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2020年度において公表が予定されている基準の改訂


情報センサー2020年新年号 IFRS実務講座


IFRSデスク 公認会計士 江口智美

2008年入所以来、証券会社、メガバンクを含む大手金融機関の会計監査および内部統制監査に従事。14年から約1年半EYロンドンに出向し、現地金融機関の会計監査および内部統制監査に従事。18年よりIFRSデスクに所属し、IFRS導入支援業務、研修業務、執筆活動などに従事している。CFA協会認定証券アナリスト。


Ⅰ  はじめに

国際会計基準審議会(以下、IASB)は、財務諸表の改善に向けて、財務諸表の表示及び開示の充実を図るプロジェクトや現行基準の適用から浮上した課題に対処するためのプロジェクトなどに継続的に取り組んでおり、2020年度においても基準の改訂や公開草案が公表される見通しです。本稿では、これらの中から、20年度において最終改訂の公表が予定されている二つの基準の改訂の概要を取り上げます。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りします。

 

Ⅱ 基準の改訂

1. 負債の分類(IAS第1号の改訂)

<負債の分類(IAS第1号の改定)のポイント>

(1) 背景

IAS第1号において、負債を流動又は非流動のいずれかに分類するための要件が幾つか定められています。当該要件の解釈が場合によっては困難との意見や各要件の関連性が明確ではないとの意見があり、実務にばらつきがみられました。

(2) 改訂案の概要

① 分類に与える権利の性質

IAS第1号69項(d)にて、「負債の決済を報告期間後少なくとも12カ月にわたり延期することのできる無条件の権利を企業が有していない場合」、当該負債を流動負債に分類することが求められています。しかし、負債の決済を延期する権利は、借手の将来の財務制限条項の遵守を条件に認められることが多く、無条件に認められる場合は稀(まれ)です。IASBは、「無条件の」を削除し、「報告期間の末日現在」に存在する権利に基づいて分類することを暫定的に決定しました。

② 債務をロールオーバーする権利

IASBは、報告期間の末日現在で、分類対象の借入れに直接関係する既存の融資枠に基づいて、債務を少なくとも12カ月ロールオーバーする権利がある場合には、当該借入金を非流動負債に分類することをIAS第1号で明確にすることを暫定的に決定しました。

③ 負債の分類における「決済」という用語の意味

IASBは、負債の分類における「決済」の用語の意味を明確化するため、負債の決済とは、相手方への現金、資本性金融商品、その他の資産又はサービスの移転のうち負債の消滅を生じるものを指す旨をIAS第1号に追加することを暫定的に決定しています。

④ 後発事象の影響

IASBは、負債の分類への後発事象(企業による契約条項の違反など)の影響に関して、借入条項は報告期間末日現在で検討されるべきであり、報告期間末日後の事象は、報告期間の末日現在の分類には影響を与えないことを明確化することに暫定的に合意しました。

⑤ 特定の事実や状況に関する考慮

IASBは、企業が負債の決済を延期する権利は実質的なものでなければならない旨をIAS第1号に追加することを暫定的に決定しました。また、(a)企業が当該権利を行使するかどうかについての経営者の予想や(b)報告期間の末日と財務諸表の公表の承認日との間の負債の決済は、企業が負債の決済を延期する権利に影響を及ぼさないことを明確化する予定です。

⑥ 持分決済要素のある負債

IAS第1号の第69項(d)では、相手方の選択で資本性金融商品の発行により決済される可能性があるという負債の条件は、流動又は非流動の分類に影響を与えない旨が規定されています。IASBは、当該記載が適用されるのは、複合金融商品の資本部分として負債と区分して認識される相手方の転換選択権のみである旨を明確化するようにIAS第1号を修正することを暫定的に決定しました。

(3) 発効日、経過措置及び早期適用

当該改訂は22年1月1日以降に開始する事業年度から適用が求められる予定です。IASBは、当該改訂をIAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬(ごびゅう)」に従って遡及(そきゅう)適用することを暫定的に決定しています。なお、初度適用企業への免除は設けず、早期適用を認める予定です。

2. 有形固定資産―意図した使用前の収入(IAS第16号の改訂)


<有形固定資産一意図した使用前の収入(IAS第16号の改定)のポイント>

(1) 背景

IAS第16号第17項は、有形固定資産を経営者が意図した方法で稼働可能にするために必要な場所及び状態に置くことに直接起因するコストの例を示しており、その例として試運転コストが挙げられています。IAS第16号の第17項(e)では、有形固定資産の項目の取得原価には、資産が正常に機能するかどうかの試運転コスト(資産を当該場所に設置し稼働可能な状態にする間に生産した物品の販売による正味の収入を控除後)が含まれると述べています。当該正味の収入の範囲の明確化の要望を受け、IASBはIAS第16号の改訂のためのプロジェクトを追加しました。

(2) 改訂の概要

有形固定資産の取得価格から、経営者が意図した方法で資産を稼働可能にするために必要な場所及び状態に置くまでの間に生産された物品の販売から生じる収入の控除を禁止することを暫定的に決定しました。従って、企業は物品の販売から生じる収入と生産コストを純損益に認識することが求められます。また、資産が正常に機能するかどうかの試運転は資産の技術的及び物理的性能の評価であり、財務業績に関する評価ではないことが明確化される予定です。なお、有形固定資産が使用可能となる前に生産された項目のコストを、IAS第2号「棚卸資産」の測定の要求事項を適用して識別及び測定することも暫定的に決定しています。

(3) 発効日、経過措置及び早期適用

当該改訂は22年1月1日以降に開始する事業年度から適用が求められる予定です。IASBは、当該改訂を適用開始事業年度における最も古い比較対象期間の開始日後に使用可能となった有形固定資産にのみ遡及適用する旨を暫定的に決定しています。なお、初度適用企業への免除は設けず、早期適用を認める予定です。

 

Ⅲ おわりに

当該改訂により、負債の分類や有形固定資産に係る意図した使用前の収入の取り扱いが明確化され、より客観的に判断できるとともに実務上のばらつきも減少すると考えられます。財務諸表比率への影響等各社が何らかの影響を受ける可能性もあり、留意が必要と考えます。また、他の基準改訂に係る公開草案の公表も20年度中に予定されており、今後のIASBの動向については引き続き注視が必要と考えます。

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※ 情報センサーはEY Japanが毎月発行している社外報です。