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取締役会運営と監査役


情報センサー2019年4月号 特別寄稿


獨協大学 法学部教授 高橋 均

一橋大学大学院博士後期課程修了。博士(経営法)。新日本製鐵(株)(現、新日鐵住金(株))監査役事務局部長、(社)日本監査役協会常務理事、獨協大学法科大学院教授を経て、現職。東証一部上場会社の社外監査役も務める。専門は、商法・会社法、金商法、企業法務。近著として、『実務の視点から考える会社法』中央経済社(2017年)、『グループ会社リスク管理の法務(第3版)』中央経済社(2018年)、『監査役監査の実務と対応(第6版)』同文舘出版(2018年)等。


Ⅰ はじめに

取締役会は、業務執行の意思決定機関にとどまらず、取締役の職務執行を監督するガバナンスの機関としての役割もあります(会社法362条2項2号)。一方で、近時は取締役会改革が重要な論点となっています※1。海外の機関投資家等は、わが国の取締役会の監督機関としての機能が十分に働いていないことについて、その強化の一環として、社外取締役の選任義務化を主張しています※2
監査役の権限かつ責務は、取締役の職務執行を監査することです(会社法381条1項)。従って、監査役としては、個別に事業部門の業務監査を行うことにとどまらず、取締役会における業務執行の意思決定の適正性や取締役が他の取締役の職務執行を監督する善管注意義務を果たしているかについても、業務監査の一環として監視・確認する必要があります。このために、監査役は取締役会に出席し意見陳述する義務が規定されています(会社法383条1項)。また、取締役の不正の行為や法令・定款違反等の事実を認めるときには、取締役に対して、取締役会の招集請求や自ら取締役会を招集する権利も付与されています(会社法383条2項・3項)。
このように、監査役は取締役会とは深い関わりがあることから、自社の取締役会がガバナンスの視点から有効に機能しているか否か、その評価の観点からも関わりを持つことが大切です。そこで本稿では、取締役会に係る重要な法令や法令に則った取締役会の運営実務について再確認するとともに、監査役として取締役会を評価する上での留意点について解説します。

 

Ⅱ 取締役会の運営に関わる重要規定と監査役実務

1. 取締役会の招集

取締役会の招集権者は各取締役ですが、あらかじめ定款や取締役会で定めることも可能です(会社法366条1項)。実務的には、定款で代表取締役や取締役会議長を招集権者としていることが通例です。
招集通知は、取締役会の日の一週間前までに発する必要があります(会社法368条1項)。もっとも、一週間を下回る期間を定款で定めれば、招集通知の発送日の短縮も可能です。実務的には、3日前としているケースが多いようです。株主総会前の事業年度の決算取締役会等定例化している議題以外は、会社運営上、さまざまな意思決定を行う必要があります。従って、一週間前までに全ての議題を決定することは現実的ではないことから、定款による規定が実務上は定着しています。なお、例外措置として、取締役と監査役の全員が同意すれば、招集手続を経なくても、取締役会の開催は可能です(会社法368条2項)。極めて緊急性を要する案件を審議する必要が生じたときには、招集手続を省略することによって、機動的に取締役会を開催することができます。ただし、招集手続を省略した取締役会を開催するときには、取締役・監査役全員の同意要件が法定化されていることから、監査役は取締役会事務局が同意手続を適正に実施しているか注意を払うことになります。少なくとも、取締役会事務局から、監査役全員の同意依頼が行われていない状態の中で、招集通知無き取締役会が開催されようとしている場合、監査役は取締役会事務局に法令違反となる旨を主張する必要があります。

2. 取締役会の定足数

取締役会の開催に当たっては、定足数を満たすことが要件となります。すなわち、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、その出席取締役の過半数の多数決によって、業務執行の決定が行われます(会社法369条1項)。議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席することを要件としている株主総会における定足数と比較して、取締役会では、取締役1人が1議決権を有する頭数多数決です。ちなみに、監査役会は、定足数そのものの要件がありません。

