EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
ホーチミン駐在員 公認会計士・米国公認会計士 西川 貴陽
日本にて監査業務・株式公開支援業務・デューデリジェンス業務や社内外の研修講師を担当した後、2016年7月よりEYホーチミン事務所に出向し、日系企業を担当している。18年10月より、EYホーチミン事務所ダイレクターに就任。
近年、ベトナムではM&Aが活発に行われています。ベトナムローカル企業の買収のみならず、外国企業(日本企業含む)のベトナム子会社を日本企業が買収するケースが増えてきています。この際、外国企業で発生した資本譲渡益についてはベトナムでも課税されることとなり、当該税金をベトナム企業が源泉徴収する義務を負いますが、当該源泉徴収を行わず、買収したベトナム企業が追徴されるケースが増えてきています。
本稿では、当該資本譲渡税について解説するとともに、日越租税条約に基づく免税申請手続及び留意点について解説いたします。
<図1>のように、外国法人(A)が外国法人(B)にベトナム法人の資本を譲渡する場合には、外国法人(A)で発生する資本譲渡税をベトナム法人(C)が申告・源泉徴収した上で税務当局に納税する必要があります。
ここで、ベトナム法人(C)が非公開会社である場合には、下記の資本譲渡税がベトナムで課せられることになります。
また、ベトナム法人(C)が公開会社である場合には、譲渡価額×0.1%の資本譲渡税がベトナムで課せられることになります(Circular103/2014/TT-BTC第13条)。
Circular156/2013/TT-BTC第12条によると、税務申告書類の提出期限は資本譲渡に関する当局の承認より10日以内となっています。
ここで、資本譲渡に関する当局の承認日の定義は、明確には記載されていませんが、修正済みの投資登録証明書・企業登録証明書の発行日のいずれか早いタイミングと解釈されています。
資本譲渡に当たっては、通常、投資登録証明書・企業登録証明書に記載されている出資者等の情報を変更することになりますが、この修正後の上記証明書の発行日をもって、当局から資本譲渡の承認があったものとして、10日以内に税務申告書を提出します。
なお、上記計算方法に関する法令の改正が検討されており、資本譲渡税の計算方法を譲渡価額×2%とする改正案が検討されていますが、今のところ適用時期は未定となっています。
日本の出資者(A)が持分を譲渡した場合、日本とベトナムの両国で課税されることになり、二重課税となります。
当該二重課税防止のため、ベトナムと日本は租税条約を締結しており、一定の場合にはベトナムで免税申請を行うことが可能となります。
日越租税条約第13条2項及び3項によると、次の①、②のいずれかを満たした場合に、ベトナム(このケースでは)で資本譲渡税の課税権があると記載されています。
① 譲渡者が保有し又は所有する株式(当該譲渡者の特殊関係者が保有し又は所有する株式で当該譲渡者が保有し又は所有するものと合算されるものを含む)の数が、当該課税年度中のいずれかの時点において当該法人の発行済株式の少なくとも25%であること、かつ、譲渡者及びその特殊関係者が当該課税年度中に譲渡した株式の総数が、当該法人の発行済株式の少なくとも5%であること
② 当該法人の総資産が主に不動産で構成されていること
従って、上記要件に該当しない場合においては、ベ トナムにおいて免税申請が可能となります。
また、日越租税条約では上記の「主に」についてはどこからが「主に」となるのか、明確にされていません。Circular205/2013/TT-BTC第27条によると、日越租税条約のように租税条約に具体的な割合が記載されていない場合、50%が基準となると定められています。
また、不動産と総資産の割合については、資本譲渡時点、直前の監査済財務諸表の期首時点、期末時点における不動産÷総資産の単純平均により計算すると規定されています。
なお、上記の通り、「監査済財務諸表」に記載されている数値をベースに、割合を計算すると記載されているため、期中での免税申請に当たっては、貸借対照表のみに対する特別監査が必要となります。
ベトナムでは条件を満たせば、納税者は自動的に免税されるわけではありません。租税条約に基づく免税を適用するには、税務当局に関連資料と共に免税申請書類を提出する必要があります。
Circular156/2013/TT-BTC第20条によると、税務申告期限の15日前に、ベトナム企業は下記の免税申請資料を提出します。
また、実務上、免税要件を満たしていることを確認するため、税務当局の要求に応じて下記の資料を提出します。
また、当該免税手続を実施した場合であっても、通常の資本譲渡税の法人税申告書を提出することが必要となる点については、留意が必要となります。免税手続により、資本譲渡税がゼロとなることを示した法人税申告書の提出が必要です。
また、これらの租税条約に基づく免税申請が適用できているかは自己評価に基づき判断します。すなわち、免税申請を行った後、税務当局はそれに対し、免税が適用できているかどうかについて返信や承認行為は行いません。
従って、免税要件を満たしているか不明な場合は、事前に税務当局に対し、書面による問い合わせを行い、免税要件を満たしているかについてのルーリングレターを取得することをお勧めします。
資本譲渡税に関しては、まだ細部で不明確な点があり、特に免税申請については一般的な実務とはなっていません。資本譲渡に当たっては、専門家に問い合わせ、慎重に手続を進めることをお勧めします。