2024年米国の会計・監査・税務ガイド

本ガイドブックには、米国の会計・監査・税務に関する最新の基礎的概要を掲載しています。すでに米国へ投資されている企業、および今後投資を検討している企業の皆さまの基本的な理解にお役立ていただけますことを願っております。

2024年米国の会計・監査・税務ガイド

はじめに

米国会計基準は、米国において一般に認められた会計原則であり、英語ではGenerally accepted accounting principles、略してGAAPと呼ばれています。米国基準の設定主体としては、財務会計基準審議会(FASB)、米国公認会計士協会(AICPA)、証券取引委員会(SEC)などがあります。米国会計基準は、かつては唯一のグローバルな会計基準として日本企業も多く採用していましたが、近年はIFRSへの移行により、適用する日本企業は大幅に減少しました。非公開企業は法定監査が義務付けられておらず、IFRSでの報告も可能ですが、米国においては依然として米国会計基準が一般的です。また、非公開企業向けに定められた会計基準があり、実務に配慮した簡便的規定が定められている点が特徴的です。

米国の主な税金には、法人税、所得税、売上税などがあります。商品の売買時に課される売上税は各州が管轄しており、連邦政府からは課されないというのが特徴になります。頻繁な税制改正、厳しい税務調査など、多くの税務に関する課題に企業は直面しています。
 

米国の会計・監査制度(概略)

項目

米国

非公開企業(日本企業の子会社)のIFRSの適用の可否*

IFRSと現地会計基準の主な差異

米国会計基準はIFRSとのコンバージェンスが進んでいるが、複数の領域で差異は残っている。

決算期の変更

決算期末の選定(暦年以外の採用可否)

作成が求められる財務諸表

  • 財政状態計算書(貸借対照表)
  • 株主持分計算書
  • 損益計算書
  • キャッシュ・フロー計算書
  • 財務諸表の注記

提出する財務諸表

同上

保存期間

特段の定めはない

機能通貨適用の可否

法定監査

公開企業には法定監査が義務付けられているが、非公開企業には法定監査は義務付けられていない。

非上場企業のIFRS適用可否については、以下の基準で記載しています。

否:税務申告時または規制当局に提出(添付)する財務諸表が自国の会計基準で提出しなければならない場合。

可:税務申告時または現地当局に提出(添付)する財務諸表が自国の会計基準以外にIFRS基準であっても良い場合。
 

米国の会計・監査制度

非公開企業のIFRS適用の可否

米国国内の公開企業は、米国会計基準での報告が義務付けられています。一方、米国証券取引委員会(SEC)に登録している外国企業は、米国会計基準の他、IFRSでの報告も可能となっています。非公開企業については、IFRSでの報告が可能です。
 

現地会計基準と日本基準およびIFRSとの主な差異

米国会計基準は、近年はIFRSとのコンバージェンスの一環として、IFRSの設定主体であるIASBとのさまざまな共同プロジェクトがあり、IFRSとほぼ同じ内容になった基準書もありますが、特定の領域においては依然として差異が残る結果になっています。主な会計基準差異については、「日本基準およびIFRSとの主な差異」を参照ください。
 

米国会計基準で作成が求められる財務諸表

企業は以下で構成される財務諸表を作成する必要があります。

  • 財政状態計算書(貸借対照表)
  • 株主持分計算書
  • 損益計算書
  • キャッシュ・フロー計算書
  • 財務諸表の注記
     

決算期の変更

決算日は12月31日が一般的ではありますが、決まりはありません。そのため、親会社との決算期統一などの理由で決算期を変更することも可能です。
 

機能通貨について

ASC830に従って機能通貨の判定を行います。機能通貨の考え方については、IFRSと重要な差異はありません。米国では、多くの企業では主に米ドルで取引を行っているため、米ドルが機能通貨となることが一般的です。
 

法定監査

米国における公開企業には法定監査が義務付けられています。法定監査には財務諸表の監査だけでなく、内部統制の監査、いわゆるUSSOXも含まれます。

一方で、非公開企業については法定監査がなく、法律で定められた財務諸表の作成期限もありません。非公開企業については、日本の親会社からの要求や、借入を行っている金融機関に財務諸表を提出する目的で、任意監査が行われるケースが多くあります。
 

