EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
ワルシャワ駐在員 公認会計士 五十嵐 純尚
2005年、当法人入所。17年よりEYワルシャワ事務所に駐在し、主にポーランド、チェコおよびハンガリーの日系企業向けサービスに従事し、中東欧エリア全体の日系企業を担当している。
2018年10月23日に、ポーランド議会は19年以降の税制改正案を承認し、特に配当、利子およびロイヤリティ等の支払にかかる源泉所得税の納付方法に関して規定を厳格化しています。本規定は19年1月1日から適用となっています。本稿では、当該規定について紹介します。
本規定の変更は、ポーランド企業から国外企業に対しての配当、利子およびロイヤリティ等の支払に関連した源泉所得税の納付方法に関する重要な変更です。
主に、以下の内容となります。
現在の配当、利子およびロイヤリティ等の支払の際に、減免された源泉所得税率を直接適用することに代えて、いったん通常の源泉所得税率(19%もしくは20%)で源泉所得税を納付し、その後に還付申請をする制度に変更となります(下記4.参照)。
上記原則以外に以下の対応方法および例外規定が認められます。
なお、企業(送金者)の1年間の配当、利子およびロイヤリティ等の支払額が200万ズロチを超えない場合は、本厳格化された規定は適用されません(下記5.参照)。
源泉所得税を減免される場合は、送金の受領企業が居住国で実際の経済活動(real economic activity)を行う実質的な経済的受益者(beneficial owner)である必要があり、当該実質的な経済的受益者の定義が厳格化されています。これは、送金額が受領企業の利益であるだけでなく、受領企業が実際の経済活動をし、受領企業のリスクで取引の意思決定をし、法的または実質的に当該送金額を受領する権利を有すること等が追加要件となりました。
企業(送金者)は、減免された源泉所得税率を適用するため、当該源泉所得税の支払実行前に、税務当局に以下の内容を確認した書面を提出することができます。
本書面は、企業(送金者)のトップが署名し、当該書面の有効期間は2カ月となります。書面内容が事実に反することが判明した場合は、罰則の対象になります。
上記2.以外に、配当、利子およびロイヤリティ等の支払に関する源泉所得税の減免は、税務当局からの見解を受けて適用することができます。当局の見解を得るに際しては、当局から要求事項や必要書類の提出を求められます。
当局が企業より提出された要求事項や書面を評価した結果、租税回避目的の税法の濫用防止規定を適用するケースであると判断した場合、もしくは、送金受領企業が居住国で実際の経済活動をしていないと判断した場合は、企業に対して減免された源泉所得税率を適用することの見解は出さないこととなります。
当局は、企業の要求を受領後6カ月で見解を出し、企業が当局の見解を受領後、企業の状況に変化がなければ、3年間有効となります。
上記2.および3.の規定を適用しない場合は、源泉所得税は、いったん法定税率(19%もしくは20%)に基づき納付します。その場合、企業(送金者もしくは受領者)は、以下の書面とともに還付申請し、要件を満たした場合に当該源泉所得税は還付されます。
上記申請がなされてから、税務当局は6カ月以内に検討および決定を行います。
1年間の配当、利子およびロイヤリティ等の支払総額が200万ズロチを超えない場合は、減免された源泉所得税率の適用規定に変更はありません。ただし、本新規定の発効により、減免された源泉所得税率の適用の可否や、上記の実質的な経済的受益者や実際の経済活動の実施等の状況の確認については留意が必要です。
企業は上記の規定変更に対応して、自社の配当、利子およびロイヤリティ等に関連する源泉所得税の納付状況を確認する必要があります。また、減免された源泉所得税を納付しているケースでは、要件を適切に充足しているかを評価する必要があると考えられます。
上記のポーランドの源泉所得税に関する規定強化は、送金企業および受領企業の双方に関係するため、企業は送金相手のグループ会社または契約者と情報を共有し、規定の対応において企業に一定の負荷がかかることを共有することが望まれます。
上記のとおり、企業は、正当性の書面の提出、税務当局からの見解の入手、または納付および還付の手続実施のいずれかの選択肢の中で自社の方針を決定する必要があります。
対応方針の決定後、社内で当該対応方針に基づく社内プロセスの構築が必要になると考えられます。
ポーランドは、日系企業の欧州への進出拠点として、西欧に近く教育水準の高さや人件費のメリット等有利な面がある一方で、税制面では上記の源泉所得税の変更に限らず、税制の変更が頻繁かつ複雑になっています。また、日本国内の税制の考え方と大きく相違する面が多々あるため、日系企業がポーランドへの進出を検討する際には、直近の税制について慎重に確認することが重要だと考えます。