3. 書面決議と監査役の実務

機動的な意思決定を行うために、取締役会を開催せずに書面決議を行うことが認められています。
書面決議は取締役会の開催を行わないで決議を行うことができるという点で、緊急突発的な事案であったり、決議事項でありながら、取締役会において審議するほどの重要性が乏しいと考えれば、取締役は書面決議を選択することが可能です。もっとも、書面決議の要件としては、①定款に定めていること②取締役全員が書面により議案に同意する意思表示をしていること③監査役が異議を述べないことの三つの要件を満たしていることが必要となります(会社法370条)。書面決議は会社にとって利便性が高い手法ですが、本来、取締役会で十分に審議した上で会社としての意思決定を行うことを原則としていることから、その例外的措置という意味で定款での定めが必要となります。定款で新たに定めるためには定款変更を伴いますので、あらかじめ株主総会において特別決議を要することとなります(会社法309条2項11号)。
監査役の視点から実務的に注意すべき点は、書面決議に先立ち、取締役全員から書面の同意を得ている証拠となるもの(書類やメールでの返信)が存在すること、及び監査役が書面開催に異議があるか否かを確認する手続きを行っていることです。監査役が異議を述べない要件が課せられているのは、取締役会で書面決議が行われると、監査役として取締役会に出席し意見陳述を行う機会を喪失することとなり、取締役の職務執行を監査する責務を十分に果たせない懸念があるからです。従って、監査役としては、取締役会事務局を通じて取締役が書面決議を要請してきた場合には、書面決議を行う対象の議題・議案を精査して、取締役会を開催する必要性の有無を慎重に検討した後に、取締役会事務局経由で取締役に回答することが重要です。
実務上、取締役会に上程される案件は、既に経営会議や常務会等の重要会議の場で実質的な意見交換や審議が行われていることが通例です。このために、社内での議論を尽くしたとして取締役会を書面決議で済まそうと取締役が考えているとしたら、監査役としては、その理由に合理性がないとして書面決議で行うことに異議が無いとは言えないとの判断を行うことになります。異議が無いとは言えないとは、要するに、取締役会を書面決議ではなく、取締役会を実際に開催してもらいたいとの意思表示になります。この時点では、取締役会の書面決議事項の内容である議案に対する賛否を意味することではなく、あくまで取締役会で審議を尽くして取締役が最終的に賛否を決議したり、監査役として意見を陳述する機会を確保してもらいたいとの趣旨となります。
経営会議や常務会は、社内会議であり、株主総会・取締役会・監査役会と異なり正式な会社機関ではありません。取締役会は、本来株主総会で意思決定を行う原則を授権されているわけですから、取締役会での意思決定は重要な意味があります。書面決議はあくまで例外的な措置と考えるべきです。しかも、取締役会には、社外取締役や社外監査役の社外役員が出席しますので、経営会議等のように内輪の会議とは異なる意義があります。社外役員からの発言も踏まえて、取締役会で活発な議論や意見交換が行われることが取締役会として望ましい姿です。このような趣旨を勘案しながら、監査役は書面決議の是非を判断することになります。
なお、監査役会においては、書面決議は認められていません(<表1>参照)。

