EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY弁護士法人 弁護士 久保田淳哉
国内大手法律事務所において、国内企業・外国企業を依頼者とするさまざまな人事労務案件に従事。2015年10月よりEY弁護士法人に入所。米ニューヨーク州弁護士、経営法曹会議 会員、第二東京弁護士会労働問題検討委員会 幹事。
2016年3月29日、雇用保険法等の一部を改正する法律が成立しました(以下、本改正)。本改正は、雇用保険法のみならず、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(以下、育児・介護休業法)や雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下、男女雇用機会均等法)などの複数の法律の改正を行うものです。本稿では、第1回(本誌 16年8月・9月合併号)の育児関係・第2回(本誌 16年10月号)の介護関係に引き続き、本改正により改正・新設される各種指針を取り上げます。
本稿で取り上げるのは、以下の三つの指針です。
①子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針(以下、育児・介護指針)〔一部改正〕
②事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針(以下、妊娠・出産指針)〔新設〕
③事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針(以下、セクハラ指針)〔一部改正〕
労働政策審議会雇用均等分科会は、厚生労働大臣からの諮問を受け、16年6月27日、前記の三つの指針のいずれについても妥当として了承しました。今後は、施行予定日である17年1月1日に向けて、最終的な決定が行われるものと思われます。
本改正後の育児・介護休業法25条は、事業主に「職場における育児休業等に関するハラスメント」(以下、育児・介護ハラスメント)に関して、雇用管理上必要な措置を講ずることを義務付けました。今回の育児・介護指針の改正は、この措置の内容を具体化するものです。なお、育児・介護指針の改正はハラスメント以外の事項についても行われますが、本稿では触れていません。
育児・介護指針では、上司又は同僚から行われる、その雇用する労働者に対する制度等の利用に関する言動により就業環境が害されるものを育児・介護ハラスメントとしています。
ここにいう「制度等」とは、育児・介護休業法に基づく制度・措置のことを指し、休業のほか、休暇、時短などを含みます。また、言動の典型的な例として、不利益取扱いの示唆、制度等の利用の阻害、制度等の利用による嫌がらせ、が挙げられています。
もっとも、業務上の必要性に基づく言動によるものについては育児・介護ハラスメントには該当しないとしています。
紙幅の関係上概略にとどめますが、求められる措置の内容は以下のとおりです。
①事業主の方針の明確化・その周知啓発
②相談・苦情窓口の整備
③相談・苦情発生後の迅速・適切な対応
④職場における育児・介護ハラスメントの原因・背景解消のための措置
⑤①~④の実施に際しての労働者のプライバシー配慮措置及び不利益取扱禁止措置
①では、育児・介護ハラスメントを行った者に厳正に対処する旨を就業規則等に規定すること、③では、育児・介護ハラスメントを行った者に対する懲戒処分を行うことが想定されているため、就業規則改訂の検討が必要となります。
本改正後の男女雇用機会均等法11条2第1項は、事業主に「職場における妊娠、出産等に関するハラスメント」(以下、妊娠・出産ハラスメント)に関して、雇用管理上必要な措置を講ずることを義務付けました。今回新設される妊娠・出産指針は、この措置の内容を具体化するものです。
妊娠・出産指針では、まず、「上司又は同僚から行われる、その雇用する労働者に対する制度等の利用に関する言動により就業環境が害されるもの」を妊娠・出産ハラスメントとしています。ここにいう「制度等」とは、各法令に基づく妊娠・出産に関する制度・措置のことを指し、産前休業のほか、軽易業務転換、育児時間の取得などを含みます。
また、妊娠・出産ハラスメントにはもう一つの類型があります。それは、「妊娠したこと、出産したことその他の妊娠又は出産に関する言動により就業環境が害されるもの」です。制度利用に関するものではなく、状態自体に関するものです。
求められる措置の内容は、育児・介護ハラスメントに関するものと同様であるため、記載を省略します。就業規則改訂の検討が必要となる点についても同じです。
セクハラ指針においては、「被害を受けた者の性的指向又は性自認にかかわらず、当該者に対する職場におけるセクシュアルハラスメントも、本指針の対象となることを明示する」こととされました。
本改正との関係では、上記の育児・介護ハラスメント、妊娠・出産ハラスメント、セクハラ等のハラスメントについて、事業主の相談窓口は一元化されることが望ましいものとされました※。
本稿で解説した新たな指針は、第1回で解説した育児関連の改正、第2回で解説した介護関連の改正と合わせ、17年1月1日までに所要の検討の上、必要な社内規程を改訂する必要があります。本改正の内容に留意しながら、改訂作業を進めていくことが重要になります。
※この一元化が望ましいという内容は、三つの指針全てに盛り込まれている。