AIと税務・会計・法務(7) 輸出入実務のDX、劇的進展も

寄稿記事

掲載誌:2023年12月14日、日経産業新聞「戦略フォーサイト」
執筆者:EY税理士法人 パートナー 大平 洋一
 

大平 洋一

EY Japan インダイレクトタックス部リーダー EY税理士法人 パートナー

※所属・役職は記事公開当時のものです。


世界展開している日本企業であっても、輸出入実務のデジタルトランスフォーメーション(DX)は進んでいない。だが、生成AI(人工知能)はそうした状況を劇的に変える可能性がある。

輸出入実務のDXが進まないのは、貿易書類がいまだ紙ベースか電子書類のみでやり取りされ、輸出入申告業務を通関業者に委託しているため電子申告の内容のデータが企業側に残らないといった事情がある。だが生成AIの登場は通商関税分野のDXの停滞状況を一変させる可能性を秘めている。

特に期待できるのが、各国での輸出入申告の効率化と輸出入コンプライアンス(法令順守)の強化だ。現状は、申告に必要な情報を社内に散らばるデータベースから入手し、その他の電子書類と共に通関業者に送付して申告を依頼する労働集約的な作業になっている。AIを活用すれば社内に拡散する情報やデータ化されていない電子書類を短時間で系統立った形で収集し、申告に必要な輸出入規制情報と照らし合わせたうえで、税関システムに直接入力することができるようになると期待できる。

輸出入する品目に国際統一基準で定められた関税番号(HSコード)を付ける付番業務は多大な時間を要しているが、劇的な改善が期待できる。生成AIが過去の分類データと分類ロジックを学ぶことで、正確性の高い、短時間での付番を実現させる可能性がある。輸出時に経済連携協定(EPA)を活用する際の利用基準の自動計算や、輸出管理法令上の取引禁止対象者の審査でもAIの威力が効いてくると想定され、業務効率の飛躍的向上が期待できる。

さらに、過去のデータの分析を通じた高リスク取引の注意喚起などの提案をAIから受けられる可能性も出てくる。税関当局も保有する膨大な輸出入データをもとに、輸出入事業者の申告内容の事前確認やリスク管理の強化ができるようになるだろう。

生成AIは近い将来に企業の通商関税管理体制を劇的に改善させる可能性を秘めており、複雑化するサプライチェーン(供給網)の管理のため通商関税分野への積極投資が必要になってくるだろう。

地政学的緊張や輸出規制強化の動きは、高い不確実性の中でのサプライチェーンのかじ取りを企業に余儀なくさせている。こうした環境下で必要とされる通商関税管理業務は、単純な輸出入実務だけでなく、弾力性のあるサプライチェーンの構築とその実現に向けた経営層への戦略的助言だ。こうした方向へ企業の通商関税管理機能を変革していくためにも、AIの積極活用を通じた輸出入実務の効率化は今後避けられなくなる。

AIの導入が可能とする通商関税業務の改革

(出典:2023年12月14日 日経産業新聞)


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2023年12月5日から12月15日にかけて、日経産業新聞「戦略フォーサイト」においてEY Japanのプロフェッショナルによる8回の連載記事が掲載されました。「AIと税・法務・会計」と題し、EYの各分野のプロフェッショナルが、AIを活用する上でのビジネス上の課題を論じます。

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