消費税インボイス制度対応の留意点 前編

消費税インボイス制度対応の留意点 前編


情報センサー2021年10月号 Tax update


EY税理士法人 インダイレクトタックス部 岡田 力
約22年間、日系および外資系企業の国内外取引に係る関税、消費税および海外付加価値税の税務アドバイザリー業務に従事。特定のインダストリーを対象とした専門的な関税・消費税の削減プランニングに関わる。ERPやデジタルツールを活用した消費税・海外付加価値税コンプライアンス業務の効率化・自動化を手掛ける。EY税理士法人 パートナー。

Ⅰ はじめに

2023年10月1日からわが国の消費税法に「適格請求書等保存方式」(いわゆるインボイス制度)が導入されます。このインボイス制度は、単に企業の発行する・収受する請求書・領収書の書式だけに影響を与えるものではなく、企業の損益・ビジネス・システムにも影響を与える可能性があります。

インボイス制度への対応に関する本稿は、本誌21年10月号(前編)と同21年11月号(後編)に分けて掲載します。

Ⅱ 適格請求書等保存方式

1. 概要

インボイス制度とは、複数税率を設ける付加価値税法において必須の制度であり、そのインボイスをもって売手が買手に対し正確な適用税率や税額を表示して、売手・買手の双方が同税率・同税額を認識することにより、その付加価値税のシステムが機能していくというものです。19年10月に軽減税率制度を導入したわが国は、遅ればせながらこのインボイス制度の導入をこれから始めることになります。23年10月1日から複数税率に対応した仕入税額控除の方式として、適格請求書等保存方式(新消法30、57の2、57の4)を導入します。

適格請求書等保存方式においては、仕入税額控除の要件として、原則、適格請求書発行事業者から交付を受けた適格請求書の保存が必要になります。適格請求書を交付しようとする課税事業者は、事前に適格請求書発行事業者として登録を受ける必要があります。取引の相手方(課税事業者に限る)から交付を求められた場合には、法令で定められた事項が記載されている適格請求書を交付しなければなりません。また、免税事業者との取引における仕入税額控除につき、6年間の経過措置が設けられました。

2. 適格請求書発行事業者の登録

適格請求書発行事業者の登録を受けることができるのは、課税事業者に限られます(新消法57の2①)。適格請求書発行事業者の登録を受けようとする事業者は、納税地を所轄する税務署長に登録申請書を提出する必要があります(新消法57の2②、インボイス通達2-1)。なお、登録申請書は、適格請求書等保存方式の導入の2年前である21年10月1日から提出することができます(28年改正法附則1八、44①)。

登録申請書の提出を受けた税務署長は、登録拒否要件に該当しない場合には、適格請求書発行事業者登録簿に法定事項を登載して登録を行い、登録を受けた事業者に対して、その旨を書面で通知することとされています(新消法57の2③④⑤⑦)。登録の効力は、通知の日にかかわらず、適格請求書発行事業者登録簿に登録された日に発生します(23年10月1日より前に登録の通知を受けた場合であっても、登録日は23年10月1日となります)。すなわち、この登録日以降の取引については、課税事業者である相手方の求めに応じて適格請求書の交付義務があります(インボイス通達2-4)。登録日から登録の通知を受けるまでの間に発効する請求書につき、適格請求書の記載要件を満たさない請求書を発行することになりますが、通知を受けた後に登録番号等の記載要件を記載した請求書を改めて相手方に交付する必要があります(通知を受けた後に当初の請求書において不足する事項を相手方に書面等で通知することで、すでに交付した請求書と合わせて適格請求書の記載事項を満たすことができます。(インボイス通達2-4))。

登録番号の構成は、法人であれば『「T」+法人番号(数字13桁)』、個人事業者であれば『「T」+数字13桁(マイナンバーではない番号)』となります。適格請求書発行事業者登録簿の登載事項(事業者名および登録番号等)については、インターネットを通じて、国税庁のウェブサイトにおいて公表されます(新消法57の2④⑪、新消令70の5②)。公表事項の閲覧を通じて、交付を受けた請求書等の作成者が適格請求書発行事業者に該当するかを確認することができます。例えば、事業者が相手方から収受する請求書に記載された番号の確認を行う場合、または事業者が相手方への支払のために発行する支払明細書に記載すべき相手方の登録番号の確認を行う場合に有効な公表データとなります。この公表サイトはWeb-API機能を有していることから、事業者が自社で使用しているERPシステムを改修することにより、次のような活用ができます(<図1>参照)。

