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税効果会計の実務ポイント解説シリーズ第3回 連結税効果(留保利益の税効果)


情報センサー2019年3月号 会計情報レポート


会計監理部 公認会計士 加藤 圭介

品質管理本部 会計監理部において、会計処理および開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事。主な著書(共著)に『何が変わる?収益認識の実務-影響と対応-』(中央経済社)、『業種別会計シリーズ 自動車産業』(第一法規)などがある。


Ⅰ はじめに

第3回の本稿では、連結財務諸表における税効果会計のうち、留保利益に関する実務論点を取り上げます。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りします。

 

Ⅱ 連結子会社等の留保利益の税効果に関する実務論点

1. 連結子会社等の留保利益に関する税効果

連結子会社又は持分法適用会社(以下、連結子会社等)に投資を行ったときには、投資時点では付随費用を除き取得価額と連結財務諸表上の投資の価額が一致していますが、その後の期間に連結子会社等が利益を獲得した場合には、投資後に増加した利益剰余金、すなわち留保利益の金額だけ、連結財務諸表上の投資簿価(会計上の簿価)が、個別財務諸表上の投資簿価を上回ります。留保利益は、将来において親会社又は投資会社への配当時、又は投資の売却や連結子会社等の清算時に解消されますが、その解消時にその期の課税所得を増額させ、追加的な税額を発生させます。このため、連結子会社等の留保利益は、連結財務諸表固有の将来加算一時差異に該当し、原則として繰延税金負債が計上されることになります(企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(以下、税効果適用指針)第23項、第24項、会計制度委員会報告第9号「持分法会計に関する実務指針」(以下、持分法実務指針)第27項)(<図1>参照)。これは在外子会社等だけでなく国内子会社等についても適用されます(税効果適用指針第24項)。なお、連結子会社等の取得時利益剰余金(投資時に留保している金額)についても、将来において追加的な税額発生の要因となり得ますが、連結子会社等の投資の会計上の簿価と税務上の簿価の差異原因とはならないため、将来加算一時差異には該当せず、税効果を認識しません(税効果適用指針第113項、第114項)。


図1 留保利益に係る将来加算一時差異

2. 連結子会社等の留保利益のうち、配当送金されると見込まれるものの税効果

連結子会社の留保利益に係る将来加算一時差異については、親会社が子会社の利益を配当しない方針を採用している場合や株主間の合意により配当しない方針がある場合等の追加で納付する税金が見込まれない可能性が高いときを除き、税効果会計の対象となり、将来の配当時に発生する追加見積税額を繰延税金負債として計上することになります(税効果適用指針第24項)。この追加見積税額は、子会社等が内国法人の場合は受取配当金のうち益金に算入される額に課せられる法人税等の額、外国法人の場合はそれに加えて配当に係る外国源泉所得税額等が該当します。
また、持分法適用会社の留保利益についても、連結子会社と同様に、追加納付の発生が見込まれる税額について繰延税金負債を計上します(持分法実務指針第28項)。なお、持分法適用会社の留保利益について、半永久的に配当させないという投資会社の方針又は株主間の協定がある場合には税効果を認識しないという定めがありますが(持分法実務指針第28項ただし書き)、持分法適用関連会社の場合には、子会社と異なり投資会社の支配下に置かれているわけではないため、税効果を認識しない要件を満たしているかどうかについてより慎重な検討が必要と考えられます。子会社等の株式の区分と益金不算入額については<表1>をご参照ください。

表1 子会社等の株式の区分と追加見積税額

3. 連結子会社等の留保利益のうち配当送金されると見込まれるもの以外の税効果

連結子会社の留保利益は、1.で記載のとおり、原則として配当で解消されるものとして税効果会計を適用しますが、将来の投資の売却時又は清算時には、留保利益の全てが解消されるとともに、課税所得を増額させ、追加税額を生じさせることになります。従って、配当により解消されないと見込まれる将来加算一時差異についても、親会社がその投資の売却を親会社自身で決めることができ、かつ、予測可能な将来の期間に売却を行う意思がない場合を除き、繰延税金負債を計上することになります(税効果適用指針第23項)。
また、持分法適用会社の留保利益のうち配当により回収されるものを除く金額についても、投資会社がその売却を自ら決めることができることを前提として、予測可能な将来の期間に売却する意思がない場合には、留保利益について税効果を認識しないこととされています(持分法実務指針第27項ただし書き)。
これらの場合の売却の意思の有無の判断に当たっては、必ずしも売却金額や売却先、売却時期が決定していることが求められているわけではないため、売却の検討を開始する際には、税効果の認識時期に留意する必要があると考えられます。

4. 会計方針の変更により連結子会社等の留保利益が変更された場合の税効果

会計方針の変更を行った場合には、原則として新たな会計方針を過去の期間の全てに遡及(そきゅう)して適用することになります(企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬(ごびゅう)の訂正に関する会計基準」第6項)。連結子会社等が会計方針を変更し、新しい会計方針を遡及適用した結果、留保利益の金額が変更になった場合には、留保利益の金額の増減に伴う税効果会計上の影響については、遡及適用した年度の比較情報における繰延税金資産又は繰延税金負債の金額(年度の連結財務諸表の場合には、前連結会計年度の繰延税金資産又は繰延税金負債の金額)に反映することになります(税効果適用指針第58項)。

5. 連結子会社等の留保利益がマイナスの場合の税効果

連結子会社等への投資後に連結子会社等が損失を計上したことにより、連結子会社の留保利益がマイナスの値となる場合には、連結財務諸表上の投資簿価(会計上の簿価)が個別財務諸表上の投資簿価を下回るため、連結財務諸表固有の将来減算一時差異が発生することになります(税効果適用指針第115項)。この将来減算一時差異については、予測可能な将来の期間に投資の売却等を行う意思決定又は実施計画が存在し、かつ、個別財務諸表において計上された子会社等の株式評価損が予測可能な将来の期間に税務上の損金に算入される場合に限り、繰延税金資産を計上することになります(税効果適用指針第22項)。


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