会計、監査上の留意点

法定監査と比べて、任意監査は財務諸表の作成期限や監査の期限がないため、会社側の財務諸表の作成の遅れと、監査人側の監査報告書の提出の遅れが生じることもあります。法定の期限はありませんが、会社としても財務諸表の作成スケジュールをしっかりと組んで、監査人と監査報告書日までのスケジュールを事前に協議しておくことが重要となります。
 

日本基準およびIFRSとの主な差異

棚卸資産

米国基準
日本基準
IFRS

仕入割引の取り扱い

取得原価から減額

営業外収益として表示

取得原価から減額

事後測定

原価と正味実現可能価額のいずれか低い額

原価と正味実現可能価額のいずれか低い額

原価と正味実現可能価額のいずれか低い額

後入先出法の使用

認められる

認められない

認められない

評価減の戻入れ

認められない

洗替え法と切放し法の選択適用

正味実現可能価額が増加した場合には戻入れる


退職給付

米国基準
日本基準
IFRS

数理計算上の差異の認識

全額損益として認識するか、その他の包括利益で認識する

全額損益として認識するか、その他の包括利益で認識する

全額その他の包括利益で認識する

数理計算上の差異の償却

予測給付債務または年金資産のいずれか大きい金額の10%を超える部分を平均残存勤務期間にわたり償却(回廊アプローチ)

平均残存勤務期間内の一定年数で費用処理

償却(純損益への振替)は行わない

金融資産―分類

米国基準
日本基準
IFRS

分類

貸付金および債権は償却原価で測定し、貸倒引当金を控除した金額で計上する

負債性証券は、保有目的に応じて以下に分類:

  • 償却原価で計上する満期保有証券
  • 公正価値で測定し未実現損益を純損益に計上するトレーディング証券
  • 未実現保有損益をその他の包括利益に計上する売却可能証券

持分証券は、原則として、公正価値で測定し未実現保有損益を純損益に計上する。ただし、容易に決定できる公正価値がない場合は、取得原価を選択可

受取手形、売掛金、貸付金などの債権は、取得原価から貸倒引当金を控除した金額で計上する。ただし、金利の調整のため債権金と異なる金額で取得した場合は償却原価で計上する

 

有価証券は、保有目的に応じて以下に分類:

 

  • 時価で測定し評価差額を純損益に計上する売買目的有価証券
  • 取得原価または償却原価で測定する満期保有目的の債権
  • 原則時価で測定し評価差額をその他の包括利益に計上するその他有価証券。市場価格のない株式などは、取得原価で計上

企業の事業モデルおよび金融資産の契約上のキャッシュ・フローの特性に基づき、以下に分類:

  • 事後に償却原価で測定
  • その他の包括利益を通じて公正価値で測定
  • 純損益を通じて公正価値で測定

金融資産―信用損失

米国基準
日本基準
IFRS

損失の認識

契約期間にわたる予想信用損失を損失評価引当として認識

一般債権、貸倒懸念債権、破産更生債権などに区分し、区分に応じて算定された貸倒引当金を認識
 

なお、公社債などの有価証券については、時価が著しく下落した際には時価まで減損する

当初認識以降に信用リスクが著しく増大した場合には、契約期間にわたる予想信用損失を損失評価引当金として認識し、それ以外の場合には、12カ月の予想信用損失を損失評価引当金として認識する

損失の戻入れ

認識される

債権については認識される
 

有価証券については減損損失の戻入れは認識しない

認識される

のれんおよび資産の減損

米国基準
日本基準
IFRS

減損損失の認識

2ステップアプローチ

(割引前CF→公正価値)

2ステップアプローチ

(割引前CF→回収可能価額)

1ステップアプローチ

(回収可能価額)

減損損失の測定

公正価値が帳簿価額を下回る額

回収可能価額(※)が帳簿価額を下回る額
 

※正味売却価額と使用価値のいずれか高い金額

回収可能価額(※)が帳簿価額を下回る額
 

※処分コスト控除後の公正価値と使用価値のいずれか高い金額

のれんの償却

償却しない

20年以内の効果がおよぶ期間で規則的に償却

償却しない

のれんの減損テスト

毎年実施

(減損可能性が50%を超えるかの定性評価を選択可)

