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平成31年度税制改正大綱


情報センサー2019年2月号 Tax update


EY税理士法人 公認会計士 南波 洋

1993年から、太田昭和アーンスト アンド ヤング(現EY税理士法人)にて、日本企業・外資系多国籍企業に対する国内および国際税務アドバイザリー業務に従事。国際税務、税制改正、組織再編税制などに係る講演、寄稿、執筆多数。2004年から、日本公認会計士協会 租税調査会国際租税専門部会 専門委員。


Ⅰ はじめに

平成30年12月14日に、平成31年度与党税制改正大綱が公表されました。以下、大綱で明らかにされた主要な改正・見直し項目の概要を説明します。なお、今後の国会における改正法案審議の過程において、一部項目の修正・削除・追加などが行われる可能性があることにご留意ください。

 

Ⅱ 法人課税

1. 研究開発税制の見直し

総額型について、研究開発を行う一定のベンチャー企業(設立後10年以内の法人のうち当期において翌期繰越欠損金額を有するもの)の控除税額の上限が当期の法人税額の40%(現行:25%)に引き上げられます。控除率カーブが見直され、税額控除率及び税額控除上限の上乗せ措置について適用期限が2年延長されます。
オープン・イノベーション型(特別試験研究費にかかる税額控除)について、対象に一般の民間企業(所定の要件を満たす研究開発型ベンチャー企業を含む)への一定の委託研究が追加されます。研究開発型ベンチャー企業への委託研究及び同企業との共同研究にかかる税額控除率は25%とします。また、控除税額の上限が当期の法人税額の10%(現行:5%)に引き上げられます。

2. その他


① 中小企業者の法人税率の軽減特例(年800万円以下の所得に対して15%)の適用期限が2年延長されます。
② 租税特別措置法上の中小企業にかかる「みなし大企業」の範囲について適正化が図られます。大規模法人の支配下にある孫会社も中小企業特例の適用対象外とされます。
③ 役員の業績連動給与にかかる損金算入手続きが見直されます。
④ 株式交換等の後の逆さ合併にかかる適格要件や、三角合併等の対価にかかる要件が見直されます。


Ⅲ 個人所得課税・資産課税

1. 個人事業者の事業承継税制の創設

相続又は贈与により一定の事業用資産(事業用土地、建物、一定の減価償却資産)を後継者が取得し、事業を継続していく場合には、相続税・贈与税の納税を猶予する制度が創設されます。10年間の時限措置であり、特定事業用宅地等について小規模宅地等にかかる相続税課税価格計算の特例との選択適用となります。法人の事業承継税制と同様に、承継計画を作成して確認を受ける必要があります。

2. その他


① 事業用小規模宅地にかかる相続税課税価格計算の特例の対象から、相続開始前3年以内に事業の用に供された宅地等が除外されます。
② ふるさと納税について、一定の基準に適合した自治体が対象として指定されることになります。返礼品の基準は、金額が寄附金の3割以下となる地場産品とされます。過度な返礼品を送る自治体は制度の対象外とされます。


Ⅳ 国際課税

1. 移転価格税制の見直し

移転価格税制の対象となる無形資産の定義の明確化が行われます。独立企業間価格の算定方法として、ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)が追加されます。
評価困難な無形資産に係る取引(特定無形資産取引)について、独立企業間価格の算定の基礎となる予測と結果が相違した場合には、一定の要件の下で、税務当局が実際の結果を勘案して価格調整(更正等)をすることができるとされます。ただし、調整後の価格と当初価格との相違が20%を超えていない場合は、価格調整は行われません。
上記の改正は、平成32年4月1日以後に開始する事業年度分の法人税から適用されます。

2. 過大支払利子税制の見直し

事業年度における純支払利子の額が調整所得金額の20%(現行:50%)を超える場合は、その超える部分の金額は損金の額に算入しないものとされます。
調整所得金額の計算上、当期の所得金額に加算する金額から受取配当の益金不算入額及び外国子会社配当の益金不算入額を除外することになります。利子の受領者において日本の課税所得に含まれる支払利子の額は制度の対象外となります。
上記の改正は、平成32年4月1日以後に開始する事業年度分の法人税から適用されます。

3. 外国子会社合算税制の見直し

特定外国関係会社であるペーパー・カンパニーの範囲から、①持株会社である一定の外国関係会社②不動産保有に係る一定の外国関係会社③資源開発等プロジェクトに係る一定の外国関係会社が除外されます。
外国関係会社が現地国で連結納税制度の適用を受けている場合やパススルー事業体にかかる税法規定の適用を受けている場合の取扱いが明確化されます。適用対象金額の計算や控除される外国法人税の計算においては、現地の法人税に関する規定から連結納税の規定及びパススルーとして取り扱われる規定を除いて計算することとされます。
上記の改正は、内国法人の平成31年4月1日以後に終了する事業年度の合算課税(外国関係会社の平成30年4月1日以後に開始する事業年度に係るものに限る)について適用されます。

 

Ⅴ その他の改正・見直し

1. 情報照会手続の整備

税務当局の職員が、事業者等に対して、国税に関する調査に関し参考となるべき帳簿書類その他の物件の閲覧または提供その他の協力を求めること(協力要請)ができることが法令上明確化されます。また、国税局長は、一定の要件が満たされる場合に、事業者等に対して、特定取引者の氏名又は名称、住所又は居所及び個人番号又は法人番号につき、一定の期日までに、報告を求めることができることとされます。
上記の改正は、平成32年1月1日から適用されます。

2. 消費税率の引上げに伴う対応

住宅ローン減税について、住宅の取得(消費税の税率が10%である取得に限る)をして平成31年10月1日から平成32年12月31日までに居住の用に供した場合に、税額控除を受けられる期間が10年から13年に延長されます。
車体課税に関して、消費税増税後に燃費性能に応じて納める環境性能割が導入されますが、増税後の1年間に限って税率が1%分軽減されます。また、自動車の保有にかかる自動車税は最大年4,500円減税されます。


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