請求書等保存方式において保存すべき請求書等には、適格請求書のほか、次の書類等も含まれます(新消法30⑨)。
① 適格簡易請求書
② 適格請求書又は適格簡易請求書の記載事項に係る電磁的記録
③ 適格請求書の記載事項が記載された仕入明細書、仕入計算書その他これに類する書類(課税仕入れの相手方の確認を受けたものに限るものとし、書類に記載すべき事項に係る電磁的記録を含む)
④ 次の取引について、媒介又は取次ぎに係る業務を行う者が作成する一定の書類(書類に記載すべき事項に係る電磁的記録を含む)
取引先から適格請求書に係る電磁的記録による提供を受けた場合であっても、電磁的記録を整然とした形式及び明瞭な状態で出力した書面を保存することで、仕入税額控除の適用に係る請求書等の保存要件を満たします(新消規15の5②)。また、提供を受けた電磁的記録をそのまま保存するときには、電子帳簿保存法の規定を考慮した対応が求められます。
なお、自ら作成した仕入明細書等の保存をもって仕入税額控除を適用する場合には、課税仕入れの相手方の確認を受けるという現行の要件に加えて、その相手方の(その適格請求書発行事業者の)登録番号をその支払明細書等に記載する必要があります。従って、23年10月1日以後に行われる課税仕入れの取引に備えて、事前に取引の相手方の登録番号を入手しておくことが望まれます。
適格請求書等保存方式の下では、適格請求書発行事業者以外の者(消費者、免税事業者又は登録を受けていない課税事業者)からの課税仕入れについては、仕入税額控除のために保存が必要な請求書等の交付を受けることができないことから、仕入税額控除を行うことができません(新消法30⑦)。ただし、適格請求書等保存方式導入から一定期間は、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れであっても、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額とみなして控除できる経過措置が設けられています(28年改正法附則52、53)。
経過措置を適用できる期間等は、23年10月1日から29年9月30日までの6年間となっており、最初の3年間について仕入税額相当額の80%の金額を、次の3年間についての仕入税額相当額の50%の金額を仕入税額として控除することができます(<図1>参照)。
なお、この経過措置の適用を受けるためには、経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨を記載した帳簿及び相手方(適格請求書発行事業者以外の者)から受領した請求書等の保存が要件となります。「経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨」の記載については、個々の取引ごとに「80%控除対象」、「免税事業者からの仕入れ」などと記載する方法のほか、例えば、本経過措置の適用対象となる取引に、特定の記号・番号等を表示し、かつ、これらの記号・番号等が「経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨」を別途表示する方法が認められていますので、会計システムにおいて本経過措置のための税コードを設定して、取引の都度その税コードを取引データに入力しておくことが実務的な対応方法であると考えます。
適格請求書等保存方式における売上税額については、原則として、課税期間中の課税資産の譲渡等の税込金額の合計額に110分の100(軽減税率の対象となる場合は108分の100)を掛けて計算した課税標準額に7.8%(軽減税率の対象となる場合は6.24%)を掛けて算出します(割戻し計算)。また、これ以外の方法として、交付した適格請求書及び適格簡易請求書の写し(電磁的記録により提供したものも含む)を保存している場合に、そこに記載された税率ごとの消費税額等の合計額に100分の78を乗じて計算した金額とすることもできます(積上げ計算)(新消法45⑤、新消令62)。
なお、売上税額の計算は、取引先ごとに割戻し計算と積上げ計算を分けて適用するなど、併用することも認められますが、併用した場合であっても売上税額の計算につき積上げ計算を適用した場合に当たるため、仕入税額の計算方法に割戻し計算を適用することはできません(インボイス通達3-13)。
適格請求書等保存方式における仕入税額の計算方法は、上記(1)の売上税額と同様に積上げ計算と割戻し計算が認められています。
積上げ計算では原則として、交付された適格請求書などの請求書等に記載された消費税額等のうち課税仕入れに係る部分の金額の合計額に100分の78を掛けて算出します(請求書等積上げ計算)(新消法30①、新消令46①)。また、これ以外の方法として、課税仕入れの都度、課税仕入れに係る支払対価の額に110分の10(軽減税率の対象となる場合は108分の8)を乗じて算出した金額(1円未満の端数が生じたときは、端数の切捨て又は四捨五入)を仮払消費税として、帳簿に記載している場合は、その金額の合計額に100分の78を掛けて算出する方法も認められます(帳簿積上げ計算)(新消令46②)。
なお、仕入税額の計算に当たり、請求書等積上げ計算と帳簿積上げ計算を併用することも認められますが、これらの方法と割戻し計算を併用することは認められません(インボイス通達4-3)。
一方、割戻し計算では、課税期間中の課税仕入れに係る支払対価の額を税率ごとに合計した金額に110分の7.8(軽減税率の対象となる部分については108分の6.24)を掛けて算出することができます(新消法30①、新消令46③)。ただし、仕入税額を割戻し計算することができるのは、売上税額を割戻し計算する場合に限ります。
上記の売上税額と仕入税額の計算方法の組み合わせをまとめると<図2>のようになります。
インボイス制度の施行まで2年を切りました。業種業態によって、免税事業者との取引の多寡によって、または使用しているシステムの機能によって、まだ2年と考える企業とあと2年しかないと考える企業に分かれます。新制度は少なからず企業の損益・業務オペレーションおよびシステムに影響を与えます。その影響度の調査や課題点の洗い出しを含めて、早めに制度対応のためのロードマップを作成することが望ましいです。