リースおよび資産除去債務に関わる繰延税金の会計処理の明確化(IAS第12号の改訂)

リースおよび資産除去債務に関わる繰延税金の会計処理の明確化(IAS第12号の改訂)


情報センサー2021年10月号 IFRS実務講座


EY新日本有限責任監査法人 IFRSデスク 公認会計士 北出旭彦
当法人入所後、大阪事務所にて主として海運業、小売業、製造業などの会計監査および内部統制監査に携わる。2019年よりIFRSデスクに所属し、IFRS導入支援業務、テクニカル・コンサルテーション、執筆活動などに従事している。当法人 マネージャー。

Ⅰ はじめに

国際会計基準審議会は、2021年5月「単一の取引から生じた資産及び負債に係る繰延税金(IAS第12号の改訂)」(以下、本改訂)を公表しました。

本稿では、本改訂の内容について解説します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。

Ⅱ 概要

改訂前のIAS第12号「法人所得税」は、企業が資産又は負債の当初認識から生じる繰延税金を認識することを特定の状況において禁止しています(当初認識に関する適用除外)。ただし、リースや資産除去債務のように当初認識時において同額の資産と負債を認識することとなるような取引に対しても禁止されるのかどうかについて、明確にされていませんでした。そこで、これらの取引により生じる一時差異に対して、当初認識に関する適用除外規定を適用せずに、通常の一時差異と同様に会計処理することを明確化するためにIAS第12号を改訂しました。なお、改訂前基準における実務上の取り扱いおよび改訂案の内容については、本誌19年11月号にて解説していますので、合わせてご覧ください。また、本稿では、主にリース取引を例に解説していますが、資産除去債務など同様の取引や事象にも当てはまります。

Ⅲ 税務基準額の決定

改訂案においても織り込まれていた考え方ですが、当初認識時において繰延税金を認識すべきかどうかを決定する際に、一時差異が生じるかどうかを評価する必要があります。この評価を行うに当たり、税務上で損金算入される場合に、その税務上の損金算入が資産もしくは負債のいずれに関連するかを適用される税法を考慮して判断することになります。すなわち、税務基準額を決定する必要があります。

リース取引を例にすると、リース取引に関連する費用の損金算入を得る場合に、その損金算入が次のどちらに関連するものなのかを決定する必要があります。

(a)使用権資産:損金算入は使用権資産から生じた費用に関連するものである
(b)リース負債:損金算入はリース負債の返済に関連するものである

(a)の使用権資産に関連すると判断する場合は、使用権資産とリース負債の税務基準額は会計上の帳簿価額と同額となり、当初認識時点で一時差異は生じず、その後に一時差異が生じた時点で繰延税金を認識することになります。

一方、(b)のリース負債に関連すると判断する場合は、使用権資産に係る税務基準額は償却費として損金算入される金額がないためゼロとなる一方、リース負債に係る税務基準額は将来の損金算入額が負債と同額であるためゼロとなり、使用権資産とリース負債のそれぞれに関して、将来加算一時差異と将来減算一時差異が生じることとなります。この状況を表したのが<図1>です。

    表1 税務基準額の決定

    日本の税法を考慮した場合、税務上でファイナンス・リースに該当する場合、使用権資産から生じる減価償却費が損金算入されるので、上記(a)に該当することになると考えられます(単純化のため、会計上のリース期間がリース契約期間(税務上のリース期間)と一致している前提)。

    一方、税務上でオペレーティング・リースに該当する場合、賃貸借取引として費用の発生時に損金算入され、資産の償却費として損金算入されるわけではない点を踏まえると、上記(b)に該当すると判断して会計処理を行うのが一般的であると考えられます。

    なお、ファイナンス・リースに該当する場合であったとしても、後述のⅣ 1.に該当する場合には、会計上の帳簿価額と税務基準額が異なる可能性があり、その場合には当初認識時においても一時差異が生じる可能性があるため留意が必要です。

    Ⅳ 繰延税金資産と繰延税金負債が同額とならない場合

    通常、使用権資産とリース負債の金額は同額であることが想定され、当初認識時において一時差異が生じるとしても、繰延税金資産と繰延税金負債は同額であると考えられます。ただし、一定の状況においては、同額とならないケースが考えられるため、留意が必要です。

    1. 前払リース料および当初直接コスト等が存在する場合

    IFRS第16号「リース」では、未払リース料の現在価値でリース負債を当初測定し、それに対応する使用権資産を認識することとなります。使用権資産の当初測定は、リース負債の金額に加えて、前払リース料や借手が負担する当初直接コスト等が存在する場合には、それらを調整して使用権資産を測定する必要があります。このようなIFRS基準上の調整項目の一部には、税務上の取り扱いとは異なる調整項目も存在します。これらの調整により、使用権資産に関連して追加的な将来加算一時差異が生じる可能性があり、その場合には、繰延税金資産と繰延税金負債は同額にならないと考えられます。

    2. 異なる税率が将来加算一時差異および将来減算一時差異に適用される場合

    属する国や地域によっては、将来加算一時差異と将来減算一時差異に異なる税率が適用される税制が存在する可能性があります。このような場合にも、繰延税金資産と繰延税金負債は同額にならないと考えられます。

    3. 回収可能性が無いと判断される場合

    繰延税金資産は、回収可能性がある範囲内でのみ、その認識が認められます。そのため、一時差異が存在したとしても、繰延税金資産の回収可能性が無いと判断される場合には、繰延税金資産と繰延税金負債は同額にならないと考えられます。この点、回収可能性の判断においては、将来減算一時差異の解消が予測される期間と同じ期間に将来加算一時差異が解消する場合は回収可能性があると判断されることになり、使用権資産とリース負債の両者の一時差異の解消パターンは概ね一致するためその大部分は回収可能性があると判断される可能性が高いと考えられます。ただし、その解消パターンは完全に一致するものではないため、その他の一時差異の解消パターンも考慮した上で、回収可能性を判断する必要があると考えられます。さらに、使用権資産とリース負債とで異なる税制が適用される場合には、両者を相殺できない可能性があるため、適用される税制の適切な理解が必要です。

    Ⅴ おわりに

    現行IAS第12号においては、リース取引などの繰延税金の会計処理に関して、企業間でばらつきが見られたものの、本改訂によりその会計処理が明確化されたことから、企業間での比較可能性は担保されることになると考えられます。本改訂は、改訂前基準における資産と負債を区別して取り扱う方法を導入しています。従って、現在、当初認識に関する適用除外規定を適用している、または資産と負債を実質的に一体のものとみなして取り扱う方法を採用している企業は、改訂により財務諸表数値、表示および開示に影響があるものと考えます(改訂前基準化の実務上のアプローチの詳細については、本誌19年11月号をご覧ください)。また、前述の通り、企業固有の状況および企業が属する国および地域の税制によりその会計処理が異なることとなるため、取引を取り巻く事実および状況に基づく判断を適用する必要がある点に留意が必要となります。


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      2021年10月号
       

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