表1 会社機関と書面開催の相関表

4. 書面報告

報告事項について、取締役会を開催しないで書面報告を行うことも可能です。限られた時間の中で、取締役会での決議事項が多い場合に、決議事項に重点的に時間配分を行いたいと考えるときに、実務的に書面報告という手段を採用します。取締役会で具体的に行わなければならない法定報告事項は、競業取引及び利益相反取引(会社法356条)における事後報告です(同法365条2項)。法定報告事項とは別に、各社の取締役会規程で定める報告事項があれば、その該当案件も取締役会報告事項となります。もっとも、書面決議が認められているといっても、3カ月に1回以上は取締役会を開催し、業務執行権限を有する取締役は取締役会の場で自己の業務執行状況を報告しなければなりません(会社法372条2項・363条2項)。会社役員の間での重要情報の共有という側面もあるからです。
書面報告を行う場合には、取締役と監査役の全員に対しての通知が要件となります(会社法372条1項)。書面決議の場合と同様に、監査役としては、取締役が書面報告を意図している場合に、あらかじめ監査役全員に通知を行っているか確認する必要があります。実務的には、書類又はメールベースで、書面報告の対象事項と関連書類を添付した上で、取締役と監査役の全員に通知していることが必要となります。書面報告の場合、書面決議の場合と異なり、取締役全員の同意や監査役が異議を述べないとの要件は課せられていません。従って、取締役が一方的に書面報告を通知することに対して、監査役は法的には異議を申し立てる権限が付与されているわけではありません。書面報告を予定している内容の情報をさらに詳しく知りたいときには、監査役の法的権限である業務報告請求権(会社法381条2項)を利用して、報告事項を主管している業務執行部門から個別に報告聴取をすることになります。
なお、監査役会も書面報告は可能です(<表1>参照)。

5. 代理行使・特別利害関係取締役

取締役会では、個々の取締役に1議決権があることから、出張等による欠席を理由として、他の取締役や執行役員等に議決の賛否の代理行使を依頼したり、取締役会の決定に対し一任することは予定されていません。あらかじめ議題・議案について、欠席予定の取締役が書面で意見を述べることは可能ですが、欠席取締役に代わって他の取締役が議決権を行使することはできません。
議題・議案によっては、管掌取締役以外に執行役員や部長クラスが取締役会で説明することは可能です。その際も、実務上は、取締役会議長から取締役会の開催に当たって、代理者による説明をする旨を宣言し、取締役会の構成メンバーの同意の確認をとってから、審議に入ることが丁寧な取締役会運営となります。
また、取締役会に特別利害関係取締役が議決に加わることはできません(会社法369条2項)。特別利害関係取締役は当該議案に対して、自己に有利な議決権を行使することが明確ですので、当該事項を議決する際には、特別利害関係取締役を定足数から外して多数決で決めることになります。法定上は、議決に加わることができないとの定めであり、取締役会の場に着席したままであったとしても法令違反ではありませんが、実務上は、取締役会の審議の場から席を外すことが通例です。影響力のある特別利害関係取締役がいると、公正・公平な審議が阻害される恐れがあるためです。
なお、特別利害関係取締役とは具体的に誰を指すか法定化されていませんが、①解職する場合の代表取締役(会社法362条2項3号)※3②競業取引・利益相反取引を行う取締役(同法356条1項)③責任一部免除の適用の対象取締役(同法426条1項)が該当するとされています。
監査役としては、取締役会における代理説明者の有無や特別利害関係取締役の扱いについても、法規定に則った実務が行われているか見ておく必要があります。

6. 取締役会の決議の瑕疵(かし)

株主総会のように、法令・定款違反の決議について、特別の訴えの制度は法定化されていません※4。しかし、前述してきたような取締役会に関係する事項の法令違反にとどまらず、意図的に一部取締役に招集通知を発しない場合や議案に反対をしている取締役が海外出張中に議決を行うなど、明らかに取締役会決議の妥当性に合理性を欠くと認められる場合には、一般原則によって不当決議とされ、無効となる可能性があります。

 

Ⅲ 取締役会評価と監査役の関わり

1. コーポレートガバナンス・コードの原則

コーポレートガバナンス・コードでは、「取締役会は、取締役会全体としての実効性に関する分析・評価を行うことなどにより、その機能の向上を図るべきである」(原則4-11)とした上で、「取締役会は、毎年、各取締役の自己評価なども参考にしつつ、取締役会全体の実効性について分析・評価を行い、その結果の概要を開示すべきである」(補充原則4-11③)と記載しています。コーポレートガバナンス・コードは、上場会社を対象にしたソフトローですが、非上場会社においても、その趣旨を踏まえて自社の取締役会機能の向上に役立てるためのヒントとなり得ます※5