図1 登録状況の確認方法の概要
  • 公表されている登録事業者データをCSV形式でダウンロード

  • ダウンロードしたデータとERPシステムにあるベンダーマスタデータを突合

  • 突合できたベンダーを課税事業者、突合できないベンダーを免税事業者と認識

  • 免税事業者のベンダーコードが使用される仕入伝票に特定の税コードを自動付与

2. 適格請求書発行事業者の義務等

(1)適格請求書の交付義務

適格請求書発行事業者には、国内において課税資産の譲渡等を行った場合に、相手方からの求めに応じて適格請求書を交付する義務が課されています(新消法57の4①)。免税取引、非課税取引及び不課税取引のみを行った場合については、適格請求書の交付義務は課されません。なお、適格請求書発行事業者は、適格請求書の交付に代えて、適格請求書に係る電磁的記録を提供することができます(新消法57の4⑤)。ただし、次の取引は、適格請求書発行事業者が行う事業の性質上、適格請求書を交付することが困難なため、適格請求書の交付義務が免除されます(新消令70の9②)。

① 3万円未満の公共交通機関(船舶、バス又は鉄道)による旅客の運送
② 出荷者が卸売市場において行う生鮮食料品等の販売(出荷者から委託を受けた受託者が卸売の業務として行うものに限ります)
③ 生産者が農業協同組合、漁業協同組合又は森林組合等に委託して行う農林水産物の販売(無条件委託方式かつ共同計算方式により生産者を特定せずに行うものに限ります)
④ 3万円未満の自動販売機及び自動サービス機により行われる商品の販売等
⑤ 郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出されたものに限ります)

また、適格請求書発行事業者が、不特定かつ多数の者に課税資産の譲渡等を行う次の事業を行う場合には、適格請求書に代えて、適格請求書の記載事項を簡易なものとした適格簡易請求書を交付することができます(新消法57の4②、新消令70の11)。

① 小売業
② 飲食店業
③ 写真業
④ 旅行業
⑤ タクシー業
⑥ 駐車場業(不特定かつ多数の者に対するものに限ります)
⑦ その他これらの事業に準ずる事業で不特定かつ多数の者に課税取引を行う事業

適格請求書発行事業者には、課税事業者に返品や値引き等の売上げに係る対価の返還等を行う場合、適格返還請求書の交付義務が課されています(新消法57の4③)。ただし、適格請求書の交付義務が免除されている場合には、適格返還請求書の交付義務も免除されます(新消令70の9③)。

(2)適格請求書の様式

適格請求書の様式は、法令等で定められていません。

適格請求書として必要な次の事項が記載された書類(請求書、納品書、領収書、レシート等)であれば、その名称を問わず、適格請求書に該当します(新消法57の4①、インボイス通達3-1)。一つの書類のみで要件を満たしている必要はなく、相互の関連が明確な複数の書類(例えば納品書と請求書など)全体で記載事項を満たしていれば、これら複数の書類を適格請求書として取り扱うことができます。

適格請求書には、次の事項が記載されていることが必要です(<図2>参照)。

図2 適格請求書等への記載例

① 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
② 課税資産の譲渡等を行った年月日
③ 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(課税資産の譲渡等が軽減対象資産の譲渡等である場合には、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等である旨)
④ 課税資産の譲渡等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額及び適用税率
⑤ 税率ごとに区分した消費税額等(消費税額及び地方消費税額に相当する金額の合計額をいいます。以下同じ)
⑥ 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称

適格簡易請求書の場合には、「書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称」の記載が不要である点、「税率ごとに区分した消費税額等」又は「適用税率」のいずれか一方の記載で足りる点が異なります。

適格請求書の記載事項である消費税額等については、一つの適格請求書につき、税率ごとに1回の端数処理を行います(新消令70の10、インボイス通達3-12)。

なお、切上げ、切捨て、四捨五入などの端数処理の方法については、任意の方法とすることができます。一つの適格請求書に記載されている個々の商品ごとに消費税額等を計算し1円未満の端数処理を行い、その合計額を消費税額等として記載することは認められません。

<凡例>

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2021年10月号
 

※ 情報センサーはEY新日本有限責任監査法人が毎月発行している社外報です。

 

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