情報センサー

実行可能なエコシステム形成のための10ステップ


情報センサー2019年4月号 Trend watcher


EYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株) 一之瀬 裕城

M&Aコンサルタントとしてこれまで、クロスボーダー案件を中心にM&Aアドバイザリー業務全般(M&A戦略立案、ターゲットスクリー ニング、デューデリジェンス、バリュエーション、PMIおよびDivestiture)に幅広く従事してきた。EY Japan参画後は、主にグローバルレベルの大型事業売却に係るプランニングから実行まで数多く支援。近年では、EY Japan Digital & Technology Strategyのリードも兼任し、主に自動車および医療機器産業に属するクライアントに対して、Digital M&Aおよびエコシステム形成戦略に係るさまざまな検討を支援している。ロンドン大学(UCL)理学士号。EYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株) ディレクター。


Ⅰ 相互依存を前提としたエコシステム形成の必要性

EYのシンクタンクであるEY QuestionsのThe upside of disruption: megatrends shaping 2018 and beyondでは、ディスラプションの背景にはテクノロジーの進展、グローバル化そして人口構成の変化という三つの決定要因であるプライマリーフォースがあることを見出しています。そのプライマリーフォースの波を受けて、中長期的にはメガトレンド※1により社会は刷新されます。市場構造はより複雑化し、それに沿う事業モデルの構築が求められます。大企業といえども新たな事業の立ち上げを単独で行うのが難しくなり、事業全体の中で協業企業が何をするかを考えなければ、ビジネスがうまく回らないケースが近年、非常に増えています。
つまり、既存の業種や業界といった枠を超えた形での相互依存が今後、不可欠と言えます。こうした相互依存を前提としたエコシステム(収益活動体系)をどのように形成するのでしょうか。本稿では、実行可能なエコシステム形成のための10ステップを紹介します。

 

Ⅱ エコシステムのダイナミズムと成熟レベル

新しい設計パラダイムでは、ビジネスモデルを設計するために適用してきた従来の考え方はもはや適切ではありません。
古典的な考え方(Maturityレベル1)である「Focused Partner Network」と異なり、新しい考え方(Maturityレベル3)である「Decentralized Ecosystem」では、多くのプレイヤーがネットワーク内で同等に行動します(<図1>参照)。

図1 エコシステムの成熟ステージ

すでにエコシステムの設計に成功している企業(Amazon、Appleなど)は、一般的にユーザー/顧客に主眼を置いたエコシステムを形成しており、当該エコシステムに属する各プレイヤーは疎結合での協力を共創しています。

 

Ⅲ エコシステムの設計コンセプト

エコシステムの設計は「Design Thinking(デザイン思考)」の考え方に準拠します。 デザイン思考は、近年のデジタルトランスフォーメーション構想により新たに再構築されています。
多くの企業はこの新たな「デザイン思考」に合わせる形で自らの行動原則・原理※2を定めています。

 

Ⅳ 実行可能な最小エコシステム(MVE:Minimum Viable Ecosystem)形成のための10ステップ

エコシステムの設計は、MURAL、Batterii、Smaply、Realtime Board、Digsiteなど、よく知られているデザイン思考ツールを使用し、顧客/ユーザーのニーズを検討・定義することから始まります(ステップ0)。
効果的なエコシステムは、全ての関係者が価値の恩恵を受けられるように設計されています。そのため、エコシステムの設計は、通常、関連するテクノロジーやプラットフォームを含め、「顧客/ユーザー」と「ビジネス」の二つのレベルで行われます。
実行可能な最小エコシステムを形成するには、全部で10のステップがあり、それらはフェーズとして「設計ループ」「検証ループ」そして「実現ループ」に区分することができます(<図2>参照)。

図2 エコシステム形成までのロードマップ

設計ループ:

① コア・バリュープロポジション(価値提案)を決定する
② エコシステム(収益活動体系)におけるプレイヤーを設定する
③ エコシステムのさまざまな領域にプレイヤーを配置する
④ バリューストリームを定義し、プレイヤーとバリューストリームを結び付ける
⑤ 各プレイヤーの長所と短所の認識を深める
⑥ ターゲットエコシステムにおける全てのプレイヤーのビジネスモデルをさまざまな視点から精査する
⑦ 検証に臨むためのエコシステムを定義する

検証ループ:

⑧ エコシステムにおける意思決定者/オーガナイザーと潜在的なプレイヤーを精査する

実現ループ:

⑨ 新しいエコシステム構築のための検討チームを編成する
⑩ 上記MVE(Minimum Viable Ecosystem)概念に則り設計したエコシステムを段階的に構築し、問題があれば、⑦に戻る


最後に、EYTASでは本「MVE形成戦略策定から実行まで」を含むデジタル関連サービスを体系化し、M&Aトランザクションに関連する9つの領域※3に対して、新しい独自アプローチ、ツール、フレームワークを付与することで、クライアントの新たなテクノロジー要件に応えています。

※1 地球上のあらゆる人々に大きな影響を及ぼす世界の変化の潮流を意味する。
※2 強力な顧客/ユーザーへの焦点、反復的なアプローチ、潜在的な顧客に対する最小実行可能な製品・サービス展開
※3 1. Megatrend Projection、2. Backcasting Positioning、3. Digital/Ecosystem Maturity Assessment、4. Ecosystem Analysis、5. Target Partner Screening、6. Digital Valuation、7. Digital Diligence、8. Strategic operating model、9.PE digital portfolio scan


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2019年4月号
 

※ 情報センサーはEY Japanが毎月発行している社外報です。