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新たな収益認識基準が業種別会計に与える影響 第10回 電力・ガス事業


情報センサー2018年6月号 業種別シリーズ


電力・ガスセクター 公認会計士 大槻 昌寛

当法人に入所後、主に国内事業会社の監査業務、IFRS導入支援業務などに従事している。業種は化学、電力など。主な著書(共著)に『業種別会計シリーズ 素材産業』(第一法規)などがある。


Ⅰ はじめに


2014年5月、国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)は、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」(米国基準ではTopic606)を公表しました。これを踏まえ、企業会計基準委員会(ASBJ)は日本基準の体系の整備を図り、日本基準を高品質で国際的に整合性があるものとするなどの観点から、収益認識に関する包括的な会計基準の開発について検討を進めてきました。17年7月には公開草案を公表し、当該公開草案に対して寄せられた意見等について検討を重ね、18年3月に企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、収益認識会計基準)および企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、収益認識適用指針)を公表しました。
本連載では、こうした状況を踏まえながら、業種に特化した収益認識の論点などについて解説します。
なお、本稿の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをお断りします。

Ⅱ 電力・ガス事業における収益認識の論点


電力・ガス事業では、段階的に自由化が進められてきました。それに伴い、従前の電力・ガス事業者に加え、多くの新たな事業者が市場に参入しています。また、従来の事業領域を超えた財又はサービスの提供や、他産業との連携も行われています。
このような状況で収益認識会計基準が適用されると、既存の取引も含め、取引内容の再検討、基準の解釈と当てはめが、新たに要求されることになります。以下、収益認識会計基準が適用された場合、一般的に影響があると考えられる論点について解説します。

1. 履行義務への取引価格の配分

電力・ガス事業は、段階的に自由化が進められてきており、複数のエネルギー(例えば、電力とガス)を一体的に供給する場合があります。また、エネルギー供給と他のサービス(例えば、通信や機器保守サービス)を一体的に提供する場合もあります。さらに、複数のサービスを提供する場合には、それぞれのサービスを個別に提供する場合に比べ、割安な価格で提供することもあります。
前記のようなケースでは、一契約に複数の履行義務が含まれるため、当該履行義務への取引価格の配分が必要になります(収益認識会計基準65項、66項、68項)。
なお、財又はサービスの独立販売価格の合計額がセット販売価格を超える場合には、値引きを行っているものとして、原則、全ての履行義務に対して比例的に配分しなければなりません(収益認識会計基準70項)。(<設例>参照)


設例

2. 検針日基準

電力やガスは、契約期間にわたり、継続的に供給を行っています。顧客は、需要に応じて電力やガスを使用できますが、使用量を特定し、料金を算定するためには、計量器の検針により使用状況を把握することが必要となります。
毎月の検針方法には、必ず月末に行う場合(月末検針)と、地域等の区分ごとに設定された日程により行う場合(分散検針)があります。現行のわが国における実務では、分散検針であっても、検針日基準※が、多く採用されてきました。
収益認識会計基準では、企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて顧客が便益を享受する場合など、一定の期間にわたり資産に対する支配が顧客に移転する取引については、一定の期間にわたり売手としての履行義務を充足し、収益を認識するとされています(収益認識会計基準38項(1))。
なお、旧一般電気事業者(みなし小売電気事業者)は、小売料金の規制が残る経過措置期間は、電気事業会計規則の適用を受けます。同規則では、別表一(13)営業収益において「調査決定の完了した金額を計上する」ことと規定されています。そのため、旧一般電気事業者は、経過措置期間は、従前の検針日基準を適用することが考えられます。

3. ポイントプログラム

電力・ガス事業でも、利用料に応じたポイントを提供するなど、ポイントプログラムを導入することがあります。特に、自由化に伴う競争環境の中では、ポイントの付与を通じて顧客を囲い込むことが考えられます。
当該ポイントが、将来の財又はサービスの提供に際して値引きを受けられるものであるなど、顧客に重要な権利を提供するものである場合、ポイントの付与時点では収益を認識せず、当該ポイントの利用に伴い財又はサービスが移転する時、あるいは当該ポイントが消滅する時に収益を認識します(収益認識適用指針48項)。
なお、企業が代理人として他社のポイント制度を利用する場合、付与する他社のポイントに相当する金額は、当該他社のために回収する金額であるので、売上計上金額からは除外し、当該他社に対する債務を計上します。

Ⅲ おわりに


収益認識会計基準の適用に際し、電力・ガス事業においても、既存の取引も含め、取引内容の再検討、基準に照らした整理が求められます。
なお、検針日基準については「今後、財務諸表作成者により、財務諸表監査への対応を含んだ見積りの困難性に対する評価が十分に行われ、会計基準の定めに従った処理を行うことが実務上著しく困難である旨、当委員会に提起された場合には、公開の審議により、別途の対応を図ることの要否を当委員会において判断することが考えられる」(収益認識適用指針188項)とされていることから、議論の動向に留意する必要があります。

※ 毎月の検針により使用量を計量し、それに基づき算定される料金を当月分の収益として計上する方法


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