2. 監査役の視点から考える取締役会評価のポイント

取締役会の活性化は、ガバナンスの観点から重要なことであり、監査役の視点から自社の取締役会の評価に積極的に関わっていく姿勢が望まれます。評価に当たってのポイントとしては、以下の点が考えられます。
第一は、取締役会において、質疑が活発に行われているか否かです。特に、社外役員が積極的に発言するための体制整備が出来ているかが評価のポイントとなります。社外役員は通常は非常勤ですので、取締役会における社外役員の有益な発言による取締役会の活性化のためには、重要な議題・議案について社外役員に対する事前説明が行われていることが鍵となります。また、資料そのものについても、社内特有の表現や業界用語を多用するのではなく、社外役員が理解可能な工夫がされていることにも留意する必要があります。さらに、取締役会の場において、社外役員が必ず発言する機会を確保するために、取締役会議長から社外役員に対して、議題ごとに発言の有無を確認するなど、必要に応じて発言を促すような取締役会運営が行われているかも評価のポイントとなります。
第二は、議題の選択と審議状況です。具体的には、取締役会において、ガバナンス関係や重要な経営方針についての審議が時間をかけて十分に行われているかの点です。報告事項に時間を取られて、本来十分に審議すべき議題・議案が表面的な説明と承認・決議とならないことが大切です。このためにも、取締役会で十分な意見交換や審議を行うべき事項について、社外役員を含めて役員間で共有化されていることが重要です。取締役会で時間をかけて審議すべき重要項目を、あらかじめ取締役会で確認している会社もあります。
第三は、報酬諮問委員会や指名諮問委員会等の任意の委員会の答申に対して、取締役会が尊重する体制となっているかです。近時、任意の諮問委員会を設置する会社数が増加していますが、設置することが目的化し、委員会での答申を踏まえて取締役会で十分に議論し活用するという方針が徹底されていない会社も見受けられるようです。
取締役会評価の方法については、アンケート方式(質問形式)、役員への個別ヒアリング方式、第三者委員会に評価を委ねる方式が考えられます。どの方式を採用するにしても、あらかじめ取締役会の評価基準を取締役会で十分に審議し、その評価基準に基づいて毎年確認するという手順が確立し、最終的にはその概要を開示する実務が定着すれば、取締役会の活性化に向けて前進するものと思われます。

 

Ⅳ おわりに

わが国の法制度上、取締役会改革は長らく手つかずという状況が続きました。しかし、監査役(会)と取締役会は、会社のガバナンス機関として両輪となるものです。監査役は取締役会が適切に運用されているか再確認すること、及び監査役としてガバナンスの視点から、取締役会の活性化に向けた評価に積極的に関わっていくことが期待されています。

※1 取締役会改革の論点の整理に基づき、現行会社法の改正(会社法362条4項の見直し、執行役員の法的位置づけの明確化等)も含めて具体的に検討・提言している論稿として、高橋 均「取締役会改革と展望」(商事法務2023号4~16ページ(2014年))参照。
※2 平成29年4月から審議されている会社法の改正では、大会社の監査役会設置会社で有価証券報告書提出会社は、社外取締役の選任義務化が法定化される方向である。
※3 株主総会後に開催される取締役会で決議する代表取締役の選定では、当該代表取締役は特別利害関係人ではないというのが多数説である。江頭憲治郎=中村直人編『論点体系会社法3』[渡邉剛]218ページ(第一法規、2012年)
※4 株主総会では、株主総会不存在確認の訴え(会社法830条1項)、株主総会無効確認の訴え(同法830条2項)、株主総会決議取消の訴え(同法831条1項)が規定されている。
※5 非上場会社においても、ガバナンスを強化する必要性があることから、コーポレートガバナンス・コードの要素も取り入れる意義があるとの意見として、淵邊善彦・藤井康太「非上場企業が取り入れるべきCGコードの要素」(ビジネス法務Vol.18・No.8. 50ページ(2018年))。


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