情報センサー

RPA導入事例からの留意事項


情報センサー2018年7月号 FAAS


EY新日本有限責任監査法人 FAAS事業部 西沢 昌樹
RPAサービス開発、ツール調査、RPA導入プロジェクトにおける業務選定、POC、業務改善、ロボット開発、プロジェクトマネジメントなどのRPA導入のアドバイザリーサービスに従事。その他に業務改善、経営管理・管理会計、SAPシステム、PMO関連アドバイザリーサービスにも従事している。

EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング(株) 福田 重遠
RPAサービス開発、ツール調査、RPA導入プロジェクトにおける業務選定、POC、インフラ&セキュリティ設計および規程整備、プロジェクトマネジメントなどのRPA導入のアドバイザリーサービスに従事。その他にAIを含めた先端テクノロジーのリスクマネジメントに関するアドバイザリーサービスにも従事している。


Ⅰ はじめに


昨今の労働人口減少により企業が抱える人手不足や政府主導での働き方改革を背景として、多くの企業がRobotic Process Automation(RPA)の導入および検討を進めています。RPA導入の傾向として、業務の集約や改革を伴う大規模導入のパターンと、小さな業務を対象に導入してその成果を見極めながら対象業務を広げていくスモールスタート導入の二つのパターンがあります。
当法人では、バックオフィス業務へのRPA導入に当たりスモールスタート導入を選択しました。本稿では、当法人のRPA導入事例と、導入を通して得た留意事項の一部を紹介します。

Ⅱ RPA導入事例紹介


1. 背景・目的

当法人では、以下の理由により、バックオフィス業務の中でも人事関連業務をRPAの導入対象としました。


  • 働き方改革の推進部門で、生産性を高めると同時にワークライフバランスにも配慮すべきこと

  • 実質的に付加価値を生まない作業を圧縮して高付加価値の作業時間を増大させること

  • RPA運用知見を積む上で対外的な影響が出にくいこと

RPA導入においては、以下を目的としてプロジェクトを進めました。


  • 職員の時間外労働時間の削減

  • 職員の高付加価値業務へのシフト

  • オフィス移転リソースの確保

  • RPA運用知見の獲得

  • ロボット開発人材の育成

プロジェクト開始から3カ月で最初のロボットが本番稼働を始め、ロボット開発人材の教育・OJTと並行してロボット開発を順次進めました。そして、プロジェクト開始から8カ月でRPA導入対象とした業務の主なロボットを三段階に分けて本番稼働させました。(<図1参照)


図1 当法人のRPA導入プロジェクト進捗(ちょく)

2. 導入効果

人事関連業務の中でも業務量が多く、手作業も多かった労務管理、源泉徴収票発行、通勤費処理、人事異動手続などといった業務にRPAを導入して、約1,000時間の年間作業時間削減の効果を創出できました。一番効果のあった業務では、90%を超える作業時間削減につながったものもあります。}

Ⅲ RPA導入における留意事項


以下に挙げるRPA導入における留意事項は一部であり、それ以外の問題やハードルを一つ一つクリアしていく必要があります。そのためにも、前述のスモールスタート導入を選択することにより、着実にRPAの導入を進めていくことができると考えます。

1. RPA導入業務の選定に関して

RPA導入候補業務を効率的に選定するために、人事関連業務担当者に、RPAの概要や向き不向きを理解してもらった上で、RPA導入に適した業務を挙げてもらうようにしました。また、RPA導入候補とした業務でも、一連の全ての業務を自動化しようとすると例外処理が増えるため、なるべく例外処理が少なくなるように自動化領域と人間の作業領域に分けて、必要に応じて業務プロセスを見直しました。

2. RPA導入業務の優先順位付けに関して

限られたロボット開発リソースを有効に活用するために、RPA導入業務の優先順位付けをしました。
RPA導入候補業務の内容・頻度・業務量・利用システム・業務やシステムの変更予定、開発の難易度などを考慮して、優先順位付けをしました。

3. RPAツールと利用システムの相性

RPAツールは、ロボット開発時に利用システムのオブジェクトを認識させる必要があるため、利用システムとの相性があります。RPAツールが通常の方法で認識できないオブジェクトは画像で認識させることになります。しかし、画像での認識は微細な違いでも影響が出てしまいロボットの動作が不安定になるため、最後の手段として考えた方がよいと思われます。
そのため、RPAツールが利用システムのオブジェクトを認識しやすいかどうかという相性の確認をしておくことは、非常に重要です。

4. テスト環境から本番環境への適用

テスト環境で開発したロボットを本番環境に適用する際には、テスト環境と本番環境のちょっとした差異が影響することから、必ず微調整が必要になります。例えば、利用システムのテスト環境と本番環境の表示や項目の差異によって本番環境でオブジェクトを認識させ直したり、データ量が異なることによるレスポンスタイムの差異によってロボットの動作待ち時間を調整したりといったことが必要となりました。

5. 機密情報の取り扱い

導入対象業務の中に給与情報といった機密情報が含まれていたため、テスト環境ではダミーデータで準備をし、本番環境への適用時には業務担当者が同席して操作してもらうことによって、開発者が機密情報に触れないための対応を行いました。

Ⅳ おわりに


RPAは、人手不足への対応とともに業務の生産性向上に貢献でき、経営者・従業員ともに幸せへと導くソリューションと考えます。
今回の紹介事例では、単純作業や定型作業へのRPA導入でしたが、今後はAIや音声認識、高精度OCRと組み合わせることで、RPA導入業務の幅が広がります。
EYでは、当法人内でのRPAの導入やクライアント企業への支援を通じて蓄積したRPAの実績に加えて、これまで培った業務改善、内部統制に関するノウハウを活用し、業務変革を支援いたします。


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※ 情報センサーはEY Japanが毎月発行している社外報です。