日本のスタートアップの現状とスタートアップ・エコシステムの強化

寄稿記事

掲載紙:2024年3月発行 日本ベンチャー学会・会報Vol.105
執筆者:EY新日本有限責任監査法人 企業成長サポートセンター パートナー 善方正義


日本のスタートアップは、リスクマネーの増加などを背景に、過去10年間で大きな発展を遂げている。直近のスタートアップ向け投資額は約8,000億円に上り、10年前と比較して約10倍に拡大している。また、足元では数十億円規模の資金調達も珍しいことではなくなっている。このような状況を受けて、IPO企業数も増え、近年では年間約100社がIPOを行い、そのうち約70%が新興市場に上場している。

しかし、新興市場のIPO企業は、時価総額100億円未満で、かつ資金調達10億円未満が過半を占め、小型IPO企業が主流となっている。IPO後も十分な資金を調達できないため、成長が停滞する小型IPO企業が多く、これが課題となっている。また、現在、日本のユニコーン企業は7社程度であり、米国や中国、欧州に比べて少ない水準である。

政府は2022年をスタートアップ創出元年と位置付け、「スタートアップ育成5か年計画」を策定し、スタートアップへの投資額を5年後に10兆円規模に拡大し、ユニコーン企業100社、スタートアップ企業10万社を創出する目標を掲げている。これらの目標を達成するためには、スタートアップの成長を後押しするVC、事業会社、大学、官公庁、証券会社、監査法人などの支援者によるスタートアップ・エコシステムのさらなる強化が必要である。

日本では、小型IPO企業が多い一方で、ユニコーン企業は少ない。その理由としては、レイターステージの資金供給の制約や、イグジット方法、さらには未上場株式のセカンダリー市場の未発達などが挙げられる。

レイターステージの資金供給については、資金の出し手が不足し、資金調達のために小規模であるにもかかわらず早期のIPOを選択する傾向が見受けられる。近年は、VC、CVC、海外VCの増加や政府系の大規模VCの創設などにより、レイターステージの資金供給は徐々に増えてきている。それでも、欧米などと比べるとその資金規模は依然として小さく、公的年金や海外VCなどを呼び込むための継続的な施策が必要である。

また、イグジット方法については、米国ではM&Aが約9割を占めるのに対し、日本ではIPOが約7割と主流になっている。これは、日本の大企業の多くが自前主義を重視しており、またM&A後のPMIのノウハウが不足していることなどが要因とされている。この点に関しては、大企業によるオープンイノベーションの強化や税制優遇などにより少しずつ改善の兆しは見られるが、大企業によるM&Aが一般化するためには、大企業側のさらなる変革が求められる。

さらに、未上場株式のセカンダリー市場については、米国や中国などと比べて整備が十分でなく、それが早期にIPOする一因となっている。政府は未上場株のセカンダリー市場の環境整備に取り組んでいるが、より実効性のある改善が必要である。

世界的にスタートアップ創出の競争が激化している。特に米国や中国では巨額のリスクマネーが投入され、そこから巨大なテック企業が台頭し、市場を席巻している。グローバルな競争の中で、日本のスタートアップが大きく成長し、存在感を示すためには、前述の通り、資金供給やイグジット方法などにおいて多様な選択肢を提供する環境を整備することが必要である。加えて、産学官の支援者間での緊密な連携により、中長期的な視点やグローバルな視点を持った上で、強固な事業基盤と成長戦略の構築を念頭に置いた助言や必要なリソースの提供など、質と量の両面から充実したサポートが不可欠である。

近年、宇宙や核融合のディープテック分野など、新たな産業を切り開くスタートアップが相次いで登場している。また、政府の「スタートアップ育成5か年計画」により過去最大規模の施策が展開され、スタートアップ業界は追い風を受けている。この好機を逃すことなく、新産業の創出や社会課題の解決へ取り組むスタートアップ、そして世界で活躍するスタートアップを継続的に創出するエコシステムの構築が必要である。現在、これらを実現するための大きな転換点に直面しており、スタートアップの創出・育成を支えるスタートアップ・エコシステムのさらなる進化が求められている。

 

※一般社団法人日本ベンチャー学会の許可を得て掲載


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