のれんは規則的に償却し、減損の兆候がある場合、減損テストを実施

毎年実施

減損の戻入れ

認められない

認められない

のれんを除き、戻入れる

リース(借手)

米国基準
日本基準
IFRS

リースの分類

ファイナンスリースとオペレーティングリースに分類

ファイナンスリースとオペレーティングリースに分類

分類しない

リースの認識

原則としてすべてのリースについて使用権資産とリース負債を認識

ファイナンスリースについてリース資産とリース債務を認識

原則としてすべてのリースについて使用権資産とリース負債を認識

リース費用の認識

ファイナンスリース:
使用権資産の減価償却費とリース負債の利息費用を認識
 

オペレーティングリース:
単一のリース費用をリース期間にわたり定額で認識

ファイナンスリース:
リース資産の減価償却費とリース債務の利息費用を認識
 

オペレーティングリース:
通常の賃貸借取引に係る方法に準じて認識

使用権資産の減価償却費とリース負債の利息費用を認識

少額資産リース

免除規定なし

リース契約あたり300万円以下の所有権移転外ファイナンスリースはリース資産とリース負債を認識しないことができる

新品価値が少額(例えば5,000ドル以下)の原資産のリースは使用権資産とリース負債を認識しないことができる

リース(貸手)

米国基準
日本基準
IFRS

リースの分類

オペレーティングリース、販売型リース、直接金融リースに分類

オペレーティングリースとファイナンスリースに分類

オペレーティングリースとファイナンスリースに分類

オペレーティングリースの会計処理

リース料総額をリース期間にわたり定額法または他の規則的方法で収益認識

通常の賃貸借取引に係る方法に準じて収益認識

リース料総額をリース期間にわたり定額法または他の規則的方法で収益認識

ファイナンスリースの会計処理

販売型リース:
認識中止する原資産と、認識するリース債権の差額は売却損益としてリース開始時に認識
 

直接金融リース:
売却益はリース期間にわたって認識し、売却損リース開始時に認識

取引実態に応じて、

① リース開始時に売上と売上原価を認識

② リース料受取時に売上と売上原価を認識

③ 金融収益として利息部分を認識する

製造業者または販売業者以外:
認識中止する原資産と、認識するリース債権の差額を損益としてリース開始時に認識
 

製造業者または販売業者:
IFRS15に基づいて販売による収益を認識

米国の法人税(概要)

法人税率(%)

 

21 (a)

キャピタルゲイン税率(%)

 21

支店税率(%)

 21 (a)

源泉徴収税率(%)(b)

配当金30 (c)

 
利息30 (c)(d)

 
特許、ノウハウなどのロイヤルティー30 (c)

 
支店利益税30 (e)

欠損金(年)

繰戻0 (f)

 
繰越無制限 (f)

(a) 21%の税率は、2018年1月1日以降に開始する各課税年度について適用されます。加えて、多くの州が所得税や資本税を課しています。法人には税源浸食ミニマム税も課されます。

(b) 税率は租税条約により軽減される場合があります。

(c) 外国法人および非居住者に対する支払に適用されます。

(d) 1984年7月18日以降に発行された特定の「ポートフォリオ債務」に係る利息および事業所得ではない銀行預金利息については、源泉徴収税が免除されます。

(e) 外国法人に適用される支店利益税です。

(f) 欠損金控除は、一般に、課税所得の80%が限度となります。特定の種類の損失および事業体には、個別の規則が適用されます。

米国の間接税(概要)

米国は、国家レベルでは売上税や付加価値税を課していません。その代わり、州および地方レベルで、売上税および使用税が課されています。米国50州のうち45州が何らかの売上税と使用税を課しており、州レベルの税を課していないのは、アラスカ州、デラウェア州、モンタナ州、ニューハンプシャー州、オレゴン州のみです。州と地方の両方を含めると、米国には約13,000の課税管轄区域が存在します。

米国の州および地方の売上税・使用税に関する法律、規則、および手続は、これらの管轄区域間で統一されておらず、課税標準の計算方法、特定品目への課税、税率などは管轄区域によって大きく異なります。売上税と使用税は、通常は個人の資産の売却を伴う取引に課せられます。ただし、いくつかの州では、特定のサービスやデジタル資産(電子的に配信されるソフトウェアなど)も課税対象となります。



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