寄稿記事


掲載誌:2023年1月10日、日経産業新聞「戦略フォーサイト」
執筆者:EY税理士法人 アソシエートパートナー 中村 健

※所属・役職は記事公開当時のものです。


企業活動がグローバル化し、ESG(環境・社会・企業統治)やサステナビリティ(持続可能性)への対応が強く求められるようになった今日、税務の役割と目的も大きく変化しています。

従来は、税務上のリスクを減らす「税務コンプライアンス」(適正な納税)や実効税率を下げる「税務プランニング」(税金費用の適正化)といったリスクとコスト中心の捉え方が主流でしたが、ESG・サステナビリティへの対応や税に関する情報の透明性を中心に据える「税務ガバナンス」へと概念が広がり、その重要性も高まりつつあります。

気候変動リスクなどへの対応は、企業の持続的成長や長期的価値に大きな影響を与えます。各国はこれまで以上に温暖化ガスの排出に厳しい目標を設定する方向へと動き出しています。

日本も2050年までに温暖化ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」実現に向けて、脱炭素化の効果が高い製品の普及や生産工程の脱炭素化への取り組みを促すため、21年8月にカーボンニュートラルに向けた投資促進税制を導入しました。経済産業省によると、22年12月23日時点で78件が認定を受けています(トランジション〈脱炭素への移行〉推進のための金融支援を含む)。

二酸化炭素(CO2)の排出量に応じて企業に負担を求める「カーボンプライシング」(排出量取引や炭素税)という手法も各国で導入されつつあります。日本も既存の石油石炭税にCO2排出量に比例して上乗せ課税する「地球温暖化対策税」を導入していますが、今後は本格的な「炭素税」の導入も含め議論されることになると考えられます。

各国で補助金や税優遇措置やカーボンプライシングが導入される状況を踏まえると、そのメリットを最大限に活用しつつリスクやコストを最小限にする意識が必要となります。グローバル企業はどの国に工場や拠点を設けサプライチェーン(供給網)を構築するか、さらにそれをどう変えていくかが経営戦略上、非常に重要となっていきます。

ESGやサステナビリティではこれまで主に気候変動リスクや労働環境問題などが注目されてきましたが、税に関する情報にも注目が集まるようになってきました。過度な節税に走ることなく、国際的な企業活動の実態に即した適切な納税の必要性が認識されるようになり、機関投資家の関心も高まっています。日本企業でもサステナビリティ報告書などを作成して、各国・地域での納税額を公表する動きが出始めています。

ESGやサステナビリティを巡る各国の政策はダイナミックに動いています。日本企業がグローバルな変化に対応するには、親会社が各国の施策を積極的に情報収集し、グループとしての対応策を探るとともに、各国の優遇措置の活用や負担の軽減など、税に関する透明性のある情報開示をリードしていくことが重要となっていくでしょう。

(出典:2023年1月10日 日経産業新聞)

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