経済のデジタル化と国際課税のブループリント

経済のデジタル化と国際課税のブループリント


情報センサー2021年新年号 Tax update


EY税理士法人 大堀秀樹

EY税理士法人にて、日系企業100社以上のグローバル税務ポジションに関する数量分析を提供。経済のデジタル化に応じたグローバル課税ベースでの税務戦略、ガバナンスとオペレーションについてのアドバイスを担当している。


Ⅰ はじめに

経済開発協力機構(OECD)は、経済のデジタル化に伴う課税の課題について、2020年10月に最終報告を発表し11月のG20にて承認を得るスケジュールにて検討を重ねていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大や米国大統領選挙等の政治的な決着が難しい時期であったことも影響し、最終的な合意には至りませんでした。OECDは、20年10月12日に『第1の柱のブループリント』『第2の柱のブループリント』『経済的影響評価』などの多くの文書を公表しました。11月のG20首脳会議を経て、21年1月にはコンサルテーションが催され、OECDは21年中のコンセンサスによる解決策の合意を目指してさらなる検討作業が進められています。
本稿では、第1の柱と第2の柱に関するブループリントにおける主なポイントについて解説します。
 

Ⅱ  BEPS2.0

今回のブループリントでは、経済のデジタル化やBEPSにおいて残された課題について、従来の枠組みを超えて①新たな課税根拠を定義し、②独立企業原則に必ずしも基づかない定式的アプローチを定め、③企業単位ではなく企業グループ全体で捉え、④最低レベルの課税を課す、ことが検討されています。まさに次世代の国際課税の枠組みについてのブループリントとして、BEPS2.0と呼ぶにふさわしい内容となっています。
BEPS2.0は二つの柱から構成されています。

  • 第1の柱:経済のデジタル化に伴う課税上の課題に対する新たな課税根拠と利益配分ルール
  • 第2の柱:BEPSにおいて残された課題である軽課税国への利益移転に対抗するためのグローバルな税源浸食防止措置(GloBE)

Ⅲ 第1の柱

第1の柱のブループリントでは、新たな課税根拠である利益Aとその税額の配分ルール、従来からの移転価格税制を踏襲した利益Bについての検討がなされています。
利益Aは、基本的に次のステップにて判定及び計算がされます。

ステップ1:グローバル収入の閾値(いきち)として、国別報告書の7億5,000万ユーロが検討されています。
ステップ2:自動化されたデジタルサービス(ADS)または消費者向けビジネス(CFB)による外国市場からの収入額を算定します。閾値は、2億5,000万ユーロとされていますが、当初は高い閾値とし、段階的に引き下げるアプローチも検討されています。
ステップ3:最終親会社(UPE)が使用している、IFRSまたは同等の連結財務諸表に一定の調整を加えます。
ステップ4:開示されているセグメントに基づいてADS、CFB、対象範囲外の活動に区分計算をします。
ステップ5:損失は繰り越され、同一セグメントにおいて相殺することができます。
ステップ6:ADSについては市場国の収入を基準にネクサスを判定します。CFBについては物理的・人的拠点なども考慮してネクサスを判定します。
ステップ7:『利益率』『再配分比率』『配分キー』により利益Aを計算します。
ステップ8:マーケティング及び販売利益のセーフハーバーを設けています。
ステップ9:企業グループの中で利益1の税額を支払う法人を『活動テスト』『利益性テスト』『市場国とのつながりテスト』により判定し、市場国とのつながりを持つ法人が十分な利益を有しない場合は、比例的に分担します。
ステップ10:企業グループは共通のプラットフォームを通じて自己申告が求められます。

従来の検討過程では、利益率10%ありきと受け止められていましたが、ブループリントでは収入の閾値、課税標準、ネクサスが判定され、利益Aの計算段階ではじめて利益率が登場し、具体的な数値は述べられていません。
利益Bは、関連者取引におけるルーティンな販売者に適用され、移転価格の取引単位営業利益法による売上利益率を指標に計算されます。
利益Aの計算やネクサス等を事前に判定するための新たな紛争解決のフレームワークの導入が検討されています。利益A以外の税の確実性についても、既存の相互協議に加え、新たな紛争解決メカニズムが検討されています。
 

Ⅳ 第2の柱

第2の柱のGloBEでは、国別のETRが最低税率を下回る場合に、基本ルールの所得合算ルール(IIR)もしくはバックストップ(安全策)としての軽課税ルール(UTPR)により最低税率までのトップアップ税が課されます。財務会計から永久差異に関する一定の調整を施したGloBE課税ベースと、企業の所得に関する税金を対象税としてETRを計算します。関連者配当、組織再編、加速償却、税務上の透明性の高い事業体やCFC税制による合算課税の扱いについて調整が図られています。実体を伴う所得のカーブアウトとして、給与や有形資産の償却費の一定割合をGloBE所得から定式的に除外しています。
IIRは、軽課税国に所在する子会社等に帰属する所得について、親会社の所在する国において、最低税率までトップアップ税を課します。IIRでは、トップダウン型のアプローチにより企業グループの最も上位においてIIRを適用します。最終親会社がIIRの適用を受けない場合、連鎖関係の下位にあるIIRの適用を受ける事業体に順次委ねられます。連鎖関係の途中段階で、少数株主が10%以上存在する事業体がある場合にはスプリット・オーナーシップとみなされ、その事業体においてIIRが適用されます。
UTPRはバックストップとしてIIRが適用されていない場合に適用されます。軽課税国に所在する関連企業への支払(使用料等)に対し、支払会社側の国にトップアップ課税を配賦し、最低税率の負担となるように支払の損金算入を否認します。UTPRは最初に直接支払を行う事業体に割り当てられ、次にグループ内純支出を有するグループ内事業体に割り当てられます。
持分法が適用される関連会社やジョイントベンチャー(JV)への簡易IIRの適用や、ファミリー企業をUTPRの適用範囲に含めることも検討されています。
課税対象ルールSTTRでは、軽課税国に所在する関連会社への利息・ロイヤルティ・その他の支払に際して、受取側の国の名目税率が最低税率を下回る場合に、租税条約上の特典の適用が否認されます。GloBEでは、国別のETRを決定する際に、STTRによる追加税額が考慮されることから、GloBEよりもSTTRが優先して適用されていることが分かります。実際に、GloBEの複雑さから、多くの新興国はSTTRを選択すると想定されています。
 

Ⅴ おわりに

日本企業グループにおいては、買収先のストラクチャを温存し、100%未満のストラクチャを構築する傾向があり、第1の柱において買収した統括会社に利益Aの税額負担を求める場合が想定されます。第2の柱においては、IIRの負担先やUTPRの適用について把握を要します。ブループリントでは直接触れてはいませんが、次期国別報告書(CbCR)もBEPS2.0に平仄(ひょうそく)を合わせて来ることが見込まれ、本社税務部門では、CbCR2.0によるグローバル課税ベースの把握と、グループ各社の定式的なグローバル税負担を税務ポリシーに定める等、よりいっそうのグローバルにおける税務管理とガバナンスを求められることになります。


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※ 情報センサーはEY新日本有限責任監査法人が毎月発行している社外報です。

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