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「子会社からの配当及び子会社株式の譲渡を組み合わせた国際的な租税回避への対応」の解説


情報センサー2020年10月号 Tax update


EY税理士法人 野々村昌樹

移転価格税制、過大支払利子税制、タックス・ヘイブン対策税制等の国際租税に関するアドバイザリー業務に従事。また、経済の電子化対応に係るサービスチームのメンバー。2017年4月からの2年9カ月間、経済産業省貿易経済協力局投資促進課の調査員として、国際租税に係る税制改正要望、法令の明確化要望等の業務に携わる。


Ⅰ はじめに

子会社からの配当及び子会社株式の譲渡を組み合わせた国際的な租税回避とは、ある内国法人が他の法人を買収後、当該他の法人にその保有する資産を分配させ※1、その後に当該他の法人の株式を譲渡する※2と、当該内国法人において損失が発生する問題をいいます(<図1>参照)。


図1 買収後に配当を受領し、株式を譲渡する場合のイメージ

当該問題に対応する観点から、令和2年度税制改正では、内国法人が他の法人から、原則として、当該内国法人が有する他の法人の株式等の帳簿価額の10%に相当する金額を超える配当等の額を受ける場合、当該配当等の額のうち受取配当等の益金不算入規定※3、外国子会社から受ける配当等の益金不算入規定※4により益金不算入となった金額だけ、当該配当等の直前の当該帳簿価額を引き下げる措置が導入されました※5


Ⅱ 改正の背景

本問題は、わが国法人税における法人間の二重課税の問題と関連して、以前から議論されていました。
法人間の二重課税の問題とは、端的にいえば、法人が支店を設立して事業を行う場合と子会社を設立して事業を行う場合との課税の平衡に係る問題をいいます。わが国法人税においては、法人が支店を設立して事業を行う場合、当該支店で発生した所得や欠損は当該法人の所得として一体的に取り扱われる一方、子会社を設立して事業を行う場合、当該子会社で発生した所得や欠損は当該法人の所得とは個別に課税されることになります。後者の場合において、当該法人が当該子会社から受け取る配当等又は当該法人による他の子会社の株式の譲渡に係る損益に課税が行われるとき、その配当等又は損益は当該子会社の所得を源泉としているため、当該法人と当該子会社で同一所得に対して二回課税されるという状況が発生します。
わが国法人税は、当該二重課税を排除する措置に関して、配当等に関しては受取配当等の益金不算入規定※3を設けている一方、譲渡に係る損益や負の配当、つまり欠損の通算に関しては設けていません。しかし、法人の設立から清算までを通じて考えると、株式の譲渡人で発生する譲渡益(又は譲渡損失)に対応する譲渡損失(又は譲渡益)が株式等の譲受人で発生することから、従来、この構造は理論としては整合的と整理されてきました※6
他方で、このような取引自体は租税回避行為といえないまでも、親会社と子会社の関係を前提とすると、課税上の弊害があるのではないかという指摘がありました。
特に、平成13年度税制改正でみなし配当の額の計算方法の改正が行われて以降、その懸念がより深刻化したことから、平成22年度税制改正では、完全支配関係がある内国法人の株式を発行法人に対して譲渡する場合に譲渡損益を計上しない措置※7、一定のみなし配当の額に対する受取配当等益金不算入制度の適用を除外する措置※8等が導入されました。
しかしながら、これらの措置では、例えば、連結子会社であるがグループ法人税制が適用されない子会社に対して別の子会社株式を譲渡する場合においては引き続き譲渡損失を計上できるという指摘があったところ、具体的な事案が発生したことから、令和2年度において、改正に至ったものと考えられます。
なお、そのような譲渡損失の計上を否定するのは法人間二重課税の議論に抵触するのではないかという指摘もあるところですが、日本の当局による二重課税とそれへの調整という観点からは、全ての当事者が居住者又は内国法人の場合を適用除外とし、帳簿価額の切下げ額を買収時に有する利益剰余金の額を原資とする部分に限れば足りるという整理のもとで、今回の改正は行われているものと考えられます。


Ⅲ 制度の概要

上記の背景等を踏まえて、本制度では次の四つ※9のいずれかに該当する場合、その適用が除外されています。

①「他の法人」、「他の法人」の旧株主及び現株主である「内国法人」が全て日本の当局により課税される者であること

②対象となる配当等の原資が買収後に発生した利益剰余金であること

③対象となる配当等を受ける日が「内国法人」が「他の法人」を買収した日から10年超経過していること

④対象となる配当等の額が2,000万円以下であること

なお、②に関連して、制度が適用される場合であっても、一定の要件を満たす場合、帳簿価額の切下げ額は、「他の法人」が買収時に有する利益剰余金の額を原資とする部分に限定されます。

また、ここまでは与党税制改正大綱に記載のあった措置になりますが、法制化に当たって幾つかの潜脱防止規定が追加されています。当該潜脱防止規定は非常に複雑であり、また、上記で紹介した議論と必ずしも整合するものではないため、予期しない形での本制度の適用が企業によっては発生しています。従って、子会社から帳簿価額の10%を超える配当を受け取ることが予定される場合には、あらかじめ専門家に相談の上、本制度の適用を丁寧に検討することが望ましいと考えられます。

※1ここでいう分配は、当該内国法人が当該他の法人から法人税法第23条第1項各号に掲げる金額を受ける場合をいう。また、法人税法第24条第1項により法人税法第23条第1項第1号又は第2号に掲げる金額とみなされた金額(以下、みなし配当の額)を含む。

※2ここでいう譲渡には、当該内国法人が当該他の法人の法人税法第24条第1項各号に掲げる事由(以下、みなし配当事由という)により金銭その他の資産の交付を受けた場合における当該他の法人の株式の譲渡を含む。

※3法人税法第23条第1項
※4法人税法第23条の2第1項
※5法人税法施行令第119条の3第7項から第13項まで
※6財務省「税制改正の解説(平成22年度)」338ページ
※7ただし、これは、グループ法人税制の一環で措置されたものと整理されている。
※8法人税法第23条第3項
※9③及び④は、理論的な背景よりも、納税者の事務負担を踏まえたものと考えられる。

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※ 情報センサーはEY新日本有限責任監査法人が毎月発行している社外報です。